〜ハプニングと戦略会議〜
皆さま今まで投稿を休んでしまい大変申し訳ございませんでした。
またこれから投稿させていただきますので、これからも是非、是非、生温かい目で読んであげてください。
では!
トンパ達が偵察に行っている間、オレ達は少しでも隊列攻撃の練度を上げようとひたすら訓練をしまくった。刻一刻と迫る戦いから気を紛らわすようにジート達は訓練に没頭していた。
今回はオレも訓練に参加した。オレは従来の戦争同様、隊の一番後ろへ指示出しの確認。隊の展開の様子を観察し、オレの指示が行き届いているか確かめたりした。これは俺の新魔法である|《軍師の声音》《クリーガーシュトゥム》により速やかに指示を送ることができた。
そしてこのファランクスの弱点である最右翼を攻められた際の対処法を日が暮れるまでジート達に叩きこんだ。練度と士気は上々、故に皆しっかりと頑張ってくれた。
そうこうしているうちに日は暮れ、トンパ達が戻ってきた。それも傷だらけの女付きで……
「こうなるとは予想していたが……期待通りって言うわけじゃなさそうだな」
まあいい対策は考えている。
「和人さん、すまねぇ……いてもたってもいられなくて……」
「話は後だ! 姿は見られたか⁉」
「それは絶対にねぇです」
「移動するぞ!」
オレはトンパが肩を貸しているみすぼらしい薄汚れた布を身体にまいたような女に近づき、周りの奴にも声をかける。
「もう大丈夫だ。おい皆! 彼女に土をかけろ! 全身にくまなくだ」
トンパ達偵察部隊はオレの声に即座に反応し、女に土を擦り付ける。
女の方は土を擦り付けられているにもかかわらず、それに反応する様子はなく、目に力はなくずっと遠くを見つめていた。
オーガは目や耳などの感覚器官は人間とさほど変わらない。だが鼻だけは人間より優れており個体差はあるが数一〇〇から一キロメートルの臭いを嗅ぎ分けられる。そして血の臭いには敏感だ。だから家畜には体中に傷をつけて血の臭いを充満させる。だが、その精度は良くはない。だから土を全身に塗り付ければしばらくは偽装できる。
「おい、お前らを自分に土をつけるのを忘れるなよ!」
オレも土を顔に塗り慣れない騎士鎧の中にも土を入れる。
「和人、私たちは準備できました」
「こっちもだぜ」
マルコ、ジートはすでに隊を並べている。
「よし、移動するぞ!」
この森は今までオレ達が滞在した草花が生い茂っているだけの開けた場所のような空間が点在している。オレは廃村とのある程度の距離を保ち、廃村からは見つけにくい場所をあらかじめ見つけており、その場所へと歩を進めた。
「和人さん……すまねぇ……」
「謝るのは後でって言ってるだろ。今は彼女声をかけ続けてやれ」
オレはトンパの肩を叩き、先行する。
目的地はここからは南西に位置し、廃村からは以前より少し遠い。
馬は鞍を外し、さまざまな方向へ適当に走らせた。いわゆる囮だが、どれもえりすぐりの名馬だ。逃げきってくれるだろう。鞍は茂みに穴を掘って埋めて隠した。オーガは頭が悪いと聞くから囮や鞍に気付くのはしばらく後だろう。
手段は打ったから時間稼ぎは十分。しかしオレ達に残された時間はもう少ないだろう。遅かれ早かれオーガ達はトンパ達の偵察に気付いてなければ、このことで俺たちの存在に気付くだろう。そうとなれば警戒心が生まれ、こっちが攻めにくくなってしまう。
焦りは禁物だが、結局は焦らなければならない形になった。嫌な流れだな……。
いや、今は逃げ切ることだけを考えろ。オレ達の存在が知られていない以上それだけで有利であることには間違いない。これだけは守りきる。
「お前ら、足を止めんじゃねぇぞ!」
『おう!』
「……逃げ切ったみたいだな」
オレがそう呟くと、皆安心したように足の力が抜け、尻もちをついた。
先ほどいた場所と瓜二つのこじんまりした草原の草花の感触に懐かしささえ覚えた。それだけで時間が長く感じたのだ。
「さすがにヒヤヒヤしたね」
ワイリーが大きな図体を縮こませながら言うと、ジート達も深いため息でそれを肯定した。
「トンパ、彼女はどうだ?」
ここに付いてすぐ偵察部隊のトンパ達と連れてきた彼女を休ませてあり、彼女は毛布を肩から掛け、両手には温かいスープの入った木のカップを握っていた。
見たところ、徐々に目は光を取り戻し、顔色もよくなってきている気がする。
改めて見ると年は同じか少し下、活発そうな肩まで伸びる赤髪とは逆に控えめそうな印象を受ける碧い瞳が可愛らしい普通の少女だ。
「へい、まだ拙いですけど喋られるようになるまでは元気を取り戻したみたいですぜ。嬢ちゃん、自分の名前いえるかい?」
トンパは彼女の肩を優しくさすりながら言った。
オレはゆっくりと彼女に近づき、怖がられないように座っている彼女と同じ目線になるようにしゃがむ。
彼女は近づいたオレに一瞬ビクッと肩を震わせたが、しばらく目を泳がせた後、久しぶりにしゃべったような片言の言葉で口を開いた。
「わ……わたしは……マリー、といいます」
「マリー、オレは和人っていうんだ。よろしくな」
マリーはオレの言葉にうなずく。
「今はゆっくり休んでくれ。詳しい話は後でいい」
それだけ言い、オレはその場を離れた。
その場を後にした俺にジートが駆け寄り、マリーの状態を聞いた。
「どうだったか?」
「ああ、今は落ち着いてはいるが、落ち着きを取り戻すたびにこれまでの事を思い出してパニックを起こすかもしれない。その時にどれだけケアできるかだな」
「そうか……」
「もう夜更けだ。今は休もう」
オレはジートと別れ、横になり、目を閉じた。
目を閉じても頭が冴えて眠れない。オーガとの戦闘、監禁された人たちの救出、最悪の状況を考えてしまい、慌てて飛び起きる。
ふと頭をよぎるのは涼音、琴音、壮介、大樹の事ばかり。
「くそ……いつなら帰れるっ!」
オレは静かに唇を噛んだ。
「きゃああああ!!」
いつのまにか寝ていたオレはマリーの叫び声で目が覚めた。
寝起きでも頭は冴えており、予期していたものが起きたのだとすぐに悟った。
――パニック障害か!
マリーの所へ駆け足でいくと、すでにジート達がそこにいた。
マリーはというと頭を抱え必死で何かを叫んでいる。
「いやああぁぁ! 来ないで‼ お父さんを返して! きゃああああああ! お父さああああああああああん‼」
「マリー! おいマリー! しっかりしろ‼ もうここにはオーガはいないんだ!」
オレが肩を掴もうにもマリーはそのたびに俺の手を振り払い、叫んでいる。
「いやあああああああぁぁぁぁ! 離して離して離して!」
仕舞いには発狂したように暴れだし、もう手が付けられないような状態になっている。
どうしたものか。そう悩んでいるとマルコがおもむろにマリーの前に立ち、抱きしめた。
「大丈夫ですよ。大丈夫だから、安心してください」
マリーが暴れてもお構いなしに抱きしめ続けるマルコ。
しばらく暴れ続けていたマリーだが、徐々に落ち着きを取り戻し、マルコが頭を撫で続けるとまた寝息を立て始めた。
「最初はどうなるかと思ったが、マルコがいてよかった。ありがとう」
「いえ、構いませんよ。これぐらい」
マルコはマリーを横にさせると、もう一度マリーの頭を撫でる。
辺りはまだ暗い。おそらく日付はもう変わっている頃だろう。
「ちょうどいい、トンパ達の話を聞きたい。手に入れた情報を教えてくれ」
「へい。和人さん」
トンパ達偵察部隊はオレを入れて輪になるように並び、手に入れた情報を話し始めた。
トンパの手には廃村周辺の地形がびっしりと書き入れられた羊皮紙のような前時代的な地図が握られており、それが輪の真ん中に広げられた。
「まずは廃村周辺の地形はこことあまり変わりません。村を中心に腰ぐらいまでの草が生えた茂みと、森林が広がっています」
廃村周辺の地形のアドバンテージはないのか。茂みの中では戦いにくい……戦闘地には向かないな。もちろん森林地帯は論外中の論外。剣もまともに振れない場所で戦えるわけがない。
「廃村内部は?」
「村の様子はというと建物はほとんどが全壊。数軒が半壊していました。戦闘地としてはここが最適かもしれません」
半壊の具合がどれぐらいかは正確には把握できないが奇襲などは出来ないと考えたい。この地形でも
「敵の本拠地は廃村のさらに奥、森の木々に隠れた洞窟のようです。出口は周囲を探索しましたが出入口は廃村側の一つだけのようです。マリーさんもその出入口から出てきました。洞窟には大きな岩が散乱しており、足場も悪いのでここは戦闘地として向かないかもしれません」
洞窟、岩場……。
「洞窟の大きさは? 洞窟周辺の岩の配置はどうなっているか正確にわかるか? 内部は見ることは出来たか?」
オレはまくし立てるようにトンパ達に詰め寄ってしまった。しかし、その地形を生かせれば勝機を見出せるかもしれない。
トンパ達はオレの様子に怪訝な顔を浮かべながらも、すぐに気を引き締めてつらつらと語り始めた。
「洞窟は出入口が五メートルから八メートルほどありやす。規模は相当なものですぜ。あっしらが隊列組んで進行してもまだ余裕があるくらいですぜ。洞窟内部は申し訳ねぇですがオーガもいるかもしれないので調べることができやせんでした。すいやせん」
「ああ、それは仕方ねぇ。それよりほかは?」
「後は正確な岩場の配置は……こことここ。それから……このあたりですぜ。残りの大小さまざまな岩が雑に転がっているような状態ですね」
トンパが地図上の場所を指さしながら細かく教えてくれた。
「そうか……なら……」
オレは思わず口角が上がってしまう。
オレは次々と策を練り上げていく。一人でも生存の可能性を上げるように、一人でも助けてあげられるように、確かな勝利を掴むために……。
「おい、和人。これマジかよ……」
ジートが目を見開きオレを見つめる。
「ここで重要なのは、オーガ達の居場所がすべて洞窟内にいるという事だ。出入りするオーガ達を監視して、オーガ達が一か所に集まる瞬間を狙って奴らを叩く。ここからは一つのミスも許さねぇ」
オレの声に反応するように皆が拳を強く握りしめる音が聞こえる。徐々に見えてきた決戦の日を待ちわびたかのようにメラメラと闘志を燃やしている。マリーには悪いがここでマリーと出会えたことが皆の闘志を焚きつけることになったのだと思う。
「やるなら速攻、ぶっつけ本番だ。てめぇら……勝ちにいくぞ」
いかがでしたでしょーか!
最後まで読んでいただきありがとうございます!
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ありがとうございました!




