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禁忌

遅れました〜

 そしてそれから1週間後、エルドは本当に仲間であろう人間を連れて来た。


 「そいつ等で全員か?」


 「いえ、後2人いるのですが、見つけられませんでした」


 「お互いの居場所を把握してなかったのかよ?」


 この世界には、遠距離で連絡を行う手段が、手紙しかない。馬を使って手紙を届けるのだが、それだけでも時間がかかるから、遠距離で起こった出来事は、遅れてしか情報を得られないのだ。

 俺達も、なんだかんだ連絡は直接行ってるからな。


 そういう訳だから、お互いの居場所を把握してないと、こういう風に連絡がつかなくなる可能性があるだってある。仮にも一国の宰相だったんだから、それが分からない訳はないはず。何か理由があんのかね?


 「今見つかってない2人には、未だ統一帝国が発見できていない龍脈の発見と確保を任せていました。そのため、2人共同じ場所には留まりません」


 「おいエルド!」


 「黙ってろザックス! 我々にはもはや、この方々しか頼れんのだ!」


 どうやら今立ち上がって叫んだ男はザックスという名前らしい。まぁどうでもいいかな。

 それよりも早く座らないと今この場にいる幹部達が殺しかねんから、エルドには早めに説得してもらおうか。あっ、でも殺してからアンデッド化した方が早いのか? そうすれば逆らわないし……デメリットはエルドとの関係悪化か? でもそれも『スレイブ』でどうにでもなるしなぁ。


 「堕ちたかエルド! 我々は人間だ! こんな怪物共の手を借りて、問題を解決しようだと? どんな対価を払わされるか分かったものでは無いぞ!」


 「今そんな事を言ってられる余裕がどこにある! 我々は一国も早く、この世界を正常に戻さねばならんのだぞ!」


 「俺の私兵がいる。そいつ等なら、王城の警備を出し抜ける! 後は龍脈吸引装置(マナ・ドレイン)を破壊すればいいでは無いか!」


 「できると思っているのか!? ユーゴが作ったあの魔道具をそう簡単に破壊できると本気で思ってるか!」


 「できるとも! 俺にはお前と違って秘策があるからな!」


 「秘策ねぇ」


 思わず口を挟むと、エルドの仲間だという騒ぎ立てていた人間に睨まれた。


 「文句があるのかバケモノ!」


 「とりあえずお前は現状を理解するべきだな」


 「なにぃ!」


 どうやらコイツ、確かザックスとかいったか? 自分がここにいるという意味を理解してないらしい。

 他の奴らは黙ってるところを見ると、ザックス以外はちゃんと理解できてるのかね。ザックスが代弁してくれてるから黙ってるだけの可能性もあるけどな。


 「ここは俺の本拠地、最果ての迷宮だ。そこで俺に逆らうとはいい度胸してんな?」


 「貴様! 我らと敵対するつもりか! 許さんぞ!」


 「なぁエルド、コイツ必要か?」


 「……それなりに優秀な男でしたが、しょうがないですね。お好きなように」


 「了解」


 許可も出たしサクッとやるか、他の奴らがもしも逆らおうとしてるなら、それに対する牽制の意味も込めて、ちょっと残酷目に殺しておこう。


 「エルド!? 貴様裏切るのかァ! 我らが祖国への忠誠を……」


 「黙ってろ馬鹿が! てめぇに邪魔されたらユーゴを殺しにくくなるんだよ! それすら分からねぇようなら、てめぇは無能以下だ!」


 「何だとっ! 貴様言わせておけば!」


 珍しくエルドが荒ぶってる。他の人間達も、唖然としてるのを見るに、やっぱり珍しいようだな。


 そろそろ幹部達も我慢の限界らしいし、早めにやろうか。


 「“生者に終わり無き休息を”『タブーズエンド』


 暗い蒼色の波紋が、ザックスへと襲いかかる。しかし、ザックスの身体に異常はない。


 「は、はははっ! 何だコケ脅しか? 舐めた真似をぉぉぉ?」


 急にザックスの身体が崩壊を始め、先程の波紋と同じような色をした泥へと変わった。


 「……素体としてもあんまり使えねぇ奴だな。作れてもせいぜいスケルトンってとこか、無駄に魔力使わせやがって」


 『タブーズエンド』は、生物をアンデッドを生み出す事ができる泥へと変えるという、割とえげつない効果の魔法となっている。

 量も、素体になる対象によって違うが、何が基準なのかは、今のところは実験中なので、判明してない。

 簡単に戦力が増やせる魔法だから、割と重宝できる魔法だと思う。


 「起きろ(ウェイクアップ)


 ぐにゃぐにゃと泥が流動し、人の形を作り出す。その光景を見た人間達が、ざわざわと騒ぎ出すが、エルドが声をかけて、抑える。

 そして、その直後に泥が1体のスケルトンへと変化した。そのスケルトンを36階層に転移させる。


 「まぁこういう訳だ。別に脅そうとか思ってる訳じゃねぇが、現状と立場を弁えろ。いいな?」


 「はい、もちろんです。他の者達もよく分かったかと」


 それは見れば分かる。ガタガタ震えてる奴ばっかりじゃねぇか、もし失禁とかしたら部下達が真っ先に殺しにかかるんじゃねぇか?

 そこでエルドから緊張を含んだ声で話しかけられる。


 「成功した暁には、お願いしたい事がございます」


 「言ってみろ、言うだけならタダだぞ。それが叶うかはお前らの努力次第だ」


 「はっ、……我々がお願いしたいのは、メラーテ王国の再建でございます」


 メラーテ王国、確かエルド達が仕えていた統一帝国の前身となる国家だったな。それの再建ねぇ、別に監視してりゃいいから再発の必要はなし、特に反対する要素もないけど。

 まぁ本人達が望むならそれでいいか、どうせ俺達に支障が出る程の派手な動きなんてできっこない。


 「許可しよう、何なら手伝ってやろうか?」


 「……いえ、それには及びません。我らの手だけで成し遂げてこそ意味があるというもの」


 まぁそうなるだろうな。俺が国家に干渉したら、俺が好き勝手する可能性だってあるからな、自分達の国を取り戻したいコイツらからすれば、俺の介入なんて一切望まんだろうよ。

 そのために統一帝国を滅ぼすのに協力してるのはいいのかって? これに関しては、利害がハッキリしてるただの協力関係だから、そこら辺は特に問題はない。


 既になくなった国に執着するのもどうかと思うが、コイツらの場合は、突然現れた奴に、国を乗っ取られたから、それを取り返そうとするのは別に間違えてない。俺達としても元凶がハッキリしたから、少しやりやすくなったしな。

 全く、俺はのんびり暮らせればそれで問題ないんだけどなぁ。アテルナからの仕事と、統一帝国がそれを許してくれない。やっぱり統一帝国はしっかり滅ぼそう。メラーテ王国の再建は、滅んだ国を土台にして作り直せ。


 「その辺りの事は、俺達に影響が出なければ好きにしろ。流石に人間の建国には関わるつもりはねぇよ。めんどくせぇからな」


 「ありがとうございます」


 「ただし、龍脈に手ぇ出したら、分かってんだろうな?」


 「承知しております。我らは誓って龍脈に手を出す事はありません」


 「ならいい、とりあえずお前らは巻き添えだけ食らわねぇようにしてろ。何かあったらここに来い」


 「はっ」


 エルド達が出ていくのを見送ってから100階層のダンジョンコアがある部屋に転移する。去り際に数人の人間が、憎々しげに俺を見ていたから、そいつらは注意しとこうか。






 そして早速、前々からやろうとしていた作業に取りかかる。この間エルフ達が作って持ってきてくれた木工の机の上に置いてある2種類の種を使った実験だが、当然ただの種じゃない。

 これは魔界草の種なのだ。1つは俺が最初に作った魔界草の種、もう1つは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ある日、魔界樹の観察を任せていたゾンビが持ってきたもので、どうやら、魔界樹に突然実がなった後、その種が落ちて破裂、そこにあったのがこの種らしい。

 魔界樹の実についても興味深い報告がされている。『スレイブ』で従わせていた、何かあった際の捨て駒として魔界樹の観察に同行させていた人間が、ゾンビ達が食べ物を与えていなかったため、相当飢えていたのか、落ちた実の残骸を食べたところ、屍鬼に変化した。その結果、『スレイブ』から逃れて、周囲のゾンビや他の人間共を殺し始めた。

 それを見た他の人間共が、自分も助かろうと実に群がるもんだから人間共が大反乱。おかげでこんな大事な時期に労働力が減少するという事態になった。まぁその話を聞いたシアとフロンが叩きのめして、『スレイブ』かけ直したから、全体的に見ればアンデットの労働力が増えたから、結果としてはプラスだったかもな。

 しかし問題は、魔界樹からなったという実だろう。食べた人間をアンデットに変えるという異常性は、中々便利だが、『スレイブ』が外れるのは面倒だな。

 しかも、さらに面倒な事に、変化先は一定じゃなく、下位吸血鬼(レッサーヴァンパイア)や、吸血鬼(ヴァンパイア)、ゾンビになったりもした。全員『スレイブ』で支配しているが、いつ上位吸血鬼(アークヴァンパイア)とかが生まれるのか分からない。制圧はどうとでもなるだろうが、把握から制圧までにかかる時間で、どれだけ労働力が減るか分かったもんじゃないからな。なるべく避けたいもんだ。しかも未だに未確認のアンデットが生まれたら、もしかしたら対処しきれなくなる可能性だってある。

 この実の扱いは慎重にしなくちゃならねぇ。


 それにあたって、この実を“禁忌の果実”と名付ける事にした。

 ちなみに食べた人間に感想聞いたら、死ぬ程不味かったらしい。その後は、『スレイブ』で縛った人間共をシアとフロンに預け、俺は回収された種の研究をする。それが今までの流れだ。


 しかし、既にいくつかの仮説はついてる。そもそも魔界樹を観察してたのは、生き物を殺して、()()()()()()()。という報告をフロンから聞いたのが原因だし。何でそんな事知ってるのか聞いたところ、どうやらあの2本の魔界樹と、フロンは、魔法的にリンクしていて、いつでも情報を共有する事ができるらしい。


 そしてそのフロンによると、魔界樹は、フロンの魔力を元に異常成長した結果、吸血鬼と同様の性質を得たらしいのだ。街の中に入った生物を殺害し、血を啜るこの魔界樹に、吸血樹(ヴァンパイアツリー)という名前を付け、リンクしているフロンに、管理を一任している。

 一体、どんな理由で吸血樹(ヴァンパイアツリー)が禁忌の果実をつけるのか、それらの検証もしたいが、このところ問題が山積みなので、そんな事を言ってられない。まずは人間共から龍脈吸引装置(マナ・ドレイン)を何とかして取り上げる。というか破壊する。


 エルドの話を聞く限り、未来が分かるような事を言ってたみたいだからな、一切油断ができない。万全の対策がしたい。


 話を戻すが、吸血樹(ヴァンパイアツリー)についてだ。あの樹は、フロンの魔力を糧とする事で進化した特殊な例だ。それはつまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これを使えば、龍脈吸引装置(マナ・ドレイン)の破壊も比較的簡単にできるはずだ。しかし時間がなくて検証ができない。誰か手の空いてる奴が入ればなぁ……


 「王様、99階層のドラゴン達だけど……」


 「いたぁ!」


 「え?」


 俺が新緑のドラゴンと呼ぶコイツは、サラリとした翡翠色の髪を、腰まで伸ばし、眠そうに半分程閉じている。言うまでもなく人化した新緑のドラゴンである。コイツはクカリとグレヴィルを補佐する役割を与えている。

 まぁ正直ドラゴン達に必要な労働力は足りてるし、実験に付き合ってもらうにはちょうどいいだろう。


 「ちょっとお前に頼みたい事があってな?」


 これで人間討伐に向けて1歩前進した。







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