謎の多い客人について
帝国の権威ある医師だと紹介されたベリル・モルターは同じ医師として異質なものを感じる。ジェゼロの医療を見たいと、政務活動が忙しく週に一度しかできなくっなた診察についてきて、色々口を出してきた。帝国は多人種の国だが、褐色の肌をした美青年だ。オオガミやベンジャミンも美形で知られているが、名高い芸術家の彫像の様な見た目だ。隙がなさ過ぎて気持ちが悪い。
「何か?」
ロミア様がローヴィニエの件でしばらく戻らないと言うので、ジェーム帝国が代わりの人材として寄越した。なにか胡散臭い。
「エラ様の御体調は如何ですか?」
医学技術と知識は自分以上だ。それにオーパーツの知識もゆうにオオガミを超えている。初診から見ているため治療と、暇をするエラ様に新しい知識を与える為に島へ渡る許可が下りた。何度かは治療経過を確認したが、オオガミの……トウマ様の所為で今はさらに時間が足らずここしばらくエラ様の御様子を見に行けていない。
「ああ、今は筋肉を戻すように運動をさせている。それにしても良いので? 一国の王を追い出すような真似をして」
エラ様の様な緑の瞳を持つ男が問う。
あまりにも勝手すぎる行いをしたエラ様への罰の意味もある。トウマ様の改革は今後のエラ様の仕事にも役立つだろうと言う判断でもあった。一部の議会員がこのままトウマ様を国王代理として実質的に国務を任せてはと言っていたが、あれらはわかっていない。トウマ・ジェゼロはどれだけ長く持っても一年だ。その後は無責任にどこか行く。そういう男だ。これはエラ様の怪我を名目にした異例の対処ではある。無論このまま続ければ反逆になる。
「ユマ様をお産みになった際、随分体調に無理がありました。それに、あの方はご自身の重要性を理解していない。無理やりにでも休息をとらせる必要が。オ……トウマ様はエラ様の席を奪うような事をしないと、皆が承知しているからこそでしょう」
「本当に、そう思っておいでか?」
若いこの男こそやはり信用できない。トウマ様とエラ様の許可があるとはいえ、こうも堂々と城内を帝国の者に闊歩させて、そういう点ではお二人とも心配だ。帝国をあまりにも信用しすぎている。
「議会員は国に遣えども王に仕えているわけではありません。王を誰とするかは神が選び、王は神に奉仕する。だから我々は王に敬意を表し、共に国をよくするために努める関係。神がトウマ様こそ真の王として相応しいと言わぬ限り、彼を誰も王とは認める事が出来ませぬ。例え、エラ様が王を退かれたいとお考えでも」
「てっきり、ハザキ殿は彼女では今の時代は務まらないと考えているのかと」
「ご冗談を」
トウマ様のいる執務室へ向かいながら鼻で笑う。帝国の者でなければ張り倒すような言葉だ。
新しく窓を付け替えた応接室を通りノックをして執務室へ入る。エラ様の時と違い、うっかり返答を待つのを忘れる。おそらく、議会員の中でトウマ・ジェゼロに最も敬意を称していないのは自分だろう。
王の執務室にいるはずのトウマ様の姿が見えない。
「あ」
間抜けた声を出すトウマ様、いや、オオガミと目が合う。窓の外側から、出ていくのか入るのか。これが一年も持つ訳もなかった。
「……じゃあな」
どちらにせよ、ばれたオオガミが飛び降りる。
「ちっ」
「捕まえて来ましょうか?」
盛大な舌打ちにベリル医師が言う。
「できるのであれば」
嫌味で言ったが、何の躊躇いもなく窓から飛び降りた。慌てて覗き見るが綺麗に着地してオオガミに追従していく。ここは無論一階ではない。




