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夢想の瑞希  作者: 木崎 しの
彩華編
49/66

保管庫

新パートの始まりです。お楽しみいただければと。

次の日


「つぅ…」


頭痛がしてきたな。頭が割れそうだ。


「あんたからしたらこんなとこ来たくないもんね」


「全くだ」


瑠璃に連れられここへ来た。


「ここは、みんなの大切なものが詰まってるからねぇ」当たる


そう語る瑠璃の瞳は寂しそうに見えた。


「お前も何か取られたのか?」


だからだろう。俺はこんな質問をしていた。

そう。ここは贄の保管場所。


「私?私もね取られてるよ」


「何取られたんだ」


「さぁね。忘れちゃったよ。」


「忘れたって…」


「まぁ大切なものって変わるからね。私はもうどうでもよくなっちゃった」


別に強がりには見えない。本当にどうでもいいのだろう。だが寂しそうな眼をしているのもまた事実。


「あんたは?」


逆に聞き返された。


「俺は分からん。」


「分からない?」


「何を取られたかすら覚えていない。」


「それはそれでいいじゃない。じゃ開けるよ。」


初めて見るその扉の内側。

通路は真っ白。本当に1面が白い。


「恋夜はよく来てるんだってな」


「あー真那ちゃんだっけ?よく来てるね。いい加減鬱陶しいよあのシスコン野郎。まぁ、確かにあれだけ一途ならかっこいいけどね。会っているのが妹じゃなければ」


「生きているのか?」


気になっていたことを聞いてみた。贄のその後を俺は全く知らないのだ。


「そりゃ、生きてるわよ。見る?」


明らかに馬鹿にするように鼻で笑われた。だが俺は大人だ。そんな安い挑発には乗らない。


「見せてくれ」


恋夜の妹を見ておきたい。


「おっけ。そこの部屋なんだけど」


瑠璃の指さすその部屋。扉は如何にもな牢屋だ。他の部屋も牢屋のよう。


鉄格子の隙間から覗くと小さなベッドと便器しかない。


「あれが…か」


そのベッドに虚ろな目をして腰掛けている少女がいる。

髪はぼさぼさで服もボロボロでただ虚空を見つめている。

直接の関わりがないからあまり感想は浮かばなかった。そういえば彩華の兄もいると聞いていたな。


「彩華の兄貴は何処にいるんだ?」


「あー。付いてきて」


付いていくこと数秒の距離。


「ここ」


先ほどと同じ扉がある。


「…誰だ」


「っ!」


こちらからは他の部屋と違って中から声が聞こえた。

まさか声をかけられるとは思わなかった。


「…東條という者ですが」


「…彩華の友達か…いつも仲良くしてくれてありがとう…」


俺の名前を知っているのか。

流石にこんなところに閉じ込められて疲弊しているらしい。はっきりとは見えないがぼんやりと見えるその顔色は確かに悪い


「…最近は、嬉しそうに君のことをよく話してくれるよ。俺によく似ている、と」


苦笑いしながら、だが嬉しそうにお兄さんが語る。内心思うことはきっと俺と同じなのだろう。あまり似ているとは言えない。


「そうなんですか」


「ごほっ…」


その時彩華の兄さんは吐血した。


「…見苦しいところを見せたね。俺はもう長くない。どうか彩華をお願い出来ないかな?」


そんなこと言わないでくれとは言えない。確かに長くなさそうだから。とは言われても


「俺には何もできませんよ」


「…それでもいい。あいつの隣にいてやって欲しい。あいつが…一人で歩けるようになるまで傍で助言をしてあげて欲しい。」


その時瑠璃が口を挟んでくる。


「瑞希、そろそろ時間だ。切り上げるよ」


どうやら時間切れらしい。俺は結局彼に何も言えず、この通路はまた闇に閉ざされた。





「この神聖なる聖域から出ていきなさい不浄なる雌豚。」


「出ていくのはあなたの方じゃないですか?」


部屋に戻るなりまた新たな問題が発生していた。


「何やってんだお前ら」


「瑞希さん聞いてくださいよ。この雌豚2匹が生意気にもこの神聖で高貴な聖域から出ていかないんですよ」


馬鹿らしい。


「ここはいつから聖域になった。」


「瑞希さんが暮らし始めてからです」


「勝手に聖域にするな、俺は聖域にしたつもりはないぞ」


「その辺はどうでもいいですから、ほら早く夏海と陽菜を追い出してくださいよ」


「二人とも俺が自分の意思でこの自分の部屋に置いてる」


「私は許可していません」


零亜が睨んでくる。


「俺の部屋だ。お前の許可などいらん」


「瑞希さんの部屋は私の部屋です」


「訳分からんこと言うな」


「もういいです。今日から私もここで寝ますから。ほら退きなさい陽菜。貴方には床で寝る権利をあげます。ベッドは私に譲りなさい」


またこのバカはめちゃくちゃ言ってやがる。

だがこの辺りで多少何とかしないと後でストレスが爆発しかねん。


「…床で寝るのは俺だ。馬鹿。お前にはソファを貸してやるからそれで寝ろ」


「ぶー」





何だかんだ騒いで喧嘩しながらも3人が眠ったのを確認してから外へ出る。

結局零亜はソファで寝かしつけた。いったいいつまで手を握ってやらんと寝られないのだ。


「久しぶりだなここにくるのも。」


座って墓石に背中を預ける。

心地よい一陣の風が頬を撫でた。


「またこんなところに来てるんですか。」


「お子ちゃまがこんな夜中にどうした。」


気配で察したが眠ったはずの零亜も付いてきたようだ。


「出ていくのが気配で分かりましたから付いてきただけですよ。」


零亜は墓石に腰掛けた。まぁ大方眠っていなかったというところか。


「もうあれから何年経ってると思ってるんですか。異常ですよ瑞希さん」


「…よく言われるよ」


「…泣いてるんですか?」


「…泣いてない」


「嘘です」


ふと体の左半分が温もりに包まれた気がした。零亜に抱きしめられたらしい。


「こういう時は泣いていいんですよ」


やめろ。そんなに優しい言葉をかけるなよ。


「ヒック…グス…」


泣きたくなんてないのに涙が止まらなくなるじゃないか。

とめどなく、勢いよく今まで溜めていた分の涙も出るような勢いで両瞼を塞いでいるにも関わらず大粒のそれが両目から零れる。


「ヒッ…」


それは本当に止まることを知らない。ともすれば死ぬまで流れるのではないかと思わせるくらいに流れ出る。


「いつもはカッコつけてる癖にやっぱ年相応ですよね。」


「…うるさい」


震える声での抵抗。だが、それも無駄だった。


「はいはい。黙ってますよ。」



「手間かけさせた悪かったな。」


「いや、いいんですよ。弟が泣いてたら慰めるのが姉の仕事でしょう」


俺はいつからお前の弟になったのだ。まぁどちらでもいいか。


「にしてもあの馬鹿女。死んでからも瑞希さんに迷惑かけるなんて恥を知った方がいいですね」


本気なのか冗談なのか分からない態度で墓石を見下ろしながらそんな事を言う零亜。


「お前も俺に迷惑かけまくってるけどな」


「私はいいんですよ。生きてるんですから。それに私が迷惑かけないと瑞希さんは寂しすぎて死にますよね?」


迷惑をかけていることは否定しないらしい。


「それはないから安心して嫌がらせは辞めてくれていい」


「私がいつ嫌がらせしました?」


「自覚がないとは恐れ多いな」


「あら、ありがとうございます。」


褒めた訳じゃないがな。御満悦らしいから無駄口も辞めておこう。


「雌豚と遊びに行ったそうですね」


ふとそんな事を零亜が言ってきた。


「連れていけと煩かったのでな」


「次は私とも行ってくださいよ」


「気が向けばな。」


あの時は俺の気も向いたからというのもある。


「いいですよ」


「今から連れていけとか無茶言うのかと思ってたよ」


「この時間帯何処も開いてないじゃないですか馬鹿ですか」


「まさかお前からそんな常識が聞けるとは」


「まさかも何も私は常識しか言いませんよ」


こいつの言ってること全部が常識なら世の中おかしくなるな。


「さて、俺はもう戻るがお前はどうする?」


ズボンについた汚れを手で適当に払って落としながら立ち上がる


「私も帰りますよ。こんなところ用事ありませんから」


「そうか。」


少しは零亜もあいつに対して感謝のようなものを感じているのかもしれないと期待したが、何も感じていないらしい。



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