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夢想の瑞希  作者: 木崎 しの
瑞希編
8/66

狂人

「ふぅん」


それを見下しながら言葉を交わす

周りには死体が転がっている。


「俺らは信頼は大事にしてるんだがね。何か言い残すことはないか?」


「考え直してくれ!」


目の前の男はそう懇願してくる。


「それは無理だな。俺はお前を殺せと命令されてきている。まぁ、ここにいたのが俺以外なら見逃したかもな」


そう、例えば瑞希のやろうとか


「君たちに迷惑をかけていないじゃないか!」


面白いことを言うやつだ。


「は?こんなとこまで遣わされる羽目になって十分迷惑なんだが。もういい」


「ま、待ってく」


俺はその手に握った刀を振るった。




「お疲れ様です。恋夜さん」


何人かの部下が俺を労う


「あぁ、ほんとお疲れだな。お前らもお疲れさん」


懐から取り出した煙草を銜える。

そうすると教育の賜物か。一番近くにいたそいつは黙って火をつけた。


「そういえば恋夜さん」


部下がおずおずとした様子で話しかけてきた。あまり聞きたくないな


「どうしたよ」


「この近くで抗争が行われているから鎮圧せよと」


そいつから聞かされた場所は確かに近い。山奥の地図にも載っていない廃村だ。


「所長のあほからの命令か?」


頷く部下。

面倒だがそれなら無視するわけにもいかんな。


「車を出す。しっかり捕まってろ」





目的地に着くと確かに熾烈を極める抗争が発生していた。


「まずいな」


こちらが劣勢だ。正確には所長の傘下に入っている組織


「話し合った通りに動け。」


頼りない部下数名に言う。


俺も武器を持って約束の場所に向かう。


「よう、邪魔するぜ。調子はどうだ」


事前に教えられていた幹部の近くに行き現状を確認する


「まさか、応援か?」


そいつは廃屋の中にいた


「それ以外に何がある」


「状況は悪いな」


「そうかい」


まぁ予想の範囲内だ。だがそれも


「ぎゃあああああああ!!!!」


響く悲鳴が一段と大きくなった。


「ここは俺らに任せるといい。構成員を下がらせろ」


見たところ相手はブレイカーを使っている。普通の人間では相手は厳しいだろう


「悪いな、おいお前ら撤退だ」


男が何か四角い箱に怒鳴る。通信機の類だろう


「俺も出る。どうしても、暇なら援護射撃でもしてくれ。」


軽口を叩いたその時だった。


「な、なんだよお!あれは!!!!」


これは、聞きなれた俺の部下の声。欠員など出ないと、余裕だと高を括っていた。まさか、押されているのか?


「ふははははは!!!!逃げろ!叫べ!楽しませろ!」


それは突然の出来事。突如屋外から響いた異質な声に事態を察した。

全く予想もしていなかった。あれが現れたのだと本能で察する。あらゆる感覚が俺に告げる「あれ」と戦ってはいけないと。


「久しぶりじゃねぇか、この感覚」


震える体にムチ打ち気合を入れる。生きて帰ってこれないかもしれない。何より今は瑞希がいない。俺のすることは…






「ふははははは!!!!!!お前がいるということはここに瑞希はいるな!」


目の前のうるさい男の目的はやはり瑞希らしい。


「あいつはここにいない。ここにいるのは残念だが、俺だけだ。残念だったな。お前は振られたんだよ」


「あいつは俺なしじゃ生きられない。悪いが貴様では腹の虫が収まらん。瑞希を連れてこい」


この瑞希に固執する眼前の男。


「無茶を言うな。頭おかしいんじゃねぇかお前。」


「ふふふ、はははは!よく吠えるものだ。虫けら風情が。」


にしてもこいつ今日は一段とテンションが高いな


「そんなんだから、キモがられて瑞希に振られるんだよ。覚えとけ」


お喋りに興じながら後目で部下の状況を確認する。そう俺が奴らに下した命令は一つ。ここから逃げろ


「恋夜さん!恋夜さんも早く!」


どうやら全員ここからは逃げられたらしい。幹部達はいられても邪魔だったので先に逃がした。俺も即座に離脱を図る。


「おっとつれないなぁ!?」


—逃げられない…その何気ない言葉に底知れぬ恐怖を覚えた


「!!!!!!!」


「燃え盛れ」


奴は呼吸をするように悪魔の言葉を呟いた。

咄嗟に幻を全身に行き渡らせバリアを貼る。何よりも硬い壁を想像する。

刹那背後から聞こえるのは悲鳴と爆音。それは敵も味方も区別なく燃やし尽くす絶望の炎。全てを燃やし尽くす限り消えぬ不滅の炎。

暑い。ただひたすら暑い。体が焼けただれそうだ。

恐らく今の一撃で部下は全滅。向こうの人員も全滅。残ったのは俺たち二人だけ。そもそもこいつは誰の味方なのかも分からないな。


「邪魔者はいなくなった。瑞希がくるまで存分にやり合おうか」


目の前の男は顔を悪魔のごとく歪める。

俺も他のことに気を回す暇などない。出来ることを探さねば。殺られるだけだ


「おらっ!」


近くに落ちてあった石ころに幻を流し強化してから、空に浮く奴に向け蹴る。完璧な強化。今やあの石ころは見た目からは窺えないほどの破壊力を持っている。鉄扉さへ容易く貫けよう。しかもそれの軌道は奴の首筋を正確に捉えている。


「よもや、こんなもので俺を殺れるとそう思った訳では無いな。羽虫。もう少し楽しませろ?」


だがそれは奴の首筋に届く前に灰となって燃え尽きる。


「そんな訳ねぇだろ。むしろこれで死なねぇかヒヤヒヤしてたよ」


「言うじゃないか。お前は仲間と同じようにあっけなく死ぬなよ?」


とはいえ俺に出来ることはそう多くない。あいつと俺のあいだには認めたくないが決して埋められるない差がある。あれは生まれてきたことが間違いの怪物。怪異。生ける災厄。せめてこの場にもう一人いれば…無い物ねだりは辞めよう。それよりは最も生存確率の高い…


「それとも、このまま逃げるかね?あの時のように。まだ生きているかもしれない仲間を見捨て一人で逃げるかね?」


皮肉げに奴は顔を歪めて笑う。そうだ。俺はこいつと前回対峙した時は尻尾を巻いて逃げた。逃げに走った。


「どうかね。今俺はどうやってお前を嬲り殺そうか検討しているんだがな。」


何をするにも今この開けた場所ではこちらの分が悪すぎる。奴をどうにか近くにある林に誘導する必要がある。


「奇遇だな。俺もだ。」


奴がムカつく笑顔を浮かべる


「2度目は勘弁して欲しいね」


闇討ちは好きではないのだが俺にやつを倒せるとしたら1発拳をねじ込むしかない。絶死の拳。全てを一撃の元に葬り去るこの拳。当たればの話だが。どうにかして当てられる状況に持ち込まねばならん。一人じゃ厳しいな


「で、お前はどうして、ここにいるんだ。愛しの瑞希でも探しに行った方がいいんじゃねぇのか」


どうにかして林に向け走るための隙を作る。が隙がない


「どうしてだと思う?」


こうして話していながらもあいつには隙というものがない。


「さぁね。狂人の考えなんぞ理解できないししたくない。」


「言うねぇ。自分が一番狂人なくせにこの俺を狂人扱いとは。ははははははは。面白いことを言う」


ほんとに面白いことのようにあいつは大きく口を開けて哄笑する。いちいち癇に障る奴だ。


「それにさっきからふよふよ浮きやがって羽虫はどっちだよ。さっきからふよふよと視界の端で飛びやがって目障りなんだよ。」


「む、それはすまなかったな。」


謝罪してから奴は地上にゆったりとした動作で降りてきやがった。舐めやがって。だがそれが好機。奴が俺を甘く見ている今こそ絶好のチャンス。奴を倒せる唯一の機会だ。

それでも奴の隙という隙が見つからない。いつまでもこうやって。


「時間稼ぎも限界だろう?」


「何のことだか」


やはり俺の行動は奴に筒抜けらしい


「俺はお前の思考を読んでいる。文字通りな。見えるんだよ。お前の頭の中が」


聞くな。戯れ言だ。虚言だ。

いちいち━━━


「いちいち相手にするな。か?お前が先程から俺の隙を探っているのも気付いていた。気付いていたから刹那の隙すら作らなかった。」


「!?」


とある疑問が浮かんできた

━━━俺はこいつに本当に勝てるのか?それどころか一矢さへ報いることが出来るのか?


「そんなことお前が1番知っているのではないか?」


そう無理だ。無理なのだ。やる。やらないの問題じゃない。無理なのだ。瑞希にも1度も勝てていない俺がこいつに勝つなど


「そう。だから瑞希を連れてこい。お前には荷が重い」


「黙れ!」


━━━辞めておけ。勝てない。


「うるさい!黙れ!」


━━━お前には勝てない。瑞希に頼れ。


聞こえないはずの声が聞こえる。

あいつは話していない。ならこれは誰の声なのか。誰の言葉なのか。それはもちろん


━━━そう。お前だよ。俺自身だよ。


壊れそうだ。今まで信じてきたものが崩れ去るように。砂の塔のようだ。いくら積み上げても少しの衝撃で瓦解する。砂の塔。今俺の中で何かが崩れ落ちた。それは地面。俺という個我を支えていた地面。

足場を失えば人は立てない。今の俺は落下を続けるだけ。




ようやく呪縛のような感覚から抜け出せたと思えばそこに奴は居なかった。奴どころか何も。何一つも。俺以外は存在していなかった。

今は落下しているようなあの感覚はない。


「くそ…」

中々更新できない、、、

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