統一帝国の国宝
今回1万文字超えてるんだが……普通に最多です。
あれから3週間経った。人間共は、準備を終えて、既にこの森に向けて出発したらしい。シャドウキャットがわざわざ統一帝国の帝都に侵入して手に入れた情報だから、間違いないけどな。
数は大体300人程度、人間共には、そんな数の人員を投入できる程度には、余裕があるらしい。しかも市民に対するアピールのつもりなのか、統一帝国の3人の王子の1人も、今回の遠征に参加しているらしい。その王子が、謎の集団と、正体不明の生物達に殺されたら、統一帝国も、流石にこの森を危険視するだろうか。
それよりも、今の俺にはやらなければならない事がある。それは、アテルナから授かった加護の確認、アテルナは世界の一部を管理できたり、世界からエネルギーを持ち出せるらしい。俺が今確認してるのは、その持ち出せるエネルギーとやら、それが魔力として代用できるのか、それともそれ以上の性能があるのかどうかの確認。
そしてその結果、世界のエネルギーは、魔力以上の効率を発揮した。世界のエネルギーで発動した魔法は、当然魔力を使ってる訳じゃないから、俺自身は全く魔力を使わない。それでいて、通常の魔法の倍近い効果があった。
正直いってどんなぶっ壊れ性能だと思わなくもない、しかしそんなに上手い話だけが存在するはずもなく、回数制限だってあるし、発動する度に、世界の意思からの妨害を受けるせいで、少しだが、ダメージを食らう。
デメリットやら、制限のせいで、使いどころは多少選ばないとならないが、それでもかなり有用なものを手に入れたのは間違いない。一度、全力で放ってみたくなるが、その時は間違いなく、何かを滅ぼす時になるだろうな。
「クハハハッ、王よ、随分と締まりのない顔をしているな? 何かあったのか?」
「何もねぇからそんな顔なんだろうが、というか、骸骨の表情なんて分かるもんなのか?」
「どちらかと言えば雰囲気の話だ。この間まで、人間許すまじと声高々に叫びそうな勢いだったというのに……まさかと思うが、腑抜けたか?」
「な訳ねぇだろうが白虎。俺はやる気十分だよ。ただしばらく暇すぎて気が抜けちまってるだけだ」
声をかけてきた白虎は、石でできた床を踏みしめながら近づいてくる。
「まぁその気持ちは分かるがな。しかし切り替えは大事だぞ? 人間共が来るまでは残り1ヶ月、長いようで短い時間だ。まぁ我らのように長命なる者にとっては刹那の一時のようなもの、せめて楽しみたいものだ」
「そりゃあ人間の実力次第だな。だがまぁ、人間共は俺達みたいな存在がいるとは思ってもない。対策できずに死んでいくのが落ちだと思うがな」
「ふむぅ……何ともつまらん話だな、少しは骨がある奴がいる事を願うとしようか!」
「俺としては楽なら楽でいいけどな」
そもそも、俺の第一目標は、この世界で、せっかく貰った第2の人生を思いっきり楽しむ事。それなのに、人間がこの森に攻め込んでくるもんだから、俺が対応せねばならなくなるんだ。
大人しく自分の国の運営だけしてればいいものを……そもそも、シャドウキャットの情報がただしけりゃ、今の統一帝国の規模ですら、巨大すぎて掌握しきれてないらしい。そんな状態で、国の外に手を出そうとするとか……というか、統一帝国なんて作る前に、文化とか、歴史とか、土地の環境とか、その他諸々含めて管理しきれないとか分からないもんかね?
「我は、戦いを楽しみたいが……王の立場では仕方ないか、やはり我は将として戦場に出る方があっているな! クハハハッ!」
「まぁお前はそういう用途で使うために作ったからな、そうであってくれなきゃ困るってもんだろ」
この間、白虎とフロストワイバーン、そして魔人とスライム達、ついでに今まで活躍の機会が1度もなかったラヴァワイバーンの戦闘能力をチェックするために、新しく増えた魔物達で、バトルロイヤル形式の模擬戦をやってみた。
勝ったのは僅差でラヴァワイバーンで、2位は白虎だった。3位がフロストワイバーンで、次が魔神族、最下位がスライム達だった。
しかし全員が、かなり接戦だった事は以外と言わざるを得ない。少なくともスライム達はすぐに敗退するかと思ったが、ピンチになるや否や、集合して、ビッグスライムに変化、魔神族6人を気絶させた後、フロストワイバーンにも手傷を負わせた。その後はフロストワイバーンの反撃であえなく敗退したが、たかがスライムだろうとたかをくくってた他の幹部達も驚いていた。
しかし手傷を負ったフロストワイバーンは、その後も快進撃を続け、残りの魔神族を蹴散らした後、ラヴァワイバーンと戦闘をするが、白虎の乱入に対応しきれず、敗退。そのまま白虎とラヴァワイバーンの戦闘になったが、対空攻撃手段の少ない白虎が、かなり粘ったが、空中からの爆撃で敗退。勝者はラヴァワイバーンとなった。
今度、ラヴァワイバーンが都市攻めでどれぐらいの成果を挙げられるのかを検証してみるのもいいかもしれんな。
「我としては、この間の同士達との戦いも楽しかったが、やはり本気の殺し合いをしてみたいものよ」
「お前レベルの実力者が、人間相手に殺し合いになるとは思えねぇな。虐殺がいいとこだろう」
「シア殿や、シャドウキャット殿の報告には、個人的な強者もいるそうではないか、今度の戦では、そういった輩に我を当ててくれ」
「前向きに検討しておく」
白虎は、魔物達の中でも、かなり際立った戦闘狂だといえる。あの模擬戦以降、幹部や、ドラゴン達に積極的に戦いを挑んでいるらしい。幹部達には今のところ全敗らしいが、ドラゴン達との戦いなら、勝率は7割を超えるレベルらしい。
まぁグレヴィルクラスの耐久力と攻撃力があると、手も足も出ない。雷が竜鱗通らないし、攻撃に耐えるほどの耐久力があるわけじゃないからな。どんな戦いだって、相性はあるからな。
「ジン様! ここにいたんですね!」
「あぁシャーリーか、何かあったか?」
駆け寄りながらシャーリーが話しかけてくる。シャーリーはあれから俺の秘書的な仕事をしている。魔物や、魔族達の意見をまとめて俺に持ってきてくれたり、ダンジョン内で起こった出来事を俺に報告してくれたりと、非常に役立ってくれてる。
流石にシャーリーが俺にどんな感情を抱いてるのかは気づいてる。見た目が骨の俺にどうやったら恋愛感情が芽生えるんだ、とか聞きたい事はあるが、まぁそれで俺に従ってくれるのはありがたい。
まぁ俺に従ってるのはそれだけが理由じゃないだろうけどな、恐らくだけど、奴隷としての生活を既に経験してるから、もう二度とあんな生活をしたくないからっていうのもあるんだろう。それは否定しないし、好きにすればいいと思う。人間への憎悪すら抱いてるみたいだから、俺達を裏切る事もないだろうからな。そこら辺も安心できるのがいい。
「実は、先程22階層の胎動する火山にて、アカリさんと白虎さんが模擬戦をしていたようで、階層に少し被害が……あ」
「………………白虎?」
「クハハハッ!」
「笑いながら逃げてんじゃねぇぞ戦闘狂がッ! シャーリー、確保!」
「はい!」
シャーリーが身体強化の魔法をかけて、常人の目に追えない高速の鬼ごっこが始まる。
「そう簡単に捕まるものかよ! なんならシャーリー嬢が遊んでくれるか?」
「ジン様の命令は絶対ですので、確保が優先です!」
「命令に従うのみではつまらんぞ? 自分で最前の手段を見つけ出して主の命令よりも先に準備を済ましておく、それこそが良き従者というものよ」
「えぇ、知ってますよ」
突然天井から、複数の人間の腕が繋がったかのような奇妙で、見る者を恐怖させるかのような巨大で歪な腕が現れた。
「うおっ!?」
「そこに逃げるのは分かってました。これで詰みです」
シャーリーを回避しようとして、空中にいた避けられなかった白虎を、巨大な腕が鷲掴みにする。
シャーリーが、俺の死霊魔法を見て独学で身につけた死霊魔法によって作られた、『死辱の汚泥腕』という魔法。その正体は、死霊魔法を身につけるための自己訓練で、死んでいった人間達の魂の集合体。こんな魔法ができた経緯を聞いたら、シャーリーが殺した人間達の魂が怨霊化して、シャーリーの夢の中に出てきたらしい。そいつらに色々と罵詈雑言を叩きつけられたが、「この世界を破滅に追い込んでる奴らに何言われても自業自得ですし、どうでもいいです。私にはジン様がいるので」とは本人の談。
その夢に出てきた悪霊達を、シアとフロンを筆頭にした、魔法が得意な幹部達仕込みの魔法で叩きのめして、俺が昔教えた闇魔法の『スレイブ』で悪霊達を支配し、さらには改造して、便利に使役しているそうだ。ちなみにこの魔法が完成したのは、3週間前だそうだ。この間の緊急会議が終わった夜に夢に出てきた全悪霊の支配が終わったらしいがその数は覚えてないとのこと、初めて見た時は、自己流だからなのか、所々間違えていた魔法陣のせいで暴走し、それなりの被害を出したし、シャーリーも少し怪我をした。でもシャーリーは、自分の怪我よりも、自分の死霊魔法が暴走して周囲に被害を出した事を泣いて謝った。実験をしたのはダンジョンの中で、多少の魔力さえあればいくらでも復旧ができるからその事に関しては特に気にしてはいない。そこで俺が気になったのは魔法の効果と、その魔法ができた経緯。そしてそれを聞いた後は、魔法を制御している魔法陣の手直しするべき場所に手を出したり、さらに魔法を改善できるようにアドバイスをした結果、3日でさらに強化された魔法が完成していた。
とんでもない魔法の才能だなと思うと同時に、目元にくっきり浮かんでいた隅を見て、徹夜していたことが分かり、魔法についてひとしきり褒めたりさらにアドバイスした後、その事について問い詰めた。そしたら、いい笑顔で楽しかったですときたもんだから魔法で強制的に眠らせて休ませた。まぁそれから調整を繰り返し行い、できたのがあの腕。捕まったら脱出なんて不可能だろうよ。
「よくやったシャーリー、後でなんかご褒美でもくれてやるよ」
「ありがとうございます! じゃあ今度グレット味の飴をください! あれとても美味しかったです!」
「分かったよ。グレット味の飴だな?」
グレットとは、地球でいう葡萄である。この世界にもあるらしいが、この世界のグレットは全体的に甘みが足りない。環境的なものが原因かね? まぁ俺としては食事はできないし、味も全く分からんが、シャーリーがこんなに喜んでくれるならまぁいいかと思う。ちなみに飴は、この間ガチャを引いたら8種類の飴詰め合わせセットとかいうのが当たったので、幹部達に渡したら思いのほか好評だったので今ではご褒美の代表格としてうちのダンジョンに根付いてる。まぁダンジョンでの食事といえば、ガチャで引いた食べ物を調理したり、人間の街から盗んできた物を配布してるだけだからな。1部の階層で、農耕とか畜産とかもやってるが全然数が足りない。そこら辺の問題を解決するための案は既にいくつか考えてある。
そこに甘味を渡したら飛びつくのも分かるからそこら辺は特に何も言わないけどさ。それどころか、こんな飴でやる気出してくれるなら安いもんだよ。
「おぉ! あの飴とやらは美味かったな! 王よ! 我にもくれ!」
「お前にはしばらく飴なしだよ馬鹿! 反省してろ!」
「何故だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
「ほら行きますよ白虎さん」
声がフェードアウトしていく。しばらくアイツは反省しててもらおうか。
「ご報告します王よ」
「……来たか?」
「はい、到着したそうです。今は森の入口で待機させています」
「なら99階層に連れてこい。そこで面会してやろうじゃねぇか。ついでに迎えに行く前にグレヴィルに机と椅子を用意するように言っとけ」
「はっ!」
シャドウキャットが影に溶けるかのように消える。
しかしついに来たか、報告に名前が上がったり色々と話は聞いてたが、直接会うのは初めてだな。というか人間とまともに話し合うのはこれが初めてじゃないか? 実験体共はノーカン。
「色々と聞かせてもらおうじゃねぇか、ジランド商会のエルドとやら」
◇◇◇◇◇◇
「お初目にかかります、私の名はエルド・アークライドといいます。以後お見知りおきを」
胡散臭い笑顔を浮かべたその男は、シャーリーに酷い事をしたというジランド商会から来たというエルドという男だった。何でも、シアの支配の魔眼を弱めにかけているらしく、俺達に逆らおうとは思わないように思考を縛っているらしい。
しかもそれを自分から受け入れてここに来ている。とんでもない度胸だと思うし、そこまでして何でここまで来たのかとか、色々と気になるところはある。
そして、この人間にしっかりと対応するために、今この99階層には、ドラゴン達が勢揃いしている上に、今動ける幹部達や、それに準ずる者達が揃い踏みという、過剰戦力の空間となっている。
俺としては、高々人間1人にそこまで警戒する程か? なんて思ってしまうが、他の幹部達は違うらしい。どうやらシアの報告にあった、気配が何故か掴めないことや、シアの眷属が人間ではない事を見破った事を警戒しているらしい。
「さて、早速ですが本日伺った理由を申しますと、私を貴女方の部下として馳せ参じたく思ったからにございます」
「部下ねぇ……既に俺には優秀な配下がいる。今さら人間1人加わったところでなぁ?」
でもコイツが信用できないって事だけは同意する。人間にとって、全くの未知である俺達に対して、恐れるどころか、余裕を崩さずに笑ってやがる。
「えぇその通りなのでしょう。しかし私にしかできない事だってございます」
「言ってみな」
「まず、私には性格な統一帝国の情報がございます」
「別にそれぐらいは俺達だって調べりゃ手に入る。だったら信用できるかも分かんねぇお前の情報を当てにするよりも、自分でしっかりと調べた方がいいとは思わねぇか?」
これは嘘だ、別に『スレイブ』で洗脳しちまえば、俺達に嘘をつく事がない、正しい情報を吐き続ける人形が完成する。俺としては別に今すぐその手段をとってもいいが、それを避けさせるだけの何かをコイツが提供できるなら、話は別だ。
「私は、帝都にあるとある国宝の存在を知っています」
「ほう? 国宝ねぇ……」
「それは、世界からエネルギーを吸い上げ、魔力へと変換する事で誰にでも使えるエネルギーを搾取する魔道具でございます」
「…………てめぇ、何を知ってる」
グレヴィルが牙を剥き、シアとフロンが紅い瞳を爛々と輝かせ、ギラが爪を構え、白虎が青白い雷をほとばしらせ、魔人族の長が魔法を準備する。ドラゴン達が飛び立ち、周囲を逃げられないように囲む。
コイツは今それぐらい重要な言葉を発した。俺達魔物や魔族しか知らないはずのこの世界の命運を分ける重要な情報、それを一介の商人であるコイツが知ってるのは明らかにおかしい。
「貴女方の目的がこの世界のエネルギーを取り戻す事は既に存じておりますとも」
「死ぬか?」
「私ならばその魔道具の正確な情報をご提供する事ができます」
既に俺達から余裕はなくなっていた。この場にいる全員の殺気を叩きつけられて、流石に余裕を保っていられなくなったか、額には汗が浮かび、笑顔も引きつっている。
「……いいだろう、話してみろよ。ただ、口には気をつけろ」
「はっ、ではまずはその魔道具の名称から、あの魔道具は、──────龍脈吸引装置と名づけられております」
「龍脈吸引装置ねぇ」
「はい、魔力を超圧縮したものであるこの世のあらゆるものよりも膨大なエネルギーである龍力、そのたまり場こそが龍脈、それを1度吸引し、魔力化する事ができるのではないか? と30年程前突然現れ、現在の統一帝国の皇帝に提案した科学者がおりました。その男こそ、龍脈吸引装置の製作者であり、この世界を破滅にまで追い込んだ男、名をユーゴ・アリアケといいます」
龍力とかいう新しい単語が聞こえたが、今はそれについてはどうでもいい。
「……そういう事か」
特徴的な名前、そして30年前に突然現れたという突発的な出現。そこまでヒントが出れば俺でも分かる。
「そいつは、日本とか言ってたか?」
「……そういえばそんな事も言ってましたな」
これで確定、よく考えれば、ありえない話ではない。何せ俺という前提がある。日本から来た転生者もしくは転移者がいてもおかしくない。
「……アテルナ!!」
「……話は聞かせてもらったよ」
すぐそばから光と共に声が聞こえる。
「どういう事だこれは? この世界に、俺以外の日本人がいるなんて聞いてねぇぞ!」
「……無能を晒すようで恥ずかしいが、私にも全く心当たりがないんだよ」
「……本当に覚えがないんだな?」
「約束しよう、神の名に誓って嘘はないとも」
「だが現実に日本人だろう奴がいるぞ?」
「ちょっとそこについては調べてみるよ。そんなに長くはかからないと思う」
「3日以内だ」
「へ?」
「対策含めて、時間が必要になる、3日で調べてこい」
「……まぁこれは私のミスだしね。了解」
「お前らも今まで以上に警戒しろ、シア達の情報に上がりもしねぇ奴だ。警戒のしすぎという事は絶対にない」
「「「「「はっ!」」」」」
そして、今目の前にある問題。
「エルド・アークライド」
「はい」
「お前はしばらく換金させてもらうぞ。詳しく情報を聞きだす必要がある。安心しろ、嘘でもつかなきゃお前に害はねぇ」
「了解しました。このエルド・アークライド、砕骨粉身働かせていただきます」
あまりコイツを信用したくないが、この際仕方がない。事情が変わって、少しでも情報が必要になった。その情報が正しいかどうかはこっちで判断するしかない。
「俺は戦力の強化に入る」
「でもお父様、魔力使っちゃうと本番で足りなくなる」
「分かってるよフロン、魔力は一切使わん」
「どうやって?」
「ガチャを引く」
今できる戦力強化はそれぐらいしかないからな。
◇◇◇◇◇
『お詫び!』
『今回の一件を考慮した結果、☆☆☆☆☆の出現率を期間限定で1度だけ30%UP!!!』
「ナイス!」
Mこれでまだ何とかなるだろう。恐らくだが、ユーゴとやらは、間違いなくチート持ち。シアとフロンとシャドウキャットの情報網に引っかからないような奴がチートのない一般人な訳ないし、そもそも日本人が龍力なんて存在を知ってる訳ねぇだろふざけんな。
という訳でガチャを引く。
☆☆☆☆☆ 暴風のローブ ☆ 白紙の本 ☆☆☆ 灼熱のペンダント ☆☆ 青銅の剣 ☆☆☆☆☆ 星鉄の魔杖 ☆☆☆☆☆ 赤呪いの数珠 ☆☆ 綺麗なたわし ☆☆☆ 鳯薬 ☆☆☆☆☆ 千里眼眼鏡 ☆ 水
何だこの当たり……☆☆☆☆☆が4個も出てんだが、やっぱり排出率UPは悪い文明だと思うんだ。ここまでクソ当たると運営が頭抱えるレベルじゃん。
じゃあ☆☆☆☆☆アイテムの内容を確認していこうか。
【暴風のローブ】
・あらゆる風魔法を無効化する。
翡翠色の所々穴が空いているボロボロのローブ。
【星鉄の魔杖】
・所有者が発動する魔法を増幅する。
昔地上に落下する予定であった隕石を魔法神が回収して杖にした物。
【赤呪の数珠】
・所有者の寿命を消費する事で赤呪の呪いを発祥させる。
材料不明の赤黒い数珠。
【千里眼眼鏡】
・かけると障害物や距離を無視して光景を視認できる。
地球で生産された眼鏡が特異性を持ってしまった物。
これまた色々とツッコミどころ満載なアイテムが来たな。
まずは暴風のローブから行こうか。俺は風魔法は使わないから、エルフに渡しておこうか。
次に、星鉄の魔杖、これはミヤビかシャーリーに渡しておこう。ちなみにミヤビは、弧人族のまとめ役をしている奴で、魔法が得意な弧人族の中でもさらに魔法がずば抜けている。
次は赤呪の数珠ね、これに関しては俺が持っておこう。流石にデメリットを考慮したら他の奴に持たせる訳にもいかないしな。そして赤呪の呪いってやつは、ヘルプさんですら表示してくれなかった。なんだかんだヘルプさんが表示してくれなかったのは、これが初めてだな。
最後に千里眼眼鏡、これは……正直誰でもいいけどな。でも1つだけ言えるのは、前に当てた遠見の水晶が倉庫の肥やしになった。まだ使った事もなかったのにな。とりあえずこれも倉庫に入れとこう。
「とりあえずこんなものか……後はダンジョンのトラップの見直しと、知能が低い魔物達の誘導……は流石に担当の階層に任せるか」
「何と申しましょうか……これは凄まじいですな」
「それに関しては同意するよ。人間をここに閉じ込めてれば勝手にポイントが溜まって、便利なアイテムを大量にゲットできる。これ程効率のいいシステムは他にはないだろうよ」
「そのぽいんとと、しすてむが何かは分かりませんが、非常に便利であるのだろう事は分かりました」
呑気なもんだな。周りに気を配る暇があればこれからの自分の事について心配するべきだろうに、まぁ錯乱してるようなら『スレイブ』を使ってたから、あまり変わらんか。
「じゃあまずは最初の質問だ。統一帝国の国宝の情報はどうやって手に入れた?」
「それについて知っているのは、私が、4年前までとある国の宰相をしていたからです。察せられるかとは思いますが、その国こそが統一帝国の前身、名をメラーテ王国という国でした。メラーテ王国は、気候も穏やかで、周辺の国家との仲も悪いわけではなく、比較的恵まれた国でした」
思い出に浸るその様子は、哀愁を誘うが、感情の薄い俺は全く気にしていなかった。それどころか、早く続きを話せとすら思ってた。
「しかし30年前、国王はある男の噂を耳にしました。それは霧のように現れて、人々に助言し、風のように立ち去る謎の男がいる、というものでした。国王はその男に興味を持ち、その男を連れてくるように命令しました。……今思えば、それこそが全ての始まりだったのです」
「国王の命令によって、謎の男を探し始めた民達ですが、その努力は無駄に終わります。なんと、男の方が城に現れたのです。あれは今でも忘れられません。突然空中から現れた男は、王に向かって傲慢に言い放ったのです」
エルドはそこで1度言葉を切ると、何かを堪えるかのように震えてから、また続けた。
「『俺を探すだなんていい感をしてる。安心しろ、俺がお前に代わってこの国を支配してやる』と、あの男はそう言い放ちました。当然王は激怒し、騎士達に男を捕らえるように命令しました。しかし男は退屈そうに息を吐くと、黒いモヤを放ちました。それに触れた騎士達はたちまち倒れ、そしてすぐさま起き上がると、男に命令されて、国王を押さえつけたのです。それから、男はゆっくりと近づくと王にも黒いモヤを放ちました。王は騎士達と同じように男に従いました」
エルドの両の瞳からは、既に涙が零れていた。
「あの男はそれから私達に、『俺に従った方が楽しいぞ?』なんておどけた調子で笑ったのです。幾人かの貴族はそれに逆らいましたがたちまち支配され、そうでなかった者たちは恭順を誓いました。しかし私と幾人かは、あの邪悪な男を討ち滅ぼすために、この仕打ちに耐え、あの男に従う事にしたのです。その男が語ったのは到底実現不可能であろうミンシュシュギだかの理想でした。男はそれを実現するためにとある魔道具を作り出しました。それこそがあの悪魔の魔道具、龍脈吸引装置なのです」
ミンシュシュギ、民主主義ねぇ、あれを実現するためには、国民が一定以上の教育を受けている事が前提にある。しかし調査報告に、そんな機関は確認できなかった。龍脈吸引装置は……国民の支持を得るために新エネルギーを作り出したってところか?
なんにせよ、現状の統一帝国じゃ民主主義なんて実現のしようがない。
今のところユーゴの評価は、変な理想にとりつかれて国どころか世界そのものを巻き込んで、破滅を撒き散らしてるだけにしか思えんな。
しかしそうなると疑問が残る。
「シアの報告には、お前の商館の地下には、なんらかの魔法的な処置が施された死体が山のように転がってたらしいがそれは?」
「……あの男は、魔法だとしても異常すぎる力を持ち、我々には理解できない思想をさも尊いかのように叫んでいます。故に我々は、あれこそが伝承に名高い悪魔だと断定しました。そこで我々は奴を殺すために、我々も人間である事を捨てようと決心したのです。そのためにはこの命、惜しくはない。そのためにはまず人間を理解せねばなりません。そこで知り合った貴族達に、人間の死体を送るように頼んだのです。我らはそれを切り開き……冒涜の限りを尽くしました」
……
「我々はこれが悪行だと分かっています。そして貴女方が決して善のみではない事も分かっています。それでも我々は、貴女方に頼る他ないのです」
「……なるほどね、まぁこの際だ、既に分かってるとは思うが、はっきり言っておくぞ。俺達は世界のために人類を殺す者達だ。話を聞く限りお前は、国のために殺人もできる人間なんだろう。だがな、俺達はその国を粉々に破壊しようとしてる。それに関してはどう思う?」
「統一帝国は、既に私が愛した国ではありません。王が死ぬのは悲しい事ですが、王をあの様なおぞましい支配から解放するためには、我らには、あの男を殺すぐらいの手段しかとれません。それが我らの、国に対する忠誠なのです。それに、あの男を殺す事は、貴女方の目的とも繋がっているはずです」
「それだ」
「はい?」
話の腰を折る様で悪いが、コイツには聞いておかなきゃならない事がある。今までの話からじゃ、どうあっても俺達の目的を知る事には繋がらない。
そもそも俺達の目的は、世界のエネルギーを取り戻す事、高々一国の宰相だったに過ぎない男が、神の勅命であるその目的を知ってるのは、どう考えてもおかしいのだ。
「お前はどうやって俺達の目的を知った? それは神と俺達以外は、絶対に知りえない情報だぞ」
「あぁ、その事でしたら簡単です。ユーゴ自身が言っていたのですよ。いずれ神に命じられて自分を殺しに来るバケモノが現れる。それに備えなければならないと。当時はそんな存在がいるのかと疑問に思いましたが……」
おいおい、ユーゴは未来予知の能力でも持ってるのか? だとすれば相当厄介だな。対策をしっかりと考えなくちゃならないか。
そのためにはまずはユーゴを炙りださなきゃな。新しい捜査網も作らなきゃならないかもしれん。
俺達としては、平穏な生活ができれば、人間なんかにそんなにはっきりした用事はないんだが、まぁアテルナからの仕事もやらなくちゃならないから、どうあっても統一帝国は滅ぼしてたな。
ひとまず、やるべき事は大体決まった。後はそれを慎重に実行するだけだな。
「エルド、お前はお仲間とやらをここに連れてこい。期限は1週間、その期間以内に連れてこられない奴は俺に報告しろ。だがその場合、戦争に巻き込まない自信はないぞ」
「はっ! すぐに連れてまいります」
こうなったら人間をダンジョンで、ある程度自由にするリスクを取ってでも、使えそうな駒を集めよう。不確定要素はなるべく完全に排除したい。
エルドが俺の命令を受けて、部屋から出ていくのを見届けてからそばにいた、昔作ってほっぽっていた吸血鬼に命令を出す。
灰色の髪を短く肩の辺りで切り揃えた60代の男が、膝を着き俺の命令を待つ。
「お前はエルドを見張れ、逐一情報を報告しろ」
「はっ!」
やっぱり確実に信頼できる部下っていいなぁ。こっちの言う事はしっかり聞いてくれるし、命令には逆らわない。俺を盲信してる奴が多いのが玉に瑕だが、そこら辺はシアとフロンとグレヴィル辺りが、が俺に意見をくれる。
「この仕事が終わったら、名前をやる。励めよ」
「ははぁ!」
エルドさんとかみんな忘れてただろうなぁ。他にもみんなが忘れてそうなキャラが多々いるし、使ってこうか。
そろそろ前に宣言したヤンデレキャラが書きたいぞ〜