巣穴
「お待たせしました、瑞希様」
「すまない。待ったか?」
律儀に陽菜と唯が謝罪してくる
「いや。待っていない」
待ったと言っても5分程度、待ったうちに入らないだろう
「そういえば瑞希、お前身体は大丈夫なのか?」
昨日のことだな
「あぁ、大丈夫だ。一時的なものなのにお前が仕事は休めとうるさいからな」
「なんだ、その言い草はせっかく人が気遣ってやっているのに」
「あぁ、そうだな。助かるよ」
「言ってることころころ変わって気持ちの悪い奴だな」
来た道を戻る。途中で思い出したように竜馬が口を開く
「部活やってみてぇなぁ」
「やればいいじゃないか。」
助言してやる。仕事と部活と勉学と全てこなせる自信があるなら組織でも禁止されていない
「無理だわな。仕事しんどいしな。辞めとこうか」
「瑞希様」
「どうした?」
陽菜がデバイスを見ていたが顔を上げる
「恋夜様が今夜部屋に来て欲しいと。時間は10時です。」
「あぁ、分かったよ」
仕事を肩代わりさせた事をネタに色々されそうだな。既に気分がブルーだ。
駅のホームに着いた。
到着までまだかかるらしい
「そういえば昼はどうする?」
「巣穴でいいんじゃねぇの、俺は夜から任務あるし休んでおきたい」
俺の問いに竜馬がそう答える
「私も恋夜と打ち合わせせねばならんから巣穴だと助かるな」
陽菜は何でもいいだろうし
「なら巣穴でいいか」
丁度電車がきたため乗り込む
流石に朝と違って空いているのが有難い
竜馬は1人でさっさと座席に座りに行った。疲れたというわけでもないだろうが。
巣穴まで戻ってきた。巣穴、俺たちの暮らしている地下だ。たしか虫の巣みたいだし巣穴と名付けたんだったか、捻りもない。
わざわざ上は俺たちのために食堂を作ってくれたらしい。まぁ、他の外食と同じかそれ以上の価格だが。少しくらい労っても罰は当たらんだろと思うが。向こうもボランティアでもないから仕方ないか
俺は日替わりランチを頼み食べている。
竜馬は他の人間と食事を取っている。顔の広さは正直羨ましいな、と思わないでもない
唯は打ち合わせのために恋夜と食事だ。残るは陽菜なのだがこいつは悪いが一緒に食事をして会話が弾むタイプの人間ではない。
(結果、場がどんよりしているというかなんというか)
他の者達は親しい人間同士で食べているため会話は弾むし楽しそうなのだが俺達の机だけこれはな、葬式だ。
「瑞希さーーーーん!」
「ごほっ!」
いきなり俺の脇腹を襲った衝撃に口の中身を容れ物に戻しそうになるが、ギリギリのところで飲み込む。
「お、お前なぁ…」
「へへへぇ。効きましたか?」
「あぁ。効きに効いて効きまくって骨が2〜3本折れたから次は辞めてくれ」
「分かりました。次は今の2倍の力で殴りますね」
「何を理解したのか言え。そんな事されたらまじで骨の1本2本折れちまう」
この頭のおかしな女。いや、おかしいのは俺なのか?俺以外とは普通にコミュニケーションを取れるらしい。
「冗談ですよ。冗談。それくらい理解してくださいよ」
「お前の冗談は冗談に聞こえないのだが、零亜?」
笑いながら説得力のないことを言う女。東條 零亜。俺の妹ということになっている。血は繋がっていない
「何、食べてるんですかっと、あー日替わりランチですね。じゃあ私もそうしましょう」
「たまには自分の食いたいもん食えばどうだ?」
「考えるのが面倒臭いです。それに瑞希さんの食べてるものが私の食べたいものですから」
俺のランチセットをガン見しながら俺の横に座る零亜。
確かに静かで落ち着かないがこんなにうるさくなれと祈った訳では無い
「買うなら早く買った方がいい。調理してる奴らも帰っちまうぞ」
「買う必要ないじゃないですか」
零亜が横から俺のおかずを掻っ攫う
「おいしぃっ。これで私の腹は満ちますしお金の節約にもなりました。ここ足元見すぎて床に穴が開きそうなくらい足元見てますからね」
訳分からん
頬を緩ませながら唐揚げを食べる零亜。それ俺のなんだがな、しかも食いかけだ。ついでにお前が食っても俺の腹は満ちないぞ
「ところで今晩はオフと聴きましたが?」
「それが、どうかしたのか」
嫌な予感しかしない
「オフになったよ〜という連絡がなかったことは不問にします。御飯食べに行きませんか?」
「ここで食べればいいだろう」
左の人差し指を立ててちっちっちっちと左右に振る零亜。
右手ではちゃっかり俺の卵焼きを摘んでいるそれを口に運びながら
「私の気持ちが分かってないですね。ほんと。今日は七門のお肉が食べたいです。そんな気分なんです」
七門…?焼肉屋の名前だったか
「お前の食いたいものなんて当てられるわけないだろうが」
「妹の食べたいものが分からないのに兄を名乗ってるんですか?名乗るのやめたらどうですか?」
「あぁ、辞めるわ。これからはお前のことをお姉ちゃんと呼ぶから」
「無責任な人ですね。最後までこの美人で可愛い妹の兄としていてくださいよ」
注文の多いやつだ
「で、俺はそんな美人で可愛い妹と何処に食事に行けばいいんだ?」
恋夜との待ち合わせ時間は10時ごろだったか。なら帰ってこれるだろう
「急にどうしたんですか。まぁいいですけど。さっきも言いましたが七門です。いつも行く場所ですよ」
「あぁ、あそこか」
頭の中で地図を描く。何となく思い出してきた。いつも行くと言ったが1回しか行っていない
ふと視線を机に戻すとさっきまであったはずの食べ物が消えていた。誇張でもなんでもない。文字通りだ。盆まで消えている
「あぁ、いらないのかと思って頂きましたよ。」
俺の視線で察したのか零亜が口に出す。
「全部持っていくか?普通」
「持っていきますよ普通。いつ自分の食事が取られるか分かりませんから常に目を光らせておかないとだめですよ」
「あほらしい」
昼飯半分も食べてないのだが、さてどうするか。追加で買っても食べ切れるか分からないしもういいか。夜には焼肉に行くらしいし
椅子から立ち上がる
「えっ?もう行くんですか?折角私が来たのに」
「飯を取られた方の身にもなってみろ」
「えぇ、じゃあ返しますからいてくださいよ。寂しいじゃないですか」
「口の減らない女だなお前も」
椅子に座り直す
名残惜しそうにトレイを俺の前にスライドさせようとする零亜
まるで餌を取り上げられた猫だな
「いや、もう食っていい。」
「ほんとですか?」
「あぁ、俺はもう充分だ」
「珍しいですね」
「いや、何、夜の焼肉いっぱい食べようと思ってな」
嫌味っぽく言ってやる
「いっぱい食べるのはいいですが、私の分のお金残しておいてくださいよ」
「分かってい…今なんて?」
「だから、私の分の代金も残して食べてくださいねって」
「もしかして、俺がお前の分も払うのか?」
「当然じゃないですか。まさか、私に払わせようと思ってたんですか?」
「こっちが当然だと言いたい。お前昼も夜も俺の金で食おうとしてたのか」
「じゃなきゃ、わざわざあんな高いお店選びませんよ」
たしかに、あの店は美味いが高い。
「まさか、お金が無いとか言うんじゃないですよね?」
ジトっとした視線を送られる。そうだ。金がない
「お察しの通り」
「じゃあ作ってきてくださいよ」
「無茶言うな」
今から数時間でどうしろと言うのだこいつは
「じゃあどうするんですか」
流石にこいつの分まで出すとなると馬鹿にならん。
「自分の分くらい払えよ。それならいける」
零亜はポケットに手をいれ自分の財布を取り出すと中身を確認する。ボロポロになったパンダの模様の財布だ。
「まだ使ってたんだな」
「わ、悪いですか!節約ですよ!」
顔を真っ赤にして怒鳴ってくる。別に悪いなんて言ってないが。だがその年でそれはないだろうと流石に俺でも思う。でも子供っぽいしこれが似合うか
「いや、でも嬉しかったよ。そんなボロボロになるまで使ってくれてるなんて」
本心からの言葉だ。よく見ればところどころ破れたのか下手くそな縫い目があったりする。それでも全体的にいい状態だ。
小さい頃俺が報酬で買ってやった財布だった。
「だ、だから節約ですって、まだ使えるものなんだからボロボロになるまで使いたいじゃないですか!」
「そんな力説しなくても分かってる。周りも見てるから声を張り上げるのも辞めろ」
周りを見回してようやく、声を張り上げすぎていたのに気付いたらしい。
赤面しつつも落ち着きを取り戻していく
「す、すみません。興奮してしまい、やっぱりこれ恥ずかしいですか?」
「いや、別に。お前まだまだ子供だし背伸びしなくてもいいだろう」
俺にとって血の繋がりがないとは言えやはり、たしかに俺の妹のような奴だ。
子供っぽい方が可愛げもある。気がする
「べ、別に子供ってわけじゃ…」
「そう、心配するな。いつかは成長するさ。それまではその財布でもいいだろう」
「ほんっっっと、息をするように失礼なこと言いますね」
「俺が世辞を言わない人間なのは知っているだろう?」
「それもそうですね」
「であったのか?」
「何がですか?」
「鳥頭かお前は。金だ」
「あぁ、それが…」
しょんぼりした顔で零亜が言う
「あぁ、分かったよないんだな」
「はい。だから出してもらおうと思ってたんですが」
「おいおい、ここで気付けて良かったな。行って食べました。それはいいが金払えないとどうするんだ。となるしな」
「まさかお金持ってないとは思わなかったので。がっぽり稼いでるんじゃないんですかぁ?」
どうしてそう思うのだろう。
「えーだって、私達とは仕事の質が違うじゃないですか、悪い方で。だから報酬も多いのかなと」
顔に出ていたらしい
「手元にくるのはかなり少ない。最低限だけだぞ」
「そうなんですか?それって小さい頃だけの話じゃないんですか?」
「あぁ、違う。今も最低限しかもらえないな。余った分から金を捻出し趣味、というか必要な物に使う。お前達とそう変わらん。」
とは言っても俺はこれでもまだ優遇されている方なのだがな。部屋に戻ればまだ金はあるし。でもそれは黙っておく
「命を賭けるのに少ないんですね」
「俺達の命なんて何とも思ってないんだろ」
「それって悲しいですよね」
「だから、あぁいう風に思い合うんじゃないのか?足りない愛を補うために」
食べさせあっているカップルに視線を送る。
「かもしれないですね」
零亜は俺の顔を見たあとにトレイに目を落とす。話しながら食べていたが、唐揚げが一つだけ残っている
「愛、足りてますか?」
突然真顔になったと思えば何を聞くのだこいつは
「どうだろうな。足りているんじゃないか」
「ぶっぶー足りてません」
それはお前が決めることなのか?
「そんな悲しい悲しい瑞希さんには私が愛を注いであげましょう。はい、あーん」
まるでさっきの光景を再現するように唐揚げを俺の口元まで持ってくる零亜。
いやこいつは有り得ない。
「うーん。お前の愛はいらないかな」
「それどういう事ですか?もういいです。あげません」
口を開けて一口で食べてしまった。
「もっと付ける所に肉を付けてからそういう台詞は吐くんだな。いつまでもつるペタじゃあな」
「どこ見てんですか!変態」
俺の視線に気付いたのか胸を隠すように手をクロスさせる零亜。
見事につるペタだ。まるでまな板だ。ともすれば俺の方が膨らんでいるのではないだろうか、いや、それはないか
「で、夜はどうするんだ。金ない金ない。どうしようもないぞ」
「…回転寿司で我慢してあげます。それなら払えますよね?」
「お前が1万円くらい食わなければな」
「食べませんよ。私を何だと思ってるんですか」
「いやしんぼう。大食らい。」
「失礼な人ですね」
いや、あながち間違ってもいないと思うが
「悪かったよ」
期限の悪そうな妹をなだめてからもう一人の少女に視線を向ける
「陽菜はどうする?」
反対側にいる少女へ話しかける
「私は適当に食べますので構わず」
「そうか」
零亜に視線を戻す
「じゃ、何かあれば連絡くれ」
「はいはい。分かりましたよー」
「じゃあ戻るか陽菜」
「はい」
ずっと零亜と話していたし、別に先に戻っていてくれても良かったのだが律儀に待っていたらしい。
陽菜を連れて部屋に戻る




