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花は樹へと至る

今回は割とショッキングな表現が多いかもです。苦手な方はブラウザバック推奨。

side フロン


 どいつもこいつもくだらない。お父様が攻め込めば簡単に消える程度の安い命のくせに、私達に逆らう。所詮は低脳で愚かな人間、何をやっても私達の邪魔しかしない。お父様が貴様ら人間のせいで、しなくてもいい苦労をしている。

 しかし、人間が世界のエネルギーを私的に使ったからお父様がこっちの世界に来た。それだけは評価してやろう。そこら辺の事情は私達が生み出された時に知っている。


 だから大抵の魔物は人間達への殺意を募らせているのだ。自分達の父を煩わせ、いらない手間をかけさせた人間に対して。


 まぁ結局お父様の手を煩わせたのだから殺す事は確定してるけどね。


 だからこの殺戮は狼煙なのだ。高々人間如きが、私達の王であるお父様を煩わせた人間共を、()()()()()()()()()()()()

 さぁ始めよう、地獄の具現を。


 既に街の二箇所に種は撒いた。この土地の龍脈の流れも掌握した。準備は全て整った。ならば後は咲かせるのみ、いや、既に咲いているものを咲かせるとは言わない。

 それに魔界草は、()()()()()()()

 魔界草の本質は、膨大な魔力を見に宿し、自らを成長させ続けるというもの。最初が種なのは準備段階、そして魔力がある程度貯まると自主的に魔力を集めるために花になる。

 さっき人間共が倒した魔界草はこれにあたる。


 ならば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。お父様はこれを監視要員として生み出したらしいけど、正直とんでもない。


 魔界草は監視要員なんて枠に収まりきらない。例えるならば、いつでもどこでも敵の陣地を内側から荒らすことができる爆弾に近い。しかも爆発のタイミングはこちら次第、発見すら難しい。


 魔界草の真の姿を見ればお父様も魔界草の力を正しく捉えるだろう。魔界草に言語を発する器官は存在していないが、私は微かに感じるのだ。魔界草は暴れたがってる。人間を殺したがっている。

 その思いは、ダンジョンにいる他の魔物にも劣らない程の強い思いなのだ。

 だから私としては立派な戦力としてカウントしてあげて欲しいし、もっと活躍の機会をあ

げたい。

 人間共の敵としても、私個人としても。なんというか流石に可哀想なので。


 まぁそれはさておき、始めようかな。


 両手を宙にかざし、龍脈を二つに分けて魔界草の種を埋めた場所へと流し込む。

 すると、すぐにその影響が現れる。


 大地が裂けんばかりに揺れ、建物が倒壊する。当然その程度では収まらず、溢れ出る魔力に当てられて、吐瀉物をぶちまける魔法使い達。

 そしてついに絶望が姿を現す。

 種は咲いて花となり、花は成長し()()()()

 本来ならば、花が樹になる事などありえないのだが、魔界草は違う。魔界草は成長し続ける異界の植物。お父様のためだけに、何処までも高く成長する。


 こんなに健気な植物を監視要員として終わらせるのは流石に忍びないので、お父様に進言しようとは思う。


 天を貫かんとばかりにめきめきと成長していく魔界草は、ついに雲を突き抜けた。誰も到達できない領域に、お父様の敵を排除しようと、聳え立つ魔樹。忠誠の言葉がこれ程似合うものも、そうそうないだろう。

 さぁ殲滅しなさい。


 魔界草、いやもはや魔界樹と呼ぶに相応しい存在になったかしらね。魔界樹は、地上の人間共へと、枝を際限なく伸ばし、貫き、締め上げ、魔力を己のものとして吸収していく。

 その様は、まるでこの世に地獄が顕現したかのようで、この光景を見た者は、皆自分の運命を悟って死んでいく。






 そうして人間を殲滅していく内にどれだけの時間が経っただろうか。それ程時間は経ってない気もするけれど……あまりお父様をお待たせしたくないし、ちょうどいいかもね。

 というか魔界樹、私が想像してた規模の軽く三倍を超える大破壊をしてたんだけど。やっぱりお父様の役に立ちたくって、暴走した結果かな? 気持ちは分かるけど、私達の力と恐怖を伝えるためにそれなりに生き残ってもらうつもりだったんだけどなぁ……まぁいっか。きっと数人生き残ってるでしょ。知らないけど。


 「派手にやったわねぇ」


 「あっお姉ちゃん、まぁね。魔界樹が張り切っちゃって」


 「魔界樹? ……まぁ確かにこれを魔界草とは呼べないわね」


 「でしょ?」


 「何であなたが嬉しそうなのよ……まぁいいわ。それより生き残りがいるのかしら? 魔界樹の事を伝えてもらわない困るのだけど……」


 「……探してこようか?」


 「そうして頂戴。ここまでやったのに無意味だったとかありえないからね?」


 「それは私も嫌だから頑張って探してくる」


 最悪死にかけの人間を適当に治せばいいよね。そのまま街の外に放り出せば何も問題ないはず。

 さぁ探しに行こうか、哀れな生き残りを。






 それから私は街中を飛び回った。しかしどこを見ても見つかるのは()()()()()()。魔力を吸い取られた後、締め潰された死体に、魔力を吸い取られた後、全身を刺し貫かれた死体。それ以外にも選り取りみどりの人間共の無様な死体が散乱している。

 でも私は死体から血を吸う趣味はないので放置する。


 「おいお嬢ちゃん! こっちに来い!」


 前から小さな子供の手を引いてこちらに私に駆け寄ってくる一人の男。

 でも左目が完全に潰れてるね。まぁそれぐらいなら治さなくてもいいかな、ちょうどいいしこいつにしよう。


 男が空いていた手を私に伸ばしてくる。もしかして私に触れるつもり? お父様に作っていただいたこの身体に? そんな事が許されるとでも?


 魔力で刃を編み、男の左腕を切断する。


 「え?」


 あぁやっちゃった。左腕を切り落しちゃったなぁ。確かお父様が言ってたけど、人間って血を失い過ぎても死ぬんだよね。私達ならちょっと魔力を消費すれば大抵の傷は治る。

 やっぱり人間風情が支配者として振る舞うのはおかしいと思う。

 お父様が世界を支配すれば全てが丸く収まるのに……


 まあそれは今はいいや、今は目の前男の事だ。

 左腕を切り落とされた男は状況を理解できていない様子だったが、私にはそんな事は関係ない。それなりに魔力もあるし、伝達役にはちょうどいいかもしれない。

 まぁでも、()()()()()()()()()

 男がほうけている間に、男の左手があった場所を見ている子供の頭を掴む。


 「え?」


 ()()()()


 子供の方は特に必要な訳でもないし、殺しても問題はない。というか、周囲に漂う血の匂いのせいで、どうも殺したくてしょうがない。


 「ハル……ト……?」


 あれ? 以外だな。痛がりもしないで子供を心配するなんて、まぁきっと色々といっぺんに起こりすぎて理解が追いついていないだけだろう。

 その証拠に、既になくなった左腕を伸ばした後に、自分の腕がなくなっていた事を思い出したのか左腕があった場所を見て愕然としている。この世界の罪そのものである人間にはお似合いの姿だと思う。


 でも私としては、お父様を煩わせる人間が悲鳴も上げずに呆然としているなんてありえない。精々いい悲鳴を上げてちょうだい。


 炎を生み出し、男を焼く。と言っても、焼き尽くす訳じゃなく、軽く炙る感じ。あっいい匂いがしてきた。


 「………ア、……アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!」


 「うるさい」


 「ごふっ!?」


 それなりの力を込めて腹を蹴り抜く。蹲って唸っている。内蔵は破裂しないように蹴ったから大丈夫だと思う。しばらくは動けないだろうけどね。

 やっぱり人間を見下すのは楽しい。お父様は元人間だけど、今はリッチだし人間を見下しても特に問題ない。

 お父様も人間を殺す事に関しては特に何も思わないらしい。


 「じゃあ伝えておくね。私達は魔物、お前ら人間を殺す者。生き残って誰かに伝えておいて」


 男の服を掴んで街の外に投げた。そんなに強く投げなかったし、街のそばにある川に向けて投げたから死んでもないはず。まぁ死んでたら別のやつにしようか。じゃあ他の人間もついでに探しておこう。

 伝達役が一人だとうっかり死んじゃうかもしれないからね。


 そこでふと、自分の手にさっき潰した子供の血が手に付いている事に気がついた。指を口に入れて血を舐める。

 やっぱり子供の血はとても美味しい。






 結局見つけられたのはあの人間だけだった。後は全て死んでいて、伝達役を果たせるのはあの男しかいなかった。まぁ私が街の人間を探し出したのは魔界樹が暴れ出してからしばらく経ってからだったし、数人脱出してるかもしれない。

 魔界樹は魔力を吸収し、成長する樹木型の魔物、自分の足元に広がる人間()をそう簡単に見逃すとは思えない。逃げられるとしたら、相当運がよかったんだろうね。


 「どう? 人間は見つかったかしら」


 「あっお姉ちゃん、うん、一人だけ見つけたよ」


 「あら、随分運のいい人間ね。ちゃんと外に送り出せた?」


 「さぁ? 左腕を切っちゃったし、身体も焼いちゃったから、でも街の外の川に投げたよ」


 「……他の人間は?」


 「いなかった」


 「……はぁ、全くしょうがない子ね」


 正確には子供がいたけど殺してしまった。まぁ伝達役には使えないし、問題ない……はず。


 「じゃあ帰るわよ。シャドウキャットは既に帰ってお父様に報告を済ませているわ」


 「ん、分かった」


 私達もそろそろ準備をしないとね。人間から世界のエネルギーを取り戻すための準備をしないといけない。

 まぁ勝つのは絶対に私達だろうけどね。魔物の存在すらろくに把握できてない人間が、私達に対抗できる訳がない。ましてや私達は首を落とされてもそう簡単には死なない不死性すらある。

 勝てる訳がない。







 こうして、一つの街は呆気なく滅んだ。正体不明の襲撃者たちによって。


 後にこの街は、歴史家達によって最初の悲劇と呼ばれる事になる。



死者 150名以上 行方不明者 400名以上 生存者 ()()













次回、ようやく主人公視点に戻ります。進行上仕方ないとはいえ、しばらく主人公から離れていたのでやっと戻れます。


ちなみにフロンは血の血の匂いに軽く興奮状態なので、思考がかなり荒くなってます。シアは頑張って押さえ込んでますが、フロンはまじかで直接嗅いでるので。

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