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夢想の瑞希  作者: 木崎 しの
瑞希編
9/66

唯という少女

土曜日になった。今日は久しぶりの完全オフ。何をしようか

時計を見るとまだ朝も早い。とりあえず二度寝しよう。


再び目を覚ますと昼を回っていた。慌ててソファから身体を起こして食堂にやってきた。相変わらず混んでいる。

食券販売機で適当なメニューを頼み、食事を受け取り適当な場所に腰を落ち着かせる


(この魚はなかなかだな )


することもないので1人寂しく食レポを始める。脳内で


「全く、お前はいつも1人だな。瑞希」


そう言いながら俺の隣に腰掛けたのは唯だった


「そりゃ、食事くらい1人でしたいからな。当然だろう」


「本当はワイワイしたいって顔に出ているぞ」


「…たまにならそういうのもいいかもな」


そんなどうでもいい事を話している時だった


ガシャン!まるで盆を落としたような音が響いた。音のした方に顔だけ向けると案の定誰かが思った通り盆を落としていた。

当然汁物やおかずなんかも床にぶちまけてしまっている

まぁ、想像通りと言えば想像通りなのだが、ただ、その側にそれを見て嘲笑っている人間が4.5人いるのを除けば、だがな。

厄介事に巻き込まれるのだけは勘弁だな


「何だ、あれは」


と横にいる唯が漏らす


「イジメだろう」


独り言かもしれないがとりあえず返す。

ボカドカ。と人を蹴ったり殴ったりしているのであろう音も聞こえ始める


「助けなくていいのか?」


「すぐ終わるだろう」


「本人は長い間だと感じるかもしれないぞ?」


「そんなもん知らん」


「見過ごすのか?」


唯が怒りでワナワナ震えている気がする


「面倒事には関わらない。それでいいじゃないか」


「面倒事で済ますのか?お前は。あの子が可哀想だとは思わないのか?」


「思うだけでいいならいくらでも思ってやるがそれであの子は救われるか?」


「だからこそ、行動に移すべきなのだろう」


「お前にゃ分からんかもしれないがあんなもん人間がいれば何処にでも起こり得ることだ。特にこの巣穴は年がら年中地下だし、変化はないし、抑圧された環境下だ。あぁいったことが起こらないわけがない。ストレスなんてものは無意識下でいくらでも溜まると思うがね。

それにいちいち首を突っ込めば切りがない。放っておけ、それがベストだ。」


「弱き者を助けるのではなく見殺す。そう言うのか?」


「弱き者は淘汰される。仕方ない事だ」


「しかし、彼は仲間だろう?仲間は助ける。それが道理ではないのか?」


「どうやら仲間だと思っているのはお前だけらしいが?」


周りを見回すと誰もが見て見ぬ振り

俺も例に漏れない。


「見損なったぞ瑞希…」


それだけ言うと立ち上がり、騒ぎの中心に歩き始めた唯


「…ったくあの馬鹿」


俺も立ち上がり追いかける


どうにか穏便に済ませたいが




「最近見ねぇと思ったらこんな時間に食ってたのー?」


「俺達も誘ってよー」


ギャハハと品のない笑い声が聞こえる。


男2人と女3人が1人の少女を虐めているらしい。その少女はと言うと


(悪いが…そういう目に合いそうな見た目してるわ)


ペースを上げて唯に追いつく


「下がってろ。お前じゃ絶対荒れる。俺に任せろ」


「え?あ、あぁ」


唯を下がらせる


「なんだ?おめぇ?」


1人が近付く俺に気付いた


「今取り込み中なんだけど?」


違う女がそう口にする

両手を上げて争うつもりがないことを伝える。伝わればいいが


「いや、ふと見ると友達が料理を落としちゃったみたいでして、片付けるのを手伝ってあげようかと」


そう言い全員の目を見る。


「あ、そうか。なら拾ってやれ」


「あ、私これから用事あるんだった」


そんな事を口々に言い5人がそれぞれ散る。

忘却の術式。5人の記憶から少女に関する知識のみを全て削ぎ落とす術式。とりあえず応急処置程度にはなっただろうか

傍から見れば俺が現れたため興醒めしたくらいにしか思われないだろう。


「大丈夫ですか?」


まだ亀のように蹲って震えている少女の両肩に手を置く。

一瞬ビクっと震えたが、それきりで、俺の顔を見るなり安堵の表情を浮かべた。


「あ、ありがとうございます…」


「ご飯ダメになっちゃいましたね。私が片付けておきますので」


俺は次の術式を発動させる。食事くらいなら大した労力も要らず全て消せる


「私のでよければ食事食べますか?手はつけていませんので」


実の所俺も興醒めだった。もう飯を食う気力もない





少女に飯を食わせた後彼女を連れ唯の部屋にやってきていた

唯からごちゃごちゃ言われたが適当に答えて納得させた、が、早速


「瑞希は出てって」


と言って俺は外に叩き出された

彼女の見た目をよくするつもりらしい。顔は変わらんと思うがね



呼ばれたので中に入ると流石に驚いた。

そこにはさっきまでの根暗少女は存在しなかった。まさかここまで変わるとは。


「その、よく似合っていると思いますよ」


そんな簡単で陳腐な言葉しか出てこない。


「あ、そのあ、ありがとうございます。ごめんなさい」


「いや、謝られましても…」


「ご、ごめんなさい」


何にでも謝る癖が付いているらしい


「ごめんなさい禁止」


唯がそう口にする


「ごめ…はい。分かりました」


「うん。よしよし。それでいい」


「そういえばどうして、私を助けたんですか?私なんかに関わればろくなことにならないのに…」


「困ってる人は見過ごせない」


唯がそう答える。


「そんなところですね」


ただこいつに任せると捻れそうだから俺が手を出しただけだが

なんてことを考えていたら端末が呼び出し音を発したので部屋の外に出る。

液晶を見るとチームリーダーだった。

嫌な予感しかしないが渋々出る。


「はい」


「喜べ。仕事だ」


生憎、オフだと思っていたところに仕事が舞い込み喜ぶような面白い性格はしていない


「何をすれば?」


「No.108が帰らない。見てこい。向かった場所は後程お前の端末に送る」


108、と言うと俺と同年代の奴だったか。


「了解しました」


「…」


いつもなら既に切っているのに、どうしたんだ。嫌な予感が強くなる


「…悪いな。休みなのに」


「どうしたんですか、らしくないですよ」


俺達のような道具を労うなど、気でも狂ったか?


「108は何処に向かったんですか?」


「…龍神の巣だ…」


たしか殆どのことが分かっていないエリアだったよなあそこは


「とは言っても比較的調査の進んでいる穴の近くなのだがな」


「そこで通信が途絶えたと?」


「あぁ」


「生死は?」


「不明だ」


「分かりました。とりあえず見に行きます。」


「…それとサポートは俺がやる」


「え、いいんですか?」


今日はやけに乗り気だなこの人。というよりこの人サポートなんて出来るのか?


「心配するな。俺はこれでも今の役になる前はサポーターだったからな。それに」


リーダーは一息付いてから吐き出す


「あの巫山戯たガキが適当なサポートをしてお前に死なれては困るからな。俺の担当しているブレイカーの最高戦力はお前だ。この作戦にお前を使うのも気が進まないのだが、お前以外が行けば死体が増えるだけ。分かれ」


巫山戯たガキというのは零亜のことだろうか。それ以外思い浮かばない


「はい。分かりました」


「じゃあな。とりあえず指示するところまで移動しろ」


通話は切られた。ぶつ切りだ


「ふぅ…」


端末をポケットにしまいこみ、歩き出した。

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