幽霊の日特別編
これは七月二十六日に投稿したものを再投稿したものです。
陽菜は幽霊が苦手である。夏樹は得意である。
そこでふと気になった、乃安はどうだろう。と思ったので連れ出してみた。
ちなみに僕は逃げるしか手がない相手は無理。幽霊がもし倒せる存在なら大して怖くはない。
「先輩からのお誘いですか〜」
呑気なものである。これから夏樹主導、ノリノリの陽菜。部活のない京介に入間さんまでが参加した恐怖企画があるというのに。さて、乃安、良い声で泣い……何を言っているんだ? 僕は。ちなみに京介と入間さんは、そんなもの存在するわけないじゃんと、中々のリアリストで、京介に至っては心霊現象を科学的に証明してきた。こいつ、本当、変なところ凄いよな。
そんなわけで、科学的に再現可能な心霊現象まで、京介の協力で実現するわけだから、なかなか恐ろしい。
さて、じゃあ、早速だが、夜の学校の前に僕と乃安が立ったところで心霊現象はスタートする。まだギリギリ明るいが、この時間の方が不気味だという事で選ばれた。誰そ彼。薄暗くなり人の見分けがつかない時間帯。というのは建前で、まだギリギリ学校が開いている時間帯を選んだのだ。
「じゃあ、行こうか」
「はい、それで、どんな用事ですか?」
そういえば、乃安は用事を聞かずに来てくれと言ったら着いてきてくれたな。流石メイド。
「ちょっと忘れ物してね」
「あー。了解です。ならサクッと取ってきてしまいましょう」
乃安は意気揚々と歩き出す。さて、仕掛けは終わっているかな。
廊下を進んでいくと、早速、廊下の向こうから何かが歩いて来たと思ったら消えた。
「? あれ?」
乃安は当然反応した。
「ふむ、なんでしょうか? あれ」
「さぁ」
「気のせいですかね?」
乃安は驚きはしても大して怖がっていない。
なんだ、つまらない。陽菜ならもう少し怖がるだろうに。あーあ。いや、まぁ、まだか。
二階に続く階段。二階が三年生の教室。だからまぁ、そこに向かう。その時、バチン! と不自然な音が鳴った。と同時に、青い炎が唐突に三階から投げ込まれた。と思ったらすぐに消えた。
乃安はきょとんと首を傾げる。
「はて、何でしょうか?」
反応は鈍い。追い打ちをかけるように、掃除用具入れがガタガタ揺れ出す。乃安はその細く長い足を素早く動かし、掃除用具入れに飛びつく。開けようとするが、開かない。
「……そうですか。そのつもりですか。なら」
ぶんと足を振り回し、除用具入れを入口が下になるように蹴り倒した。
「なっ! おい! 相馬! 助けろ!」
「えっ、あー。うん」
流石に、可愛そうになったから掃除用具入れをひっくり返した。
乃安と京介のファイトに気を取られていたが、周りの絵画とかも倒れていて、ポルダーガイストな状態だった。結構頑張ったんだな。
「乃安、全然怖がらないんだな」
「はい。昔から、陽菜先輩がガタガタ震えて怖がるもので、逆に私が怖がらなくなってしまいました」
小さな人影が三階からすっと飛び降りてきて、乃安の首を後ろから締め上げた。
「うぐぐぐぐぐぐ」
「乃安さん……もう少し、言い方を考えてはいかがでしょう……」
「す、すいません……」
解放されたけれど別に特に苦しそうでも無かったけどな。
「まぁ、そもそも、幽霊とかいるのですかね? それに、そもそも、生きてる人間の方が怖いですよ、死んだ魂なんかより」
どこか、遠い目をしながらそう言って笑った。