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夢想の瑞希  作者: 木崎 しの
彩華編
62/66

異常性

「よく来たなマディール。私は現国王マレイア・ディ・ラクト・ルヴィータ」


片膝を地につける。驚いたことがある。

このマレイアと名乗った王様。女だったのだ。しかもかなり若い。


「お招き頂きありがとうございます」


「そう畏まるな。よい。よい。してマディール。名は何という。」


「東條 瑞希と申します」


「では、瑞希とやら、顔を上げよ。膝も地から離せ」


言われた通り立ち上がる


「私はお前達の犯してきた罪を許しはせん。」


だろうな。


「だが不問とする。」


「え?」


「不問とする。私の声が聞こえなかったか?」


「失礼しました。」


「お前達のしてきたことを私は許さんしこれからも許すつもりは無い。だが貴様達の所長は良かれと思ってしてきたと聞いている。全ての責任を背負っていたその所長は既に死んだ。」


「は、はぁ…」


何かしらの罰はあるかもしれないと思っていたから拍子抜けだった。


「さて、書庫が見たいとほざいていると聞いた。付いてくるがいい」


王様は玉座からぴょんと飛び降りるとそのまま部屋の外へ向かう。俺も困惑しながらもそれについて行く


「これなど都合が良かろう」


俺にはよく分からん本がぎっちりと詰まっている中から王様は一冊の本を抜き出して俺に投げ渡してきた。


「失礼」


断ってから本の中身に目を通す。そこにあったのはたしかにあのデータと同じ文字。

端末に保存しておいたあのデータと照らし合わせて翻訳を始める





「…本当なのかこれは…」


無意識に呟く。とても信じ難いことがそこには書いてあった。


「何があるのだ?」


マレイアはほんとに知らないような感じで聞いてくる


「俺たちブレイカーが作られた経緯ですよ。そして俺達を使っての歴史」


ある程度は考慮していた。だがここまできっぱりと書かれては否定したくもなる。


「詳しく聞きたい。」


マレイアがそう言ってくる。少し考え、出した結論は隠し事はなしでいこう。


「俺達は本当に文字通りただの道具だとそう書いてありました。道具として作られ道具として育てられた。目的は国同士の戦いに使われたりであったり。そのためだけに生み出された存在と」


書いてあったことを伝える。ありのままだ。

こんなのあんまりだ。

俺はともかく人間として生きたいと言っていた竜馬達。その尽くを一切否定するような現実。


「…あいつらは、道具なんかじゃない。」


「瑞希。」


マレイアが声をかけてきた。下に向けていた顔を上げる


「私は王として真実をお前に伝える。お前達は確かに過去道具として生み出された。そして使用された」


唇を噛み締める。悔しい。人間ではなく本当に道具として生み出されたということが。


「何をなさるおつもりなんですか。貴方達は」


その何を考えているのか分からない瞳を真正面に捉える


「私は何もせぬ。前代の話だ。それは。誤った歴史。あってはならなかった歴史だ。ありえてはならなかった歴史。私は前代の誤ちを正すためにこうして今ここに在る」


マレイアは語る。自分のいる意味を


「私は多数のために少数を犠牲になど出来ぬ。それは…王としては正しいのだろうが私も王である前に人だ。王などという立場を与えられた人間に過ぎない。私はな瑞希。お前達を救おうと今までここまで歩いてきたつもりだ。」


「救う…?」


「あぁ。お前達をスクラーダの支配から解放するために人を動かしていた。」


マレイアが俺を見つめる


「遅くなって本当にすまないと思っている。一歩目は踏み出せた。時間はかかるかもしれない。だが私はお前達のような存在を全員悪の手から救い出すつもりだ。」


そう真正面から告げられる。その目は確かに闘志で満ちていた。


「お願いします」





「光があるところには影がある。それと同じで、私がいるところにはやはり何かを起こそうとしている何かがいる。」


アバルは一人呟く。


「まぁ、何がいるのかは全く分からないが」


もしかすればまだスクラーダが生きているという可能性も否定し切れない。


「だが確かに殺したはずだ。が、私とあれはつがいのようなもの。そう考えるのが自然か。私が消えていないのなら奴もまた消えていない。そう解釈するのが自然だが」


そしてもう一つ気になる事がある。澪月だ。あれが勝ち残ることは万に一つも考えて等いなかったがあんなにあっさりと勝敗が付いたのは何故か。単に瑞希の強さもあるだろうがオリジナルは澪月の方。あそこまであっさりいくものなのだろうか。


「何にせよ、瑞希はもう少し観察する必要がありそうだ。」


何より今回のようなパターンは全くの初めて。

すんなりと片付けば一番良いのだがそうもいかないだろう。

それとマレイアの動きにも注意しておきたいか。彼女は恐らく普通の人間。あまり重要度は高くないだろうが。


「そういえばあの子達を見ないな。」


『永園』から抜け出した子供たち。どこの世界をほっつき歩いてるのかは知らない。


「まぁ、私の仕事は子守りではない。他の者が探しているだろう。」


あまり深く考えないようにしよう。





竜馬の部屋でボードゲームで遊ぶ。


「瑞希何考えてんだ」


「え?」


「いやよ。何か複雑そうな顔してたからよ」


そんな顔してたのか俺は


「お前にはそう見えたか?」


「…何かあんなら隠し事せず話せよ?」


「いや、何でもない。ただ飯のこと考えてた」


「そっか。毎日零亜ちゃんの飯じゃないのか?」


冗談なのか本気なのか判断しにくいことを言う竜馬


「違うな。あいつが作ると何作るか分からんし」


「でも美味くねぇか?」


一瞬竜馬が何を言っているのか理解出来なかった。


「いや。美味くはないと思うが」


「そこは世辞でも美味いって言うもんだぜ」


「そうか。でも、やはり世辞というか嘘ってのは苦手かな」


「まぁ、嘘っちゃ嘘だしな世辞って。」


「特にあいつには…デカい嘘黙ったままだし申し訳なくてな。他のことは、その出来るだけ隠し事なしでいきたいんだ。」


いつも思っていたことだ。だって


「俺まで沢山嘘をついちゃうとあいつは何を信じればいいのか分からなくなるんじゃないかって。きっと世辞でも嘘を付けばあいつは俺に不信感を抱くかもしれない。だから、俺はあいつに世辞を言わない。」


「優しい嘘ってのもそう悪くないもんだと俺は思うがねぇ」


「あいつにだけはそれも嫌なんだ。」


そう。これだけは絶対に譲れない。


「そういうもんかね」


「そういうものだ。」


答えながら思っていた。零亜とこいつはどう違うのだろうと。

俺は確かに悩んでいた。考えていた。この世界が回帰しているという話。

それを他のみんなに伝えるべきかどうか。簡単に伝えてはいけない気がするし、伝えず墓場まで持っていくというのもいけない気がする。


「また難しい顔してるぞ」


「元からそういう顔なのだろう。」


答えながら思った。みんなみんな大事なのに、大事な人間にそれを伝えなくていいのかと。だがやはり簡単に伝えてもダメな気がする。それにそもそも。そんな事言われてこいつらは信じられるのだろうか。辞めておこう。


「そういや。聞いたよ瑞希。所長が死んだってな」


「あぁ。無理をしすぎたのだろう。あの人が眠っているところを俺は見たことがないし」


本当は違うのだが。言っても混乱するだけだろう。それに丸っきりの嘘という訳でも無い。


「でよ。瑞希。お前新所長と仲良いみたいだけど知ってる人なのか?」


「まぁ、知ってる人と言えば知ってるがほとんど知らないな。以前少し話す機会があってな。」


「へぇ。意外だな瑞希が知らない人と話すの」


こいつの中で俺のイメージは一体どうなっているのだろうか。


「大事な話だったからな。それだけだ。というよりそんなに意外か?」


「ん。そんなイメージあるぜ」


「そうか。」


確かにそう思われても仕方ないとは自覚しているが。そんなにだったとは。


「なぁ、竜馬」


「どうした?」


「いや、そのな、」


竜馬が黙って俺を見る。


「前の話の続きだ。仮にの話だが、もし記憶を消して人生をやり直せる、のだとしたら、やり直すか?」


「俺はやり直さんよ。何があっても」


「そう…か」


なら聞かれないうちは黙っておこう。


「記憶を消してやり直すってことは反省も無くすことになるんじゃないのか。そんなんやり直しても同じ小石で躓き続けそうなものだしな。無駄だぜ」


「あ、あぁ。そうだな。」


「例え嫌な事があっても忘れちゃいけないし目を背けてもいけないんだと思う。やっぱり失敗から学ぶこともあるし。」


「竜馬はよく考えているんだな」


「そうでもないぜ。俺は、そうだな。結局やり直したくなんてないだけだし。」


やはり俺はおかしいのだろうか。こんな話をしているとやはりそう思ってしまう。





「おやおや、貴方がここに来るのも珍しいですね瑞希さん」


「そうか?」


「そうですよ。して、何か御用ですか」


その問にただ頷く。


「なぁ、神父」


「はい」


「俺っておかしいのかな」


「…さて、何をおかしいとするか、何を普通とするかとかっていうのは人によりますからね。ひとつ言うのなら私から見た貴方は平凡ですよ。」


「そ、そうか。」


安堵に胸をなで下ろす


「ですが、」


「何だ?」


何か言いかけた神父に続きを促す


「過去への執着は異常なものを感じます。私達が生きているのは今です。これから生きるのは未来です。生きたのは過去です。」


「何が言いたい?」


イマイチ理解しにくい神父の言葉


「瑞希さん、貴方は前に歩く時、バイクに乗る時に後ろを見ながら進みますか?」


何を言っているのだこいつは。


「前を見るに決まっているだろう。」


「それと同じなのですよ。瑞希さん」


そして俺の両肩に手を置く神父


「貴方は今、その瞳で何をを見ていますか?どこを見ていますか?」


そんなもの聞かずとも分かるだろう。


「あんたを見ている」


「その言葉に嘘偽りは?」


「ない」


「宜しい」


神父は俺の両肩から手を離すと話し始める。


「我々は殆どの場合前を見て生きる。私も竜馬さんもほかの皆さんも前を見て己が人生という名の道を歩きます。人は後ろを見ながら前には歩きません。進みません。」


神父は1泊置く


「貴方は後方を見ながら前に歩く人を見たことがありますか?」


「ない」


「でしょう。いたとすればそれは道化。言い方が悪いかも知れませんが貴方は道化だ。いつまでも過去に、あの人にしがみつき、離れられない道化。貴方は後ろを見て止まっているままだ。」


「なっ!」


「もう1度先の質問に答えましょうか。これまでも何度か言いましたが貴方は異常ですね。瑞希さん。過去を捨てろとは言いません。過去を見るなとも言いません。しかし思い出す程度に留めておきなさい。貴方は今や未来に目を向けるべきだ。」


目を合わせてそう言われる。


「俺は…違う。きちんと…前を…見ている。あいつと共に生きる未来を見ている」


そうだ。俺は前を見ている


「そうですか。私にはその姿勢があの人という名の過去にしがみついているようにしかみえませんが。

彼女は過去の人物。過去となった人物。それと共に生きるのは過去に生きるのと何か差がありましょうか。貴方は人間では無い。道化だ。」


「うるさい…うるさい!」


神父の言葉が耳に入らない。理解なんてしたくない。

もうこいつの言葉なんて聴きたくない。

俺は気付けば走り出していた。何よりも早く走り何よりもこいつの声を遠ざけたかった。




「見てたぜ」


駆け出した瑞希さん。

そして竜馬さんが入れ替わりで入ってきました


「おやおや。竜馬さん」


「あんたがここまで言うのも珍しいな。」


「彼には兼ねてより見てられないものがありましたから。」


「同感だ。」


「彼も考え直してくれるも良いのですがね」


「普通の神経してりゃ温厚なあんたにここまで言わせたんだ。考えを改めるだろう。だがあいつも頑固なところあるからな。死人なんて蘇るわけないのにな」


「さて、それはどうでしょう。」


「ま、存在しないという証明も出来ないしな。」


私が蘇生をさせたと言えば彼がどんな反応をするのか気になるところではありますが黙っていましょうか。


「瑞希さんのあの依存具合は異常ですからねほんとに。」


「あんたもそう思うか」


「思いますね。普通あそこまで縋れないと思います。どれだけ大切だった人でもあのレベルの依存は異常です。ある程度のところで切り替えるべきだと思っています。」


そう。あのままでは本当におんぶにだっこだ。彼はあの人に縛られている。細かい事情までは知りませんがあのままでは彼は壊れたままだ。









「はぁ…はぁ…」


くそ、くそ、くそ、、くそ!

気付けばあの場所に来ていた。


「俺が…道化だって?人間じゃない…だって?」


他人に言われるのがこんなに腹が立つものだとは知らなかった。

降りしきる雨の中一人で立つ。

土砂降りだ。

何よりも


「この考え方も、この感情も、この思い出も、俺の何もかも全て、お前が作ってくれたようなものなにな…」


そんなお前が作り上げた俺を人間じゃないと言われたのが本当にショックだった。


「誰よりもお前は俺を人間だと言ってくれたのにな」


自分では散々道具だなんだと自嘲してきたが心の何処かでは人間だと思っていたらしい。


「俺って…そんなにおかしいのかな」


『おかしくないよ。』


そう聞こえた気がした。

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