表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/23

二年秋。ハロウィン。

 扉を開けた時、僕は目の前の光景にすぐさま扉を閉めて、もう一度開けて、そして閉めた。


「うっ、うぅ。先輩、そんな、見なかったことにしようみたいな反応は勘弁してください」


 猫耳を付けた乃安。いつもからかうような雰囲気で、悪戯っぽい笑みを浮かべている後輩は、頬を赤く染めてもじもじしていた。


「乃安ならノリノリでやりそうなものだが」

「人にするのは良いですし、人に強要した後、自分もやるのは好きです。でも、自分一人だけでやるのは、勘弁してもらいたいです」

「つまり、陽菜は何もコスプレていないと」

「はい」


 嘆かわしい。事件である。

 これは、僕が一肌脱がねばなるまいて。


「というわけなんだが、陽菜。何かしてもらえないか?」

「猫耳事件で学んだ私は、もう迂闊な事はしませんよ」

「去年の事、まだ覚えていたのか」

「猫耳事件ですか?」


 首を傾げる乃安の肩に手を置いて黙って頷いておく。賢い彼女ならそれだけで察してくれるだろう。


「悲しい事件なのですね」

「いや、非常に面白かったぞ」

「相馬君!?」

「陽菜のにゃ……」

「お願いします。そこまでにしてください。相馬君の希望のコスプレ何でもしますから!」


 僕としては、家出から帰ったばかりの人間として、あまり大それた要求はし辛いが、陽菜本人が言うなら仕方あるまいて。

 よし。それじゃあ。


「……何にしようか」

「考えてから発言しましょうよ、相馬先輩」


 乃安の苦笑い。猫耳はご健在である。流石に慣れたのか、もういつも通りな感じである。

 ……先輩? 年下……そうだ!


「よし、決めた」

「はい」

「後輩……お兄ちゃん……」

「えっ、先輩、それは……」


 ヤバい、直前で迷ってしまう。

 くっ、どうしたものか。いや、ここは。


「妹のコスプレだ。陽菜」

「えっ……」


 陽菜が珍しく困った顔をしていた。

 夏樹に呼ばれていた時は、なかなか精神的にきつかったから、陽菜で中和することにしよう。去年の冬の事だったな。


「妹、いたらいいなって思った時期があったな」

「お兄ちゃん」

「へ?}

「お兄ちゃん、どうしたのですか? 顔赤いですよ」


 陽菜が、身を寄せて来る、いや、もはや密着させてくる。


「ちょ、ちょっと待て?」

「どうしたのですか? 具合悪いのですか? お兄ちゃん」


 うぐ、ヤバい、上目遣いが心臓にダイレクトに効いている。


「待て、陽菜。やっぱりいい」

「えっ? 何でですか? お兄ちゃん」

「心臓が持たない」

「わかっていますよ。相馬君。乃安さん、猫耳取って良いですよ。やはり我が家のハロウィンはカボチャを食べて終わりですね」


 地味だが、やはり僕らには、落ち着いた日々が丁度良い。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ