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夢想の瑞希  作者: 木崎 しの
神父編
41/66

「死人が蘇った?なかなかメルヘンなお話だな。頭おかしいのか?お前」


いや、身近にそんな奴がいたな。夏海だ。

当の本人も驚いて俺たちを見ている。


「いや、それがマジらしいぜ」


朝っぱらからいきなり部屋に来たと思えばそんな素っ頓狂な話を持ち込んだのは裕平。


「ちょっと見に行こうぜ」


グイグイと迫ってくる裕平。


「俺今から学校あんだよ」


「サボれよそんなもん。どうせ瑞希の事だ。学校なんて上手くいってないだろ?1日くらいへーきだって。」


痛いところを付いてくるなこいつは


「それでも単位やべぇんだよ。流石に必修までは落とせない行かなきゃ。今すぐ行きたきゃお前一人で行け」


「ちぇっ。分かったよ。夕方まで待つさ。それから行こうぜ」


断ろうか悩んだが。いや行こうか。


「分かった。終われば連絡する」





「おっすおっす。」


「待たせた。悪いな」


「いや、待ってないよ」


まさか裕平の方が早いとは思わなかった。どうせ遅れてくるだろうと思って少し遅れてきたのだが裕平は待ち合わせ時間丁度に来ていたらしい。

裕平も俺も普段着。


「で、どこ行くんだ?」


詳しい話を聞いていない


「孤児院だよ。ほら、あのベルが定期で通ってる孤児院」


「ふーん。案内してくれ」





「ようこそ瑞希さん裕平さん、ささ、どうぞ中へ」


インターホンを鳴らした俺たちを出迎えたのは神父だった。


「いやはや、今日はどうなされましたか?」


歩きながら神父に説明する。


「人間が蘇ったと聞いてな」


「裕平さん」


神父が裕平を咎める。あまり公になっていないらしいことのかもしれない。


「もしかして迷惑だったか?」


「いえ、そういう訳ではないのですが、知ってしまったものは仕方ないですね。」


そう答える神父は嬉しそうだ。


「お話しましょうか。全て」


「あぁ、助かる」


「それで、この話を聞きに来たということは、やはり考えは変わらないのですか?」


「あんたの想像に任せる」


理解できないといった表情の裕平は置いておく。

そして神父は暫く廊下を歩くととある部屋の前で足を止めた。


「あの子ですよ。話の主人公は」


神父がガラス越しに指を指す。その先にはごく一般的な男の子がいた。


「ふーん。あれがねぇ。」


夏海と違って特別な何かは感じない。本当にブレイカーでもなければ幻を持っている訳でも無い普通の男の子だ。


「あれは確かに死んだのか?」


「はい。死にました。それは私がたしかに見届けました。」


「だが蘇生したと?」


神父が荘厳に頷いた。


「何か予兆はなかったか?大掛かりな術式が働いていたような気がするとか。そんなレベルのものでもいい」


神父は唸る。


「私はその辺について疎いので…すみません」


やがて首を横に振りながらそういった。


「いや、助かったよ神父。俺はもう帰るが裕平はどうする?」


「僕はもう少しいるよ。チビ達と遊ばなきゃだし」


神父が優しく微笑みながら俺に話しかける


「瑞希さんもどうですか?子供は可愛いですよ」


「いや、勘弁。子守はあのバカだけで手一杯だ。そろそろ帰って相手をしてやらんとそのうち寝首を搔かれかねんのでな」


今日もここに来る前に銃を持って追いかけられた。


「では、たまには彼女を愛してあげてくださいね。瑞希さん。では、お気を付けて」


「あぁ。」




「澪月だろう。こそこそと恋する乙女みたいに尾けてないで出てきたらどうだ。」


孤児院からの帰り道、橋の中程で振り返りながら声をかける。


「いや、俺は君に魅せられた恋する乙女だ」


本気で気味が悪い。


「気持ち悪いからやめろ。で、なんの用だ。」


「用がなくちゃ来ちゃいけないのか?」


「俺とお前ならそうあるべきだ。」


「そんなことより、今日はいい月だ。そう思わないか?」


「どうだかな。お前と見るだけで最悪だよ」


「なかなか言うようになったじゃないか。俺は悲しいよ。で、前に付けた傷はどうだ?」


「お前の付けた傷など数秒で癒える。残念だな。今日も俺の首でも取りに来たか?」


「まさか。話に来ただけだ。少し昔話でもどうかな」


十中八九ロクな話にならないだろう。こいつはそういう存在だ。


「…」


思い倦ねる


「少し、歩きながら話そう」


「…あぁ。」


だがあえて俺はこいつに賭けてみる事にした。


「そうこなくっちゃな。ね、俺の恋人」


「…」


黙って横に立つ。


「お前を許した訳じゃない」


「そうか。それは残念だ」


悲しそうに笑う澪月。


「話ってのは」


本題に入る。こいつも世間話に興じるつもりもないだろう。…いやあるのかもしれない。


「まぁまぁ、そう急くな。零亜は元気か?」


「あぁ、いつも通りだよ」


あの無邪気な笑顔を思い浮かべる。


「会いたいな」


遠い思い出を思い出すように絞り出したその台詞。


「向こうはお前を見た瞬間殺しに来るだろうよ」


「言えてるな。なんせお前を殺したのは俺なんだから。あれからしたら俺は仇みたいなもんだ。」


「…」


「おっとお前の前で言うことでもなかったかな」


「本題に入れ」


「いつまであの馬鹿の下で動くつもりなのだ?お前を利用しているだけだぞあれは」


「誰に使われようが同じだ」


「本当にそう思うのか?」


「あぁ。むしろあいつの下にいるのが一番近道な気がする」


「そんなにやり直したいのか?」


「あぁ。」


「零亜の愛を無視してまでも?」


「あれは俺に向けられたものじゃない」


「逃げるなよ瑞希。あれはお前に向けられたものだ」


「…」


「いい加減あいつの幻影にしがみつくのも辞めたらどうだ?それで全部解決だ。お前も零亜も救われる」


「黙れ」


「おぉ、怖い怖い」


おどける仕草が余計に俺を腹立たせる。


「全てはあいつの死から始まった。というわけだな。」


澪月が呟く。


「そうかもな。いやお前の誕生が全ての始まりかもな。お前は俺に絡まった鎖だ。もがけばもがくほど俺を絡め取る。事態は悪くなる。そうだな。お前を消せば全て丸く収まるのかもな」


そうだ。こいつさえいなければ、


「辞めておけ。俺を消しても何にもならない。狂ったままのお前はこのままも狂い続けるだけ。お前も俺を鎖と喩えた。ならば分かっているのだろう。俺がお前のストッパーであることも。もう一度言うお前はおかしいよ瑞希。」


意味ありげな気持ち悪い笑みを浮かべる目の前の男。


「…黙れよ。おかしいのはお前だろ」


分からない。俺の何がおかしいのか。狂っているのか。俺には理解できない。だからこんな言葉しか返せなかった


「よう。人の女に手ぇ出してんじゃねぇぞ駄犬が。」


炎剣が飛んできた。それは全てを焼き尽くすような熱さで、先程まで澪月が立っていた地面に突き刺さっている。

投げた主は


「竜馬か、お前と出会うのも久しぶりだな。」


数メートル離れた場所で余裕の表情を浮かべた澪月が零す。


「そうだな。2度と会いたくなかったがな。腐れ野郎。蛆虫が。大丈夫か?瑞希」


その竜馬の声に答える。


「あ、あぁ。」


「邪魔するなよ竜馬。男二人で話してたのにそれを邪魔するとは。」


「男一人とオス1匹の間違いだ。野良犬。にしてもしぶといな。まだ生きていたのか」


「その言葉そっくりそのままお返しするよ。竜馬」


「お前からのお返しなんていらねぇな。瑞希行くぞ。あんなイカレ野郎といたらお前までおかしくなっちまう。」


「あ、あぁ。」


━━━そうか。

俺はやはりおかしくなんてないのだな。歩き出した竜馬に続く。


「おい、待てよ瑞希。」


もう澪月の言葉も胸まで届かない。


「ちっ…」


澪月はこちらまで聞こえるくらいの舌打ちをしてどこかへ消えたらしい。気配がそれを教えてくれる


「それより竜馬どうしてここに?」


「帰りがあんまり遅いんで様子を見に来たんだよ。お前子供と遊ぶタイプでもないだろうし、そうしたらこの有様だ。」


なるほど、そういう事か。


「助かったよ」


「礼なんていらない。次は気をつけてくれ」


「あぁ。約束しよう」







「おかえりなさい。瑞希さん待ってましたよ。何してたんですかこんな遅くまで、お腹減りましたよね?分かりました。ハンバーグ作ったので食べて下さい。」


部屋に入るため扉を開けるなりまくし立てられ困惑する。

中にいたのは零亜。なんでお前が


「え、ちょ」


問う暇も与えられずそして体を押され椅子に座らされると目の前にハンバーグらしきもの。


「なにこれ」


俺の知っているそれとは違う。


「ハンバーグですよ。ハンバーグ。自信作ですよ。作り方は陽菜に教えてもらいました」


部屋の隅を見ると陽菜と夏美がこちらを恐れを含んだ目で見ている。あいつに聞いてどうしてこんなものが出来上がるのだ。真っ黒だ。焦がしたとかいうレベルではない。一応一口食べてみる。


「…」


不味い。吐きそうだ。


「どうですか?どうですか?!」


対面に座った零亜が身を乗り出して聞いてくる。その指には絆創膏だらけ。


「う、美味いよ。刺激的な味だ。未知の食感だ。こんなもの初めて食べたよ。ありがとう」


そんなものを見せられてはっきりと不味いと断言出来るだろうか。


「えへへ、そうですか。」


「でも、俺はこういう新しいハンバーグではなく、普通のハンバーグがいいかな。ほら単純なのが好きなんだよ俺。繊細な味付けじゃなく適当な味付けの方が好きだ。」


それとなく次は普通に作れと言うが伝わるかどうか。


「お口に合いませんか?」


「俺のお口には合いません」


「それは仕方ないですね。次はもう少し単純な味付けにしてみます」


伝わったようだ。よかった。こんなものはこれで勘弁にしてほしい。残ったものを吐き気を我慢して気合で飲み込む。


「美味かったよ。ありがとう」


「どういたしまして」


ニコニコした顔で食器の片付けもせず部屋を出ていった。


「悪いな。あいつが迷惑かけたらしいな」


二人に謝っておく。


「い、いえ、いつもの事ですし…」


陽菜がそう答えるが明らかに様子がおかしい。


「あいつ、何したんだ?」


「そ、その、私の言う事全然聞かれていなくて、その辺で捕まえてきたネズミの尻尾とか入れていました…」


「…すまんちょっとトイレ行ってくるわ」





「瑞希さんと零亜さんってどういった関係なんですか?」


トイレから戻ると夏海に聞かれた。


「どういった関係って聞かれてもな…ただの兄妹としか答えられんな」


それ以上でもそれ以下でもないのだから。


「恋人かと思いましたよ。零亜さんも瑞希さんのことすごい好いてるみたいですし」


「お前にはそう見えたか?」


「はい」


苦笑いする。


「それだけの関係なら俺も楽なんだがな…」


「どうしてですか?」


「色々あってな。また機会があれば話すよ。で、どうだ夏海。今日は幻見てやるよ。準備しろ」


こいつを育てておきたい。そのうち使うこともあるかもしれないし


「氷のですか?ありがとうございます」


「陽菜。先に寝ていて構わんぞ」


頷く陽菜を見て夏海と共にトレーニングルームへ行く。




最近pcの調子が悪くあまり更新できないかも…

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