まさかの会話
今回は少し短めです。
「……まぁこんなところかな」
「……すごい」
目の前には10人の人間の死体が転がっていた。その死体はどれも無残に斬り裂かれており首がない死体や、四肢を切断されていたりと酷い有様であった。
「我に従え『デッドオーダー』」
死霊魔法の『デッドオーダー』の黒い靄が死体に取り憑く。牢屋の中のまだ生きている人間達がこれから起こることを思い出し、必死に黒い靄から遠ざかろうと後ずさる。
そう言えば『デッドオーダー』って生きてる人間に使ったらどうなるんだろうな。ついでだし試してみようか。
黒い靄の1つが牢屋に向かって伸びる。それに怯えきった人間達が必死に命乞いをするが正直全く心が痛まない。これもやっぱりリッチになった影響なんだろうなぁ。
そして黒い靄はついに人間の1人に到達した。そのまましばらく待ってみるが特に何も起こらない。
やっぱり『デッドオーダー』は死体にしか使えないのか。まぁそれが分かれば充分だな。
死体をゾンビに変えて36階層へと転移させようとする。しかしその直前に1つだけおかしなことに気がついた。なんとゾンビのうち一体だけ他のゾンビと保有する魔力の量が違うのだ。
よくよく見てみればそれは1番最初に殺したあの隊長とか呼ばれてた兵士のゾンビだった。
……まさか上位個体か!?
あまりに突然なことに驚き声も出ない。
「……神様、こいつは?」
どうやらこのドラゴンも目の前のゾンビの特異性に気がついたらしい。このゾンビは今までとは比べ物にならないほどの力を持っている。詳しく調べる必要があるかもしれない。
「こいつについては後でじっくり調べてみるよ。それよりもまずは君との約束を果たそうか」
「!! それじゃあ!!」
「あぁ教えてやるよ。かなり特別だぞ? 他のやつには教えたことも無いし」
「ありがとうございますっ!」
新緑のドラゴンは普段ののんびりと口調も忘れてキラキラとした目を俺に向けてくる。でも問題はこの状態じゃ教えにくいってことかな。
「その前に覚えてもらいたいスキルがある」
「な、何ですか?」
「人化、人の姿になるためのスキルだよ。やり方はグレヴィルに聞いてくれ」
「分かりました! 頑張ります!」
ドラゴンの返事を聞いてから俺は寝床兼実験室である100階層へと転移した。
♢♢♢♢♢
さて今日の実験だが、少しおかしなことがあった。人間達を斬る度に刀がまるで意志を持っていくような印象を受けた。もっと斬れ、もっと斬れと囁きかけてくるようにも思えた。
それは荒れ狂う狂気のようでもあり、同時にもっと使って欲しいという懇願にも似た縋るようにも思えるものだった。
何となく理由は分かる。この刀、神刀神楽は作るだけ作られて放置された忘れさられた神器。やっぱり使って欲しかったのだろう。
ならばしっかりと使ってやりたいが俺にそこまでの技量はない。実戦でもやってみれば使えるようになるか、なんて思っていたが流石に甘かったか。
でもやっぱり使えるようにはなりたいよなぁ。
「なぁお前、どうしたい?」
特に返答なんて気にせずに話しかけたのだが予想と反して爆発的な意思の奔流が俺に向かってくる。
おおうっ! これは以外だな。上手に使って欲しい。あの時の動きはそうじゃないと、文句のような感情。
でもなんて言うか同時に焦りのようなものも感じる。もう捨てられたくない。1人にしないで欲しい。悲しいがとてつもなく強い想い。
やっぱり全く使わずに捨てられたっていうのがトラウマなのかね? でもなんて言うかこの感情がどんどん強くなっていくのが少し怖いんだが……
「なぁ神楽……ッ!」
俺が神楽に呼びかけたその瞬間、凄まじい殺意と共にあまりに強すぎて呪いにすらなっている神器としての力が俺に向かって飛んでくる。
それを魔力でたたき落とすと神楽に抗議する。
「いきなり何すんだよ! 危ないだろうが!」
しかし神楽からの殺意が止むことはない。
これはどうすればいいんだ? 相手が人間ならまだ何とかなるけど刀じゃなぁ。
さて困った。