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ストラテジー~知略の勇者~  作者: 鷹飛 諒
第一章
28/31

幕間~裁きと願い~

皆さんどうも鷹飛 諒でございます。

二話連続投稿の二話目、お楽しみください!

生温かい目で読むことを忘れずに。

では!



 荘厳な儀式の間、煌びやかな旗が吊り下げられ、国王が座する椅子に向かって屈強なる騎士達が一列になって並んでいる。


 そしてその椅子にはあの威厳のあるご老体が優しくオレの姿を射抜いている。優しい眼差しであってもその鋭い眼光は健在だ。


「よくぞ……帰ってきてくれた、勇者和人よ」


「もったいないお言葉……再び国王に相まみえたこと、筆舌につくしがたく存じます」


 感慨深く椅子に深く腰掛けるグスタフを見つめ、片膝をついた。


 オレの後ろに並ぶジート、ワイリー、トンパ、そしてマリーはオレの動きにつられるように慣れない動きで片膝をついた。


 ちなみにマリーはオレ達が一番最初に救った人物、ほかの人々を救うきっかけになったことから一緒に出席してもらってる。


「うむ、顔つきがだいぶ変わったようだ……凛々しくなったのぅ」


「えぇ、国王より任せられましたこの任に励むことで私共は力を培うことができました。心より感謝いたします」


「待たれよ、和人」


 グスタフの声に、思わず笑みがこぼれる。


 目の端に映るサザラールの表情は青く白い、生気のない顔だ。


「こ、国王! お、おまち――」


「静まれ」


 グスタフの厳かで小さくともしっかりと耳に届く声が空間を制する。


 しんとした空気が流れ、冷や汗をかいていないものは一人もいなかった。


――国王ってのはすげぇな。


 この偉大さは一朝一夕で身につくものではないことがひしひしと感じ、この人が王たる所以を見た気がした。


「和人、答えよ。わしがそなたに今回の任を命じたのか?」


「はい、私は国王の勅命により、廃村調査の任につきました。国王の署名が書かれた書状も拝見いたしました……サザラール殿から」


 周囲の視線が一斉にサザラールへと注がれる。


「わ、私は……」


「これはいったいどういうことじゃ? サザラールよ、説明してもらえるかの」


「わ、私は知らない!」


 サザラールはたじろぎながら首をとにかく横に振っていた。


「サザラール、おいたが過ぎたなぁ」


 オレは付けた仮面を取っ払い、大げさに立ち振る舞う。


「な、なんだと‼」


「今まで通りねちねちと人をけなすだけに専念すればいいのに、勇者が召喚されて出世欲に目が眩んだか」


 オレは大げさに大理石の床をける音を鳴らしながら、サザラールに近づく。


「そういえば、悪徳貴族みたいに金をたんまりため込んでるみたいだなぁ。あの時はありがとよ。おかげで皆に飯をふるまえたぜ」


 オレがサザラールの周りを歩くたび、サザラールの額仇のよう汗が噴き出ていく。


「和人がこちらの世界にきて間もないころの、広場での出来事か……あの時は商人が持つ品すべてを買ってもお釣りが出たとか……サザラール殿、そんな財源はいったいどこから?」


 騎士団長の風格をその体に宿したアレクの鋭い眼光がサザラールを責め立てる。


「我が国は今財源を含めギリギリの状態を維持しているのが現状。そしてその財源確保のため貴族の位からも税を徴収しているのは国王の取り決めでございます。お答えいただこうサザラール殿! この富はいったいどのようにして手にしたのですか‼」


 アレクを中心とした騎士たちがサザラールに詰め寄る。


「これは罠だぁ‼ あの勇者の皮をかぶった魔族が画策した罠なのだぁ‼」


 サザラールは半狂乱になりながら目を血走らせている。


「大体、そんなものの証拠はどこにある⁉ 第一和人殿の起こしたあの騒動には無償で食物を提供した民もいたというではないか! そんな状態で仮に私が渡した金がどれほどの品を買ったかどうかなんてわからんだろう! それに国王の署名のある書状など私は知らん! それこそ私貶めようとする偽証にすぎん‼」


「…………」


 はぁ……口がよく回るものだ。さすがあの性格で貴族の世界を生き抜いただけはある。……でもそれももう今日までだ。


「往生際が悪いぞ、サザラール」


「黙れ! 黙れ黙れ黙れだまれええぇぇ‼」


 詰め寄る騎士たちを近づかせないように両腕を勢いよく振り回す。


「疑うのなら証拠を出せ! 貴様らはそんな下等な民の言葉を真に受けるのか⁉」


 息を絶え絶えで、喉が張り裂けんばかりに叫ぶ。


「話は後程、今は我々と同行していただきましょう」


 アレクはサザラールを取り押さえるため部下の騎士を差し向ける。


「黙れ!」


「黙るのはてめぇだ‼」


 今日一番の声を上げたのはずっと口を閉ざしていたジートだった。


「ジート……」


「金がどうとか、俺たちには正直関係ねぇ。そんなものはお偉いさん方の仕事だ……だけど、だけどよぉ、和人や俺たちを騙したことは許せねぇ‼ てめぇの悪知恵で結果的には救えた命があった。でも、てめぇのせいで俺たちは仲間を失った! 死ななくてもよかった奴が死んじまったんだ‼ てめぇの勝手な理由で俺たちの仲間が死んだんだ! ぜってぇに許さねぇ」


「ジート……」


 肩を震わせながら、歪めた顔を見せないように俯くジート。


 震わせている肩を落ち着かせるように、優しく肩をつかむ。


「サザラール、今回はたまたまマリーを含む多くに人々を救えた。しかし、オレ達は仲間を失った。もっと準備をしてあの廃村を責めることが出来たら、失わずに済んだのかもしれない。そんな可能性をお前は一時の感情で捨てたんだよ。軍事の一端を任されているものとして、人として、失格だよ……お前は」


「グ……ガッ……このぉ…………」


 サザラールは怒りのあまり声が出せずに顔を真っ赤に頬の肉を震わせている。


 人を貶め、憎み、騙すことしか能がなく、自分の地位を振りかざし人々苦しめるようなやり方には必ず限界が来る。自分の私利私欲に神経を使い、自分の欲望のためなら他者を抑圧することも厭わない。そして他者を抑圧することで支配しようとすれば――。


「お待ちください‼」


――必ず綻びが生まれる。


「お待ちください。……私にお時間をいただけないでしょうか」


 声のする方に目を向けると、一人の若い騎士がグスタフに向かって片膝をつき、首を垂れていた。


 グスタフはその騎士をしばらく見つめた後、息を吐き、間を開ける。


「許そう、申せ」


 優しく語り掛けるように呟いた。


「はっ、ありがとうございます!」


 騎士はゆっくりと立ち上がるとこちらを振り返り、オレをしばらく見つめたかと思うと今度はサザラールに睨みを利かせる。


――サザラールについていたあの若い騎士か。サザラールが書状を見せつけた時にもいたな。


「証拠なら……こちらにございます」


「なに?」


「証拠なら、こちらにございます‼」


 騎士が高く振り上げた手に握られていたのは筒状に丸めた紙だった。


 サザラールに目をやると、口を開けただ茫然と青白い顔をしていた。


 ああ、なるほど。オレはあの紙の正体が何なのか、察した。


「こちらは、こちらの書状は……サザラール殿が偽造した廃村調査に関する書状にございます‼」


「ばかな⁉ それは処分させたはず――っ⁉」


「口が滑りましたな、サザラール殿」


 アレクの鋭い視線が一層その鋭利さを増す。


 もうサザラールはわなわなと震えることしかできなかった。


「その書状をこちらへ」


「はっ!」


 グスタフはその書状を受け取り、紙を広げ、書かれた文字を目に通す。


「これは……確かに偽造されたものじゃな……私の筆跡とは少し異なっておる。訳はしかと聞かせてもらうぞサザラール。こやつを牢へ‼」


「お待ちください国王‼ 慈悲を‼ 慈悲をおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼」


 サザラールは騎士に両脇を抱えられ、その姿が見えなくなるまでただ叫んでいた。


 サザラールの姿が見えなくなったころ、残されたオレ達の間には重い沈黙が流れていた。


 沈黙を破ったのはあの若い騎士だった。


「和人殿……もうしわけ――」


「助かった……今回サザラールを豚箱にぶち込めたのはあんたのおかげだよ。今は、それを誇れ」


「和人殿……はっ‼ ありがとうございます‼」


「そういえば、名前聞いてなかったな」


「はっ! サミュエル・ディグソーであります‼」


「ああ、これからよろしく。今回は本当に助かった」


「はっ! 失礼いたします!」


 サミュエルはグスタフにも礼を交わすと、サザラールと同様に騎士に連れられ、連行されていった。


 勇気ある行動した青年が後にした空間をしばらくオレを含めジート達も見つめていた。


 しかしオレは目的の話を進めるため、訴えかけるようにグスタフを見つめる。


「……勇者和人よ。大変申し訳ないことをした……私の目が行き届かなかったばかりにそなたらの大切な仲間を亡き者に――」


「それはあんたが謝ることじゃない。サザラールがしでかしたことだ。それにこんな事態を引き起こした責任はオレにもある。謝らないといけないのはオレの方だ」


「和人よ……」


 これは本心だ。気遣われる必要はない。オレがもっとうまく立ち回ることが出来たら、こんなことは起きなかったと思う。そして、マルコを殺したのはオレだ……だから立ち止まれないんだ。進まなきゃいけないんだ。目的を達成するために。


「謝る代わりに、一つだけ願いを聞き入れてもらえないか?」


「よかろう、そなたの願いを聞き入れる」


「ありがとう」


 いざ言おうとすると緊張する。こんな若輩者の申し出では普通は聞き入れてもらえないだろう。でも、やらなきゃ前に進めない。ここは絶対に勝ち取る。


「……おっと」


 後ろから頼もしい圧を背中に感じた。


 振り返ると、微笑んでいるジート、トンパ、ワイリーがオレの背中を押していた。


 恐れることはない。やるだけやってやる!


「オレの、オレの願いは……オレを軍師にしてくれ」


 オレの言葉で一気に場がざわつく。


「それは……」


 グスタフも驚きを隠せない表情だ。


「今すぐにしてくれとは言わない。ただオレにチャンスをくれ。役に立つと証明してみせる」


 オレは拒否されるかと思い、早口でまくしたてた。


「…………」


 グスタフは静かにオレを見定めるように見つめる。


「何故、軍師になることを願う」


 グスタフは今度は鋭い眼差しでオレを見つめる。


 なぜか……。そんなもん理由なんて考え始めたら、溢れるほどに考え付く。


 もうあんな思いはしたくない。させたくない。見たくない。見させたくない。失いたくない。失わせたくない。こんな現状が一瞬でも早く終わらせることができるのなら、どんな手を使っても、犠牲を払おうとも、止めたいと思う。だから、オレが望むのはただ一つ。


「戦争を終わらせる」





最後まで読んでいただきありがとうございます。

感想、誤字脱字などお気軽にお書きください。

今後の第二章もお楽しみください!

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