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懐かしい人たちと平成の終わり。 

 時代が変わるらしい。

 とは言うものの、正直、どうでも良い。

 何が変わるわけでも無い。どうせ馴染むのだから。一般市民とはそういうものだ。

 思想がぶつかり合い、商売人は改元に乗じて色々策を練り、印刷業者はてんてこ舞い。

 五月病と戦いながら僕らは生きる。


「出かけようか」

「どちらに?」

「……どこに行こうか」

「そういうところ、変わりませんね、相馬君は」

「ねー」

「そうですね」

「だね」


 男女比率が明らかにおかしい空間。

 夏樹とは久々に会った気がする。

 夏樹は大学生になって可愛いが美人になった気がする。子どもっぽさを感じていたが、それがすとんと抜け落ちて、整った顔立ちに大人びた雰囲気を纏うようになった。


「車出しますか?」

「……お願いします」


 というわけで、平成最後の朝、無計画なお出かけがはじまった。



 「情けない気分になるな」

「ですね。年下の方が稼いでいるとは」


 僕や陽菜、夏樹は学生とはいえ、年下に奢られることに居心地の悪さを感じる人間。

 乃安や莉々がどこか機嫌良さそうに僕ら三人分も含め、ビリヤードのレンタル料を払ってくれた。


「何故ビリヤードなのですか?」


 父さんとやった時以来だな。そう思いながらブレイクショット。


「……よく上を抑えずに……あれですか、某新選組三番隊隊長のとある漫画の必殺技の真似ですか?」

「よくわかったな」


 ちなみに、成功はしたものの、一個も入らないとはどういうことなのか。

 ちなみに乃安が優勝した。次の一突きで九を入れてしまった。

 次のゲームは陽菜。一突きで終わらせた。


「君らは……」


 夏樹も思わず苦笑い。

 容赦を知らないのは相変わらずか。


「よし、いくよ……」


 夏樹が構える。

 スカッ!

 スカッ……。

 チョン……。無情にも少しだけ転がり、何も成す事無く止まるボール。


「成長したのは雰囲気だけか」

「えっ、相馬くん、それはどういう意味?」

「何でもない」


 口が滑った。


「……莉々の番か」


 無難に一番に当てて終わり。


「せいっ」


 そして僕も無難に一を少し転がして終わり。


「では、私ですね」


 乃安は1を反射させ、九にあててそのまま入れる。

 一番手番が回ったゲームがこれってどういうことだ……?


「……次行くか」


 そんなほいほいゲームが終わってはあれなので、次に行くことにした。さて、何にしよう。……卓球だな。嫌な予感はするが、無難な選択な気もする。うん。

 というわけで、陽菜と僕。君島さんと乃安。

 ……君島さんが時々際どい所に打つ。強い。


「相馬君、下がって」

「よし」


 陽菜の強烈なドライブ、それを君島さんは威力を殺して返してくる。でも浮き球……。


「! 普通に打っては駄目です!」

「えっ?」

 打った球は強烈に落ちてネットにかかった。

「バックスピンがかかってました」

「へ、へぇ」


 器用なものだ。相手のミスを誘ったという事なのか。

 乃安と莉々、しばらく一緒に居たからか、物凄く息が合っている。一時期の陽菜と乃安を彷彿とさせる無言の連携。

 お互いがお互い、何を求めているかわかる、そんな。背中を預け合っている。

 僕らとは違う、僕らの場合は、僕の動きに陽菜が隙を埋めるように動く。足りない所を補ってくれる。

 連携が苦手な僕に合わせてくれる。それが陽菜だ。

 僕は陽菜を信じる。陽菜は僕に尽くしてくれる。

 僕らも、ああなりたい。僕も、陽菜を守りたい。


「完敗ですね」

「だね」

「えへへ、楽しかったですよ、先輩」



 一日遊び倒してしまった。

 あれからゲーセンに行ったり、お寿司をお腹一杯食べたり、それから何を思ったのか商店街を食べ歩きして、パンパンのお腹を抱えてそのまま葉桜を見に行って、その足で映画を見て、そして家に帰って来た。そのまま夕飯を食べた、


「どうですか? 思いつく限り遊んで」

「満足だよ」

「……相馬君がその言葉を使うのは、珍しいですね」

「そう? でもまぁ、素直な気持ちだよ」


 僕らが遊び歩いている間に、何か儀式をやっていたらしい。

 特別感を演出されても、特に何とも思わないのは僕が冷めた人間なだけかもしれない。だからみんなを付き合わせて遊び歩いたわけだけど。

 結局、無駄に人混みに突っ込んでいっただけだ。疲れたなぁ。楽しかったなぁ。


「陽菜は楽しかった?」

「はい」


 リビングンに雑魚寝している三人を微笑ましそうに眺めて、そして、ぐっと伸びをしてそして吹き出すように笑う。


「ただ楽しく遊んだだけ、それでも良いと思いますよ」

「まぁね。だって今日が終わっても僕らは生きて行かなきゃいけない」

「そうです」

「やる事も変わらない」

「ですね」

「結局、精一杯生きるしかないんだよ」

「はい。その通りです」


 一つの区切りとして丁度良いかもしれないけど、別にこの世が終わるわけでも無い。死ぬわけでも無い。

 あと五分で平成が終わる。

 三人を起こすか?

 良いや。

 ぼんやりと、いつも通りにしよう。


「何か飲みますか?」

「そうだね、陽菜セレクトで」

「はい」


 慌てて遊びに出かけたけど、それも結局日常の一ページ。突き詰めれば、僕らが必死に特別感出しても、それは日常の一ページに結局収められる。

 どこからが非日常なのだろう。

 わからないなぁ。

 時代の変わり目でも悩みは尽きない。


「一杯だけにしておきましょう」

「うん」


 グラスをぶつけて一気に煽る。

 あと一分。それも、陽菜と話してたら気がついたら過ぎていた。特別感を出すのには失敗したけど、それも悪く無いなぁ、なんて思っているから、

「あぁぁぁぁ、ジャンプし損ねたぁあぁぁぁ」

 夏樹の悲痛な叫びが朝、響き渡った。



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