双子の計測 後
「あの二人は、ジェゼロでも成功しそうですね」
ベンジャミンが服を着ようとしたときに、手で制して振り向かせる。しっかりと鍛えたままだ。帝国を出てから日も経っているだろうから消えているかもしれないが、女の影はない。まあ、そんなヘマをするほど馬鹿ではないか。
「……エラ様、何か?」
「………」
見上げるとベンジャミンの目と合う。何か妙な感じがしていた。それがわかる。長く会っていなかったのに、再会して口付けどころか抱擁の一つも求められはしなかった。
「……子を産んだ後では、女として魅力に欠けるか?」
はいとは言えないと分かりながら、安心したくて口に出た。
「………」
予想に反して、ベンジャミンは口を真一文字に結んで黙り込んだ。唾を飲み込み、長い一呼吸を終えてからようやく口を開く。
「私が、あなたをそう見ても、許されると言う意味でしょうか」
また、倒れるのではないか思うほど一瞬で顔色が悪くなった。普段感情をあまり表さない男が苦悶の表情を見せる。
「駄目なのか?」
ジェーム帝国に別にいい人を見つけた上で、もうできないと言う意味か。男児だったから次がないと思っていたのか。未だにこれの頭の中はわからない。
「……」
腕が唐突に伸びる。抱き寄せられたそれは、再会の喜びよりも焦りの様だった。
背中に腕を回す。温かさとベンジャミンの微かな体臭がする。少し泣きたくなる。何度ジェーム帝国になぞ出さなければよかったと思ったか。他の者では得られない安心感がある。
擦り寄るように、べジャミンが頬を寄せる。
「っ……申し訳ありません」
はっとしたようにベンジャミンが体をはなし、慌てて服を着る。それを見て、何か違和感を覚えた。
「………ベンジャミン、そこに座れ」
服を着たベンジャミンに低く命じると叱られた犬のように素直に従う。視線を落としたままだ。
向かいに腰かけてから、自分でも怖い質問を口にする。
「お前は、まだ私を」
「おっまえ、餓鬼産んだって!」
バーンとドアを開けて、大男が入ってくる。
「……」
ベンジャミンが無言で立ち上がると、ドアを顔面に向けて盛大に叩きつけるように閉めた。ドアの向こうで何か叫んでいるが、鍵をしっかりとかけて戻ってくる。
「失礼しました。警護の教育を徹底します」
深々と頭を下げて淡々という。
「はぁ、話は今度にしよう。オオガミはともかく、ロミアが帰ってきたのに迎えないわけにはいかない」
ひと騒ぎがあってもユマは寝たままだ。夜もこれくらい寝てくれればありがたいのだが。寝ていて欲しい時にばかり目を覚ます。
ため息をついてドアを開けるように指示する。
王としてではなく、ただの一人の女として、まだ想っていてくれているか。そう聞きたかった。聞いてはならないと神に口を閉ざされた気分だ。
王としての敬愛だけでは足りない。命じる事ができる立場だからこそ、その立場にもどったからこそ、不安だ。私が一人のただの女として、想いを寄せているのはベンジャミン・ハウスただ一人だ。例え議会院が反対しようとも、ジェゼロ王として閨に入ることを許すのはこれだけだ。
もしもベンジャミンの心が別の者に変わっても、放してやれない自分の醜さが怖い。




