聖人なんかじゃない
「中間テストの結果返すぞ。名前順で取りに来い。浅間。」
数学の授業
テスト返却日らしい。遅かった気もするがこんなもんかもしれない。教師が名前を読み上げ、返す時にアドバイスを伝えているらしい。ご丁寧なもんだ。俺もそのありがたいアドバイスで賢くしてもらおう。
「東條」
俺の番だ。机の間を縫って前にでて受け取る。
「東條、ちゃんと勉強しているのか?尤も勉強だけしていても理解していなければ意味が無いぞ」
「ん、まぁ頑張っているつもりです」
言い訳してから席に戻る。点数を見ると38点。3割も取れている。俺すげぇな。こんなに賢い奴滅多にいねぇよ。
「…」
虚しくなってきた。クシャっと丸めて雑然としている机の中に放り込む。
「東條君何点だった?」
前に座る東川が聞いてきた。
「そっちは?」
「私は70点だよぉ…お母さんに怒られちゃう。」
それで怒られるなら俺は釘バットでフルスイングくらいはされそうなものだ。
「俺は83点」
「えぇ!すごいじゃん!見せて見せて」
疑うということを知らないのか。
「もう直しちゃった。また今度ね」
「私のも見せるからさ」
もう点数を知っている答案などいくら見せられても仕方がない。
「ごめんね。俺テストは他人に見せない主義で」
「そっか。残念。また勉強教えてね」
やっと折れてくれたらしい。学校では知的なイメージでやっていきたい。
「いいよ」
「あ、ごめん。やっぱ今。ここ理解出来なかったんだけど教えてくれないかな?」
彼女が指で問題を差しながら問題用紙を見せてくる。そこにはよく分からん異次元の文字が記されていた。
「…勉強は自分でするもの。何でもかんでも他人に頼っちゃいけません」
「そっか。そうだよね。ごめんね。」
この大天才瑞希様の解説が聞けなくて落ち込んでいるようだ。
「テストの解説するぞ」
前に立っている教師がテスト問題の解説を始めた。
俺には殆ど理解出来なかったので聞き流していた。というより同じ言語を話しているとは思えなかった。
「最高点だがこのクラスは79点が最高だった。最高点は浅間。おめでとう!」
100点じゃないのだな馬鹿ばかりだなこのクラスは。
クラス中から喝采が湧き上がる。一人だけ、東川だけは首を捻ってあれ?といいたげな表情で
少し俺を見ていた。
「で、残念ながら最低点は酷かった。誰とは言わないが33点だ。本人は理解しているだろうと思うがこれを気に頑張って欲しい。」
俺じゃあかなり低いほうなのか。でもビリじゃないよかった。
だがショックを受けたのも事実だった。。
二時間目は国語が返ってきた。
俺のは95点。御満悦だ。
「東條君何点だった?」
「95点」
素直に答える
「見せてよ。」
すごいじーっと見てくる。さっきの時間鯖を読んでいたのがはっきりとバレてしまったので疑っているのだろう。
「はい」
答案を渡す。
「すご…ほんとに95点…」
俺の点数に声の一つも出ないらしい。流石だな俺。
選択肢のところ鉛筆転がしたのだが全部合っていたらしい。それが大きかったな。
「数学の方は何点だったの?」
「73だよ。」
「やっぱり鯖読んでた。でも東條君頭良さそうだから初め信じちゃったよ」
「ごめんごめん」
さっき鯖を読んだこと、そして今も鯖を読んでいることの2回分謝っておく。
「解説始めますね」
「早く来なさいよ!豚!」
「きゃはは!」
いつものように竜馬と屋上の隅で食事をしていると賑やかな声が聞こえた。零亜は陽菜や唯達と食事中だ。
柄の悪そうな3人組の女が一人の男を連れて屋上へと上がってきた。男の方は知っている。確か、そう
「あれ、太田だよな」
竜馬が話しかけてきた。
「多分な。」
それに紙パックのジュースを飲みながら適当に返す。今日は
「りんごジュース」
うん。味はいい。そんな俺の感想も無視して竜馬は続けた
「トラブってんじゃねぇの」
「さぁな。」
「やけに興味なさげだな」
「興味ないからな」
「あそこにいたのが俺だとしても興味ないのか?」
「気分による」
ジュースを一口飲みまた口を開く。
「面倒事には首突っ込まない。これ鉄則」
「そう言われると突っ込みたくなるよな」
「…」
馬鹿だった。こいつ馬鹿だったな。思い出した。やるなと言われればやる馬鹿だった
「何見てんのあんた達」
少なくとも俺は見ていない気がするのだが火の粉が飛んできた。
「いや何…」
「何してんのかなぁって」
と俺が否定しかけたところ竜馬が上書きしてきた。
「…」
俺がじーっと竜馬を見ていると口の端から歯を覗かせキラーんとした表情をしていた。
乗りかかった船って奴だな。最後まで付き合ってやるか
ゴミをその辺に散らかしたまま4人組の方に歩く竜馬のあとに続く。
「おい豚、靴舐めろよ」
混ざるなり竜馬は太田に靴を差し出した。
何やってんだこいつ
「好きなんだろう?ほれほれ」
「何あんた、ウケる。ほら豚舐めなさいよ」
リーダー格の女がそれを見て笑うと便乗してきた。
「あんたは何もしないの?」
取り巻きの一人ショートカットの女が俺に声をかけてきた。
「俺は着いてきただけだし靴磨きは間に合ってる。涎でベタベタにされたらかなわん。」
「分かる。絢子の考えてることが分からないよ。」
リーダー格のケバい女は絢子というらしい。
俺が彼女と話していると竜馬と絢子の用事は終わったらしい。
「豚ちゃん今日の餌代1万円持ってきたかなぁ?」
絢子という女が太田に声をかけた。
「は、はい。」
太田が1万円を財布から恭しく取り出すと女に渡した。
「いい子にしてると次も可愛がってあげるからねぇ。」
受け取ると女達は去っていく。
「う、うぅ…くそぅ…」
一人取り残された太田は蹲って一人で泣き始めた。
「なぁ、太田。」
竜馬が声をかけた。
俺はフェンスに背中を預けて静観することにする。
「な、何だよ」
「お前悔しくねぇのかよ」
混ざって靴舐めさせた本人であるお前がそれ言うか?
「悔しいさ。でも」
「でもなんだよ。」
「ぼ、僕弱いから」
「弱いから何だよ」
「…」
「弱いって言い訳して我慢すんのかよ。言っとくけどそれも強さの一つだ。だけどな本当の強さじゃない。」
「九膳君には分からないさ。いつもクラスの中心である君に僕の何が分かるんだよ。いいから首突っ込まないでよ」
「首突っ込むさ。俺お前みたいなやつ見ててイライラするから。」
竜馬が太田の脇腹を右足で少し小突く。
「か、勝手にイライラしてろよ。」
「お前死ねよ。そうすれば俺はイライラせずに済むから」
暴論だな。
「き、君が死ねばいいだろ。僕は…僕には…」
「何で俺がお前みたいな人間以下のために死ななきゃならん。それに僕には何だ?」
「未来があるから」
「ちょ、聞いたかよ瑞希…」
竜馬は笑い出した。俺に振るな。
「未来、ぷぷっ未来だってよ。んなもん何処にあるんだよ。教えてくれよ豚。豚の未来なんてせいぜいトンカツがいいとこだぜ。笑わせるなぁ、おい。お前お笑い芸人の素質あるわ。」
「ば、馬鹿にするな!」
「いやいや、こんな面白いこと言うんだもん馬鹿にだってするさ。お前の何処に未来があるんだよ。目覚ませよ。ここ進学校でもない平凡な学校だぞ?そんなとこ入って豚みてぇな形してるお前の何処に未来なんてあんだよ。ははっ笑い死ぬわ。断言してやる。お前は未来永劫ただのサンドバッグだよ。トンカツにすらなれねぇ廃棄豚だよ。」
「おい、竜馬…」
言い過ぎだろ。止めようとしたが竜馬の目が訴えている。これでいい。止めるなと。その視線が言っている。
「この油まみれのきったねぇ髪の毛もどうにかしろよ。汚すぎて同じ星にいるってだけで吐き気もんだぜ。てめぇ鏡見たことあんのかよ?え?笑い死ぬわ。笑い殺す気かよ」
「う…うぅ…」
竜馬が髪をつかみ顔を向かせるが何も言い返せず泣き出してしまった。そのまま太田の顔面を竜馬が殴る。
「泣いて祈れば神は助けてくれるかぁ?んなもんいればとうの昔にお前みてぇなブッサイクなやつ救われてるぞ。いいか。お前にはな泣くより前にやる事があんだよ。これでいいのか?搾取される側で満足出来るなら何も言わねぇ。先にこっち答えろ。お前はこれで満足なのか?え?」
泣きながら首を横に振る太田
「悔しいならやり返してみろよクソ豚。まぁお前にゃ一生かかっても無理だがな。最っ高だねぇ」
竜馬は太田の顔面を床に打ち付ける。
一通り打ち付けると最後に脇腹に蹴りをぶち込んだ。
「おい、竜馬…」
「もういい。行こうぜ瑞希ちゃん」
よくねぇよ。やりすぎだ。
「おい、大丈夫か」
しゃがんでうずくまっている太田に声をかける。
「だ、大丈夫だよ。あ、ありがとう。えーっと」
「東條だ。」
「おいよ。瑞希ちゃんそんなキモ豚放っとけよ。何処まで聖人なの。」
あきれ顔でそう言う竜馬。こいつを野放しにした俺の責任だ。それに俺は、天地がひっくり返っても聖人なんかじゃない。
「そ、そっか。東條君。彼の言う通り放っておいてくれるかな。僕はだめだめだ。」
「そ、そんなことは…」
「あるよ。彼にはっきり言われて分かった。僕には何も無いんだよ。お金も。強さも。やりかえす勇気も。何も」
「豚のくせにそこまで分かってりゃ上等だよカス。漸く自分の立場理解したか?分かったらさっさと死ね。臭いんだよお前」
校内に戻ろうとした竜馬が再び戻ってくると太田のポケットから携帯を取り出すと操作を始めた
「か、返せよ」
「やだね。つか何だよこの待ち受け。おもしれえ。キモすぎだろ。何の女か知らねぇけど、しかもブッサイクな女だな。尻軽のアバズレみたいな顔面してやがるな」
竜馬が嘲笑うようにそう言うと途端太田は立ち上がり竜馬に殴りかかった。殴りかかられた当の本人は一瞬口の端を吊り上げていた。
「僕のことはいくら馬鹿にしてもいい。でも彼女のことだけは馬鹿にするな!」
「やろうと思えば出来るじゃん。お前」
竜馬はその拳を首を捻るだけで避け太田を蹴り飛ばす。
「うっ…」
腹を抑えて蹲る太田。まぁそこは仕方ないか。
「何でさっきみたいに女共にやり返さねぇんだ?俺にはできてあいつらには出来ない道理はないだろ。」
なるほど。
かなり荒治療ではあったが竜馬は彼の地雷を探り当てて勇気を出させたらしい。一度してしまえばそれは自身に代わる。自分は出来るんだという。
「あいつらみたいに人を傷つけて喜べるような異常者は見ていて気持ちは良くない。」
竜馬は太田に近付く。
「でもな。お前みたいに本当はやる、出来る力があるのにやろうとしないやつはもっと気持ち悪いし俺は嫌いだ。お前には未来なんて無い。失うものなんて何も無い。精々このまま燻り続けるだけのつまらん人生を送るよお前は。断言してやる。
でもそんな失うものなんて何も無いお前だからこそ仕返しなんて出来るだろう。仕返しして仕返しされるのが怖いなら極論仕返し出来ないよう殺してしまえばいい。どうして何もしない。あぁだこうだそれらしい理由付けて言葉こねくり回して仕返ししない事を正当化してお前は逃げてるだけだ。そんな人生でいいのかお前。一生強者にいたぶられてペコペコ頭下げ続ける人生でいいのか」
何だろうこの感覚。この言葉すごく俺たちにも突き刺さっている気がする。
「嫌だ」
「だろう?だからよ。今からホームセンターでも行って鋸でも買ってこい。女相手なんだ。何とでもなるだろう。殺したあとは自害だろうが何だろうがすればいい。どうせそんな人生未練なんてないだろ。」
途中まで黙って聞いていたが流石にダメだろう。それは
「おいおいおい。それはいかんだろ。もっと穏便に出来る方法があるだろ。」
「じゃあ代案出せよ瑞希ちゃん」
「いかがわしいビデオにでも出演させる。とかどうよ。噂になれば当分ここへは来られないと思うが」
妥当な案を出してみる。
「それいいね。おし、じゃあ瑞希ちゃんあの女落としてくれ。」
「何で俺なんだよ。」
「この豚じゃどうやっても無理だからな。それこそこいつでも出来るなら鋸作戦しかない。」
「俺がしなくてもその辺りのチンピラに依頼してやらせればいい。それをビデオに収めて流す。」
「は、話が飛躍しすぎだと思う。ぶ、物騒だよ」
太田が口を挟んできた。
「生半可な仕返しじゃやり返されるだけ。何か決定的な弱みがないといけないからな。ないなら作るしかない。っとそろそろ時間だな。戻ろうぜ瑞希ちゃん。つか俺らの事じゃねぇし、おい豚、自分のことだ。自分で考えるといい。」
校内に戻る竜馬に俺も続いた。
竜馬は基本的には優しいんです。今回はやり方がかなり悪いですけど。




