怠惰な日々 前
「それにしても。本当にあれは何でもできますね」
「このクッキー。売り物ではないのですね」
「これは商売の匂いがします」
これは幽閉に近いのではないかと思うが、客人がくるとこれが静養だとなんとか思える。
エユが議会院長として、それに双子は服を届けに来てくれた。こっちはその日の予定がさっぱりわからないと言うのに、ベンジャミンはすべて把握していて、客人をもてなすために今日は甘い菓子まで普段よりも多く用意していた。
「後ほど作り方をお教えします。簡単なものですので」
ベンジャミンが左右の持ってきてくれたナサナの茶を淹れて戻ってくる。
「お二人にはいつも素晴らしい代物を作っていただいていますので」
並べたカップに赤茶の液体を注いでいく。
「おみ足の具合はいかがですか?」
「もう歩ける。いつでも戻れるぞ」
「靴が履ける状態ではありません。踵だけで不安定な歩行のみは可能ですが、確実に悪化するでしょう。悪化すれば指を失う可能性すらあります。もうしばらくは静養を。トウマ様があまりな事をするようでしたら、私からも忠告をいたしますが?」
人の言葉の何倍も時間を使って訂正される。
「エラ様、いくら臨時雇用の王がいるとはいえ、真の王はエラ様だけです。その身が二つない事をご理解ください。それに、体重が落ちすぎている事を案じていました。この機会にもう少し体重を増やしてください」
「乙女に対して太れと言うのか」
「ご安心ください。サイズ調整は可能です」
「あまりに行き過ぎた場合はわたくし共が恐れながら忠告を」
ここに着てから確実に体重が増えている。誰もいないときは酷い辱めも受けている。月のモノで出た汚れ物までこれに洗われている。無論下着もだ。風呂だって、布を巻いてとはいえほとんど裸の状態で抱えて移動させられている。お湯がかかると痛いので足を上げて入らなければならないから、それだけでも大変だと言うのに、湯から上がった後は特に酷い。足の手当から始まり髪の手入れまでされる始末だ。人としての尊厳を侵害されている。
「御用があればお知らせください」
ユマを大判の布でくるむと荷物のように抱え出ていく。その言葉もエユに対してだ。
「………それでエラ様。女性だけの話として、酷くなどはされていませんか? これは母親代わりではなく、女性として、あまり相談できる人もいないでしょうから」
「ご安心ください。ナサナで機密がどういうものか理解しています」
双子が久しぶりに揃って言う。エユの言葉にもため息が出る。
「酷いも何も、見ればわかるだろう。あれはここに来ても一切口を利かない。私はただベッドでごろごろさせられて、無駄にうまい飯と菓子を食わされて、ぐずったユマすら手なずけて。あまつキングが来た時は木陰で癒しのひと時を与えるんだ。このままでは唯の駄目な人間ではないか」
王の務めもせずにこんな生活をしていたら私は駄目になる。
「……まさか」
「そのまさかかも知れません」
双子が顔を見合わせて言う。




