神殿の秘密 前
秋にこの薄着はどうなのだと思ったのは、儀式を乗っ取られた日だった。あれから丸二年か。去年はつわりとハザキ医師が動くことは危険と儀式を禁止した。神の場へ行けない場合、代理の者がその旨を伝えて一年の延長をする方法がある。母であるサウラ・ジェゼロがお隠れになった時も喪に服す期間だっため儀式をできなかった。
王位を取り戻すときは裏口から入った。だから、正式な儀式を完遂するのは初めてだった。
島にある小さな教会に入り、その地下にある隠し扉を開ける。少し前に入った時はベリルから遠い昔の話を聞いた。
今は一人だ。とても静かだった。
裸足なのでぺたぺたと床を歩く。引き摺るように長い衣装はたくし上げ、ベールもとってしまった。なんとも神秘性のない恰好だ。長い月日で儀式の形態や継承方法も変わっている。せめてこの薄っぺらい布は変えたい。左右の二人がかなり改良してくれたから今日はそれほど寒くはなかったので後で礼を言っておこう。
「いつの間に戻っていたんだ? ロミア」
中央の広い空間でジェゼロの神が待っていた。声が妙に反響する。
「儀式の日は流石にここにいないといけないかなって思ってね。時間がギリギリだったから直接こっちで待ってたんだ。これが終わったらまた戻らないといけないしね」
いつもと変わらない暢気さだ。
ベリルのような目を引く見た目をしているわけではない。男女の区別も年齢も判別ができない、そんな見た目をしている。
「エラがここに正式な儀式で入るのは初めてだしね。去年は僕もここにいなかったし」
言うと奥を指さした。
「この日に、新しい王様に伝える事があるんだ」
「ああ」
儀式を経て、変わらない者もいたが、態度が変わるようになった王もいる。それはオーパーツでできたこの神域を見たからだけでは説明がつかなかった。自分のような変わり者ばかりではなかったろうが、それでも、疑問が残っていた。
ロミアについて奥へ続く隙間のような通路を行く。
奥に行きつくと、扉があった。他とは違い、随分と重そうなものだ。
「今までは僕はただ声で指示するだけだったから、こうやって一緒に入るのは初めてだよ」
扉の前に生体認証があった。それに手を置く。ぴりっとした感覚と手が吸い付くような感じは他と同じだ。
「開錠を許可する」
ロミアが言うと、ドアが開いた。自分以外の王はその声だけで許可がされていたのだろう。
「それに、ここは秋分の日にしか開けられない設定なんだ。年に一日だけ、ジェゼロの血と僕の許可がいる。ここに入るのは裏技がいくつかあるけど、ここに入るのは僕が認めて血が継がれた者だけだよ」
つまり、ベリルやオーパーツに長けた者でも入室ができない。オオガミのように血が認められたとしても入れぬ場か。




