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ストラテジー~知略の勇者~  作者: 鷹飛 諒
第一章
25/31

~決意~

どうも! 鷹飛 諒でございます。

いや~今回は水曜日に挙げることができました!

しかし、これからはある程度書くことができればその都度投稿したいと思うのでこれからも本作品を生温かい目で読んでいただけたら幸いです。

では!




 オレ達は、松明の明かりを頼りに一本道を道なりに進んでいく。


 先ほどから聞こえる、壁に何かを叩きつけるこの音が洞窟を揺らしている原因だろう。頭に響くような衝撃の音は、奥へ進むごとにその激しさを増し、何か焦っているかのように感じられた。


 松明の明かりで、その音の正体はだんだんと姿を現す。


「やっぱりな……」


 そこにはもう見慣れてしまった、必死に棍棒をふるう緑色の巨体がそこにはいた。


「くそ、なんで開かない⁉」


 かなりの時間、棍棒をふるっていたのかふらつきながら肩で息をしている。


 こちらにはまだ気づいていないみたいだ。


 まぁ、開かないのは当然のことだ。何せその隠し扉は外側から開かないように細工されているからな。細工というにはいささか大雑把すぎるが……。


 オレは、洞窟の周辺地図を見た時から隠し扉の存在は予想していた。理由としては洞窟周りの岩石の多さ。明らかに不自然なくらいに多いからな。


「外側から岩石を積んで開けられないようにしてあるから逃げられねぇぞ」


「なぁ⁉ てめぇどこから……親分達は⁉」


 オーガはオレ達に気付くとひどく取り乱した様子で、棍棒を構える。


 それに呼応するようにオレ達も槍と盾を構える。


「…………」


 しばらく膠着状態が続く。空気が重く、重力が自分に余計にかかっているように感じる。


 オレ達がにじり寄ると、オーガはじりじりと下がっていく。


「ま、待て!」


 突然、オーガは棍棒を捨て、片膝をつきながら、まるでオレ達を諫めるように両手を前に突き出した。片膝をついてもオレの目線は奴を見上げることしかできない。


「人間を殺したことは、悪いと思ってる。ここのことは誰にも言わないし、上の奴らにも絶対に他言しない! だから頼む。俺を逃がしてはくれねぇか」


 目を充血させながら、歪んだ愛想笑いを浮かべたその表情は不快といえるものであった。


「お前、今の自分の立場をちゃんと理解してるのか? お前にものを頼む権利などない!」


 媚び諂い、オレ達を見下しながら、打算と期待が見え隠れした瞳に見つめられると、心底心が波立つ。あふれる怒りが抑えきれず、冷静さを失い、声を荒げてしまう。


「待て! 待てって! 牢屋にいる人間どもはくれてやる! 俺が言うのもなんだがなかなかの上物が揃ってるぞ。男どもは多少痛めつけりゃすぐに服従するし、女は苦しそうに鳴く声も腰の振り方も天下一品な奴が多い。なぁ、悪くない条件だろ? だから頼むよ」


 お前も好きだろと言わんばかりに余裕を浮かべた笑みですり寄ってくる緑色の巨体。オレの殺意を湧きだたせる十分な振る舞いだった。


「殺すな。手足を抑えろ」


「てめぇ! 約束が――」


「約束した覚えはない」


 牙をむき出しにして食って掛かるオーガの体をジート達の槍が貫いていく。


「ガアアァァァァァァァァ‼」


 血しぶきをまき散らしながら、自らの血だまりに背中を打ち付ける。


 ジート達は突き刺した槍をさらに深く突き込んだ。うめき声上げるオーガに眼もくれずにどこか冷めた表情で――怒りの臨界点が達したような顔だ――八人がかりでオーガを取り押さえる。


――なぜ、こんなことになってしまったんだろう。


 離せ、離せ、とわめき叫ぶオーガをうつろな瞳で静観しながらふとオレは考えた。


 こんな異世界にきて、戦いを強いられるのはこの際別にいい。あこがれたファンタジーの世界で今の現状を理解しているし、人に恵まれて、その人たちの力になりたいとも思っている。これは変な使命感からじゃない。もっと気持ちの奥底から出てきた感情だ。


 サザラールに思惑から、こんなところまで化け物を倒しに来たのも今なら受け止められる。マリーと出会い、ジート達の過去を知り、皆に支えられながら、この世界の厳しさと、勇気を持つこと、仲間の重要性を再確認できた。


 ……でも。


 オレはオーガへと近づいた。


 手足を槍で深く貫かれ、身動き取れないオーガを踏みつけるように乗り、睨みつける。


「なぁ、助けてくれ……」


 この期に及んでまだ命乞いをするオーガ。


 ……でも。


「仲間に死なれるのは……理解ができない」


 オレは仲間から借りた槍をオーガの肩に深く突き刺した。


「ガアアァァァァァァァァ‼」


「なんでだ。なんで死んだ⁉ 死ななくてもよかっただろうが‼」


 こんな奴らのせいでマルコは死んだっていうのか。黒く感情が俺を支配していく。


 その黒い感情が俺を突き動かすように、何度もオーガの肩を抉っては突き刺していく。


 力任せに何度も槍を突き刺し、ゴッ! という鈍い音がすると槍はオーガの骨に引っかかってしまったのか引き抜けなくなってしまった。


 束の間の静寂にオレの頭の中は少し霧が晴れたような気がした。


「あぁ、違うな、オレが殺したんだ」


「……ガッ…………ハァ、ハァ」


 苦しそうに叫び、唾液をまき散らすオーガを見下ろす。


「……お、おい……和人」


 ジートの不安そうな声が耳に届く。仲間の声を聴くだけで胸が締め付けられそうになる。


――なんでこうなった。これ以上、だれも傷つけたくないし、失いたくもない。恋しさも、悲しみも、憎しみも、怒りも、罪の意識もすべて、捨ててしまいたいのに。両手から溢れるほどのこの感情は何度捨てても湧き出てくる。


 なんで……疑問だけがオレの頭の中をいっぱいにする。


――なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで。



――戦争なんて、なければよかったのに……。



 マルコの言葉がよみがえる。


 途端にオレの体は重みが消えたように軽くなる。


「ああ、そうか……」


 オレはオーガを見つめる。


「……ハ、ハハハ…………」


 渇いた笑いを吐き出すオーガの瞳には一筋の希望を抱いたようにきらりと輝く。


「…………」


 不快なその輝きにおもわず俺は顔をしかめる。


「魔法部隊の皆、隠し扉壊せるか」


「おい! 和人!」


 ジートが俺の言葉に驚き、握っていた槍から思わず手を放しそうになる。


「いいから! ……やってくれ」


「いや、しかし」


「やってくれ」


 気まずそうに俺とジートに目配せする魔法部隊の皆は、おずおずと隠し扉の前に立つと、一斉に杖を掲げる。


 徐々に杖は光だし、橙に輝いたかと思うと真っ赤な炎のような輝きに変わる。


「放て!」


 部隊の奴が叫ぶと一斉に輝きから揺らめく炎の球が次々と杖から放たれ、地鳴りのような轟音と共に洞窟が大きく揺れる。


 瞬く間に隠し扉は吹き飛び、瓦礫が砂埃を巻き上げる。


「あ、ありがてぇ」


 オーガの顔におもわず笑みが浮かび上がり、下卑た表情が垣間見る。


「な、なんで……」


 ワイリーがオレを眉をひそめて見つめる。言いたいことは分かる。勘違いされるのは無理ないだろう。


 オレはワイリーの視線は気づかないことにし、ただオーガを見つめる。


「……手足を切り落とせ」


「なっ⁉」


「マジかよ……」


「和人さん」


 ジート達が一様に驚き、オーガはただ口を開け、啞然としている。


「肘とひざは残しておけ、切り落としたくらいで死なねぇから安心しろ」


「てめぇ! 話が違うじゃねぇか‼」


「そんな話をした覚えはない」


「て、てめぇ……」


 今にも拘束が解かれるのではないかと思うほど暴れだすオーガをオレは眉一つ動かさず見つめる。


「安心しろ。殺すわけじゃない、お前は地を這って、仲間の所まで行け。そしてここの事、オレ達のことすべて話せ。ありのままをだ」


 オレはオーガの顔に近づくように腰を低くし、オーガの頬に手を添える。


「切り落とせ」


「かず……」


「切り落とせ!」


「…………」


「ガアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ‼」


 ジート達はオレをしばらく見つめためらったが、意を決すると槍を大きく振りかぶり、オーガの四肢に突き刺していく。


 それは切り落とすというよりも叩き切っているという表現が似合うのかもしれない。


 オーガの四肢に何度も槍を突き立て、血飛沫をジート達はその全身に浴びる。槍の先には肉片がこびりつき、切れ味悪くなる一方でオーガの感じる痛みが増していく。


「ガアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ‼」


 その光景は異様だった。


 何度も槍を突き立て、息を荒くさせながらジート達は一心不乱に腕を振るい続ける。


オーガは取り押さえられ身動きが出来ず、ただ叫ぶことしかできない。


 オーガの手足は徐々に筋を切り離され、槍で骨を叩き折られようとしている。


「ガアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ‼」


「うおおぉぉぉぉぉぉ‼」


 ジート達の渾身の一振り、オーガの体から鈍い音が鳴り、洞窟に木霊する。


「ああ……アアアアアァァァァァァ‼」


 オーガの体は手足を失ってしまった。オーガの手足の断面は何度も槍を荒々しく突き立てられ、千切られた跡のようになっていた。


「覚えておけ、オレ達はいつでもお前を殺せる。いいか……約束は守れよ」


 オレはオーガに顔を近づけ、オーガの顔を両手でしっかりと掴む。


「ヒッ……」


 オーガの目には怯えが見えた。オレの顔はどう映っているのだろうか。その悲壮な顔はオレから一秒でも早く離れたがっているようだ。


「糞野郎に伝えておけ……選ばれし勇者たちが、必ず魔王を討つ! とな」


 無言でうなずくオーガの顔から手を離すと、オレは槍を拾い上げる。


「消えろ」


 冷たくオーガを見下ろすオレはそう言い残すと、オレはオーガをその場に残し、元来た道を引き返した。


 壁の両側に取り付けられた松明を何本か通り過ぎたころ、オーガの姿はもう小さくなっていた。


 ウルクを下した広場まで戻ると、そこには先に外へと出たはずのトンパ達がオレ達の帰りを待っていたかのようにオレ達を見つけるや否や、駆け寄ってきた。


「すいやせん、皆が無事帰ってくるまで待つと言ってきかなかったので……」


「ああ……大丈夫だ」


 ばつが悪そうに苦笑いを浮かべるトンパに一言に声をかけるだけで、オレは再び足を動かす。


 トンパは少しいぶかし気にオレの顔を見るが、立ち止まることなくオレ達の後に続いていった。


 ジート達はオレを気にかける様子を見せるが、オレを気遣ってか、嫌な沈黙が続いていた。


「おい、和人。出るなら隠し扉から出ればいいだろ」


「いや、ウルクの首を持って帰る。その方が交渉しやすい」


「交渉?」


「軍事での決定権を持つためのな」


「和人⁉」


 ジート達がオレの言葉で思わず立ち止まる。


 オレはジート達の方へ振り向くと、しばらく目を閉じ、マルコの言葉を思い出す。


――戦争なんて、なければよかったのに……。


「マルコの言葉で気づかされたよ。オレはこの異世界に召喚されて魔王の事、この世界の現状を聞かされて、無意識に高ぶっていた。絶対に魔王を倒すんだっておとぎ話の中に入り込んだみたいにいっぱしの正義感で浮かれてたんだ」


 オレはジート達の顔が見れずに俯き、心から湧き出てくるこの気持ちを必死で言葉にする。


「でも、この世界の人たちは割と魔王はどうでもよくて、ただ平和を願っているだけなんだ。帰る場所があって、そこには家族がいて、ただいまって言うとおかえりって返ってきて、食卓を囲んで、笑い合って、泣き合って、ただそんな日々を望んでいるだけなんだ」


 徐々に拳に力が入るのが自分でも手に取るようにわかり、もう自分を抑えられそうにない。


「でも! そんな日々は奪われていって、訳も分からず大切な人を殺されて、戦争に駆り出される! ばからしいだろ、戦争で家族を奪われたはずなのにその戦争に参加してる……でもこんなこと言っても戦争は終わらないし、元凶の魔王はいなくなってもくれはしない……だから……」


「…………」


 ジート達は真剣に耳を傾けてくれる。言葉が詰まりそうになるのを必死に堪えて、今度はジート達としっかりと顔を合わせた。


「だから……オレがこの戦争を終わらす。どんな犠牲を払おうとも、一分一秒でも早くこの戦争をこの世界からなくしてやる。これから先、オレ達やマルコみたいなやつを絶対に作ってはいけないんだ。魔王がどうとか、そんなものはもう涼音達がどうにかしてくれる。勝とうが負けようが、殺そうが殺されようが、オレが、この手で、終戦に導いてやる」


「…………」


 ジート達からの返答が聞こえない。待ってるんだ。オレの言葉をまだ……。


「戦争を終わらす。こんな大それたこと成し遂げるには、正直オレの力だけじゃ荷が重い。だから……だから、オレについてきてくれ。今日勝ったように、遠くない未来、必ずオレが戦争を終わらせてやる。だから力を貸してくれ」


 オレは頭を深く下げた。


 今日は勝つことができた。しかし、それと引き換えにマルコという大切な仲間を失ってしまった。これは紛れもない事実だ。だからここで断られても仕方ないとも思っている。でも、だからこそこいつらに支えてほしいとも思っている。


 オレは願うように目をつむった。


「何をいまさら……顔を上げろよ和人」


 ジートががっしりとオレの肩をつかみ、半ば強引にオレの体を起こす。


「何でもかんでも、背負いすぎだ。マルコのことも、さっきのオーガとのやり取りも、そして今も、背負いすぎなんだよ、お前は」


「ジート……」


「そうだよ。白状しちゃえば僕たちが和人に背負わせてしまったっていうのが正しい……でも今日のことはみんなで背負わなきゃいけないことなんだ。和人今までごめん。今度は僕たちが君を助ける番だ」


「ワイリー……」


「そうですぜ。これから先も和人さんを一人にさせないですし、いつ何時も力になりやす。これからも頼ってください、和人さん。あっしらがこの命をかけて、あなたの望みが叶うその日まで、お供します」


「トンパ……」


 みんなが俺の肩を抱いて、言葉をかけてくれる。


 目には一杯の涙を溜めて、大粒のしずくを地面に垂らしていた。


「おいおい、泣くなよ、男だろ。俺たちの勇者様なんだからもっと胸を張れ」


「ああ」


「そうだよ。僕たちを引っ張ってくれるでしょ。ほら、君の背中を見せて」


「……ああ!」


「安心してくだせぇ。和人さんがどんなに険しい道を行こうとも、ついていってみせやすぜ」


「ああ‼」


 背中を押してくれる、頼もしい仲間たち。この存在だけで胸がいっぱいだ。


 あふれる涙を必死に拭いて、オレは上を向く。前を向く。


 空気を胸いっぱいに吸って、決意する。


「帰ろう、王都へ‼」


『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼』







最後まで読んでいただきありがとうございます。

感想、誤字脱字などお気軽にお書きください。

ついに、今回のお話を以って第一章が完結いたしました!

和人の王都への帰還の様子は幕間として投稿したいと思います!


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