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ストラテジー~知略の勇者~  作者: 鷹飛 諒
第一章
22/31

~最終決戦~(2)

どうも! 皆さん! 鷹飛 諒でございます!

大変長らくお待たせしました!

第一章もいよいよクライマックス。また生温かい目で読んでやってください。

では!



「奮い立て! 屈強な戦士たちよ! 今こそあの鬼の喉元を食いちぎれえぇぇ‼」


『おおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼』


「ほざくな家畜が!」


 ウルは仰々しい棍棒を振り回し、巨大な足で踏みしめる地面からは衝撃で石の破片が飛び散っていく。


 ジート達は一糸乱れぬ疾走の中、甲高い金属音と共に己の鎧と盾を左右にぶつけあいながら仲間との間隔をどんどんと狭め、一つの強靭なファランクスへと変化していく。


 ウルとオレ達の間隔が狭まっていく。


 互いの闘志と闘志がぶつかり合い、目の前の敵に近づくたび息苦しくなる。


 囚われた人質を助けることが目的のこの戦いだが、久しく感じていなかったこのスリルにオレは思わず口元を緩ませる。ジート達には悪いが危機的な状況になるほどオレは燃えるタイプらしい。


「死ねえええぇぇぇぇ!」


「うおおぉぉぉぉぉお!」


 ウルは棍棒を地が揺れるような音と共に地面を抉りながら、下から振り上げる。


 ジート達はこれまでにないほどの団結力でほぼ同時に鉄と鉄がすれる音が鳴り、盾で顔を覆うように構える。


 ギイイィィィィィィィン‼ と轟音の中に鉄が軋む音が混じり、ウルとジート達の間にまるで噴水のように大きな火花が勢いよく飛び散った。


「がああぁぁぁぁぁぁ‼」


「ぐうううぅぅぅぅぅ‼」


 壮絶な火花散らすほどの衝撃で両者は体の軸がぶれ、大きく後ずさる。


「殺す! 殺す! 絶対に殺す!」


 圧倒できず悔しかったのかウルは棍棒を地面に叩きつけながら、地団駄を踏む。


 騎士四〇人でも圧倒できなかったか……やはり今までの奴とは格が違う。


「最後まで気を抜くなよ、お前ら」


「こんな状況で気を抜けるほど肝が据わってんなら今すぐほしいな、その肝」


 ジートが苦笑交じりで吐き捨てる


「軽口叩けるくらいには余裕があるか。上出来だな」


 オレは部隊の間を割って入り、体制が崩れ膝をつくジートに歩み寄る。


「立てるか?」


「当然」


 ジートは差し出されたオレの手を取り、まだに体に衝撃が残っているのか、ふらつきながらも立ち上がった。


 ウルの方へ眼をやると頭から湯気が立っているように見えるほどのその形相は思わず目をそむけたくなる。まさに鬼気迫る表情だ。


 しかしそんな表情されてもこちらも負けるわけにはいかない。自然と槍を握るオレの手も力が入る。


「おいおいどうした、殺すんじゃなかったのかぁ? オレ達は傷一ついてねぇぞ?」


「家畜の分際で……クソがあああぁぁぁぁ‼」


 ウルは破裂してしまうのではないかと思うほど膨らんだ血管をドックン、ドックンと脈打たせながら、オレ達へと向かって突進を仕掛ける。


 再び地面が揺れ、オレ達の間に緊張が走る。


 正直、煽るのはもうしたくないのだが面白いように挑発に乗ってくれるのでしばらくはこれを続けるしかない。これで攻撃が単調になってくれれば戦いやすいのだが、戦い続けるのは少し、いやかなりきつい。


 ウルの突進に体が反応し、ジート達も前へ出る。


 棍棒と盾がぶつかり合うたびに火花が散り、両者の顔を朱く照らす。


 立ち回るたびに幾度も踏みしめた大地から自分たちが与えた鼓動のような衝撃が足元から体中に心臓に伝わり、思考も手足も知らぬ間に早くなっていく。


 何度もぶつかり合っては攻防を繰り返し、盾を落としてしまいそうになる左腕を必死に殴っては叩き起こし、ウルの攻撃を真正面から受け止めていた。


 張りつめた緊張と集中がいつ途切れてしまうのかという不安に苛まれながらも、目に入る汗も気にならないくらいオレ達の感覚は研ぎ澄まされていく。


 オレの思考も早まり、目の前で奮闘しているジート達の動きも目に見えてキレが増しているのが分かる。


「いい加減死ねやぁ‼」


「勝つのは私たちだ!」


 あの落ち着いた雰囲気のマルコも興奮したように叫んでいる。

実力は互角。自分の力が通用していると肌で感じているジート達の表情も凄みを増している。


 しかし、今相対しているのはウルただ一人。奴の後ろにはウルクが待っている。幸い奴はオレ達のことを舐め切っているため、現状は戦えているがやはりこの後の展開も考えないと行かない。


 オーガ二体を相手取る事実は変わらないため、以前警戒を続けなきゃ――っ⁉


「なにっ⁉」


 オレは自分の目を疑った。オレの視線の先にはいたはずのウルクが忽然と姿を消しているのだ。


――ありえない。


 オレは思わずその場所を二度見した。


 オレの身長の倍は優に超えるあの図体を見失うはずがない。オレは自分の頭がおかしくなったのかと錯覚してしまうほどだった。


 オレは必死にあたりを見回してウルクの姿を捉えようとするものの、オレの目に奴の巨体が映ることはない。


「みんな気を付けろ! ウルクが消え――っ‼」


突如、嫌な気配がオレの脇腹を突く。


 その嫌な気配はオレが目向ける直前までその存在をどんどんと膨らませ、オレにのしかかってくる。


「くそ、でけぇ図体のくせに影薄すぎだろ……」


 オレはその気配に恨めしそうに独り()ちた後、そちらに眼を向けると隊列の右翼から案の定凶暴な笑みを浮かべたウルクが棍棒をファランクスを形成したままのジート達目がけ、振り上げていた。


 急にみぞおちが冷えていく感覚が襲い掛かり、夢中で叫んだ。


「魔法部隊! 右翼のウルクを牽制! 絶対に近づけるな‼」


 オレの声に素早く反応した魔法部隊は、すぐさまウルクの方へ杖を構え、ゆらゆらと揺らめく炎の球をウルクにぶつける。


「がっ⁉ ぐおおおぉぉぉぉぉぉぉ‼」


 ウルクの顔面に炎球が次々と直撃し、苦しそうな声を漏らしながら、丸太ほどの太さを持つその足はよろめきながら後ずさる。


――よしっ!


「死ねえぇぇぇぇぇぇ‼」


 ウルクの突然の襲撃を食い止め、足止めに成功したと思った矢先に今度は一度動きの止まったこの瞬間を好機と見たウルは、凶悪な笑みと石をもかみ砕くことができるのではないかと思うほど鋭い牙を見せつけるようにこちらに向け、棍棒を振り下ろす。


「散れ!」


「何っ⁉」


 オレの突然の言葉にウルは驚いたようだ。


 しかし、ジート達はあらかじめ分かっていたように流れるような動きで振り下ろされた棍棒にも見向きもせずに避け、まるでウルクやウルを無視するかのように散り散りに洞窟を駆け回った。


 ドドドドドドドド‼ と上から下から右から左から洞窟に木霊しながらその足音はどんどんと大きくなり、圧迫感さえ感じる。


 ウルのみならず、ウルクも洞窟に響く足音にそして、縦横無尽に止まることなくジート達の姿に困惑していた様子だ。


 今まで固まって動いていた分、突然ばらばらに動かれればそれだけで奴らの意識は混乱するのは少し考えればわかる。狙いやすい大きな的がいきなり幾つもの小さな的になり、それがあっちこっちに動き回るのだからウルやウルクは次の一手を出しあぐねている。


 ウルクたちの動きが止まっている間にもジート達は足を止めず、息が絶え絶えになりながらも目を爛爛と輝かせ、その機会を虎視眈々と狙っている。


 その凄まじく、静かな闘志と気迫は味方のオレでさえ息をのむ。


――なんだ……こいつら……最初にも思ったが、俺たちに対しての攻撃が一切躊躇がねぇ。


「なんだ……こいつら……最初にも思ったが、俺たちに対しての攻撃が一切躊躇がねぇ、とか思ってる顔だな」


 ジート達が走り回る中、行き交う群衆の中から突然ぬっと目の前に現れたオレに、思わずウルクはぎょっとしたようだった。


 それはそうだろう。


 ジート達が縦横無尽に駆け回っている中、ただ一人がその人ごみをモノとせずただまっすぐこちらに薄ら笑みを浮かべながら向かってきている。まるで誰もオレの存在を感じていないかのように見向きもせず、オレはただ歩いている。


 そんな光景は誰が見ても異様だろう。ウルクの眼にもその不気味に感じている様が確かに宿っていた。


「てめぇは……いったい何なんだ?」


 ウルクは一歩下がる。


「さぁ、誰だろうな?」


 オレは一歩前に出る。


「…………」


 ウルクは無意識に下げてしまった自分の足に眼をやりながら、苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべる。無意識のうちに気圧されてしまったことがとてつもなく悔しいらしい。


「こわいよな、得体のしれない者って奴は」


 オレはウルクを見上げる。


「調子に乗るなよ家畜が」


 ウルクは脅すように棍棒振り上げ、オレの真横へと勢いよく振り下ろした。


 地面は割れ、その破片がオレの頬を掠める。


 オレの頬は破片が通り過ぎると、独りでに奥の血肉の姿を見せ、血液を滲ませる。


 いつものオレなら、恐怖で慄き、尻もちをついていることだろう。


 だが、今は違った。恐怖は確かにある。涼音達が待つ王都へ帰ろうという目的もある。この洞窟に囚われた人々救い出す大義名分もある。この命が惜しいと思う理由はいくらでもあったのだ。だが違うのだ。


「本当になんなんだてめぇ……」


 オレは心底興奮していた。今、この瞬間を心底楽しんでいたのである。オレは自分の中に狂気というもの初めて感じた。恐怖でもあり憧れも抱いていたこの感情が自分の中に垣間見えたのは何とも複雑な感じだ。


 だが好都合。この感情もすべて武器にして、演じろ。


 力で及ばないのなら、策で翻弄しろ。思考を止めるな。行動を止めるな。息が切れても、肺が潰れそうなくらい苦しくても、やめてはならない。


 オレ達にはこれしかない。


「聞こえるか、ウルク」


 オレは居心地がよさそうに手を広げた。


 ああ……そうだ。この足音が、この意志が、オレに活力を与えてくれる。狂気を与えてくれる。勇気を与えてくれる。


「おまえの死へのカウントダウンだ」


 オレの一言で洞窟に木霊する地面を蹴り走る音が一層勢いを増す。その衝撃が地面から足を通じて脳天まで届きそうだ。


 突如、走り回っていたはずのジート達がいつの間にか隊列を組んで、オレの背後から飛び出したかのようにオレの左右を通り過ぎ、ウルク一直線に向かっていった。


『うおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼』


 ジート達は勢いよく槍を突き出し、ウルクを襲う。


「なっ⁉ グオオオォォォォ‼」


 ウルクは突如として視界一杯に広がる槍の雨に後れを取りながらも、棍棒を巧みに使い致命傷を避けている。


 しかし、ジート達の槍はたしかにウルクを捉えていた。その証拠にウルクの素肌からは汚らしい血が滴っている。


 ジート達は力の限りウルクを押し、槍を突き立てようとする。だが、やはり力が専売特許のオーガ。しばらく押されるも、すぐに足を止め、騎士四〇名と互角に渡り合う。


「てめぇえええぇぇぇぇぇ‼ 俺を無視すんじゃねぇ‼」


 その一瞬の隙を見逃さないのがもう一体のオーガであるウル。隊の真横からまるで岩のように筋肉が隆起したその両手で棍棒を振り上げ、ジート達を襲う。


「魔法部隊‼」


 もちろんの事ウルの攻撃を許すはずもなく、オレは叫びながらウルに手を向ける。


 流石の練度で魔法使いの連中はオレの声に素早く反応し、正確にウルの顔を目掛け魔法を放つ。


「グアアァァァァァ‼」


「この家畜がああぁぁぁ‼」


 ウルの足を止めるも今度はウルクからその凶悪な棍棒が伸びてくる。


「散開!」


 オレの声を即座に反応するのはジート達騎士部隊。横に薙ぎ払われる棍棒をうまく躱し、もう一度ばらばらに走り始める。今度はオレも洞窟内を駆けずり回った。


「くそ、なんなんだ!」


「…………」


 一向に攻撃が当たらないことに苛立ちを見せるウル。


 しかしそれとは逆にウルクはジート達を見て、驚愕している様子だった。


 散らばっていたはずのジート達がオレを先頭に足を必死に動かして走りながら、隣の奴にまるで体当たりするように隊列を作っていたのだ。


 ぶつかる衝撃でうねりを見せながら、隊列を形作っていくその様はまるで得体のしれない物が何か蠢いているかのようだ。


 オレは隊列が出来上がったことを背後から感じ取ると、足を止め、ウルクを見据えて手を向けジート達を鼓舞する。


「てめぇらの全部を奴にぶつけてこい‼」


『おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼』


 ビリビリと感じるジート達の気迫に思わず笑みがこぼれる。


 強固に盾を構え、奥からのぞかせる瞳はさながら歴戦の猛者。オーラが漂っているかのようだ。


 その気迫に反応したウルクが調子に乗るなと言わんばかりに棍棒を構えながら、殺気を垂れ流す。


 ジート達の気迫とウルクの殺気が衝突した瞬間、両者の盾と棍棒からも激しい火花が散る。


「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼」


「ガアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ‼」


 ぶつかり合う両者は主導権を一切譲らず、ここぞとばかりに力を籠める。


 しかし、この状況を快く思わない者がいる。


 それはジート達の真横から、目を血ばらせながら、肩で息をするほど興奮している。


「俺を……俺を……無視するんじゃあねえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼」


 薄暗い空間に轟かせるウルの声は空しく響くだけでジート達はものともしなかった。


「がっ……この……」


 その様子は一層ウルの殺意を助長し、まるで獣のようになりふり構わずジート達目がけ跳びかかる。


「魔法部隊!」


 声に反応する魔法部隊は口を大きく開け牙を輝かせるウルに魔法を行使する。


「がっ……んなもん効かねえぇよ‼」


 自分を襲う魔法にウルは足を止めそうになるも、殺意が勝ったのか衝撃もお構いなしに棍棒乱暴に振り回す。


――かかった。


「ウル! 止まれ!」


 野生の感というものなのか寒気のするような不気味なものを感じ取ったウルクが慌てた様子で叫んだ。


「魔法は連発できねぇだろ!」


 ウルクの声がしたなどとは露知らず、勝ち誇ったような笑みを浮かべるウルは、棍棒を持ち手にひびが入るほど握りしめ、振り上げる。


「ああ、連発はな」


 誰かが囁いた瞬間。


 ウルの上半身が消し飛んだ。





最後までお読みいただきありがとうございます。

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