神の望み 5
「ただ、その時期に近くを過ぎると予測されていた隕石の軌道が変わった。猶予はない。そして人類御自慢の機械が使い物にならない。それは俺たちを含めてだ、あの時、隕石が来ると判明する前に俺たちはそれぞれ地下に潜っていなければならなかった。重大な異常が発生しないために」
淡々と言う。
「隕石を落とそうとしたのは、私たちの祖先か?」
「いや……その意図を汲み取れず、殺したのがジェゼロの初代女王の母だ」
直ぐに言葉を返せなかった。
「マシェリア・クラムは俺たちが神とすら思う男の娘だった。隕石を落とすために多くの犠牲払わせて男の事はマシェリアや俺もよく知っていた」
映るのは薄茶色の髪に青緑の瞳をした少女だった。
「マシェリアの祖父がそれなりに地位のある立場だったからな、その部下や組織を束ねて先人を切って復興に身を捧げた。同時に被害を免れたこの場を起点に国を作った。娘に王位を与えたのはロミアの我が侭か自ら取引に提示したんだろう。ロミアは優秀だ。知恵を借りられれば国作りに役立つ。ロミアとしても、マシェリアのその血は残したかったろうからな。入れ物としても、愛着としても。真意はやつ本人に聞かないと事にはわからないがな」
「帝国やナサナも似たような家系か?」
「それは条件外だ」
オオガミの問いに、ベリルが返す。それにオオガミが表情を顰めた。ジェゼロについて知る権利はあっても、他国は別と言う事か。
「言えるのは、自分の大事な者たちが最善を尽くす間、俺たちは何もできなかった。ロミアは神の器にしたいのだろうと言ったが、少なくともその意味はあるだろうが、結局のところ、罪滅ぼしでもあるんだろうな」
「ダイア・アカバが持っていたジェゼロの秘密とやらではジェゼロ初代王が死の土地にかかわっていたとあった。それなのに神の国などと神聖化していると」
ロミアに問うつもりだった。フュルツ侯爵が持ってきたダイア・アカバが持っていたと言う秘密文書だ。それで国の在り方に影響が出るとは思えないが、公表のされ方によっては影響が出る。
「……さては読んだな」
どうしてオオガミがこの場どこんな話を聞いていたのかと思ったが、執務室の机の中にあの文章は置いたままだった。王代理の間にオオガミが読んでいても不思議はない。
「勝手に国をほっぽりだした奴に責められる言われはないぞ」
オオガミが悪びれもなくいう。
「そもそも、ジェゼロの元の家系を遡れば闇社会の元締めみたいな立ち位置だったからな。掘り返せば真っ黒だぞ。まあ、マシェリア達は随分と真っ当に生きていた方だけどな。そもそも、あいつのやってきたことはその時代でも全貌がよくわからなかったくらいだ。今更暴露しようと思っても無理だろう。それにあの悲惨な日の事実を正確に知る事はできないからな。そこは心配しなくていい」
「安心要素がないな」
オオガミが言うのにまあ同意見だ。




