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国王陛下育児中につき、騎士は絶望の淵に立たされた。  作者: 笹色 恵
~国王の自戒~

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ジェゼロへ 前


 ローヴィニエ国はジェーム帝国と名を変えることになるだろう。変わらなかったとしても帝国の属国になる。一部は元々ナサナのものだと利権を主張することが予想されるのでそこは二国間で協議してもらう。

 ジェゼロは得る事で減る方が痛手だ。あのような忌々しい国の土地を得たところでなんの利益もない。ジェーム帝国は侵略慣れしている。新しい土地や国民を受け入れる知識がある。ジェゼロにはそんなことに費やす人材も財源も労力もない。ジェーム帝国へ丸投げするのが一番の得策だ。

 後は国内のことだ。

「検問だ」

 行った時は三日とかからずに着いたが、戻る時はその倍以上をかけてきた。この自動車はベリル様がローヴィニエへ持ってきたものだ。明らかにこれで一人で旅をするつもりだったろう魂胆が透ける作りだが今はエラ様が過ごすには快適なのでよしとしている。周りは調査隊が数人と普通のジェーム帝国の兵もいた。ジェゼロは特に増援を寄越してもいない。ロミア様からの例の便利な機械での連絡で不要と伝えたからとはいえ、王に対して配慮に欠ける。ハザキやエユ様の考えではないだろう。

 検問が見えてからしばらくしてその前に付ける。本来ならばエラ様から離れ車外に出たくはないが仕方ない。

 検問の兵と手短に話し、門を開けさせる。まだ国王付きが外されたことは正式に伝わっていないのがこの対応で見て取れる。

「ベンジャミン、城に付く前にちゃんと話を」

 車内に戻るとエラ様が、子供が学校に行きたくない言い訳でも始めるような口調で言う。

 言葉を返さずにベリル様の救急箱を勝手に開けて軟膏とガーゼと包帯を取り出す。城に着くまでにはまだ十分に時間がかかる。身支度も整えていただかなくてはならない。

「話をしたいと言っているんだ」

 足を引っ込めたエラ様が言う。手当の仕方はエラ様が気を失っている間に手解きを受けた。既に大分とよくなっているが、まだ歩くのは避けるべきだ。指は最悪切断する可能性があると言われたが、小指までちゃんと直ってきている。かかとはヒールの高さのお陰でそこまでは酷くないせいで、踵を使って歩こうとするので性質が悪い。膝を付いて車内を移動しようとしたときには流石に声が出そうになった。

「…………」

 黙ってじっと見る。

「悪かったと言っただろう。だから、その黙ったままをやめてくれ」

 未だに何故か理解されない。いっそ舌を切り落とされた方が楽かもしれない。

「エラ。到着したらやる事が多いだろう。今のうちに治療してもらっとくようにな。さもないと治るもんも治らないぞ。火傷はそんなに治りが早くないんだ」

 運転席のベリル様が加勢する。時折運転を変わってベリル様がエラ様の気を紛らわせるために話し相手になってくださっていた。神官は直接帝国の帝王を決め、采配にも少なからずかかわっていた。それが勝手に国外へ行ってしまっても問題がないように、ベリル様とは別に代替えの神官を帝国のあの神殿の中に構築している。他国の決め事には口を出さないが、この本体であるベリル様は帝王同様にエラ様に甘いようなので心配だ。

「ぅう、キングに乗りたい」

 エラ様が引っ込めた足を延ばす。


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