幕間~悲願の再会~
どうも! 鷹飛 諒でございます!
皆様お待たせいたしました! 幕間でございます!
今回も生温かい目で読んでやってください。
では!
木々の香りが風と共に運ばれ、私の鼻を優しくくすぐる。
風を入れるために少し開かれた窓から、私を起こすかのように頬に強い日差しが頬に差し込む。
いつものように起き上がり、少し体を伸ばすと召喚された時に来ていた下着から麻の材質の訓練着に着替えた。
寝惚けた顔を両手で叩くと意識をシャキッとするために訓練場近くの井戸へと顔を洗いに向かうため、部屋を出た。
桶で井戸水を汲み、冷たい水を両手ですくって顔に叩きつける。ヒリヒリと痛む顔と覚醒していく意識を感じながら、水面に映る自分の顔を見つめた。
ほとんど寝ていないような窪んだ目元と少しこけた頬はいかに自分が本調子ではないかを物語っている。
私はそんな表情に嫌気がさして、苛立ったように手のひらを水面に叩きつけた。
水しぶきが上がり、頬を濡らす。荒々しく揺れる水面は徐々に落ち着きを取り戻し、自分の心を写すかのように未だ帰ってこない彼の姿を映したような気がした。
「和人くん……」
呟く私の声は風の音に虚しくもかき消される。
「涼音……」
男らしい野太い声が聞こえ、精一杯の微笑みを作って快活な声を投げかけた。
「大樹! おはよう! 今日も一日頑張ろう!」
繕われた表情と声がうまく機能してくれない。投げかけた言葉もなんだか単純なものになってしまった。
「俺たちの前ではそんな見え見えの安い演技はいらねぇよ」
眉をひそめ心配そうに私の顔色を伺う大樹の背後には私を気遣ってか困ったような笑みを浮かべる壮介と琴音が大樹のあと追ってきたようにやってきた。
「……そうか、すまない」
「気にしなくていいよ涼音ちゃん。信じて和人くんを待とうよ」
琴音が私の腕を抱え微笑む。
辛いというのに気丈に振る舞う琴音を尊敬しながら、しっかりしなければと自分の心を鞭打つ。
和人くんが王都を出てから二ヶ月が経とうとしている。時間が刻一刻と過ぎていく中、和人くん達の安否が囁かれるが、私は絶対に生きているとそう自分に言い聞かせていた。しかし、自分に言い聞かせるたび不安が私を支配し、いたずらに私の心揺さぶってくる。自分の鞭を打とうとしてもこの思いが消えることは決してなかった。
「そうだね。……和人くんが帰ってきてこんな顔見られたら恥ずかしい」
私は少しおどけてみせた。
多少は安心したのか、琴音は目を細めて笑いかけてくれる。
「では、今日も一日頑張りましょう。まずは訓練です」
壮介は私の肩に手を置き、先に訓練場へと向かっていった。
「よっしゃあ! 模擬戦はオレが勝つからな!」
「望むところです!」
大樹は耳がキーンとするほどの雄叫びのような大声を上げながら、壮介の後を追う。
無駄に元気だけはある彼らを見ていると、呆れてため息が出てくる。
微かなほほえみを浮かべながら、少し気分が晴れた気がした。
「炎華槍!」
「アイスバレット!」
大きく踏み込んだ大樹の槍が炎を纏い、元の何倍もの長さになり壮介を襲う。
しかし、後ろに跳躍して空中へと避けた壮介は既に弓を引き切り、矢の先は氷柱の様に鋭い刃になっていた。
壮介の手から解き放たれた矢は大樹の炎の槍と真っ向からぶつかり合った。
高温と低温が一瞬にして交わり、濃密な水蒸気となって二人の姿をすっぽりと隠した。
『おおぉぉぉぉぉ‼』
二人の気迫のある声が響いたかと思うと蒸気は吹き飛ばされたかのよう霧散し、霧散した蒸気の中心にはお互いの喉元に槍と矢の先を突き付ける大樹と壮介がいた。
しばらく両者はお互いを睨みつけると、笑みを浮かべ構えを解いた。
「力付けたな壮介」
「そっちこそ、焦りましたよ」
固く握手を交わし、不敵な笑みを見せつけ合う大樹と壮介に周りから熱戦を称える拍手と歓声が響いた。
「相変わらずすごいな、二人は」
「私も頑張らなきゃ」
私は二人にタオルを差し出しながら、少し呆れて二人を見つめた。
琴音は今の一戦に感化されたようでこれからの訓練に向け張り切っている様子だ。
「お前らに言われたくないな。派手さで言えば二人がツートップだろう」
「ですね、涼音と琴音にこれ以上頑張られたら僕たちが霞んでしまいます」
大樹と壮介は苦笑いを浮かべながら、私が差し出したタオルを受け取った。
私と琴音は少しばつが悪そうに二人から目を背ける。そう言われると頭が痛くなる。
「今度は私たちが模擬戦をしようか」
「うん、お手柔らかに、ね」
私が話をそらすように琴音に模擬戦を勧めると、琴音も少し自信なさげに、しかし少し自分を奮い立たせるように両手を握ると、可愛らしい笑みを浮かべる。
大樹と壮介は場を譲るようにその場から離れ、観衆と同化する。
「二人ともぉ! 頑張れ……おい」
「ええ……」
大樹の声が聞こえたかと思うと、少しどすの利いた声が響き、壮介の腕を軽く肘で小突くと自分の視線の先へと壮介の視線を誘導する。
壮介もそいつに目をやると、眉をひそめた。
「…………」
私も琴音と一緒に大樹達の見つめる方へと目をやると、不快な思いが沸き立ってきた。
「おやおや、精が出ますなぁ勇者の皆様」
「サザラール……」
こんな声を出したのは初めてだ。私の黒い感情が私の声に乗って吐き出されていた。
サザラールは数名の騎士を引き連れて、大樹と壮介には眼中のない様子で私と琴音の前で立ち止まると恭しく頭を下げた。
「本日も大変麗しい……ぜひとも私と一夜を過ごしていただきたい」
頭を上げたサザラールの顔には下卑た笑みが張り付いていた。
「…………」
私たちは背筋を這う悪寒のせいでただ拒絶の意味を込めた眼差ししか向けることはできなかった。
「いやはや、冗談が過ぎましたかな……ところで、琴音様」
「な、なんでしょう」
琴音はこのサザラールが心底苦手のようで、私の後ろで完全に委縮してしまっている。もともと気が弱い琴音にはこの悪意の塊は少しばかり刺激が強い。
「前回の申し出、考えてはいただけましたかな?」
「あれは、前回も断ったでしょう!」
私はあまりのしつこさに声を荒げてしまった。
申し出というのは、琴音をサザラールの側室に迎えるという話だ。これには琴音の体と勇者という身分を欲してのことだ。サザラールの私たちを見る視線はまるで体をまさぐられているように隅々まで観察されているようで耐えがたいものだった。
そんな申し出は当然受け入れられることはなく、尽く断ったのだがあきらめる様子は全くなく、さらにはもし側室になれば自分の権限で和人君の安否の調査隊を編成すると琴音の心をいたずらに揺さぶろうとしているのだ。
「そんな声を荒げてはせっかくに気品が失われますよ、涼音様。それとも……あなたが私の側室になりますか?」
サザラールは耳まで裂けるような笑みを見せ、私の腕に手を伸ばしゆっくりとさすってきた。
「…………」
全身の肌が粟立ち、不快感のあまり体が思うように動かなかった。
「サザラールさん。それ以上しつこい人は嫌われますよ」
動けない私の体を守るように、サザラールと私の間に割って入ったのは壮介だった。
伸ばしたままのサザラールの手を打ち払い、私たちを手でかばいながらサザラールを睨む。
「お、おやおや……壮介殿これは大変失礼しました。ですが、どうか私の恋路を邪魔しないでいただこう」
「よくも、ぬけぬけと……」
「壮介!」
サザラールに今にも向かっていきそうな壮介の腕をつかみ諫めるが、すました表情のサザラールを見ていると、怒りがはじけそうで壮介を掴む手にも力が入る。
「サザラールさん。あなたが和人君にしたことを私たちは既にもう気付いている」
「はて、何のことですかな?」
「……言い逃れできるのも今のうちだぞ。和人は必ず生きて戻ってくる」
すました顔でしらばっくれるサザラールに大樹の鋭い眼光が横から突き刺さる。
「……勇者の皆様、お仲間を失うというのはさぞ辛いものだとは思います。……が、前に進まなくては魔王を倒すなど到底不可能でございます」
「和人君は生きてる‼」
まるで死んでいることを確信しているような物言いは私を激昂させるには十分だった。
私の声で周りがざわつく。和人君を惜しむ声のほかに圧倒的に多かったのは和人君を蔑む声そしてこんな状態で本当に私たちが魔王を打倒できるのかという心配の声だった。
「くっ……どいつもこいつも」
大樹が怒りで拳を震わせている。
「私は軍事に携わっている仕官です。勇者様とはこれからも手を取り合っていきたいのです。今こそ悲しみを乗り越え、手を取り合っていこうではありませんか」
サザラールは一歩後ろへと下がり私たちに向け手を差し出しながら優雅にお辞儀をしてみせた。
周囲からその張り付けたような優雅さに感嘆の声が漏れる。
これだけ見事に周りを騙せるならさぞ気持ちがよいのだろう。
サザラールの手は差し出されたままだ。
「この手を取らないと、まずいことになると思われますよ」
私たちにしか見えない笑みを浮かべ、サザラールは呟く。
公の場でサザラールは私たちを諭した。この手を受け取らなければサザラールだけでなくそのほかの貴族たちとの関係も悪くなってしまう。
「……よろしく、おねが――」
「サザラール様‼ サザラール様‼」
サザラールの手を取ろうとした瞬間、ひどく慌てた様子の騎士が息も絶え絶えになりながらもサザラールの前で転ぶように膝をついた。
「なんだ!」
自分の演出を邪魔されたのが気に食わなかったのか声を荒げて騎士を見下す。
「ご、ご報告いたします! 勇者様が……和人様がただいま帰還なされました‼」
「ば、ばかな‼」
「…………」
私たちは開いた口が塞がらなかった。自分の耳を疑ってしまった。ずっと望んでいたことなのに。
「な、何かの間違いだ‼ あそこは魔族の生息区域のはずだぞ‼」
「いえ、事実でございます!」
「彼はどこに‼」
「どこにいるんだ‼」
気づけば四人総出で騎士に詰め寄っていた。大樹にいたっては騎士を無理やり立たせ、胸倉をつかんでひどい剣幕で顔を近づける。
「い、今、入国の手続きのため門の前で待機していただいております……」
「行こう‼」
「うん!」
私と琴音は聞くや否やすぐさま門へと向かった。
「ま、待ってください!」
猛スピードで走る私たちを慌てて追いかける壮介の声が私の耳を通り抜ける。
「おい、待て――」
「邪魔だ!」
「ぶほわあぁぁぁぁぁぁ――‼」
私、琴音、壮介と三人を取り逃がし、せめて大樹だけは行かせまいと立ちはだかるが、サザラールにかまっている暇はないと大樹の振るう剛腕がサザラールの顎に吸い込まれ、天高くまで吹き飛ばしていった。
「あんなことして大丈夫なのか?」
「今は和人、だろ」
追いついた大樹に声をかけると、気にした様子もなくはにかんで見せた。相変わらず豪快な奴だ。
訓練場を抜け、王都の広場へとつながる階段を駆け下りる。
和人君の元へと近づいていくたびに鼓動、早まっていく。和人君がいない間に味わった不安と恐怖を感じていた鼓動よりずっと心地がいい。
期待に胸が躍る。ずっと待ち望んでいたこの瞬間がもう目の前だというだけで自分の足が前へ、前へとこれまでにないくらいの勢いで進んでいく。
広場を抜け、賑わう人々の視線がこちらに向けられる。でもそんなことはもう関係ない。あと少し、もう少しで。
――会える!
王国の歴史をステンドグラスのモザイク画で描かれた避暑地にもなっているアーチを抜けると、そこには高くそびえる強固な門が、光を差し込みながら徐々に開いていった。
差し込む光が私の顔を照らし、思わず手で光を遮る。
光が弱まり、手を退かすと門は既に開かれていた。
「……ああ」
見間違うはずはない。雰囲気は少し変わったのかもしれない。少し気恥しそうに目を逸らして頬をかく横顔は少し大人びたのかもしれない。だけど、ニカッと笑うその顔は少しも変わっていない。
「……ただいま」
「おかえりっ! 和人君!」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
いや~ついに再開しましたねぇ。結構時間がかかってしまいました。
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