ドラゴン達の本心
ジン視点です。
「……なぁ王よ」
「何だよグレヴィル?」
「暇なのか?」
「暇だねぇ」
俺はこのところよく99階層に足を運んでいた。仕事を一通り片付けてやることと言えば何か問題の起きた階層に出向き、その問題を解決することくらいか。
まぁそんなわけでこの世界で初めての完璧な暇である。
前世でもここまで長い暇はなかった。前世じゃずっと暇が欲しいとは思っていたが暇だった長すぎると苦痛にしかならないと学んだ。
「……新しい同胞は作らないのか?」
「今は魔力を節約してるからね な。緊急事態に備えて」
「……そうか、では本当に暇なのだな」
「まぁな、忙しかったらこんなところでのんびりしてないよ」
99階層 竜の楽園
この階層はかなり特殊でありドラゴンと竜人であるグレヴィルしかいないという階層になっている。
ドラゴンは基本的には食事の必要がないため他の生物が必要なく、食事は彼らにとって娯楽でしかない。まぁだからたまに食事を持ってきてやると取り合いの喧嘩が始まる。
ドラゴンの喧嘩は規模がとんでもない。大地が抉れ、山は吹き飛び、草木一本残らない。
それが魔物の中で最強の戦力でもあるドラゴンという存在だ。
この階層は再生速度をかなり早めているためどれだけの規模の喧嘩だろうが基本的には何も問題は無い。
だから最近では食事を積極的に持ってきてドラゴンの喧嘩を見物するのが楽しみになっている。
「おや? 我らが王に神様じゃないか。こんにちは」
そばに真っ黒な身体に金の瞳を光らせるドラゴンがやってきた。彼は巨大なドラゴンの中でもかなり巨大でドラゴン達のまとめ役のようなものをしている。
そしてグレヴィルをドラゴンの王、俺をその王を作った神として崇めていた。
魔物が宗教じみたことをするとは思ってもみなかった。まぁ敬われて悪い気はしないし別にいいんだけどね。
「よぉ長、元気だったか?」
「えぇ元気ですとも神よ。まぁ名前が欲しいとはずっと思っていますが」
う~んなんかあざといなぁ。まぁ魔物や魔族にとって俺が名前をつけるっていうのはかなり嬉しいらしい。
この黒いドラゴンも俺に名前をつけてくれとずっと言ってくる。
まぁなんでもかんでも名前をつけるべきじゃないと自重をしているのだがこいつにはつけてもいいかもしれない。
……うん、そうしよう。
こいつはドラゴンの中では珍しく俺を敬いグレヴィルを助けてドラゴン達の統率に力を貸してくれているそうだし。
「……名前欲しいか?」
「ッ! えぇもちろんですとも!」
ブンブンと犬のように長く太いしっぽを振り回すたびに周囲に被害が出る。突風が吹き荒れて砂埃が視界を塞ぐ。
しっぽを振っただけでこれなのだ。本気で暴れたらどうなるかは分からない。
ついでに言えば周囲のドラゴン達もいつの間にか離れて避難している。間違いなくこいつに巻き込まれないように距離を離したのだろう。
俺としてはいい迷惑である。
さてと、こいつの名前は……黒くて巨大で言葉を操るほどには賢い。黒くて賢い竜……クカリ? うん、割といいかもしれないな。
よし決定!
「じゃあお前は今日からクカリだ」
「おぉ! ありがたき幸せ!」
周りのドラゴンからの羨望の視線を集めている。いやお前ら俺が来ると暴れるじゃん。何で羨ましそうにしてんの?
「さぁお前達! 神様が会いに来てくれて嬉しいのは分かるが集まりすぎるな! 邪魔だぞ!」
「へ?」
「あ? どうした? 神様?」
「俺は神様じゃないんだけど……まぁいいや、それよりも俺が会いに来て嬉しいって? ドラゴン達が?」
ならばどうして暴れるのだろうか。頼むから大人しくしていて欲しい。まぁドラゴンはそれなりに気性の荒い性格にしたからしょうがないとは思うのだが。
しかも俺が来た途端に暴れ出すからてっきり嫌われているものと思っていたのだが……違うのか?
「ドラゴン達はあんたに力を見せて気に入ってもらおうとしてただけだぞ? そしてあわよくば名前をということだな」
……分かりにくっ!? 感情表現の下手くそな子供か! あぁ生まれた時的には子供か。なんというか悲しすぎるすれ違いだな。
「まぁそういうわけだから名前をつけてやると喜ぶぞ?」
そういうことだったのか~まぁこれからはちょくちょく名前をつけてみようかな。
「じゃあたまに名前をつけたりするよ」
そう言うとドラゴン達が瞳を輝かせると急に喧嘩を始めた。さっきの話から考えると自分の力を見せて俺にアピールしようとしているのだろう。
流石はドラゴン。平和的にという考えはないらしい。
そこでふと思いついたことがあったのでグレヴィルに聞いてみる。
「あぁそうだ。この間シアが連れてきた奴隷達は?」
「あいつらなら森の中に閉じ込めておいた。使うのか?」
「まぁスキルの実験をしないとね。ドラゴン達の喧嘩が終わったら行こうかな」
「あぁそうしてやってくれ」
俺にアピールしたいのに肝心の俺がいないとか意味がないもんな。流石にそこら辺は分かってるとも。
「じゃあどうせならもっと面白くしよう」
「は?」
ドラゴンはかなり再生力も高く多少の無茶くらいは大丈夫らしいからまぁ大丈夫だろう。
「お前ら! 今から最後まで買ったやつに大量の肉をプレゼントしてやる!」
ちなみに肉は森にいる動物から調達している。“帰らずの森“には調味料や野菜などがとても多くたまに暇つぶしに料理とかもすることがある。
そしてその言葉を聞いたドラゴン達の瞳がさらに爛々と輝く。
さらに激しくなった戦闘に頭を抱えているグレヴィルの横で俺はその大迫力の戦闘を楽しむのだった。
ドラゴンは基本的には戦闘狂ですがグレヴィルとジンには従順です。
明日もこの時間に投稿します!