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ストラテジー~知略の勇者~  作者: 鷹飛 諒
第二章
29/31

~不穏な影と衝突~

どうもお久しぶりです! 鷹飛 諒でございます!

充電期間を終え、ストラテジー第二章開幕でございます!

お待たせしてホントすいません。

今後とも生温かい目で読んでいってください。

では!



「ほう、それでそんな無様な格好で逃げ帰ってきたと……笑ってしまいますね」


 ねっとりとまるで見下す奴を押さえつけるかのように語り掛ける。


 口調からはまるで感じない恐怖という名の圧が四肢のない体に重くのしかかる。


「あいつらはこれまでの人間とは格がちげぇ‼ 親分もやられちまったんだ‼」


「ほう、オーガであるあなたがそこまで言いますか」


 絡みつくように重く響く声の主は視界を遮るように白い垂れ幕が下ろされており、見えるのは背もたれが座高を優に超すほどの玉座に腰かけ、足を組むシルエットしか見えない。


 すると、垂れ幕の脇から新たな影がぬっと現れ、四肢を失ったオーガへと近づき、片膝をついて、四肢を失ったオーガを見下ろしているようだった。


 姿が見えなくともわかる。それは失った手足を嘲笑するように見つめ、侮蔑を込めて見下していた。


「ただ弱かっただけだろ……でも、まぁただ暴れることしか能がない奴がここまで言うんだったら少しは骨がある奴じゃねぇのか」


「あなたもそう思いますか……まぁ、そうですね。そんな姿になりながらもここまで這って今回のことを知らせていただいたことは評価しましょう」


 その声にオーガの表情が明るくなる。息も絶え絶えで体中が生傷だらけの、そのあられもない姿が希望を見出すには十分な一言だった。


「あ、ありがてぇ。早く助けてくれ。あんたならオレの手足だって治せるはずだろ?」


 オーガは垂れ幕に胸を床に擦り付けながら這って近づいていく。


 床には泥がつき、オーガが進んでいった道筋を残していった。


「評価するとは言いましたが、助けるとは一言も言っていませんよ」


 垂れ幕に近づいていくオーガ目がけ布を突き破った獣の腕が顔を鷲掴みにし、垂れ幕の中へとオーガを引きずり込んでいく。


「があぁぁぁぁぁぁぁ⁉ な、なんで」


 宙に浮くオーガにはじたばたするような手足はすでになく、体をよじるがそれだけではその腕からは逃げられることはなかった。


「馬鹿ですねぇ。今更貴重な戦力が壊滅され、その生き残りはたった一匹……しかも手足はないとくる。生かす理由がどこにあるんです?」


「お、俺は奴の顔を知っているぞ! まだ……まだ役に立つ‼」


「顔など……対峙すればわかることでしょう」


「だとよ」


 オーガをつかむ腕に一層の力が籠められる。


「がっ……やっめ……」


「……あばよ」


――ブシュッッッッッッッッッッ‼


 玉座に座るシルエットが左手を上げた瞬間、オーガの頭を掴んでいた手は拳を作り、オーガの頭は花火のように飛び散っていった。


 残った体は銅像のようにピクリとも動かなくなり、ただの肉の塊となっていた。


 その肉の塊を足蹴で足元からどけると、獣のようなシルエットの口元がぱっくりと裂け、不敵な笑みがこぼれる。


「しかし、オーガ共が壊滅するとはなぁ……これは面白くなりそうだ」


 血がべっとりとついた手を振りながら、肉食獣が唸るような声が漏れる。


「しかし、勇者ですか……あの()()の言ったとおりになりましたねぇ。さすが私たちを率いているだけはあります」


 シルエットは拳に顎を乗せながら、何か思案するようにしばらくその状態で身動き一つしなかった。


「難しいことは考えなくていいだろ。殺して、殺しまくるだけだ」


「そうですねぇ。まぁ、少しは慎重に調べる必要がありますが……」


 垂れ幕の奥のその表情は笑みを浮かべていた。


「人間は、消すだけです」











 燦燦と輝く太陽の下、清々しい笑みを浮かべていたオレの隣で四人の勇者たちはその笑みを引きつらせていた。


 オレ達の目の先ではジート達を含める騎士たちでファランクスの訓練を行っていた。


 ここの訓練場はオレとジート達が走り込みなど基礎体力の訓練していた場所とは違い、主に演習、実践などを多く行うときに使われる訓練場だ。


 規模は中隊同士で演習するぐらいはなんてことはないほどの広さを持ち、周りは土手のような傾斜の芝生の生えた地面の壁に囲まれている。


 その土手の上で見下ろすような形でオレは訓練をの様子を見届けている。


 照りつく日差しと揺れる木々、肌を撫でる心地よい風が今日も訓練日和だと告げている。


 あの日、グスタフに軍事に関わらせてもらいたいと決意を伝えたが……結果、答えはあやふやのままだ。だけど、今現時点で騎士たちの訓練を任せてもらっている。要するに、お願いは約束だから仕方なく聞き入れよう、しかしお前を認めてはいないと言いたいのだろうか。それとも、ほかの思惑があるのだろうか。


 ただ、それでもオレのこの先を見て判断しようと思ってくれている。今後の実績次第だと示してくれている。それだけでも御の字だ。


 オレはそんな思考を頭の片隅に追いやり、騎士たちへと目を向けた。


「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」


 活気のある悲鳴がオレを心地よくさせる。


 盾がぶつかり合うあの金属音、覇気のある声達が聞こえてくるたび彼らの気持ち応えてあげたくなる。


「な、なぁ和人」


「どうした、大樹。そんなに声を震わせて」


「……この訓練はどれくらいやってるんだ?」


「四時間ぶっ続け」


「…………」


――みんなの視線が痛い……。


「別に意味もなくこの訓練をやってるわけじゃない。こんなにハードにするのはそれなりの理由があるんだよ」


「それにしても、こんなハードな訓練は俺たちでもやってねぇぞ」


「まぁ、皆は才能があるからな、そんな無理に負荷をかけないで、のびのびと自然な流れで強くなれるし、出来ることの幅が広がる」


 オレがそう呟くと、大樹達は顔を逸らす。


「別に変な意味じゃない。ただ、あいつらは皆みたいに勇者の肩書に合うほどの秀でた魔力も才能もない……いわば一般人だ。そんな奴らが魔族に真正面から対抗するためには生半可な訓練じゃ太刀打ちできない。オーガと戦った時だってあんなもんマグレみたいなもんだ……それをあいつらは、ジート達は分かってる」


 オレが見守る先にはジート達が訓練をしている騎士たちの中で一際真剣に決死の表情で訓練に取り組んでいる。


「それがほかの奴らにも伝わってくれればいいんだが……」


「くそ、やってられるか‼」


 訓練の最中、癇癪を起こした騎士が手に持った盾と剣を投げ捨てる。見た所、貴族の位の青年のようだ。


 それを見た他のオレをあまりよく思っていない貴族位の騎士たちが次々と手に持った武器を捨てる。


 瞬く間に騎士たちの間に混沌とした暗い雰囲気が漂い、騎士たちがきれいに二手に分かれお互いを睨み合いながら対峙している。元から、平民出の騎士と貴族出の騎士が馬が合わないようで何かと衝突があったが、貴族側の不満が爆発したようだ。


「おい、アレクは今どこにいるんだ?」


「アレク団長はサザラールの取り調べで判明した反乱分子だったり、汚職の対応に専念しているようですよ」


 壮介がそんな悠長に構えてていいのかとオレと今も一触即発の状態騎士たちの方を交互に目をやりながら、辺りを見回すオレに答える。


――豚箱に入っても、厄介な奴だな。


 おそらく、サザラールの汚職に関わった奴らの数が想像以上だったのだろう。あのサザラールだ叩けば叩くほど埃が舞うみたいにこれまでの罪が次々と顔を現わしている。どこまでもオレ達の足を引っ張る奴だ。


 アレクは騎士団の団長だ。いわばあそこで険悪な雰囲気を醸し出している奴らのトップである。アレクは平民の出だがその強さと高潔さで貴族、平民どちらからも慕われ、尊敬されているため、衝突を止める存在なのだ。


 首輪をつけて手綱をしっかりと持っていた人間がこの場にいないのだ、一悶着あってもおかしくない。いや、もうすでに手遅れかもな。


「なぜこの私が、平民なんぞと訓練しなければならないんだ‼」


「そんなこと言ってる場合じゃねぇだろう! 魔族との戦争はまだ終わっていねぇんだ協力しないと勝てるもんも勝てねぇだろうが‼」


「平民の分際で、生意気な口をきくな‼」


「そんなことじゃ、お互いに強くなれねぇだろうが‼」


「貴様らは黙って私たちの力を後ろでただ見ていればいいのだ‼」


「は~いストップゥ‼」


 ジートと貴族の騎士がお互いに頭に血が上り、その熱がほかの奴らに伝播して今にも飛び掛かろうとしている。


 オレは慌てて間に入り、両者の鼻先に手のひらを向ける。


「ここでやり合っても、仕方ないだろ」


「無能の勇者が、偉そうな口をきくな」


 怒りを鎮めた騎士が、どすの利いた声音と鋭い視線でオレを射抜く。


 怒りに任せて発せられたその言葉に大樹達とそばのジートが反応する。


 オレはそれを制し、騎士をしっかりと見据える。


「改めて、柊和人だ。よろしく」


「貴様の名前など既に心得ている。……ダニエル・ディグソーだ」


 その名を聞いて少し驚いた。


「ディグソー……お前、サミュエルの――」


「サミュエルは私の兄だ」


 なるほど。その視線で大体のことは察した。


 こいつは――ダニエルはオレのせいでサミュエルが今牢の中にいるとでも思っているのだろう。まぁあながち間違いじゃあない。彼が黙ってさえいれば裁かれることはなかった。だが、彼がこれまで加担してきた罪が消えなくとも、あの時サミュエルが見せたあの行動は、間違いなく勇気のある正しい行動なのは間違いがない。


「あなたの兄のおかげで、オレ達は救われた。ありがとう」


 オレはダニエルを宥めるとか関係なく、本心から頭を下げた。


 急な態度の変化に呆気を取られたのか、ダニエル達は黙り込んでしまった。


「それはさておき、軍の風紀を乱すのはいただけないな」


「なっ……」


 黙りこくるのをいいことにすかさず本題に入るオレ。


 またしても呆気にとられ、今度は悔しそうな表情を浮かべる。取り巻きの騎士たちはオレの態度が気に食わなかったのか、殺意が込められているとっても過言ではないほどの視線をこちらに向けてくる。


「今は軍全体が一致団結しないといけない大事な時期だ。それはお前らもわかってるだろ? それに……こんな状態じゃアレクが悲しむぞ」


「う、うるさい! 口を慎め‼ 我らになんという口の利き方……恥を知れ!」


「平民共は黙って農地を開拓してればいいんだ‼」


「おい! そんな言い方はないだろう‼ 俺達だって勝利のために必死で頑張ってんだぞ!」


「それが不要だと言ってるんだ! 足手まといは我が軍には必要ない‼」


「なんだと‼」


 せっかくの一度は静かにしたのにもかかわらず、小さな火種からまたしてもジート達とダニエル達で言い争いなってしまった。


 ああ、なんかイライラする。


 こう自分の思い通りにならないこの感じ、久しぶりな気がする。ゲームで兵士を育てる時はこんな思いなんてしなくてよかったのに、やはり育成とは人と人で培われるもの。そんなすぐにはうまくいかないのは分かっていたが、これではオレもみんなもストレスが溜まっていくだけだ。


「黙れよ、お前ら」


「…………」


 オレの一声で、騒がしい喧騒が一瞬にして止む。


 騎士たちの表情に目をやると戦慄を隠せないようだった。額にはうっすらと汗ばみ、固まったままオレから目を離そうとしなかった。


 予想以上にオレが怖かったのだろうか、位置的にオレの後ろの少し離れた所にいる涼音達にさりげなく目をやると、皆もこちらにも唾を飲み込む音が聞こえたと感じる程、息をのんだ表情でこちらを見つめていた。


 少し暗くなってしまった雰囲気を作ってしまった自分に喝を入れ、反省しながらダニエル達について考えていた。


 大方、節々に感じる言動といい、態度といい、これまで溜まってきたものが凝り固まって悪い方向に向いてしまったのだろう。全く貴族という身分のせいで色々なものがその体に圧し掛かってしまったんだろう。


 ジート達も、平民ゆえに共に戦う仲間と分かっていてもどう接していいか分からず少し度が過ぎてしまうのだ。

 

 全く面倒な奴らだ。


「はぁ~」


 オレは心底面倒にため息をついた。


 オレのため息で張りつめた空気も軟化したようで、ジート達の力が入って上がっていた方も脱力している。


「んじゃ、模擬戦でもするか?」

最後まで読んでいただきありがとうございます。

感想、誤字脱字などお気軽にお書きください。


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