地獄の予兆 4
ギンがブラックサイドに……
ザァザァとと雨が降り注ぐ。ボロボロになりほぼ半壊した屋敷の前には1人の少年が立っている。少年は全身血に濡れているが全て返り血であり少年には傷一つない。
そして少年の周りには頭がなかったり胸に巨大な風穴を開けた死体がかなりの数転がっていた。
しかし全ての兵士が死んだわけではない。あまりの恐怖に槍を投げ出して逃げる者、腰を抜かして必死に逃げる者、槍を構えてはいるが膝を震わせている者。
彼らに共通して言えることは一人残らず戦意を喪失していることだろう。
「……リーリアはどこだ?」
「ひぃ! で、ですからリーリアというのは一体どなたのことですか?」
「3年前、お前が攫っていった俺の妹だよ! 知らねえとは言わせねぇぞ!」
「……あっ! 思い出しました! 3年前に攫って奴隷商人に売りつけたあの女で、ゲボアッ!?」
「お前今なんて言った! リーリアを奴隷商人に売っただと!? ふざけんな!」
「ゆ、許して」
「……誰に売った」
「ジ、ジランド商会のエルドという商人です」
「そうか」
ギンはそれを聞くと手をまるでゴミでも振り払うように振るう。それだけでロートスの頭は宙を舞った。
「どうするの? ギン?」
いつの間にかそばには赤い瞳を輝かせたシアが楽しそうに笑っていた。
「ジランド商会に行く」
「言ってどうするの?」
「リーリアを取り返す」
「そう、頑張りなさい」
そう言ってシアは霧になって夜闇へと消えていく。俺はそれを見送ったあと、ジランド商会に向かって歩き出す。
俺が歩くと兵士達が一斉に道をあける。仕方がないとは思うが兵士としてそれはどうなんだろうか? まぁこの事態の張本人である俺が言うことじゃないな。
未だに雨が止む様子はない。
「待ってろよリーリア」
雨の中ギンの歩く音と雨の打ちつける音だけが響き渡る。
「……ここか」
俺は歩いてジランド商会の所有する店の前にやってきた。霧化は雨が降っていたり強風が吹いていると上手くいかない。シアはどんな環境でも問題なくできるらしいが流石は真祖といったところか。
「そこで止まれ!」
「情報通り来たな」
「まだガキじゃねぇか! 本当にあんなガキが?」
「そういう通報があったんだ。なら俺達は仕事をするだけだろ」
「まぁそりゃあそうか」
人間達が俺に話しかけてくる。でもあまり関係ないし無視しよう。
「おい聞いてんのか!」
人間の1人が腰からスラリと剣を抜き放つ。なるほど、こいつも俺の邪魔をするのか。俺がリーリアを助け出す邪魔をするのか!
距離を詰めようと地面を蹴ると地面に蜘蛛の巣のような亀裂が入りその場から俺が消えた。そして頭を掴んで地面に叩きつける。するとまるで水がパンパンに詰まった風船のように簡単に破裂した。
そのままその人間の身体を掴んで振り回す。あまりの負荷に掴んだ足がちぎれ飛ぶがまぁちゃんと役目は果たしたしいいかな。
人間の身体は兵士にぶつかるとその兵士を巻き込んで商館の中へと突っ込んでいく。そして未だに現状を把握できてない残り2人の兵士に向かって魔法を放つ。
吸血鬼になってから魔力を明確に感じられるようになった。だから今まで使えなかった魔法だって使える。
「“暗がりの魔手よ“『ブラックハンド』!」
足元から黒い腕が生えて兵士達を掴む。すると兵士達はピタリとも動くことができなくなり、そして声も出せなかった。
『ブラックハンド』は肉体と精神を同時に掴む拘束系魔法。1度これに掴まれると脱出は実質不可能であると言われるほどだ。
つまりこいつらはもう死という運命から逃れられない。俺の邪魔をすることはない。
それを確信してから商館の中へと入っていく。
待ってろよリーリア。俺が必ず助けてやるからな。
「ふふっ、見事に暴走してるわねぇ。まぁそれはそれでいいんだけどね」
私達吸血鬼は血の匂いや味に興奮を覚える種族。そしてギンは吸血鬼になったばかりでその力に精神を若干引っ張られているしさらに大量の返り血を浴びた。
ならば暴走するのは当たり前でしょうね。でもギンならば大丈夫でしょう。だって私が選んだんだもの。最終的にはしっかりと目的を達成するでしょうね。
まぁそのあとにどうなるかは全く分からないけどね。
暴走しきって人間を殺戮する機械と化すのか、それとも妹を救ったことで暴走が止まるのか。
どっちにしてもとても見ものでしょうね。私は舞台の外から結末を眺めさせてもらうわね。
まぁせっかくだから暴走が止まって私の部下になってくれるのが1番いいのだけれど……今の状態なら別にいらないわね。このままなら私が処分しようかしら。
あなたの選択を見せてもらうわよギン?
シアはギンを面白いおもちゃだと思ってます。主人公の役に立つならしっかりと働かせるつもりです。
まぁシアは少し愛着湧いてるのでどうなることやら……
明日もこの時間に投稿します!