大学一年の冬行事。
正月。何て言っても、今年は喪中だ。陽菜の母親が、亡くなったから。
だから、慎まやかに過ごす。
クリスマスを思い出せば、メイド派出所で毎年行われるパーティーに参加した。
メイド長の隣で飲む葡萄ジュースは、緊張であまり味がわからなかった。
陽菜は、その日だけ復帰ということで、半年と少しぶりに、メイド服に袖を通した。
「……こんなに時が経っても、私はこの服が一番しっくりきます」
とのことだ。
パーティーが終わり、割り当てられた部屋。陽菜と乃安と三人で飲みなおす。
余った料理はたっぷり貰って来た。パーティー料理は冷めても美味しいが基本らしく。そしてその通りで、美味しい。
ピザも唐揚げもエビフライも、チキンの照り焼きも。夜中に食べるには重いとは思うけど、そこは若さに任せて。
「みんな、順調に腕を上げてますね」
乃安はそう言って陽菜を見る。
メイド服を脱ぎ、完全普段着の陽菜は、少し困ったように笑う。
「どうかした?」
「いえ、もう私は違うはずなのに、彼女たちの成長を嬉しく感じる。変、とは少し違いますが、違和感、ですかね?」
「後輩思いのどこが変なんだ?」
「……そうですね、確かに、変な違和感でした」
困ったような笑顔が、少し柔らかくなる。
陽菜は、よく笑うようになった。ふとした時の笑顔が、増えた。
それから、十二月三十一日。
蕎麦と海老の天ぷら。
香りが良い麺だった。食感の良い海老だった。
食べ終わり、何となく午前零時を迎え。そして、陽菜は言った。
「初詣、行きませんか?」
「えっ?」
「思ったのです。喪中とはいえ、あの人が、こういう風に私たちに気にされることを、望むのでしょうか、と。慣例のようなものとはいえ」
だから、行きましょう。
そう言って陽菜は、コートを差し出した。それを着ると、マフラーを付けてくれる。手袋を差し出してくれる。
乃安も呼んだ。お風呂に入る直前だった。本当に、思い付きだったようで、乃安も少し慌ててた。
歩いて行く。優しい、冬の香りを感じながら。冷たい空気で肺を満たして。
「相馬君、心が壊れる時って、どういう時なのですかね?」
不意に、陽菜は言った。
「急にどうしたのさ?」
「私は、今正常でしょうか?」
陽菜が一番追い詰められていた時……メイドとしての責務と、自分の気持ちの間で、揺れていた時。
相反する物が同時に心に発生して、お互いが譲らず引っ張り合えば、心は簡単に、壊れる。
「わからない。わからないけど、でも、僕がいる。乃安もいる。ダメな時は、頼って欲しい」
「……おぉ」
後ろから漏れた声は、乃安のものだ。
陽菜も、驚き目を見開いている。
「相馬君から、頼るという言葉が出ましたね」
「えぇ。びっくりです」
「……なんか酷くない?」
神社は賑わっていた。
その中を、はぐれないように、歩いた。
僕たちは、歪かもしれない。
でも、僕たちは、一緒にいる。歪んだ部分も、組み合わせれば、真っ直ぐに見えるかもしれない。
あけまして、おめでとうございます。
新年一発目の投稿は、これです。




