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純黒の花は咲く

お待たせしました!

side ソロモン


 案内された屋敷の庭で、ソロモンは注意深く周りを警戒しながら紅茶を飲んでいた。


 ……やはりおかしい。あのボールズが儂らをここまで歓迎するとは到底思えん。何か裏があると考えるべきじゃろう。

 その証拠とばかりに、巧妙に隠蔽されているが、屋敷内には人間のものとは思えないほどの強力な魔力の残滓が屋敷に残っていた。もしかしたら儂らは虎の口に飛び込んでしまったのやもしれんな。


 しかしボールズはなんだかんだ言って小心者の貴族。もしもこれが腹に一物抱えた結果の企みだとしても、国の命令で動いている儂らを害することはないじゃろう。となれば警戒するべきは犯人が絶対に分からなくて、国の命令に背かない妨害じゃろう。

 しかしそれは何かと言われれば全く分からない。ボールズはそんなに頭が良くなかったはずじゃ。


 となるともしや、誰かが背後からボールズを操っているのか? だとすれば一大事じゃが……まぁいいじゃろう。何かあるようなら、儂が解決してみせよう。そうすれば儂の評価は上がり、金が入る。それを枯渇病の解明に費やせば手がかりが得られるかもしれん。


 この時、大魔法使いであるソロモンは油断していた。相手は所詮、自分よりも格下の踏み台でしかないのだと、根拠もなく決めつけていた。しかし、それは大きな代償となってソロモンを襲うことになる。


 「ッ! 何じゃと!?」


 突如目の前の庭から膨大な魔力が吹き上がった。それは屋敷の中で常に感じていた、人ならざるものの気配を匂わせる、悪意と混沌を連想させるどす黒い魔力だった。

 その魔力が地面の中へと吸い込まれていき、そして数秒後には真っ黒に花が咲いた。その花弁の中心には、まるですり潰すことが目的であるかのような鋭い歯が円状の配置で並んでいた。


 ソロモンは知る由もないがこれこそが原初の魔物、ジンが作り出した異界の名をさずけられし食魔力植物。魔界草の開花した姿。

 魔力を喰らい、自らを成長させる一切の世話が必要ない暴走植物。それが今解き放たれた。


 「ギュオオオオオオオオオ!!!」


 「何じゃこいつは! 初めて見たぞ! 何かしらの魔法か? 植物を異形化させる魔法? しかしそんな魔法は聞いたことがない。ならば幻術の類が? いや違うな。儂は魔法にかけられてはおらぬ」


 研究者としての本能が疼き、未知の敵を目の前にして、思わずブツブツと考察してしまうが魔界草がそれを考慮することは無い。

 風切り音と共に花と同じくらい真っ黒な蔦がソロモンを襲う。

 しかしソロモンは詠唱もなしに炎を放つ。


 「ギィィィィィィィイ!!!」


 「おおっ! やはり炎が弱点か! しかし本当に不思議なやつじゃな。まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 魔界草はその膨大な魔力のほとんどを自らの身体の成長に費やす魔物。その本来の要素は偵察であり、戦闘能力はただのおまけ。しかし魔物の存在を知らない人類にとっては、その異形とも言える身体から繰り出される攻撃は脅威そのものであり、そう簡単に勝てるものではなかった。


 まさにそれが正解なのだが魔物の存在すら知らないソロモンにそれを確かめる術はない。


 魔界草は炎に巻かれながらも、無茶苦茶に蔦を振り回しソロモンを攻撃しようとするが、その攻撃は一切当たらなかった。

 風で自分の身体を自在に動かすソロモンにとってこの程度の攻撃を避けることなど容易いことだった。

 しかしソロモンの魔法はあくまで人間を相手にするための魔法、未だ知られる怪物である魔界草と戦うための魔法なんてものは存在すらしない。


 だからこそスキを突かれた。

 魔界草はの反撃として口から溶解液を吐き出す。咄嗟のことに避けることができず、モロに浴びてしまったソロモンの皮膚はグズグズと溶けだしていた。


 「ぐううぅぅ! これは中々きついのぉっ!」


 「大丈夫か爺さん!」


 「何だこの化け物は? お前のせいじゃないだろうな?」


 そこに現れたのは、今回のソロモンの仕事仲間である、ライオスとモーガンの2人だった。既に互いの得物を構えており、戦闘態勢に入っていた。


 「爺さんが攻撃されてるんだからそんな訳ないだろうが! 馬鹿かお前は!」


 「はっ! どうだか。魔法に失敗しちまったのかしれねぇだろ?」


 「ええい煩いぞ小僧共! 老人に任せっきりにしとらんでさっさと手伝わんか!」


 「おっとすまねぇ!」


 「ちっ、しょうがねぇなぁ」


 剣を構えるモーガンと、黄金の槍を構えるライオス。どちらも相当の実力者であり、そこにかつて天才と呼ばれた魔法使いが加わるこの光景を見たなら、冒険者なら感動で身を震わせることだろう。


 しかし彼らにはそんな余裕など当然ない。彼らは理解してしまったのだ。目の前の植物は決して油断なんてできるような生物ではないことを。

 とはいえ己の実力があろうと、他者の実力を理解できない者もいる。


 「こんな植物野郎は俺がさっさと殺してやるよ!」


 「待て馬鹿!」


 「うるせぇ! そこで一生怯えてろ!」


 疾風の如き速さで未だに燃える魔界草を切り刻まんと、剣を振るう。ソロモンとライオス、そして剣を振るったモーガン以外の冒険者達は、その光景を見て、恐ろしい怪物が死んだと思い歓声を上げる。


 「まだだ馬鹿共! 油断してんじゃねぇぞ!」


 無数の漆黒の触手が背後から静観していた冒険者達を打ち据える。その威力は想像を絶するものであり、まともに食らった冒険者達は、全員が大怪我を負い、しばらく動くことはできない。少なくとも今回の仕事において、これ以上の仕事を望むことはできないだろう。

 その光景を見たライオスとモーガンは、激情に駆られ、怒号と共に襲いかかる。


 「「ぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!」」


 しかし変わらず魔界草は傷つくことなくそこに存在していた。


 「キュォォォォォォォォォ!!」


 触手を縦横無尽に振り回すが、その全てを剣と槍と魔法で防ぎきる。


 「おい爺さん! 俺とモーガンで時間を稼ぐ! でかいの1発頼むぜ!」


 「勝手に決めてんじゃねぇよ!」


 「何だ? 怖気付いたのか?」


 「阿呆か! そんな訳ねぇだろ! 俺1人で充分だっつてんだよ!」


 「はっ! 言ってろよ!」


 やれやれ、最近の若いのは元気じゃのう。ライオスはそんなに若い訳でもないのに無茶をしおって、後で倒れても知らんぞ。

 まぁ儂は儂にできることをやるだけじゃ。こんな所で死ぬ訳にもいかんしな。


 「“天を裂く哄笑を浮かべよ、冥府に届く猛りを叫べ、幽玄を渡る緋色の魔炎、灰色の夜を照らす獣の咆哮を、蒼空は焼け落ち、死を唄う!“『ガーンディーヴァ!』」


 極炎の巨槍が放たれる。


 誰もがこれで決着が着いたことを確信する程の威力だった。モーガンはこれで終わりかと、つまらなそうに鼻を鳴らし、ライオスは何とか勝てたとほっ、と息をつく。他の冒険者達は、正体不明の怪物が死んだことに歓喜する。

 しかし、絶大な魔法を放った張本人、ソロモンは明確に知覚していた。己がたった今放った魔法が、泡のように消えたのを。


 ソロモンの炎魔法の中でもっとも威力の高い魔法である『ガーンディーヴァ』はソロモンの作り出したオリジナル魔法で、その効果は炎の槍が突き刺さり、第1の爆発。そしてその後は、内側から第2の爆発という、二段構造の魔法になっている。

 しかし『ガーンディーヴァ』は最初の爆発の後、最初からなかったかのように消えてしまった。


 (何じゃ今のは? まるで魔力を()()()()()()()()()()()()


 そして未だに警戒を解かないソロモンに、ライオスは再度警戒を再開し、モーガンは年寄りの心配性だと鼻で笑う。

 しかし次の瞬間、ソロモンの警戒が正しかったことが発覚した。

 黒煙の中から、何かが飛び出し、モーガンを打ち据える。


 悲鳴をあげる暇さえなかった。ベキベキと、音を立てて骨が折れる。


 「何じゃと!?」


 「こいつまだやるってのかよ!」


 そして黒煙が晴れる。そこに居たのは、ついさっきまで炎に巻かれていたとは思えない程燃え跡1つない無傷の植物(怪物)がそこに佇んでいた。


 「キシャァァァァァァァァァ!!!」


 地獄が始まる。


 しかしこれは序盤に過ぎない。


 未知なる者達の蹂躙が始まる



ガーンディーヴァって弓なんですけどね……まぁいいでしょう?

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