謹慎処分 2
「生きている。安心していい」
リセが顔を伏し両手で顔を覆う。咽び泣いていた。運が良かったのもある。それに、どれが当たりかわからない以上、ハズレを活用できるように、ダイアの趣味に使えるよう好みを選んでいたようだと聞かされた。リセの弟はまだ幼い。だから助かったのだろう。
それにバジーの孤児施設だった場所で劇団員が発見された。結局のところ全ての公爵は真っ黒だったのだ。ユマを誘拐させようとしたのはエリザ・バジーだった。例の通信機械は文字だけでなく写真とやらも送れるらしい。複数の人物の写真からエリザの写真を見た誘拐犯はこの女が女王陛下だと言い切ったという。旅芸人と村を襲ったのは別だったのだ。いや、エリザ・バジーが一番の黒幕と言うべきか。
「家族は関係ありません。どうか、どうか処罰は私ひとりに」
大粒の涙をあふれさせ、鼻声で聞き取りにくくなってしまった声で必死に訴える。
「リセ・ハンミー」
こういう時に口を出さないはずのベンジャミンが口を開く。
「しばらくはユマ様の面倒を見る手伝いを続けてもらうことになる。兄弟や村の者については悪いようにはしない。村に戻るにしても、荒れたままだ。復興には少し時間がかかるだろう。それまでいい仕事がないならばここで仕事を続けた方が給金は安定する。君と弟が望むならジェゼロへ呼び寄せることも検討しよう」
どうしてお前がそれを言うと言いたい。概ねは近い考えだが、望むならば直ぐにでも兄弟の許へ行かせてやるつもりだった。
「私に、ユマ様のお世話をさせて頂く資格は」
「自分はエラ様のお世話もあります。新しい子守りを見つけるにも手間がかかる。今のあなたはジェゼロに恩義のある身。そうそう裏切ることもないでしょう。無論、次がないことも理解している」
これではダイア・アカバの脅しと同じではないか。
「はいっ。命に代えても」
涙をこらえぐっとリセが返事をする。
「少し落ち着いてから、またユマ様を頼みます。いまは部屋に戻りなさい」
ベンジャミンが優しく言い。頷いたリセが席を立ち部屋を出た。
「どういうつもりだ。勝手決めて、そもそも、お前にユマを抱く許可は与えていない」
これは誰が父かと聞いた。それを忘れたわけではない。ユマを抱きとめるのを目の前にするとあの怒りが戻ってくる。
この言葉さえ無視して、ユマを抱えたまま執務室へ入っていく。戻ってくるとユマは手にはない。何も言わずに抱き上げ運ぼうとするので腕を伸ばして突っぱねる。
「……」
見下ろす目は見下すようだ。
「エラ様。小言は山とありますが、一先ずこちらへ」
声はベンジャミンではない。王の執務室からハザキが言う。何故そこにいると眉を顰めた隙に救い上げられ抱えられる。首に腕を伸ばせば安定もいいだろうが、そんなことなど絶対にしないと決めている。




