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ホワイトデー短編。

 思えば、僕はホワイトデーにお返しした覚えが無い。というか、そんな習慣が無かった。 

 した方が良いかな。なんか、ホワイトデーにお返しが無かったってだけでキレる人もいる。いや、僕の周りにはいないけど。

 夏樹はこんど地元に帰って来た時にでも。あと、入鹿さんにもお世話になったから用意しておこう。とりあえず周りにいるみんなにはすぐにでも返そう。ちゃんと。

 そんなわけで、電車に乗って、アウトレットモールまで来た。とても広い。

「それで後輩に頼るというのも、先輩らしいですね。陽菜先輩なら何でも喜ぶと思いますよ」

「そうは言うけど。というか、多分そうだけど、だからって適当にしたくないんだよね」

「あはは、そうですね。流石にグミ一個でも喜んで受け取るとは思いますが、えぇ、贈る側が微妙な気分になりますよね」

「日暮相馬ならやりかねない」

「君の僕に対する印象について異議を申し立てたい」

 何故か、君島さんも着いてきている。 

 まぁ、一応返しておこう。うん。だって貰ったし。

『はい、ちょこ。やーい浮気者~』

『えぇ……』

 なんて事があった。先月、わざわざ家まで来てくれた。

 妙な罪悪感に襲われながら食べたのは今でも覚えている。


「さて、じゃあ、何が良いのかなぁ」

「食べ物にしないんだ」

「物の方が良いかなって。去年一昨年返してないし」

「そうですね。私も先輩に返された覚えがありません」


 反射的に仰け反った。理由は目の前をすさまじい速度でカッターの刃が通り過ぎたから。


「こんなところで勘弁してくれ」

「シャネルかルイビトン。莉々へのお返しはそこら辺のゴミで良いから。というか、日暮相馬からのホワイトデーとかいらないから。乃安ちゃんにはそれくらいね」

「君へのお返しを削った所でそんな金は湧いてこない」


 どれくらいするんだ、思いつく高級ブランドと言われたら僕も君島さんと同じところだが、安くておいくら万円なのだろう。

 そもそも、何を売っているんだ。服? 鞄? 時計?


「あ、あはは、そんな張り切らなくても、それこそ、某黒い稲妻でも良いですよ」


 僕の周りの人は、優しいなぁ。


「とりあえず、陽菜のだな」

「そうね。日暮相馬にしてはまともな判断ね。日頃お世話になってる彼女にちゃんとプレゼントを用意しようと考える。素晴らしいと思う。珍しく褒めてあげる」

「はいはい。まぁ、陽菜の誕生日、今年、ちゃんと祝えなかったからなんだけど」

「あんた、あと千回死んどく?」

「まだ一回も死んでない」 


 今日はいつもより殺意マシマシだな。

 まぁ、怒られるだけの事をした自覚はあるけどさ。ちゃんとお返しはしよう。うん。


「乃安には、これかな」

「ふぅん。センスあるね。莉々のは?」

「あっ、いるのね」


 それだけで殺せそうなくらい鋭く睨まれる。


「受け取って欲しいの? 受け取って欲しく無いの? 莉々としてはそうちゃんのプレゼント受け取るのもやぶさかじゃないけどなぁ」


 わざとらしくイヤホンをちらつかせる。持ち歩いていたんだと意外に思いながら、顎に手を当てる。莉々にプレゼントか。


「莉々って、そういえば甘いの好きだよね」


 ギリッと歯ぎしりが聞こえたのは無視して、考える。


「いや、食べ物じゃなくて……決めたっと」

「……莉々ってそんなに寒そう?」

「うん」


 陽菜には。陽菜には……。




 「早く決めなよ。日暮相馬」

「ごめん」


 わからない。どれを贈っても、喜んでくれる顔は浮かぶ。けど、どれを贈っても、僕が満足しない。


「悩みますね。先輩」

「うん、どれもしっくりこないんだ」 


 夏樹や入鹿さんのはすぐに決まったし。乃安や莉々にはもう渡したなのにだ。


「仕事に使えそうなもの。新しい服。陽菜の好きそうなもの。全部見つかった。なのに、どれもしっくりこない。わかんなくなってきたな」


 意外と陽菜の事わかってないのかな……。 


「あぁ、わかった。なるほど。違うよそうちゃん。そうちゃんは自分の事がわかっていない。そうちゃんが本当に陽菜先輩に差し出したいものがわかっていない」

「どういう意味さ」

「莉々はわかったよ。そんなわけでそうちゃん。百均いこうか」

 


 「おい」


 自分でも驚くくらい低い声が出た。


「乃安」

「すいません。先輩。こればかりは、私も莉々が正解だと思うので」

「くくくっ、我ながら面白い……」


 乃安の後ろで、君島さんは腹を抱えている。笑い過ぎだ。


「本当にこれで……」

「相馬君。どうかされましたか? わざわざ呼び出すとは……。これはどういうことですか、乃安さん」

「相馬君の指示です」

「また珍妙な恰好ですね。自分にリボンを巻くとは」


 自分の部屋でする恰好ではない、いや、日常でする恰好ではないだろう。自分の頭にリボンを巻くのは。


「では。私は失礼します。行きますよ。莉々」


 ぱたんと扉が閉まり、階段を降りて行く音。

 陽菜と二人。向き合う。

 答えはわからない。、なぜ自分にリボンが巻かれたのか。

 考える。何でだ。あの二人は何がわかったというのだ。


「陽菜……」

「はい」

「ホワイトデーのお返し、何も思いつかなくてさ」

「お気持ちだけで十分ですよ」


 優しく微笑んでくれる。本当に、表情が少し豊かになったな。


「それでさ……」


 言葉が出ない。答えが出てないから。

 いや、もうわかっているだろ。正直になれ。


「自分を差し出すくらいしか、思いつかなかったんだ。陽菜、お返しは、僕の人生だ。陽菜を信じる」

「ふふっ」

「何さ」

「その格好で言われると、シュールですね。……私の命も、心も、身体も、相馬君の物です。相馬君も、私に差し出すと、そうおっしゃられるのですね」


「うん。陽菜への思い、まだ返しきれないや」

「いえ、私が相馬君に感じてるものは、まだまだ返しきれてない、そう思っていますから」


 お互い微笑んで、そして、どちらからでも近づいた。


「それではさっそく、相馬君のこと、好き勝手させてもらいますね。いつも好き勝手されているので……」

「え。えぇ」

 

 乃安には腕時計。莉々にはマフラーと手袋セットで。って感じだ。

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