怠惰な日々 後
「その、エラ様。本当に閨を変えるおつもりですか?」
「エユ。この場で話すことではないだろう」
なけなしの王としての威厳でいう。二人きりの時ならばまだしも、他者のいる場で言う話ではない。
「少しだけ席を外してもらえる。直ぐに済むわ」
「はい」
「ユマ様を見せていただいてきます。」
二人が言われてさっと部屋を出た。
「……エラ様。ローヴィニエで拷問に近い事をされたと伺っています。このような事をお聞きするのは気が引けますが、何が」
テーブルの上に置いた手をぎゅっと握り問われる。ローヴィニエでの事は内密事だ。いらぬ噂が立っても馬鹿らしい。だが議会院長は流石に知っている。
「檻の様な籠に入れられて、水に沈められて一度意識を失い。大きい猫を脅しに使われ、その後、籠に入れられたまま下火で焙られた。その所為でこの火傷だ。おまけにバカみたいな靴でしばらく歩かされたせいでここまで悪化した。エラ・ジェゼロがそれほど香ばしく焼けていないのは、あれが助けに入ったからだ。その所為で怪我をさせた責任は感じている」
「その……お聞きしにくいのですが、性的なことは」
「………安心しろ、子ができる心配をするようなことはされていない」
「本当ですか?」
「脱水症状で気を失ってから、帝国の調査隊の女が隅々まで確認をしたそうだ。まったく人の体を勝手に。だから、私が気を失っていた間にも、妙な事はされていない」
何の心配かと思ったが、あそこまで非道な人間ならばそういう事もありえただろう。それで、月のモノが来た時あれが妙にほっとした顔をしたのか。あれも疑っていたのかと腹立たしい。
「それでは、何か心に傷を持たれたわけでは……でしたら、その、ベンジャミンは余程下手かなにかで?」
言われて顔が熱くなる。
「国王付きを外した。もう、あれとはそういう関係ではない」
「……」
まじまじと見つめられる。
「本当にそうなら、その様な反応をされるとは思いません。はじめにそう言われたとき、エラ様は曲げないだろうと思うほどの覚悟が見えました。そう言う所はサウラ様にそっくりですから。でも、今はもうご自身が諦める事が出来なくなっているのは見ればわかります」
吸った息が嫌に重たい。蒸気で蒸された時のように呼吸の仕方がおかしくなる。
「二人を呼んできますね」
エユが立ち上がり外へ出た。小さなテーブルに椅子も四脚しかない。小さいベッドは二つ。それに簡単な台所とトイレと浴室があるだけの、元々豪勢ではないジェゼロ王にしてもこれは質素すぎる。なのに、生活に何ら困っていないのが問題だ。理由がわかっているから更に事だ。




