スキルの実験
今回はいつもよりちょっと長いです。
「さっきも言ったがこの階層の森の中に牢屋を作ってそこに閉じ込めてる。そこに行けばドラゴンが一体待機してるから奴隷で実験しに来たと言えばいい」
「分かった。ありがとな!」
結局ドラゴン達の激しい喧嘩は階層の再生が追いつかなくなってきた段階でグレヴィルがキレて終わった。その時のドラゴン達の怯えようと言ったらまるで叱られる子供のようで笑いを堪えるのが大変だった。
まぁそれもグレヴィルの怒りの矛先が俺に向くまでだったけどね。
強制的に正座させられて怒られるなんて前世で子供の頃に家の中でふざけてボールを投げたら窓ガラスを割った時以来だよ。
そんな俺を見るドラゴン達の視線に同情が含まれてるのを見て今度ここにいるドラゴン達に美味しい肉でも持ってこようと思う。
「じゃあ行ってくるよ。ドラゴン達を頼む」
「仕事だからな、任せておけ」
なんというかグレヴィルのできる男感が半端じゃない。こいつがまだ1歳にもなってないとかなんの冗談だよ……まぁ俺も頑張らなきゃな。
そして俺は99階層の外れにある森に向かって歩き出す。これから非人道的な実験をするというのに俺は特に罪悪感を感じなかった。それがまた自分が人間ではなくなったことを告げているようで少し寂しくなったが同時に新しい力を試すことへの楽しみもあった。
数分歩いて森へとたどり着く。この99階層は最果ての迷宮の中で最も広い階層である。広大な平原に天高くそびえ立つ山脈もある。さらには海やこれから行く樹海など、99階層よりも上にある特殊階層の環境を全て揃えたまさに地獄のような環境になっている。
そこにダメ押しのように優に100を超えるドラゴンの群れ。
人間に攻略なんて不可能だろう。
まぁそれはさておき森の中へと歩いて入る。階層から階層への転移はできるが同じ階層内での転移ができないのはちょっとめんどくさいな。
そして森の中を少し歩くと少し開けた場所に出る。その中央に石でできた牢屋が見えた。何より目を引くのはその牢屋の前に座り込む新緑の身体を持つドラゴン。
彼がグレヴィルの言っていた待機しているドラゴンだろう。
そのドラゴンは眠っているようで少し身体を上下させていた。
さてどうしようかと思案しているとドラゴンはパチリ、と目を開けて俺を視界に捉える。そしてのそりと起き上がると喋り始めた。
「……初めまして神様、こんな辺境に何か用?」
こいつも自我と知恵がかなり発達してるタイプのやつか~ドラゴンはやっぱり個体差がはっきり出るな。大抵が戦闘狂のドラゴンだが目の前のドラゴンからはそういった感じが一切しない。
これはかなり珍しいな。あのクカリやアカリだってどちらかと言えば戦闘狂なのである。普段は俺やグレヴィルの目を気にしてあまり暴れないがそれでもドラゴンらしく強者こそ全てという思考が基本になっている。
しかし目の前のドラゴンからはなんというかやる気が感じられない。瞳もトロン、としており今にも眠りだしそうに思える。
随分とドラゴンらしくないドラゴンだな。まぁ個性は人それぞれだから面白いんだけどね。いや、この場合はドラゴンそれぞれなのか?
そんなくだらないことを考えながら俺は目の前のドラゴンの質問に答える。
「ちょっと牢屋の人間達でスキルの実験をしようと思ってな」
「……そう、なら見学してもいい?」
「いいけど……何でだ?」
「神様のスキルに興味があるから」
これは本当に意外だな。眠そうにしていた瞳は実験と聞くやいなやその瞳をしっかりと開き輝かせた。
俺のスキルを見たがるドラゴンなんて俺の知る限りではいないと思ってたんだけどな……そもそもドラゴン達は俺が最初の方にやっぱり魔物といったらドラゴンだろ! なんていう安直な思考から10体ほど作られた魔物である。
その時はかなり膨大な魔力を持っていかれたためこれ以上は作れないと判断してとりあえず99階層に押し込めたのだがしばらくするとその数は急速に増え始めた。
なんでもドラゴンの繁殖力は異常に高いらしく、ちょっと放置している間に100体以上に増えたのだ。
そしてその規模の数のドラゴンが暴れる様子を想像して欲しい。当然普通の階層では耐えきれず、広大な土地と階層そのものに高い再生力が必要になった。
これは俺の見通しの甘さが招いたことだがおかげで階層の改造に膨大な魔力を使うことになった。
全体的に見れば魔物達の中で最も魔力を費やしたのたのは確実にドラゴンだと断言できる。
そして1番の問題はその凶暴性。
初期の頃は目が合っただけで戦闘が始まるほどの戦闘狂だった。当然のように俺も喧嘩を売られてめんどくなってかなり雑に返り討ちにしたのだがそれ以降は俺に喧嘩を売らなくなった。
そんなドラゴンだがやはり戦闘狂であるという点はどうやっても治らなかった。しかし俺の目の前には戦闘とは程遠い、随分と穏やかな性格をしているドラゴンがいるのだ。
色々と聞いてみたくなるが今はスキルの実験を控えている。残念だけどまた今度にしよう。
「まぁ邪魔しなければ好きに見学してもいいよ」
「分かった。邪魔しない」
そう言うと新緑のドラゴンは数歩下がって俺の邪魔にならないように待機する。
それを見てから俺は牢屋の前に立つ。すると中には大量の人間の死体が転がっていた。
……は? 何で死んでんの? まだ閉じ込めてから数日しか経ってないのに。まだ生きてる人間はそれなりにいるがそいつらもかなり衰弱しているように見える。
「……こいつらに何かした?」
「何もしてない。でも突然苦しみだして死んでった」
……自殺か? それが1番考えられる。でもそれだと他のやつらは何で衰弱しているんだ? まじで原因が分からない。
「じゃあこいつらが弱ってるのは?」
「それは分からない。でも日に日に弱ってく」
う~ん、病気とかかな? でもこんなに一斉に? 確かに環境が急に変わったら病気に掛かりやすいとか聞いたことはあるけどそれでも全員がそんなことになるのか?
「おい貴様! ここから出せ!」
牢屋の中で人間がうるさく喚く。まだ喚く元気はあるのか。なら会話もできるな。
「おいお前、何でこいつらは弱ってる?」
「黙れ! 俺をここから出すんだ! 俺は絶対に屈しないぞ! この化け物め!」
わぉすっごい元気じゃん。見た目がどう見ても人外の俺に真正面から啖呵を切るとは思ってもみなかったな。
しかし答えてもらわないと困る。こいつらは貴重な実験体だ。無駄に減られても困るのだ。
「じゃあ出してあげるからこいつらが何で弱ってるか教えてくれる?」
そう言うと新緑のドラゴンはピクリ、と反応するが邪魔はしないという宣言通り何かを言ってくることはなかった。
「……本当だろうな」
「もちろん。嘘はつかないよ」
証拠と言わんばかりに牢屋の扉を開け放つ。あまりに呆気なく出られたことに罠かと警戒しているが正直早く出て欲しい。
「ほらほら早く出て」
急かすと慌てて牢屋から出てくる。その際にチラリと自分の腰を見たのは剣でも探したのかな。まぁ牢屋に入れた段階で剣は没収したけどね。
「ほら約束は守っただろ? 早くこいつらが弱ってる理由を教えてくれよ」
「……簡単な話だ。飯を食ってないからな」
あ~すっかり忘れてた。そうだよ考えたら人間は食事をしないと生きていけないじゃん。俺が人外になったからそんなこととっくに忘れてたよ。
なら後で食事でも持ってこようかな。
「ありがとな。じゃあ牢屋に戻ってくれ」
「なっ!?」
何かされる前に火球を叩きつけて牢屋に戻す。
「くっ! 約束が違うぞ!」
「牢屋からは出しただろ? きちんと約束は守ったさ」
「卑劣な!」
う~ん流石にうるさくなってきたな。よし、最初の実験体はこいつにしよう。
「“死のオーラ“」
俺の身体からどす黒い波動が放たれるとさっきまで騒いでいた男が急に倒れ込んだ。それに驚いて他の実験体が悲鳴をあげるがまぁ今はどうでもいい。
“死のオーラ“は魔力で抵抗しないと即死するというなんとも初見殺しな能力になっている。そのチートじみた性能とは裏腹に一切の魔力を消費しないというとんでもない能力になっている。
ちなみに“死のオーラ“に巻き込まれて数人実験体が死んでしまった。これはある程度の方向は決められるが、調整を間違えると味方を巻き込むな。
まぁなんにせよ実験は続行する。
次は闇魔法。
「我に従え『デッドオーダー』!」
今度は俺から漆黒のモヤがが伸びていき“死のオーラ“で死んだ実験体達の身体に取り憑いた。そして漆黒のモヤが全て死体に吸い込まれるとなんとぎこちない動きで死体が立ち上がったのだ。
あまりのことに恐怖して実験体達が発狂する。
必死に神に祈る者、壁を引っ掻いて手を血塗れにする者。
様々な行動をとるが死体はそれを無視して俺に跪く。その行動に満足して俺は再度牢屋の扉を開ける。
すると死体はそこから出てまた跪く。
死霊魔法『デッドオーダー』は1時間いないに死んだ生物を強制的にゾンビにするという魔法だ。
この魔法はかなり便利で使いやすい。これからも使うことはあるだろう。
「じゃあゾンビ共は俺に着いてこい。そうだな……36階層に行くぞ。あと実験体諸君はそのまま待ってろ。飯を持ってきてやる」
「……凄い」
新緑のドラゴンから尊敬の言葉が聞こえる。振り向いてみると瞳を輝かせて俺を見ていた。
「ぜひ私にも教えて欲しい」
……魔法使いの弟子的な? カッコイイじゃん。でも教えられるのか? 俺の感覚的なところもあるしなぁ。まぁでもやっぱりカッコイイし……教えるだけ教えてみるか。
「じゃあ今度教えるよ。でも絶対に使えるとは限らないからね?」
「頑張る」
新緑のドラゴンはとても嬉しそうにしっぽを振っていた。その様子がまるで子犬のように見えて思わず笑ってしまった。本気で楽しみにしてるみたいだし俺としても使えるようになって欲しいがどうなるかは本当に分からない。
死霊魔法にはかなり独特な魔力がある。まずはそれを感じて操れるようにならなくてはならない。
だがもしも、死霊魔法が使えるようになったならこの新緑のドラゴンに名前をつけるのもいいかもしれない。まぁ全ては努力と才能次第だけどな。
36階層にはアンデッド系の魔物を量産してる特殊階層があります。その階層の内容はまた今度。
明日もこの時間に投稿します!