死霊魔法
『』はエンが念話を使って喋っているところです。
後書きにお知らせがあります。
『どう?』
「使いやすい。というかすっごい俺にしっくりくる」
エンは、改造前ががなんだったのかと聞きたくなるほどには俺にしっくりきた。特に調整もしてないのにどうしてかと聞いてみたところ、どうやら俺が振りやすいように重量を調節してくれたらしい。
おかげで改造してから数分ででほぼ完璧に刀を振れるようになった。
「まぁこれでできる事の幅が広がったな」
『ならよかった』
エンを作ってからはや30分、ある程度使いこなせたと言ってもいいだろう。重さで切断し、軽さで払う。とんでもなく使いやすい。
「試し斬りとかしたいなぁ……99階層の監獄行こうかな」
『……むぅ』
「ん? どうした? エン」
『……初めては強敵がよかったのに……』
……別にエロいセリフですらないのに、なぜかエロく聞こえてしまう俺は末期かもしれない。というか、扱いはほぼ完璧になったとはいえ、いきなり強敵との戦闘に使うのは怖すぎる。使うとしたらもうちょい慣れてからだな。
しかしそうなると試し斬りはしない方がいいかもしれない。エンの機嫌を損ねかねない。なんというか、手のかかる娘みたいな感じがする。
エンを握っていると、割と感情が伝播してくる。今回は試し斬りに使われそうになって拗ねてるのと、俺が大事に思ってるのが分かったのか、かなり照れている。可愛い。
「じゃあどうしようかな……新しい魔法とか作ってみたいなぁ」
『手伝う?』
「……そういえば死霊魔法持ってたっけ、じゃあ手伝って貰おうかな」
『うんっ!』
でもこの階層だと魂がないから死霊魔法が発動できない。という訳でいくら殺しても問題ない99階層の監獄に行こう。
「という訳で実験に来たぞ」
「……はぁ、まぁいいだろう。いつも通り監獄の前にドラゴンが待機してるからな。アイツ、お前に魔法教わるの楽しみにしてたぞ」
あぁそんな約束してたなぁ……別に忘れた訳じゃないぞ? ただ、最近忙しくて頭の片隅に追いやってただけだから。主にエンを改造したり、ガチャ引いたり……そんなに忙しくもなくね?
よし、ついでに教えておこう。使えるようになるかは正直分かんない。死霊魔法は感覚だよりなところがかなりあるし、魔力の使い方もかなり特殊になる。
「……じゃあ行ってくる」
「おう、さっさと行ってきな」
まぁドラゴンは、なんだかんだ言っても忘れっぽいし、約束だって忘れてるかもしれない……まぁグレヴィルは、あのドラゴンが魔法教わるの楽しみにしてたって言ってたけどな。
グレヴィルの勘違いだったって事はーーーないんだろうなぁ。
「まぁ実験のついでに、ちょこっと教えるぐらいで済ませておこうか」
『それでいいと思う』
ドラゴンは、圧倒的強者であると共に、好奇心の塊のような存在でもある。しかし非常に飽きっぽくて、大抵は途中でほっぽり出すのだが、あの新緑のドラゴンは律儀に待ち続けているらしい。
それだけ興味があったということなんだろうな。俺としても仲間ができたみたいで嬉しいが、死霊魔法を確実に習得できる保証すらないのに、待たせ続けるのも悪いと思う。
やっぱり基本だけ教えておこう。そうすれば後は自分でやるんじゃないだろうか? ドラゴンはさっきも言った通り、非常に好奇心が強い生き物だ。だから死霊魔法の基本を理解すれば、魔法を使いこなせるように頑張るんじゃないだろうか。
まぁ新緑のドラゴンが飽きなければの話だけどな。
でも何となく分かるのだ。あのドラゴンは多分飽きる事はないだろう。飽きる事なく、俺の事を待ち続けているのだろう。かなり変わってるよなぁ。
そして99階層を歩いてから数分、目的地である石の監獄へとたどり着いた。しかし監獄はその姿を大きく変えていた。
前までは、一つの鉄格子を除いて全てが石の壁で構築されていたが、今では全ての面が石の壁に覆われ、傍目からは四角い石の箱にも見える。
そんな石壁に、重厚そうな鉄の扉がついている。そしてそのそばにはいつも通り新緑のドラゴンが佇んでいる。
「こんにちは」
「よぉ、実験に来たぞ。それよりもこの監獄前と違うよな? 何があった?」
「空調はしっかりしてるから死ぬ事はない」
「そうか、それはなにより……いや、そうじゃねぇよ。危うく普通に誤魔化されそうになったわ。この監獄、いつの間に改造したんだ?」
「前に神様が来たすぐ後。ニッケルが色々と作り直してくれた」
「ニッケルが?」
まぁありえない話ではないな。ニッケルは、グレヴィルと仲がいいらしい。たまに一緒に酒を飲むそうだ。酒は今やこのダンジョンで欠かせない娯楽となっている。
いずれ酒造りに目覚めるドラゴンでも現れるかもな。すぐ飽きるだろうけど。
「ニッケルが『なんて簡単で適当な作りじゃ! 今すぐ作り直してやる!』って言ってそのまま作り直してた」
あの雑な作り方がニッケルの職人気質に触れちゃったか。まぁニッケルの事だ、きっと前よりも便利になってるだろうよ。
「私も見学していっていい?」
「構わないぞ」
『………………』
エンから何か言いたげな雰囲気が漂っているが、反応するとめんどくさそうだな。気づかなかった事にしておこう。
扉を開けて中に入る。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「出せぇ! 俺をここから出せぇ!」
「嫌ダァァァァァ!」
けたましい絶叫が反響する。
というか監獄が個室になってるじゃん。でも豪華って訳でもないな。数歩分ぐらいしか動くスペースしかない、
檻で囲まれた小さな四角い独房、それが今ダンジョンに囚われている彼らが住んでいる場所だ。残念ながら住んでいるとすら言えないような環境だけどな。
「うるせぇなぁ」
「じゃあ黙らせる」
近くにいた人間の頭が柘榴のように弾ける。それを合図に一斉に人間達が黙りこくる。まぁ流石にすぐそばで人間の頭が弾け飛ぶのを見たらなぁ。
ちなみに人間の頭が弾けたのは、新緑のドラゴンが膨大な魔力を直接人間にぶつけたからだ。そして周囲が黙ったのはエンが、無言で発した壮絶な殺意混じりの威圧の効果が如実に出た結果、誰一人として声を出さなくなった。
異様とも思える殺意が、彼らに襲いかかり、一時的に正気を強制的に取り戻させたのだ。それ程とんでもない殺意だったのは明らかだ。
「これでどう?」
「十分だ。ありがとな」
「気にしなくていい、だから後で死霊魔法を教えて」
流石にすっぽかし過ぎたか? でもこれは予想できてたし、何も問題ない。
「いいぞ。じゃあちょうどいいし、後数人殺しておくか」
「分かった」
続けてそばにいた3人の人間の首が弾け、壁や床に、新たに真っ赤な染みを作り上げた。しかし彼らは狂騒に逃げる事もできない。ここで騒げば殺される事を、本能で理解し、なけなしの本能が肉体を停止させたのだ。
しかしそれはあまり意味がなかった。
「あ〜悪いんだけどその程度の数だと少し実演したら終わっちまうぞ?」
確かに俺は基本だけ教えておこうとは思っていたが、高々4人程度ではすぐに尽きてしまう。それだと何も教えられないので、せめて後10人は殺してもらいたい。
「じゃあもう少しコイツらを減らす。待ってて」
「おう、別にゆっくりでもいいぞ」
まぁ人間を殺すのにそんなに時間はいらないからな。新緑のドラゴンの膨大な魔力が振るわれれば、人間程度なんて水溜まりで溺れるアリのように、捻り潰す事は簡単にできてしまうのだ。
人間では絶対にありえないドラゴンの魔力による超ゴリ押し、人間を殺すのに欠片も身体を動かさなくていいというのは非常に楽だった。
最終的に殺された人間の数は、30人。その光景を見ていた人間達は、あまりの恐怖に言葉を失い、荒く息を吐き身体を震わせている。しかしエンは動かない。恐らくは、さっき自分で宣言した通り最初に斬るのは強敵がいいらしい。
「よし、これだけ死ねばいいだろう」
周囲をたった今殺された魂がさまよっている。青白い魂が周囲をふわふわと乱舞する光景は、非常に美しいものだった。
しかし残念な事に、この光景は死霊魔法を使える俺達にしか見えない。だからこの場において魂を観測できているのは、俺とエンのみだ。新緑のドラゴンにも見せてやりたかったが、まぁそれはこれから見えるようになるかもしれないしな。
じゃあまずは、死霊魔法の基本である魂の観測から始めようか。とはいえ、そう簡単には魂を観測できるものではない。しかしそれができなければ、死霊魔法は全く扱えない。
そもそも死霊魔法とは、魔力と死者の魂を使い、発動する魔法の一つ。その効果は様々で、例えば死者の魂と生者の魂を入れ替える事で擬似的に相手を即死させる魔法『ソウルチェンジ』。死者の魂を死体に入れて操る事でアンデッドを作成する『ゾンビメーカー』など、様々な魔法が存在している。
死霊魔法は自分で使っていても思うが、かなり外法の領域にある魔法だと断言できる。生き物は死ねば皆、あの世に行き神の審判を受ける。この世界では誰もが知る話だ。
前世にも似たような話はあったが、この世界では本当に神がいる。だから前世よりは圧倒的に信じられているらしい。まぁシャーリーから聞いた話だけどな。
そういえばシャーリーのステータスとかも確認した事ないな。今度見せてもらおう。
それはさておき、死霊魔法とは、本来であればあの世にたどり着くはずの魂を強制的に支配し、操るそれを外法と呼ばずになんと呼べばいいのか。
ちょっと前の俺であれば、行使に少し躊躇いを覚えたかもしれない。まぁそれでも使う事は間違いないだろうけどな。今ではこの残虐な魔法の行使に躊躇いすらない。
「じゃあまずは魂を感じ取るとこから、こんだけ充満してるんだから少しは感じ取ってくれよ」
「やってみる」
そう言って新緑のドラゴンは目を閉じ、周囲に感覚の網を張る。ドラゴンは風を身体で感じ、周囲の情報を一瞬で掴む程には優れた感覚能力を保有している。
しかし今回必要になる感覚は、前世でいうところの霊感。前世でも見える人は稀にいたが、そういう人は大抵がヤラセか嘘つきだと思っていたが、それ以上に信じられない異世界転生なんていう事態に直面しているし、前世の世界でも幽霊が見える人はいたのかもしれないな。
まぁ要するに、今の説明でどれだけ死霊の修得が異常に難しい事が分かると思う。しかし、それを使えるようにする方法は確かにある。今まで感じた事がないものを、感じさせるようにするには、荒療治を行うしかない。俺とエンが最初から死霊魔法を使用可能なのは、俺は種族がリッチだから種族スキルで使える。
エンは、俺の影響を純粋に受けているため、死霊魔法を使う事ができる。
しかし新緑のドラゴンはーー生まれながらに死霊魔法が仕える訳では無い。ドラゴンは総じてステータスも高く、かなり強力なスキルを持っているが、そのスキルが全て同じ訳では無い。魔法が得意なドラゴンもいれば、猛毒を操るスキルだってある。
ドラゴンにとってスキルとは己の力を示す証明。己が何を得意とし、何を最上とするかの証。
新しくスキルを得るのは非常に難しい。そもそもドラゴンとは、生まれた時点で最強であれ、と俺が作り出した初めから完成している魔物の一種。だからこの新緑のドラゴンが死霊魔法を修得しようとしているのは俺としても非常に都合がいい。
ドラゴンがどれぐらいのペースや確率でスキルを獲得する事ができるのか、その実験も兼ねてる。
「……難しい」
「まぁそう簡単にはできなよなぁ」
予想通りそう簡単には新スキルの修得はできないか。でもそこまでは想定内。問題はここから。
「じゃあ悪いけど荒治療でいくぞ?」
「荒治療?」
「魂を感じたければ一度魂に触れた方が早いのさ」
「どういう事……?」
「簡単な話が、そこら辺にある魂を使ってお前に死霊魔法を行使する。そうすれば嫌でも覚えられるぞ」
「……それ大丈夫?」
「安心しろ、そんなに強い魔法じゃないよ。少しの間ちょっと体調崩す程度の、軽度の呪いだよ。魔法名称は『カースチェンジャー』。死者の怨恨を他者に移す魔法だな」
「………………分かった。お願いする」
長考の末、ついに新緑のドラゴンは答えを出した。
「了解、感覚は最大限使う事、いいな? じゃあいくぞ?『カースチェンジャー』」
周囲に浮かぶ魂の内一つを操り、新緑のドラゴンにぶつける。ドラゴンの身体がピクリと震える。どうやらドラゴンの超感覚で、魂が身体に触れた事が分かったらしい。
その感覚を感じる事ができたのなら、死霊魔法を使えるようになるのは割と早いかもしれないな。
「これが魂……? なんだか不思議な感じ」
「死霊魔法を真正面から防ごうと思ったら、お前らドラゴン並の感覚か、同じ死霊魔法ぐらいじゃないと防げないだろうよ。お前の場合は感覚で魂を把握して、その上圧倒的魔力で魂を粉砕して魔法そのものの無効化……とんでもないな」
「褒められてる?」
「まぁ褒めてるよ」
「そう? ならいいけど」
実際、こいつとんでもない事をしてるからな。通常であれば、一切の干渉を行う事ができない魂を粉砕するとは……自分で作っておいてなんだが、とんでもない魔力量だな。身に纏う魔力だけで魂の粉砕とか……信じられんな。
膨大な魔力量がなせる技か。
「じゃあ今の感覚を思い出しながら、周辺漂ってる魂を探知しろ。これが自力でできるまでやること」
「分かった。やってみる」
そう言うと新緑のドラゴンは、目をつぶって周囲に感覚を研ぎ澄ませる。ドラゴンの状態で目をつぶってじっとしてるのは少し笑えてくるな。
今度人化のスキルでも教えておこうかな。
とはいえこの練習には少し時間がかかるだろう。しばらくの間は放っておこうか。
というかエンが大人しいな。どうしたのか。
「エン?」
『…………なぁに?』
「いや、静かだなぁと思ってさ」
『一応修行中だから、邪魔したら怒るかなぁと思って』
……後でエンも構わなきゃな。
本当はもう少し長かったんですけど、内容がしつこいし、どんどん脱線していくので削りました。
そしてお知らせですが、黒猫さんは今年受験生です。まぁ当然色々と忙しくなる訳で、しばらく投稿をおやすみさせていただきます。
こんな駄文の詰め合わせを読んでいただける読者の方々には感謝しかございません。
黒猫さんの個人の事情で申し訳ない事ですが、更新を待ってくださる方は、もうしばらくお待ちください。