双子の計測 前
流石に全裸にはされていないもの、それに近い状態のベンジャミンが、メジャーを持った双子にいいようにされているのに少しばかり笑ってしまう。それで、双子が来るのをエユが今日に替えたのだろうと察した。今回の一件でふとした時に嫌な事ばかり考えていた。もし、ユマに何かあったら、そう思うだけで恐ろしくなる。
「ジェーム帝国でも護衛のお仕事を? 筋肉はむしろしっかりされた気が」
「エラ様、こちらに目新しい傷跡が」
「何? 聞いておらんぞ」
立ち上がり近くへ寄るとベンジャミンがため息をつく。
「オオガミとの手合わせに付き合った時にいくらか怪我をしただけです。お分かりでしょう? あの人は私に対しては手加減を知りませんので」
「ああ、兄弟のように仲がいいからな」
深くはないが腕やわき腹、背中にも切られた跡がある。それよりも、他に多く古傷があった。
「っ……」
「エラ様、只今こちらの商品おさわり禁止となっております」
「エラ様が触ると正確な採寸に支障が出ます」
傷跡に触れると痛かったのかベンジャミンがびくりと震える。左右に注意を受けてしまった。
「そもそも、私に特注の服など不要では?」
「エラ様のお傍に立たれて民衆の目に触れるのならば、バランスは大事です」
「エラ様を引き立てるためにも必要な事です」
左右に続けて言われてベンジャミンが諦めた。
「ついでにユマを抱えていても様になる格好にしてもらおうか」
「子守りまでベンジャミン様がされているので?」
左が少し驚いていう。
「まあ、色々とあってな。新任は査定中だ」
自分の子と言うだけであらゆる人間から狙われる。信用できると言うだけでは任せるには心もとない。
「……」
左右が黙って互いを見つめる。
「なんだ、当てがあるのか?」
「信用や信頼と言う面で、エラ様に推薦はできませんが、赤子の面倒を見られる家事手伝いでしたら」
「他国からの出稼ぎなんですが、とても気の利く子です。それに物静かですからお仕事の邪魔にもならないかと」
控えめな申し出だ。
「他国となると許可が出ないかもしれんが、一つ候補にさせてもらおう」
「出過ぎた申し出を」
「何、気にせんよ。二人の服は評判がいい。町の者にも人気が出ているのにこっちの仕事までしてくれて助かる」
ナサナ国の国王からの供物の名目だが正しくは亡命してきた二人だ。裁縫の技術を生かして公務着を任せているが、芋臭いと評されていたジェゼロに流行の風を吹き込んでしまったらしく、二人の店も軌道に乗り出している。
「エラ様がいなければ、ただのよそ者として全てを始めなければならないところでした」
「二人に才があったからこそだ」
右の言葉に困る。本当に大したことはしていない。
「エラ様、セクハラをしながらいい話をするのは止めて頂けませんか?」
ベンジャミンが困り果てた声で言う。そういえば背中を触っていたままだ。
「ベンジャミン様、セクハラは受け手が不快でなくては成り立ちません」
「ベンジャミン様、片手間に褒美を与えるのは止めてくださいが適切では?」
ベンジャミンがため息をつく。
「もう終わりますから」
二人揃って採寸を仕上げる。
「それでは近日中に品物をお届けします」
「それではエラ様、ベンジャミン様、そしてユマ様。失礼いたします」
ユマの服を置いて行くと軽やかに二人が去っていく。