交換条件 後
湖の下に作られた巨大な空間。湖の下には貯水槽も作られている。三百年以上前に作られた巨大施設は今の技術ではできない。多少ガタは来ているが後百年は使えるような代物だ。
「太陽フレアにより機械の不具合と重大な問題の発生、それに隕石群が落ちたことで首都が壊滅したんだろう。太陽フレア対策でジェゼロは湖と更に下に水の貯留層を設けた。帝国は岩盤の厚いあの洞窟都市を用意した」
まあ大まかは正しい。歴史的には隕石だけが記載されている。その上でオーパーツのほとんどが封印された理由はロミアに聞いたか。
「まあ、それだけでここまで壊滅的になるわけじゃないだろう。死の土地だけじゃなく、ここまでオーパーツが使えなくなった、使えなくした理由にはならないだろう。人はしぶといからな。大方、オーパーツの不具合を狙って戦争をおっぱじめた馬鹿がいたんだろう。衛星を考えれば、遠距離の攻撃も昔は容易だったろうからな。人が立ち入る事すらできないと言われる裏側とかな」
まったくの無知の様なものから、ロミアの手伝いをできた時点で半端な天才ではない。それに王の子と言う立場上、古い文献も見られただろう。
「あれは直接的兵器に関係しないものだ。それに、失敗しないためにも必要だ」
でかい図体の男が目を細める。
「次は……失敗しないためにか?」
こうも頭が回ればロミアが気に入るのも仕方ないな。
「多くを知り過ぎたと始末してもいいような場面だが、それには勿体ないからな。何より、ジェゼロの血を手にかける気にはならないからなぁ」
「うちが妙に怪我が治りやすかったり、毒に耐性ができやすいのは過去の品種改良の結果か? どうしてこの血を残してきた。国まで与えて……いや、国を使ってまでか」
「タダで答えるほど安い秘密じゃないぞ」
ロミアにも聞けた話だろう。はぐらかしでもしたか、情報を比較して確認したいのか。
「ダダで聞けたら信用ができないからな。リラ・ジェゼロに興味があるんだろう?」
珍しく鞄を持っていると思ったが、中から染みの付いた古い紙束を取り出してテーブルへ置いた。
「リラ・ジェゼロの日誌だ。非公式非公開原本だ」
「どうして俺が興味をもっていると?」
今回の事の発端であるエリザはそのリラ・ジェゼロ末裔だ。もしも刺殺されなければジェーム帝国はダイアと同じように死亡を偽装しただろう。それを自分も勧めただろう。例えエラとその子供を危険に合わせた者であっても。
「リラ・ジェゼロは儀式を正式に終えず、別の出口から戻ってきて、その足で国を去った。ジェゼロ王の権利を儀式途中で唯一棄権した人物だ。正式な書類は残っていないが、非公式はある。ネタになると思ったのは初代ジェゼロ王の日誌からだ」
ジェームにとって一番厄介なのは間違いなくこの男だろう。だが、ジェゼロにとって有益な人物だ。オオガミがサラの兄でなければ、フヅキは何か工作をしていたかもしれない。
「これで王になりたいって野心がないのが不思議だな」
「そうか? 馬鹿どもに付き合うよりも賢い犬と過ごす方が余程いい生活だろう?」
心底不思議な質問されたようにオオガミが言う。
「で? 別に見込み違いなら仕方ない。どうする?」
「ジェゼロ家系の秘密を知りたいだけか?」
「ぶっちゃけ、知らない事があると痒くなるんだよ。知りえない時代を知る生きる証人がいるのに聞かないなんざ、それこそ蕁麻疹が出る」
どこまで本気か知れないが、飄々とした男はそういった。




