タコとセイレーンとワイバーン
人魚っていいよね。
「あぁそうだもう1つだけ要件があるんだった」
「まだプレゼントがあるの!?」
何でプレゼントっていう発想になるんだろう……まぁ目を丸くして驚いてる様子はとても可愛く見えるからいいけどね。
今更だがレヴィアは腰まで届く黒髪に海のように青い瞳の見た目は大体20歳ぐらいの言うなればお姉さんというイメージ。
そんな彼女がこうして可愛い仕草を見せてくれるのは俺としてはとても嬉しい。
「そろそろこの階層に魔物を増やそうと思ってさ」
「あぁそう言えば言ってたわねぇ……どんな子が増えるのかしら?」
「ここは水の階層だしなぁ……クラーケンとか?」
「それが何かは分からないけどまぁあなたがそれでいいと思うならいいんじゃない?」
まぁ実質この階層のトップであるレヴィアの許可が降りた。なら別に遠慮しなくてもいいだろう。
クラーケンと言えば作品によってはイカやタコで書かれるが俺としてはイカのイメージが強い。
うん、イメージもある程度固まったしダンジョンコアで早速作ってこよう。
「じゃあちょっと待っててくれ」
「は~い」
手を振るレヴィアに見送られながら俺はダンジョンコアのある100階層へと転移する。
そしてダンジョンコアに触れるとクラーケンを作り始める。
見た目は巨大なイカ。
色は黒の混じった青。
大きさは30メートルほど。
作ったと同時にごっそりと魔力が抜けていく。そして現れたのは天井いっぱいまで巨大なイカが現れた。
「■■■■■■■■■■■■■■■!!!」
天に届けとばかりに咆哮をあげる。そしてそのクラーケンを17階層に強制的に転移させる。
「きゃあ!?」
クラーケンを水の中に転移させたせいでとんでもなく巨大な津波が発生する。咄嗟に魔力で津波を跳ね除けて濡れることはなかったが17階層は本来水の来ない場所すらもびしょびしょに水浸しになっていた。
「作って来たよ〜」
「ちょっと!? 危ないじゃない!」
レヴィアはそう言うが実際は全く危険など無いだろう。レヴィアには水流を操作するというそれなりに特殊なスキルを保有している。そんな彼女があの程度の津波で危険に晒される訳が無い。
まぁとはいえちょっと階層そのものに被害が出てしまった。そこは確実に俺のミスだ。
「ごめんごめん。岩場に出すべきだったね」
「本当よ! 全くもう……私が咄嗟に水流操作してなかったらもっと被害が出てたわよ?」
全くその通りであり何も言えない。
「次から気を付けるよ。じゃあクラーケンはこの階層の海底で待機ね。とりあえずレヴィアの指示に従うこと、いいね?」
そう言うとクラーケンは返答の代わりとばかりに触手を左右に振り水中へと潜水していった。その影が見えなくなるとはぁ、とため息をつかれてジト目で睨まれた。
「ほんとにもう……」
「ごめんね? あぁそう言えばここ最近ステータスの確認してなかったよね?」
「そう言われてみればそうね。じゃあ見てみる?」
俺はダンジョンの魔物、特に魔族のステータスをこまめにチェックしている。なぜかと言われるとまぁやっぱり他人のステータスって気になるし色々と気になることがたくさんあるからね。
「“ステータスオープン“」
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【名前】レヴィア
【年齢】 0歳 【種族】 セイレーン
【生命力】 8,622/8,622
【魔力】 1,086/1,086
【スキル】
水魔法Lv5
敬愛Lv10
【種族スキル】
水流操作Lv5
人化化Lv3
不老不死の肉Lv10
魔性の歌声Lv10
異種会話(魚)Lv7
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これがレヴィアの今のステータス。前回見た時との違いは……敬愛がLv9からLv10になったことくらいかな。ついにレヴィアもこのスキルカンストしたか。俺としてはとても嬉しいけどね。
そこでレヴィアはふと思い出したのか手を鳴らして言った。
「あぁそう言えばこの間22階層の階層主が呼んでたわよ?」
「そうなの? じゃあ行ってこようかな」
「……もう行っちゃうの?」
……レヴィアが言ったんでしょうに。そんな悲しそうな顔をしないで欲しいんだけど……行きづらいじゃん。
涙ぐんだ潤んだ瞳で見上げてくる。これで素だというのだから恐ろしいものだな。
「……あと10分だけだよ?」
「やったっ! ありがとう!」
一瞬で輝くような笑顔へと転じる。その笑顔を見て10分じゃなくて30分にすれば良かったと後悔することになるのだった。
「楽しかったわ! また来てね~!」
「また来るよ。その時に新しい魔物を追加するかもだから覚えといてね?」
「分かったわ。覚えとく」
そうして俺とレヴィアは別れたのだった。そして22階層へと飛ぶ。
するとそこにあったのは溶岩がドロドロと流れる灼熱の魔境。
生物の生存を拒絶する隔絶された煉獄の地獄。
22階層 胎動する火山
「相変わらず暑いなぁ」
「当然だろう王よ。それにこの階層はあなたが作ったのだろう?」
振り向くとそこには真っ赤な鱗に覆われた巨大な竜がいた。彼に名前はない。そして人化のスキルを持っていないので竜人でも無いが俺達の会話を聞いて自力で言語を取得するというかなり高度な知能を有している。
まぁ今言った通り名前がないので赤い賢い竜を略してアカリと呼んでいる。
それでもかなり喜んでいるし自我のしっかりとしているやつは名前を付けると喜ぶのかな。
「で? 俺に用があるって聞いたんだけど?」
「あぁその通りだ王よ。……最近この階層に新しい魔物が増えていないだろう? だから暇でな。というわけで新しい魔物を作ってくれ」
「随分と無茶振りを……魔物を作るのは大変なんだぞ?」
「分かっているとも。だから珍しくお願いしているのだ」
まぁ確かに普段のこいつは俺を見るなり嫌そうな顔をする。
どうやら自分の階層であるこの22階層によその階層から誰かが来るのが気に食わないらしい。例えそれが親である俺でもだ。
この辺りは最強戦力であり、そして誇り高きドラゴンらしいと言えばそうなのだろう。
「まぁいいや。じゃあ作ってくるよ」
「うむ、頼むぞ」
偉そうなアカリの言葉を背に俺はダンジョンコアへと転移する。
魔物達はたまにこうして俺に無茶振りをしてくる。子供のわがままくらいはなるべく叶えてやりたいが限度はある。
まぁ今回のわがままはまだマシな方だ。
これくらいならまだ叶えられる。
クラーケンにかなり魔力を使ったがまぁあと一体くらいなら何も問題は無い。
まぁ今回作るのはあの階層の溶岩の暑さに耐えれるということが第1前提になる。
そうだな……ワイバーンとか前に作ったけど22階層に耐えきれなかったしそのリベンジで22階層に耐えられるワイバーンを作ろう。
あぁちなみにワイバーンは10階層辺りから出てくる。
まぁそれはさておき作ってみよう。
見た目は赤と黒を基調とした全長5メートル程のワイバーン。
頭部には2本の捻れた角。
容姿はこれでいいかな。
うん、作成。
現れたのは俺の想像通りの赤黒いワイバーン。かなりの魔力を持っていてかなり強そうに思える。
「ゴアアアァァァ!!!」
いきなり俺に向かって吠えてきた。たまにこうやって俺の言うことを聞かずに敵意を剥き出しにしてくるやつがいる。しかし今回のこいつはそれなりの自信作である。なにせ実はかなり見た目にこだわった。
やっぱりワイバーンとはいえ仮にもドラゴン。ならそれなりにかっこいい見た目にしたいじゃないか。
だからこの反応はちょっとショックだな。
こうやって反抗するやつは力強いと起こりやすい。まぁ彼らからすれば俺がひ弱に見えるのだろう。それは別にいいや。ただ今だけは許さん。
すると赤いワイバーンは口を大きく開けてそこに魔力を集め始めた。
ドラゴン特有のスキルであるブレス。やっぱりドラゴンにはこれがなくっちゃね。
「ゴアアアアァァァ!!!」
炎の激流が俺へと迫る。しかし俺は微動だにしない。
そして俺の身体を炎が呑み込む。
しかし特に熱さは感じないな。
正直分かってた。この程度の魔力じゃ俺には攻撃は効かない。
まぁ魔法攻撃弱体化と物理攻撃無効の種族スキルのおかげだな。この2つはかなり便利だな。
今までもこういうことはなんどもあったがその度にこの2つのスキルで攻撃を無効化して相手の心を折るのが流れになっている。
今回も赤いワイバーンは俺に炎が効いてないことが分かったのか怖気づいて数歩後退りした。
あと一押しかな? まぁいくつか試したいスキルはある。とはいえ殺さないように、ある程度の威力で。
とはいえ死霊魔法はなんか危険な気がするし実験もなしに使いたくない。
そうなると使うのは炎魔法だがこの炎のワイバーンには炎や熱に対してはかなりの耐性がある。
まぁLv10なので押し切るのだが。
「“それは世界を焼く極白の煉獄“『ホワイトノヴァ』!」
視界が真っ白に染まる。
かなり眩しいが目を覆う程ではない。まぁリッチになったからなのだろう。
そして光が晴れるとそこには翼をボロボロにした赤いワイバーンが倒れていた。
「ゴアァァァァァァァ……」
力なく悲鳴をあげている。
「もう気は済んだか?」
そう聞くと急いでコクコクと頷く。
どうやら心は折れたらしい。
しかしなぜだろう? 赤いワイバーンの瞳がシアやレヴィアが俺を見る目と同じなんだけど……まぁいいか。
その後赤いワイバーンの種族をラヴァワイバーンと名付け、22階層に送り届けた。
まぁアカリは自分に忠実な部下が欲しかったらしいがやはり俺に忠誠を誓ってたらしくてそのまま返品された。
また今度別のやつを作ると約束して収まったが癇癪起こして暴れられたら面倒だった。
ラヴァワイバーンは今では俺の部屋にペットとして住み着いている。
軽い戦闘とペットができた回でしたw
明日もこの時間に投稿します!