焼肉の日。
陽菜と焼肉を行くのは、わりと楽しかったりする。
真剣な目で肉と真剣に向き合う様子は、微笑ましい。そこに乃安が追加されれば、珍しく力を抜いて純粋に食事を楽しむ乃安が見られる。莉々を追加すれば、黙々と野菜を食べているところ、肉をさらに置いて甲斐甲斐しく世話を焼く乃安が見られる。
「だから急に焼肉に行こうって言ったの? そうちゃん、なんか、あれだね」
「あれってなんだよ。あれって。乃安が珍しく帰省したから、ちょっと懐かしい気分に浸りたくなっただけだ。僕もメイド長に休み貰ったし」
僕の思惑を聞いた莉々は、呆れ顔でため息を吐く。
おじいちゃんの旅館で修行中の乃安は、お盆が終わり、シーズンも過ぎたという事で、休暇を言い渡された。ただ、乃安は案外仕事人間なのかもしれない。休みの日、僕が莉々と過ごす以外の過ごし方が思いつかないとのこと。
まぁ、陽菜もその感じがある。案外、メイド派出所に所属している人々の共通点かもしれない。
メイド長の所で修行している中で、結構メイドの人たちと接する機会があるが、僕の印象はわりと当たっている気がする。
土日なのに武道場での鍛練に誘われたり、陽菜が自習しているメイド達の指導に回ったりして、ずっと自分を磨き、高め続けている。
自室にこもっているメイド達は、部屋で遊べるもの、PCゲームやテレビゲームに偏っていく傾向が見られるのはそういう事か。
乃安、遊び方を忘れたのか。
乃安のアパートにあったゲーミングPC、僕の部屋に置いてあるからなぁ、今も。
「ほら、莉々、お口開けてください」
「の、乃安ちゃん。自分で食べるから」
微笑ましい。
「相馬君。どうですか、このぶ厚さ。きっと美味ですよ」
「あぁ」
陽菜は坦々と肉を焼く。ふと思う。呼んで良かったのか。居づらく無いのか。
「相馬君。くだらない事考えましたね。今」
「くだらない、のかな?」
「はい。取るに足らない悩みです。私が居づらいわけ無いじゃないですか」
「全部お見通しですか」
流石陽菜である。
さす陽菜。ってか。
「まぁ、楽しんでくれているなら、僕は良いんだけど」
「はい。なので黙って私の焼いた肉を食してください」
「ん」
「まぁ、イチャイチャするのはこのくらいにしておきましょう。乃安さんは浮気を許しませんから。たとえ私が相手でも」
陽菜の視線を追う。その先には、じーっと僕を見る乃安がいた。
「相馬先輩。はい、悔しいですが、私は浮気を許せる気がしません。捌いて食べてしまうかもしれません」
「こえー。ヤンデレとか軽く超えてるじゃねぇか」
「莉々も手伝う―。食べないけど」
「えぇ」
「うじうじが移りそう」
「んな、病気じゃねぇんだから」
あれだな。これ、僕という人間を知り尽くした人たちの集まりなのか。そうなると、争っても僕に勝ち目無い。はは。
でも、知ってもらえている、というのは嬉しいな。嬉しいけど、それに甘えすぎるわけにも行かない。
「さて、ここは僕が持つよ、会計」
「太っ腹だね、日暮相馬のくせに」
莉々はニヤニヤしながら、辺りを見回す。そうだ、今の僕の状態は、見目麗しき女性三人を連れている状態。要するに、会計を分けたりしたら、、うん。視線が痛くなる。
「じゃっ、これくらいしておこっか」
そう言って莉々は顔を近づける。頬に感じる柔らかな湿った感触。
「り、莉々さん?!」
「莉々、何してるの?!」
「ん? 二人もする?」
「い、いえ、ここでは」
「そうです。そういうことは、家とかでするべきです」
そういえば、陽菜が外で仕掛けてきたの、二回、くらいだな。多い、のか? わからね。
「ふぅん、まぁ良いけどじゃあ、お暇しようか」
夜中、この時の事を思い出したのか、声をあげて悶えてる莉々の声が聞こえた。




