謹慎処分 1
何が腹立つか。こちらが言っていない事まで理解して行動されることと、それができるのに言葉に出した指示はことごとく無視するのだ。今も、命じる前にユマを連れてこさせ、リセへ話があると言う前に場を整えた。許可していないユマの世話まで勝手にする。それを咎める事よりもすべきことがあった。
「先に、申し開きがあれば聞いておこう」
泣いていたユマがベンジャミンの腕に入ると嬉しそうに笑い始めている。親だから無条件に赤子が笑うわけではない。実際産んだ自分にぐずり倒すのだ。他の動物は直ぐに懐くと言うのに。
「……ど、どうして私に預けていかれたのですか」
リセが今にも泣きそうな顔で言う。
「命に代えてでも何かあれば守ってくれるだろうと思ったからだ」
それだけならば他にも信頼できる者はいる。だが、四六時中子守りまでしてくれるとなれば他に選択肢がなかった。例え、ダイア・アカバに脅されているとしても。
「……でも、私は」
一度呼吸を整えて、握った拳に視線を落とした。
「あの、矢は私が仕掛けました。どのような処罰も覚悟しています」
ここで何も言わないのなら、処罰を考えていた。
「手でガラスを割るのは軽率だった。それに、あの配置ではどこからも射ることはできない。折った矢ならば辛うじて荷物に入れても誤魔化せただろうから、矢は折れていたのだろう」
「分かっていたならどうして」
ガラスが万が一にも当たらない位置にユマはいた。もしもリセが言われたとおりにしなければ、外から弓を放っていた可能性もあった。ただ、高い位置にある城だ。かなり難しい。それに、運が悪ければユマに当たるかダイアの計画がばれていた。
「暮らしていた村の住人は半分ほどが生きていたそうだ」
「……」
ぱっと顔を上げて涙を目一杯に貯めている。だがいい知らせばかりではない。
「ご両親は亡くなっている。村が襲われた時に既に殺害されていた」
連れていかれた村人は酷い死に方をしたものも少なくない。それに比べればましだった。だがそれを言う必要はない。
「弟は……」
震える声でリセが問う。
ローヴィニエにいた間、公爵家の施設は全て確認された。アカバ家が持つ、僻地にある別荘と言う名目の収容施設に二百人近い人間が収容されていた。あの地下の施設は決まった時期にだけ入れる。クロト・イセが開けた扉もジェゼロの血で開く仕掛けがあったらしい。ダイア・アカバはその都度、村人を使いドアが開くか試していたようだ。その都度五人が殺されていた。
中の事はほとんど覚えていないが、ダイアは中にはもう求めるモノがなくなったと言うのに、それを知らぬまま、罪のない者を殺し続けた。




