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第7話[超天才は友達のために戦う]

 それからのグレイは、まるで生まれたての雛みたいにネアのあとを付いて回り、徐々に周囲と打ち解けていった。


 悔しいが、ネアの目論見は成功したのだ。

 最初は敬遠しがちだったクラスメイトたちとも、ネアを介することで会話する機会が増え、少しずつお互いの警戒心を減らしていけた……、ような気がする。

 

 悪くなかった。


 教室にいるのがちょっとだけ楽しくなった。


 挨拶を交わしたり、至極どうでもいい話で笑い合ったり。

 宿題のことで愚痴ったり、弁当のおかずを交換したり。


 グレイは、"普通"ってこんな感じなんだな、と不思議な気持ちで毎日を過ごしていた。


 とある日の朝。


「おはよう」


 席につき、自分から前の席の子に話しかける。


「おはよー、バーンアウトさん」


 彼女は笑顔で応えてくれたあと、


「ねえ、今日はネアと一緒じゃないの?」


「迎えにこなかったからたぶん寝坊」


 言いながら背負っていた鞄を机の横に引っかけ、授業道具を取り出す。


「そっかー。じゃあ遅刻かもねー」


「聞いてよ。あいつ昨日、宿題写しにウチまできたんだよ。なのに遅れてくるとかバカすぎでしょ」


「あはは……。でも写させてあげたんだ。優しいね」


 褒め言葉を聞いた瞬間、体温が急上昇する。


「べ、別にそんなんじゃないし。あいつがどうしてもって言うから仕方なくだし」


「バーンアウトさんったら照れ屋なんだから」


「くっ……!」


 くすくす笑う彼女に反論しようとしたが、火に油を注ぐだけだ、かえって墓穴を掘りかねない、と直感してやめた。


「グレイ・バーンアウトはいるかァッ!!」


 叫び声に振り返る。


 顔の大部分に包帯を巻いた女子が、教室のドアを蹴破っていた。背後には何人もの男女を連れている。


 彼女はグレイと目が合った途端、犬歯を剥き出しにして迫ってきた。


「どけ!」


 たまたま道を塞いでいたクラスメイトが薙ぎ倒される。


 グレイはその横暴さに沸々と沸き上がる熱さを胸の奥に感じ、眉間にしわを寄せるという形で表に出す。


 突然の来訪者たちは、グレイを完全に包囲した。


「あたしに何か用?」


 グレイは特に身構えるでもなく、座ったまま問う。


 包帯女がグレイの机を強く叩く。


「『何か用?』だと? てめえアタシをこんな目に遭わせといてよく言えるなぁ!? 自分のしたことを覚えてねえのか!?」


「……? ごめん、なんのことだかさっぱり。ってゆーかあんた誰?」


「クソガキが……!」


 女は包帯を外す。

 りんごの皮みたいに。


 真っ白なそれの下から出てきた顔は──、茶色に焼き爛れていて、ひどく醜い。

 生身の人間に焼け死んだ人の頭を無理矢理くっつけたような醜悪さだ。


 しかし、女の仲間たちが壁になっているのでグレイ以外には見えておらず、どこからも悲鳴は上がらなかった。


「これでわかったか?」


 わからない。

 いや全然まったく。


「うわぁ、ひどい火傷。家が火事にでもなった?」


 とりあえず思ったことを口にした。


「て……、てめえっ!!」


 ブチ切れた顔面焼死体女が殴りかかってきた。


 グレイはちょうど握っていたペンをさらに強く握りしめ、先端を迫りくる拳の軌道上に置く。


 必然、女の拳にグレイのペンが突き刺さる。


「ぐぁあぁぁあっ!?」


 女が出血部位を押さえて後退する。

 壁になっていた仲間たちを巻き込み、教室中に火傷だらけの顔をさらす。


「きぁああああ!」「な、なんだよ、あの顔!?」「ひでぇ……」


「ぶっ殺せ!」


 教室の混乱と女の指示が起こるのは同時だった。


 一斉にグレイめがけて殺到し、押し寄せてくる高波のような光景を作る、女の仲間たち。


 逃げ場はない。

 すでに囲まれているのだから。


 あるとすれば──、上。


「……《アクセル》」


 呪文で身体能力を強化し、高速で集団を跳び越え、


「え?」「あれ?」「き、消えた!?」


 その後ろで、机に腰掛けて優雅に足を組んだ。


「あのさぁ」


 彼らはすぐさま翻る。


「誰が誰をぶっ殺すって?」


 グレイは顎を引いて目を細め、挑発の意を込めて笑った。


「「「っ……、うおおおお!」」」


 再び襲いくる人間波濤(はとう)


 普通の少女ならタコ殴りにされて終わりだろう。


 だが、ここにいるのは『最も偉大な魔法使い』アデルソン・バーンアウトを上回る超天才、グレイ・バーンアウトだ。


 結果だけ述べよう。


 グレイは、誰も傷つけずに無力化した。


「雑魚がいくら集まっても無駄だよ」


「そこまでだ!」


 火傷女が、先ほどグレイと話していた女子生徒を人質に取っていた。

 ナイフの切っ先を頬のあたりに突きつけている。


「……離せ。そいつは関係ないだろ」


「土下座して私の靴を舐めろ。そうしたら解放してやる」


「そのあと自分がどうなるか想像つかない?」


「うるせえ! アタシは本気だぞ!」


「っ、やめろ!」


 ナイフが動く。

 女子生徒の肌が切り裂かれ、赤い雫が流れ落ちる。


 それが顎の輪郭を伝い、落下し、床にぶつかって弾ける直前──


 グレイは一瞬で距離を詰め、火傷女の顔面に渾身の右ストレートを叩き込んでいた。


 女は窓ガラスを粉砕して外に吹っ飛ぶ。

 

 グレイもそれを追って割れた窓から飛び出し、女の着地地点に先回りする。


「う、ぁ……」


 土埃の中、女は呻く。

 かなり弱っているようだが、そんなことはどうでもいい。


「あんたはやってはならないことをした」


 自分でも驚くほど冷たい声が出た。


 ……ああ、そうか。

 あたしはあたしなりにみんなとの友情を感じるようになり、そして友達を傷つけられたことに怒っているんだ。


 気持ちを抑えきれない。

 目の前にいる人間がただのモノに見える。


 なら──、(こわ)しちゃってもいいよね?


「ま、待て! 悪かった! 謝るから許し」「許さないよ。《グラビティ》」


 強力な重力場を発生させ、死なない程度に押し潰す。

 いっそ死ねたら楽なのに。

 そう思えるくらいの絶妙な力加減を心掛ける。


「ぁ……、あが……、ぃぃ……!!」


 キャンセル。


「《コキュートス》」


 次は寒氷地獄。

 冷気の竜巻に相手を閉じ込める。

 雪山で遭難した気分にさせられるだろう。


「ひぃぃぃぃいぃい……!」


 キャンセル。


「《インフェルノ》」


 最後は炎熱地獄。

 寒いなら暖めてやろうという親切心だ。

 体の芯まで存分に味わうがいい。


「あアああぁァぁアアぁああッッ!!」


 キャンセル。


 確認。

 大丈夫。

 まだ死んでいない。


 けれど、彼女はもう元の生活には戻れない、見るもおぞましい体になっていた。


「あはははは! 弱いくせにあたしに逆らうからこうなるんだ!」


 気に入らないやつを圧倒的な力で蹂躙するのは爽快だ。


 自分はこのために生まれたんだと、世界のすべてに感謝したくなる。


「はー……、こんなに笑ったのは久しぶりだよ。ありがとね、謎のおねーさん。生きてたら今度お見舞いに行くね。じゃあ、あたしは教室に戻るから」


 風の魔法ゲイルで自分を浮かせて運び、ガラスの破片に触らないよう気をつけて窓枠をくぐる。


「みんな、もう大丈夫──」


 空気が凍っていた。


 誰もグレイと目を合わせようとしない。


「ああ……」


 グレイはその意味を理解する。


「こっちだって、初めからあんたたちみたいな凡人と馴れ合うつもりはなかったよ」


 鞄を回収し、廊下へ出た。


「はっ、はっ、はっ、はぁっ……!」


 やけに荒い息遣いが聞こえた。


 グレイが進もうとしている方向からだ。


 ネアが全力疾走していた。


 ネアはグレイの姿を捉えると、減速して目の前で止まる。


「グレイちゃん? どこに行くんですか?」


「あんたには関係ない」


 グレイはその横を通り過ぎる。


 しかし、肩を掴まれる。


「関係なくないです。教室に行きましょう。ちゃんと授業は受けないとダメですよ」


 嫌だ。


「それにほら、友達だってたくさん待ってくれてるでしょう?」


 友達なんかいない。


「ようやく居場所ができてきたところじゃないですか」


 ここはあたしの居場所じゃない。


「グレイちゃんってば」


「うるさい!!」


 ネアの手を振り払う。


 そして睨みつける。


「なんの才能もないやつがあたしに指図するな」


 グレイはそう言い放ち、職員室に向かった。


 ネアはもう追ってこなかった。

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