~始まりは突然に~
初投稿です!
お初にお目にかかります鷹飛 諒と申します。
至らぬ部分もあると思いますがどうか生温かい目で読んでやってください<(_ _)>
では!
柔らかな風で運ばれた燃えた火薬の香りと乾いた鉄の臭いが鼻孔を擽る。
死を連想させる物騒な香りが流れ、彼らの緊張は最高潮にまで高まる。
荒廃した地には死体が転がり、剣や銃が転がり、両端には勇ましい顔の武装した群衆がお互いを睨みつけている。
軍隊だろうか。どちらも美しいと言えるほどきれいに整列されている。両者どちらも幾つもの死線を潜り抜けてきたような面立ちをしていた。
最高潮の緊張感がいつまで続いたのだろうか。片方の群衆がしびれを切らしたように一斉に猛々しい雄叫びを上げながら駆け出していく。
しかし、もう片方の軍は依然として動かない。進軍した軍は転がる死体を飛び越え、着々と近づいてくる。
「ククク……かかったなぁ」
動かない軍の後ろで黒い髪の軍服の男がニヤリと笑う。その凶悪ともいえるその笑みと黒い髪でその姿はさながら死神のよう。
その死神がゆっくりと右手を水平に上げる。
その水平にまで上がった右腕を皮切りに戦況は一変した。
進軍した軍の後ろで転がった死体が何事もなかったように起き上がり、銃を構え、連射したのだ。
不意の攻撃を受けた軍は混乱し体制が崩れる。
それを好機として逃さなかった不動の軍は、糸が切れたかの如く一斉に動き出し、敵軍の兵を蹂躙していく。剣で切り裂き、銃で撃ち抜く。前後を挟まれた軍はなすすべなく壊れた人形のように地に倒れ伏せ、動かなくなった。
そして軍が一人残らず地に沈んだ後、達成感の入り混じった男たちの咆哮と共に、空には『Victory‼』という文字が浮かび上がった。
「ククク、クハッハハハハハハハ! いやぁ今日も快勝快勝」
オレは手慣れた手つきでスマートフォンのゲーム画面を指で操作していく。
今、小刻みに揺れる電車の中でスマートフォンを弄りながら密かに不敵に笑っているオレを気持ち悪そうに見て何かひそひそ話している人妻アーンド女子高生。だがオレは気にしない。
ゲーム画面にはオレのキャラネーム『平和』がゲーム内世界ランキングで堂々の一位を獲得している。
キャラネームである『平和』は本名の柊和人を縮めた略称に漢字を当てたものだ。いわばオレの分身、もう一人の俺なのだ。そのオレが世界一位だぞ⁉ 超絶平凡ライフまっしぐらのこのオレが。特に特徴もないすべてにおいて平凡と言われるこのオレが。ある時高校の担任に「まぁ、普通も個性の内だよね」と変な気の使い方をされたこのオレが世界一の資格を得たんだぞ、少しぐらい喜んでもいいじゃないか。うん、喜んでいいはずだ。
そう思ってオレは小さくガッツポーズをとる。
「うわっ! キモッ!」というプリティガールズの声が聞こえたが気にしない。う、うん気にしない……グスッ。
オレが今ハマっているゲームは『ウォーロード』という領地開拓して軍隊造って武器強化して防衛して攻め落としてさらに領地を拡大する、いたってシンプルなストラテジーゲームだ。だが、この世で数多に存在するリアルタイムストラテジーゲームで中では不動の人気を誇っている。
この『ウォーロード』って名前も結構気に入っている。直訳で戦道。ひたすら戦争してランキング一位への道を歩むという名が体を表している名前だと思うし、ロードという言葉にはつづりは違うが君主とか神っていう意味がある単語もあるから、なかなか洒落ていると思うし、個人的に壺だ。
絶大な人気を誇っているその訳は戦略、戦術の自由度の高さだ。開拓、育成する際の細かな設定もこのゲームの大事なファクターだけど、戦術、戦略の自由さが半端じゃない。一言でいえば何でもありだ。
もちろん初心者のために基本的な防衛、攻撃の際の戦略、戦術はあらかじめ登録されていて戦況と自分の判断力で自由に指示できるけど、自分でオリジナルの戦術、戦略を考えて本番で使うことができる。これだと他のゲームとあまり変わらないのではと思うかもしれないが、要は現実で言う秘策や奇策がゲーム内でできるということだ。
例えば、さっきの俺の戦術。死んだふりしていきなり後ろから銃撃なんて普通のゲームじゃできない芸当だ。このゲームはプレイヤーの創意工夫がその通りに反映してくれる。何をやるかは自分次第なのだ。
これが、オレがこのゲームにのめりこんだ最大の理由だ。
こんな完全実力主義のゲームで世界一位を取ったという事は大げさだとは思うけどオレの誇りだ。
まぁ、誇りなんてこれ以外に無遅刻無欠席ぐらいしかないんだけどね。テヘッ。
「あ、次か」
自分が下りる駅名がアナウンスで流れ、一人思考の海から這い上がる。
気怠そうにふらつきながら座席から立ち上がり、開閉ドアの前で到着を待つ。
先ほどの奇行で視線が槍みたいに体中に突き刺さり、オレの家へと向かう帰路は少しばかり憂鬱なものになってしまった。
最寄り駅に着き、階段をそそくさと駆け上がり、改札を通る。人の邪魔にならないように立ち止まり大きく息を吐く。
「ああ、辛かった」
人の視線ってあんな痛いものなんだな。今日も一つ学んだ。うん、オレ前向き。いい傾向。
オレは気を取り直し、また歩き出す。駅を出た後は横断歩道を渡り商店街を人にぶつからないよう避けながら通る。そして、毎回この道を通って思うのだ。
「寂しい」
また一つ大きくため息を吐く。
うん、チョー寂しい。超絶美人の幼馴染もいないし、てか幼馴染という存在を都市伝説かなんかだと思っていたほど縁がなかった。というか幼馴染はおろか仲のいい友達がいるかどうかも怪しい。自分で言って心が抉られるような感覚を味わうのがもうオレの日課になってしまったのがとにかく悲しい。
商店街を抜け閑静な住宅街に入る。人が賑わっていた商店街とは打って変わって本当に静かなもんだ。
こうも静かだとだんだんと心が荒んでくるのが自分でも感じる。
少しさびた街灯と少し欠けた道路の白線。驚くほど静かな住宅。いつもの光景なのに今日は少し不気味に感じていた。
今思えば、この時からオレの危機察知システムがけたたましい音で警鐘を鳴らしていたのだろう。今思えば、だが。
「はああぁぁぁ……いっそどっかの異世界に召喚されたりしないか――」
そしていつもの通りに現実逃避しようとした矢先、下から光を感じふと足元を見る。
「え?」
そこにあったのは自分の足元を中心に広がる紫色の魔法陣。きれいな光が燦燦と輝き、思わず目をつむる。
「っ魔法陣⁉」
拙いファンタジーの知識がこんな時に蘇ってきたのはお約束で、こんな時は一歩も動けず光に包まれ異世界へ召喚、なんてことになるのだろうけどオレが選んだ選択は――。
「戦略的撤退‼」
脱兎の如く駆け出した。いや、逃げ出した。
いやいやいやいやいやいや‼ ふつう逃げるでしょこれは。だって想像してみてくださいよマジで。一人歩いていたらいきなり足元から紫という何とも微妙な色の魔法陣が現れてなんか光ってる。しかもよく目を凝らしてみると同系色のより暗い色の煙が少しだが上がってきたのが見えた。
普通の書籍とかアニメで言う異世界召喚の類は純白の光に包まれて、辺りからは鐘の声が聞こえてきて、何とも爽やかなBGMが流れてきたと思ったら、何とも美しい女性の声で『私共の世界を救ってください。勇者様』なんて聞こえるのだろうけど、今のオレの状況と言ったら紫の魔法陣、紫の光、暗い紫の煙、時折聞こえる『ヴッ……ヴォ、ヴォ』という恐ろしく低い男の声……怖すぎでしょ‼ 明らかに思い描いていたファンタジーと真逆だしっ‼ 普通だったら逃げるよね⁉ 逃げるよね⁉
「何あれ⁉ 何あれ⁉ ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 神様ごめんなさいぃぃ‼もう現実逃避なんてしないので許してくださああぁぁい‼」
こんな時になって出てくるのが神への懺悔とは滑稽だと思う。
「って⁉ ひいぃぃいぃ⁉」
ふと後ろを確認すると、なんとその禍々しい魔法陣がオレを追ってきていたのだ。
くっそ‼ 魔法陣ってその場にとどまる物じゃないのかよ! 可動式何なの! 無茶苦茶だよね!
オレは心の中で叫ぶ。これはまだ余力を残していると解釈していいのかどうか自分でもわからなかった。
『ちょっとなんでこいつ逃げるんだ! ま、待てえぇぇぇ!』
魔法陣から今まで言葉にならない、唸るような声だったのがいきなり野太い男の声に変っていた。
「へあっ⁉」
いきなりの通った声にオレは思わず素っ頓狂な声を上げる。
『なぜじゃ? なぜ彼は我々から逃げておる?』
突如、魔法陣の声が老人の声に変った。
『わ、わかりません。不明です。とりあえず声をかけてみましょう……すみませええぇぇん! 聞こえますかあぁぁぁ?』
また変わった今度は可愛らしいほんわかした声だ。
「この状況で、なんで、普通に話しかけ、られんだよおおおぉぉぉぉ‼」
落ち着いた魔法陣の声たち? に思わず怒り狂った声で怒鳴りつけてしまった。
『はて?』
さっき聞こえてきた三人の声が揃って、俺の耳に憎たらしく聞こえる。
「はてじゃねぇよ! あんたら馬鹿か! この状況を見てそんなくそみたいな声を出すんだったらぶっ殺すぞ⁉」
依然として不抜けた声を漏らす声にオレの神経はさらに逆なでされる。
『まぁまぁ、落ち着いてくださいよぉ』
「落ち着いていられるかよ! ていうか追いかけるのやめてくんない⁉」
『無理ですねぇ』
「無理ですか! そうですか!」
もうこいつらと話すのも疲れてきた。ていうかつらい。
オレと魔法陣との逃亡劇はしばらく続いた。その間魔法陣からは『変われ! 俺がそいつを追い詰めてやる』とか『今度は俺が!』『いや、おれが!』『はいはいケンカしないのぉ』などと楽しそうな声が聞こえてきて、怒りが沸々と湧き上がってくる。
なんでこいつらラジコンを取り合うみたいなことしてんの⁉
「ク……うあぁ!」
そんなことに気を取られてか、思わず足がもつれ盛大にすっ転んでしまった。
『今じゃ‼』
老人の声がここぞとばかりに声を張り上げる。
その声に反応して魔法陣がオレの体の下へと素早く滑り込ませた。
「やばっ!」
時すでに遅し。オレが素早く起き上がろうとしたら魔法陣の輝きが一層強くなり、オレの体を包みこむ。
包みこまれた後、さっきまで聞こえてきた老人の声で懇願するように、
『わしらの世界を救ってほしい。勇者殿』
…………お前が言うのかよ。
オレの意識はそこで途絶えた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
感想、誤字脱字などがございましたら気軽にお書きください。
こんな若輩者の駄文ですが、これからよろしくお願いします!




