見せしめ
受験に受かったので気持ち的に余裕ができたぜ〜まぁ、そのお祝いのようなものとして、新作あげようかなぁと思います!
実は既に3作品ぐらいストックがあるんですよねぇ。作るだけ作って投稿してなかったのでこの際だから投稿しようかなぁ。内容はローファンタジーとVR物とハイファンタジーですねぇ。まぁお楽しみに。
「主よ、全員揃ったぞ」
「お疲れ、下がっていいぞ」
グレヴィルが後ろに下がり、他の幹部達と並んだのを見届けてから、俺が座るには些か豪華過ぎる椅子から立ち上がる。ちなみにこの椅子は、64階層で取れる鉱石と、ダンジョンの外の“帰らずの森”を伐採した木から作られた。
ニッケルとローラン曰く、座ってるだけで魔力の自然回復速度を上昇させる効果があるらしい。
「全員聞け!」
俺の言葉により、全魔物と魔族が、俺を見つめる。前世じゃただの一般人だった俺に、そんなにカッコイイ宣誓なんてできる訳がないが、それでも俺の立場として、やらなきゃならない。
それにこれからする命令は、俺達の今後を明確に決める命令だ。尚更やらない選択肢が存在しない。
「これより我らは、人間共に先制攻撃を仕掛ける!」
ざわりともしない。今声を出せば、俺の宣誓の邪魔だとして、幹部達がキレかねない。特にシアとフロン、あの2人は、幹部達の中でも特に喧嘩っ早い。フロンに関しては意外に思うかもしれないが、実際、幹部の中で1番俺に忠誠心があるのは、フロンかもしれない。他の奴らも忠誠心は負けず劣らずだが、フロンは俺の邪魔になると判断した物は、俺が制止しても排除にかかる。
他の奴らは命令すれば止まるが……命令する前に排除し終えてるのがほとんどだからな。そもそもコイツらが俺の指示無しに動く事がほとんどないに等しい。
「人間共は、我々を舐め腐っている! その証拠に、我々の“帰らずの森”を、例の吸血樹の伐採のついでに攻略しようとしている事から明らか!」
この場の全員の怒りのボルテージがグングンと上昇していくのが分かる。どうやら俺の宣誓は上手くいっているらしい。高校時代に友人がやってた生徒会の演説を参考にしてるだけだけどな。今思えば、随分と苛烈な演説だった。
「確かに人間共は我らの存在を把握していないのかもしれない。しかし! 吸血樹の1件で何者かがあの事件を起こしたのは分かっていたはずだ! それでも奴らがこうして舐めた真似をしている事こそ! 我らを侮っている証! それを踏まえて諸君に問う!」
1拍
「このままでいいのか!?」
「「「「「否! 否! 否!」」」」」
「人間共が我らをついでと捉えるのを傍観するか!?」
「「「「「否! 否! 否!」」」」」
「よく言った! であれば反撃するぞ! 目標は前回吸血樹を使った街の北東にある街、【シャルシャート】、そしてその近くの村、【カト村】を襲撃する。悪いが人間共がここに来るまでに時間がない。出発は今から30分後、メンバーは既に幹部達に伝えてある。今回連れていかねぇ奴らは、人間共の襲撃に備えて準備してろ! 以上だ!」
魔物達が興奮の叫び声を上げる。その声は、まるで台地を震わすかの如く、“最果ての迷宮”に響き渡り、ここはどこの地獄だと言わんばかりに、魑魅魍魎が跋扈している。
まぁその魑魅魍魎作ったのは俺だし、これからその魑魅魍魎を人間にぶつけようとしてる訳だが……特に心は痛まない。そもそも、原因は人間共の自業自得だしな、まぁさらに遡れば、日本人が悪いんだが、敵の戦力になりかねない奴らは、積極的に潰してかないとな。ちなみに街の名前は、シャドウキャットの調査で分かった事だ。
ローブをはためかせて、ダンジョンコアのある部屋に転移する。後の事は全部幹部達に丸投げした。悪いとは思うが、こういうのはすげぇ苦手だからな。
「よぉラヴァワイバーン、お前にとっての初めての仕事だ。働いてもらうぞ」
「グルァァァァァァァァァ!」
どうやら気合いは十分らしい。さぁ、俺達は一足先に出陣だ。
後から出る魔物達に、やる気を限界まで出させるために、なるべく派手な光景を見せてやらなきゃな。既にグレヴィルに遠見の水晶は渡してある。ゴミになるかと思ってたが、大人数で使うなら、こっちの方が優れてたな。
「さぁ行こうか!」
向かうのは南に行った場所にある造船技術で栄えた街、【ダンダリオン】。まずはそこを落とす。
* * * * *
カンカンと軽快な木槌の音と、少々鼻に来る潮の匂い、そしてガヤガヤとした人々の声が響く穏やかな街、それこそが【ダンダリオン】だ。
そんな平穏な街に、不吉な噂が囁かれていた。
「聞いたか? リボア婆さんが、突然どっかに行っちまったらしいぜ」
「占い師の婆さんが? まじかよ……最近ボケてきてるとは思ってたがなぁ。突然どっか行っちまうとは思わなかったぜ」
「でもよぉ、ベーラの奴が言ってたんだがな? リボア婆さんがどっかに行く前に、何か叫んでたらしいぜ? 『もう終わりだ! もう終わりだ!』ってさ。何言ってんのか分かんねぇよなぁ」
ボケた老婆がどこかへ消えていく。この世界ではよくある事だが、消えたのは村1番の占い師である老婆、住民達は、軽口を叩きながらも、不安を隠しきれていなかった。
空は厚い雲に覆われ、陰鬱な印象を受ける。それがさらに住民達の不安を煽っているのだが、天候ばかりは、特に力のない住民達にはどうしようもなく、ただただ、今日という日が何事もなく過ぎていくのを願うばかりである。
しかしそれは叶わぬ願い。
それは突然の出来事だった。
突如として空を覆っていた雲が晴れる。自然現象では起こりえない現象に、住民達は唖然とし次の行動に移せないでいた。そして、街に住んでいた者達全てを萎縮させる、何かが降り注ぐ。魔法にそれ程深く関わった事がない住民達は、原因不明の恐怖に身が竦み、魔法使いは、それが自らが今まで経験した事もない規模の魔法がこれから発動する合図である事を悟り、やはり恐怖で身を竦ませた。
そして、雲1つ無い青空へと一瞬で変貌した空に、浮かぶ影。数人の住民達がそれに気づき、そしてその中でも勘のいい者達は、今起こっているこの異常な現象は、間違いなくあの影が原因であると悟った。しかしそれは何の意味も無く、これから起こるであろう出来事を待つだけの人形へと成り下がった。
「今すぐこの街を捨てて退避せよ!」
1人の勇敢にして、それなりの力量を持った魔法使いが、住民に向けて避難指示を出すが、それに反応する事ができたのは、たった数十人であった。残りの住民は、恐怖にその身を固くするか、そもそも声が届いていないか、魔法についてある程度知っていて、我先にと逃げ出した者達、そして魔法について知っているが故に、これがどれだけの技量によってなされているのか理解してしまい、硬直する者達に分かれた。
その事に、指示を出した魔法使いは、己の力量不足を感じて歯を噛み締めるが、悔やんでも始まらないと、住民達を魔法で浮かせて何とか街の外へと避難させる。それを見ていた数人の魔法使い達も、住民を避難させるが、焼け石に水。何かされる前に間に合わせる事は、不可能である事は明確だった。
それどころか、自分の命を大事にする魔法使い達は我先にと逃げ出した。ただでさえ人手が足りないこの状況で、さらに人手がなくなるのは避けたいと、逃げ出す魔法使い達を必死に呼び止めるが、聞こえていないかのように無視してどこかへ消えていく。
しかし、その全ては無駄な努力に過ぎない。上空にいる魔力の主が、魔法を発動させれば、この街はたちまち焦土と化すだろう。それを分かっていても、少しでも遠くへと逃げたくなるのが、人間の心理である。
そして、遂に魔力が落下する。その速度は、それ程速いとはいえないが、しかしそれでも、範囲外に脱出するにはあまりにも時間の無いものだった。
街に残った魔法使い達は、落下してくる魔法が、せめてどのようなものか確かめようと、魔力で視力を強化し、確かめる。
それは種だった。
どこにでもあるようなその種は、膨大な魔力を秘め、この街に死を撒こうと、ゆっくり落ちてくる。
そして種は、空中で発芽する。小さな種から、あまりにも歪な大きさの樹木の根が街に向かって降り注ぐ。それらの根は、街にいた全ての人間を含む生き物を飲み込み、街を覆い尽くした。そして、根があるならば、幹がある。
一瞬にして、街に巨大過ぎる樹木が生えた。しかし、当然普通の樹木では無い。一瞬にして街1つの生命を殺し尽くす樹木が、普通な訳がないと言われればその通りなのだが、その樹木は、自然界には絶対に存在していないであろう、紫色をしていた。幹には夥しい数の、苦悶の表情を浮かべる、巨大な顔が張り付いていた。
造船都市【ダンダリオン】生存者0名。
新緑のドラゴンの研究によって完成した、新型兵器、“死霊樹”によって甚大な被害を出したこの街は、未来永劫、死霊樹の伐採を試み続けるが、1000年経っても不可能である事を、まだ誰も知らない。