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ストラテジー~知略の勇者~  作者: 鷹飛 諒
第二章
30/31

~模擬戦開始~

大変お待たせいたしました。どうも! 鷹飛 諒でございます!

今回も生温かい目で読んでやってくださいな。

では!


「え?」


「模擬戦だよ。模擬戦」


 全員の目が点になり、固まったまま動かないでいる。全く忙しい奴らだ。


「このまま言い合っても仕方ないだろう。時間は有限だ。ジート達対ダニエル達で戦って勝った方の言うことを聞く。どうだ? ちょうど人数もきれいに分かれてるし、今の状況にぴったりの解決策だろ?」


「…………」


 オレの言葉に耳を傾け、オレに向いていた体をいつのまにかお互いに向けあっている。すでに答えは決まっているみたいだ。


 オレはさっさとお互いに睨みを利かせている両陣営を引きはがし――って早く離れろよ‼ こいつらいつまで火花散らせてんだ。半ば強引にそれぞれの体を押し返し、模擬戦の最初の定位置で準備をさせる。


 オレは模擬戦の邪魔にならないよう土手を上り、来るその時まで静かに騎士たちを見守っている。


 訓練場目一杯に距離を放し、さながら戦争の開戦前のような重々しい雰囲気があたりを覆いつくす。


 準備万端、気合十分の騎士たち。


 オレが手を一振りすれば男たち戦いが始まる。


 高まる緊張を切り裂くように、オレは掲げる手を振り下ろした。


『うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼』


『おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼』


 振り下ろされた手によって空間が切り裂かれた瞬間、両陣営から全身の毛が逆立つほどの覇気がオレの目の前でぶつかり、それが圧となって一帯に広がり、土手の傾いた地面を沿うように這ってオレの所まで勢いよく風が吹き、髪も服もはためいた。


「すごいですね。彼ら」


 模擬戦の結果を見届けようとオレとなりに並ぶ壮介たちが、盾を構え、槍を突き出す彼らに驚愕の声を漏らす。


 壮介の視線の先にはジート達が一糸乱れぬ突進で、ダニエル率いる騎士たちに突撃を仕掛けている。


「和人君は今回の模擬戦はどちらが勝つと思う?」


 壮介の陰からひょこっと顔を出し、オレの顔を見つめる涼音。


 その少しかわいらしい仕草に苦笑しながら、即答する。


「それはもう完全にジート達だな」


「贔屓目なしに?」


「贔屓目なしに」


「でも、確かにジートさん達は和人とあのオーガ達を倒したってのはすげぇけど、ダニエルさん達貴族上がりの騎士たちは平民から徴兵された騎士たちより何年も前から訓練してきてるんだぞ。オレはダニエルさん達が勝つと思うぜ」


「私も、そうじゃないかなと思う」


 大樹や琴音もオレの即答に疑問を持ったのか、些か的を得た反論が返ってきた。


「まぁな。でも、その答えじゃ七〇点だな」


「え?」


――ギギギギイイィィィィィィィィン‼


 突如として鳴り響いた金属音に大樹達が体を震わせる。


 ファランクスの隊列を一切崩さず、お互いに主導権を握らせない。


『がああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼』


『ぬおおおおぉぉぉぉぉぉぉ‼』


 それでも、徐々にジート達は押され気味に後退し、逆にダニエル達は勝利を確信したような笑みを浮かべ、槍を振り上げる。


「ファランクスは初手で主導権を握られないようするための防御策みたいなもんだ。土台が強ければ強いほどそれは攻撃にも生かすことができる。だが、当然地力の差が違えばそれは如実に目に見えて現れる。まぁ、今のジート達じゃこんなもんか。あいつらは瞬間のインパクトはすげぇが持久力はまだまだだな」


「じゃあ、もう勝ちは決まったな」


「そんな簡単じゃねぇよ戦いってのは……こと集団戦においては様々な要因で勝敗が決定する」


「……それじゃあこの後の戦いの顛末がお前にはわかるってのかよ」


 オレの言葉に大樹が少し不貞腐れたように屈み、口を尖らせながら言った。


「まぁまぁ」


 琴音が慣れた対応で大樹を宥める。


――てか、大樹の奴ヤンキー座りが似合うな。


 そんな変なことを考えていたことを見抜かれたのか、気が付けば大樹はオレに恨めしそうな視線を向けていた。


 紛らわすように咳をしながら話を続ける。


「力の差はダニエル貴族派が優勢。だが、ジート達の方が長くあの隊列に触れているからな。強みも弱点も分かってるからな、対策はどうとでもできる。力量と経験値がお互いに拮抗すれば、十中八九……乱戦になる」


 オレの言葉に呼応するかのように依然すんでのところで膠着状態だった戦況が動いた。


 ジート達は完全に押し負け、ダニエル達がジート達のファランクスの中へと割って入る。


 ファランクスが瓦解しても慌てた様子もなく、それどころかダニエル達を誘い込むかのように息の合った一糸乱れぬ動きで大きく後退する。


「ふん、怖気づいたか!」


 すっかり熱くなってしまっているダニエルの視界は極限までに狭められていた。そううまく仕向けたのはジート達だが、それにしても相手の心情をうまく利用したものだ。


「……くっ、まさか!」


 しかし、ダニエルもまた貴族。腹芸には多少の体制があるらしい。異変にいち早く気付き、突撃を寸前で取りやめ、足に急ブレーキをかける。巻き上がるの砂煙が上がり、一瞬の隙ができたのをジートは見逃さなかった。


「行くぞ!」


『おう‼』


 ジートの合図とともに仲間たちが左右に分かれ、ダニエル達を左右で挟みこむ。


「なっ!」


 今まで一つだった隊が二手に分かれ、判断が遅れるダニエル。


 ジート達はファランクスの弱点である右翼に間髪入れずに切り込んでいく。一瞬の隙をついて逆に突撃を仕掛けるジート達。瞬間の攻撃力に強いジート達であればファランクスを崩すのは容易だ。


 右翼を崩されたダニエル達はすぐさま左翼からも攻め込まれ、完全に隊列は崩壊した。


「くっ怯むな! 自力では我らが勝る‼」


 ダニエルが吠えると騎士たちは槍を投げ捨て、腰に差した剣を抜き、構える。


「…………」


「ほらな」


「さすがですね、和人」


 壮介が感心したように顎を指でつまみながら頷き、大樹はあんぐりと口を開けていた。


「……い、いやまだ勝つとは決まってないだろ」


 大樹はかろうじて抵抗を見せるがその声は弱々しかった。


「いや、ジート達の勝ちだよ」


「なんでわかんだよ」


「ダニエル達は貴族だからな」


「はぁ?」


 オレの言葉で全員の視線がこちらに向く。その表情はどれもオレが何を言っているのか分からない様子だった。


「この世界に文明の進み具合は、俺たちの世界でいう中世、戦争の技術は俺たちの知らない要素もあるから一概には言えないけど、そこまで発達はしていない。おそらくは魔法っていう強大な力があるせいで、戦術、戦略ってのがそこまで洗練されなかったんだろうな」


 オレの分析に涼音達が真剣に耳を傾けている。


 屈んでいた大樹も立ち上がってオレの話を聞いていた。


「そんな発達の遅れた戦争、旧時代においての戦争の大原則は一騎打ちだ」


「一騎打ち」


「そう、一騎打ち。この世界の戦争は貴族、そして選ばれた騎士団の仕事だった。プライドがあって選民思想が強い、選ばれたって自覚があってそれを誇示したくて、戦争は選ばれた者同士がやるもの、格式ある行為の側面が強いし、本人たちはそんなことも毛ほども考えちゃあいないんだろうけどそういうのが染みついちゃっているんだろうな」


「…………」


「だが……現代戦争において大原則はそれとは真逆、常に自分たちが有利な状況を作り出し、最小限の犠牲で最大限の戦果を挙げることを目的とする」


「くらええぇぇぇ!」


 ダニエルが剣を振りかぶり、火花を散らしながらジートが槍でその剣撃を受け止める。


「ワイリー‼」


 ジートが吠えると、ダニエルの横からワイリーが先ほどまで相手していた騎士を振り払ってわき腹目がけ突進を仕掛けた。


「ぐあっ‼」


 わき腹の衝撃に体は耐えきれず、くの字に折れ曲がり大きくよろめく。吹っ飛ばされなかっただけさすがは鍛え抜かれた騎士だけはある。


「ぐっはあぁぁ‼」


 ジートはすかさずよろめいたせいで大きな的になったダニエルの胸を目掛け、槍を突きこんだ。


「すげぇ…………」


 大樹が呟く。


 ジート達は常に二対一、もしくは三対一の状況を作り出し自分たち有利な状態を維持していた。


 一人は攻撃を受け止め、一人はその一瞬の隙をついて攻撃を浴びせる。仲間が襲われそうなら近くにいる仲間がすぐさまフォローに入る。


「現代戦争では有利な状況を常に作り出すよう画策し、各個撃破するのが通常の戦術だ。それが卑怯と言われようが腰抜けの戦い方だと言われようがこれが魔族に対抗するための手段だ」


「くそ、くそ、なんでだ‼」


 衝撃から立ち上がったダニエルが力任せに振り回す。だが、技術はなかなかのもので怒りか焦りか感情は分からないが激情に身を任せてもその剣撃で何人もの敵を薙ぎ払っている。


 次々と倒れていく仲間たちに気を取られたジート達の一瞬の隙をダニエルは見逃さなかった。


 ジートまでに立ち並ぶ仲間たちの間を縫うように繊細な身のこなしでジートに迫っていく。


「うおおおぉぉぉぉ‼」


 切っ先をジートに向け流れるような剣さばきで振りかぶる。


「お前のことは初めから警戒してんだよ」


 ダニエルはその言葉の意味を目で理解した。


 ジートがそう呟いた瞬間、ダニエルの剣激を阻むように盾を持った騎士三人が現れた。


 ダニエルの剣撃は甲高い音を鳴らすだけに終わり、火花が目の端に映る。


 盾の陰に隠れ、徐々にその姿を現したジートは槍を構えていた。


「終わりだ」


 ダニエルの胸へと吸い込まれた槍の衝撃はダニエルの頭を揺らし、今度こそ意識を奥底へと吹き飛ばした。


 ジートは息も絶え絶えで、痛む肺を手でかばいながら横たわるダニエルを見下ろす。


「俺達の、勝ちだ」







 模擬戦を行った騎士たちのほとんどが倒れ、立ち上がっているものはほんのわずかだった。


「ジート……」


「ああ、俺は大丈夫だ」


 ワイリーが心配そうにジートを見つめ、背中をさする。


「なんでだ、なんで……」


 意識を失っていたかと思っていたが力尽きて動けなくなっていたらしい。本気で突き込んだつもりだったが、こんなにも頑丈であるのはただ素直に尊敬してしまう。ジートは敵ながらあっぱれと苦笑してしまった。


「……なんで、責めない。……なんで、前を向ける。お前たちは守られる存在だったはずだ! 私たちは貴族だぞ、私たちが戦うはずだった、勝つはずだった……だが負けた。民も死んだ。お前たちも奪われただろう! あの怪物の姿を見ただろう! 負けたのは私たちだ! なのになんで責めない! なんで強くなろうとしている! なぜ立ち上がれる! 私たちが強く、ならなきゃ、いけないのにっ!」


「そんなことを、思っていたのか……」


 ダニエルは意識が朦朧としているのか、言葉は途切れ途切れで声がかすれ、聞き取りにくかった。だが、伝えたいことはわかった。


「やっと終わったな」


 戦闘の行く末を見届けていたオレ達は斜面を駆け下り、ジート達を労いに近づく。


「…………」


 勝敗を決した両者に漂う空気は重く、暗い。傍から見れば絶対に関わり合いたくない雰囲気だ。


「負けちまったなぁ……ダニエル」


「……くっ」


 仰向けのダニエルの傍で屈んで頬についた泥を落とそうと手を近づけると、手の甲で力弱く払われる。


 最後まで意地を張るその姿に苦笑しながら、ダニエル達の顔を眺める。


「もうわかってんじゃねぇの? ジート達はもう守られる存在じゃない、お前たちの横に並ぶ立派な仲間だ」


「それを、認めろと?」


 ダニエルは空を見上げ、悔しさを噛み締める。


「それは違うだろう」


「え?」


「お前たちはジート達を認めていないんじゃない。どんどんと力を付けて前へと進むあいつらの姿を見て止まったままの自分達に腹を立てているんだろ? 守るはずだった民達が剣を取って敵を見据えている。その姿見るたびに自分達が不甲斐なくて、悔しくて、憤っている」


「…………」


「でも、そんな風に思っているってことは、思えているってことは、お前たちはまだまだ強くなれる」


「強く……」


 ダニエルから喉を詰まらせて、堪えている息遣いが聞こえる。オレは顔逸らし、いまだ青い空を見上げている。男の泣き顔を除く趣味はない。


「ああ、強くなれる。成長の度合いなんて人それぞれだ。ジート達の成長の速さに危機感を感じているかもしれないけれど、でも……今のお前たちには頼もしいライバルがいて、懇切丁寧に教えてくれる先生がいて、訓練にもってこいの素晴らしい環境が備わってる。後はお前たち次第だけど、どうするよ」


「私は! 私たちは‼ もう二度と……民に戦わせるような無様な真似はしない‼ お前たち平民の出る幕がないように強くなって見せる‼ 覚えておけ! ジート‼」


 嗚咽の混じったほとんど聞き取れないほど泣きじゃくった何とも頼りない声で宣言する。


「くっ……はっはははは‼ 負けねぇぞ、ダニエル‼」


 ジートはあの雲の上の存在である貴族にライバル宣言されたのが可笑しかったのか、声を大にして笑い、気持ちのいい笑顔をこちらに向ける。


 その他の奴らもお互いにライバル心が芽生え、睨め付け合っている。しかし、その目には先ほどまでの黒い感情は宿っておらず、もっと純粋に相手を認めているようなそんな瞳をしていた。


 これならもう大丈夫だと、ほっと胸を撫で下ろす。いや~丸く収まったなぁ……ホント疲れた。


「お疲れ様、和人君」


 さわやかな笑顔で労いをかけてくれる涼音。おぉ、女神よ。


「お前、ほんとすげぇのな」


「ええ、驚きました」


 目が点になっている大樹と壮介が涼音の後を追うようにしてオレに声をかける。


「お疲れ様、です」


 その大樹の後ろに隠れるように、頬を淡く赤に染めた琴音がオレを労ってくれる。女神、パート(ツー)


「なんだその気持ち悪い笑顔」


 大樹が顔をしかめてニヤけたオレの顔を指さす。失礼な。


「ま、これにて一件落着な。また明日からみっちりしごくから覚悟しろよ。いいな!」


『おお‼』


 ジート達、そして貴族の騎士たちを迫力あるやる気の籠った声を返してくれた。ただ一人を除いて。


「ダーニーエールー?」


「……おお‼」


 ダニエルは少し渋って、やけくそ気味で張りのある声を上げる。


「よし! んじゃあ今日は解散!」


 オレの号令でジート達はぞろぞろと自分の宿舎へと帰っていく。


 オレは全員の姿が見えなくなるまで見届けた後我慢の限界が頂点にまで達し、思いっきり脱力した。


「はぁ~~~‼ マジ疲れたぁ、ほんと手がかかる奴らだなぁ」


「ほんとにお疲れ様」


 涼音がオレの背中をさする。


「ありがとう」


 オレはうなだれた背筋を正し、思案を広げる。


 あいつらの確執は解決した。これで騎士たちの練度自体はこのまま順調にいけば十分の魔族と対抗できるまでに引き上げることができる。ここは、まぁアレクとおいおい相談だな……しかし、問題なのは……いや、この問題はオレだけが抱えていいものじゃない。いや、しかし……。


「和人君、大丈夫か?」


 固まったままのオレを案じてくれたのか肩に手を置きオレの顔を除く涼音。その他の皆もオレを心配しているのか同じようにオレの体調を窺うように見つめている。


 話さない手はないか……。


「みんな、聞いてほしい話がある」


 オレは涼音たちを真っ直ぐ見つめた。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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