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夢想の瑞希  作者: 木崎 しの
瑞希編
3/66

入学式

血だらけの女と一緒に街を走る。もう1時間は走っているが女の方がもう限界だ。

ついに足を止めてしまった。


「瑞希、ごめんね。もうあなたの手で終わらせて」


「馬鹿なこと言うな。ほらいくぞ。」


彼女を抱えようとするが拒否された。


「殺して」


「出来るわけないだろ!ふざけんな。次そんなこと…」


声を荒らげて否定する。そんなこと出来るわけがないじゃないか。


「そんな顔しないでよ瑞希。私は大丈夫だから」


バカが。俺が大丈夫じゃないんだよ


「だから、泣かないで瑞希。」


泣いてなどいない。


「零亜に怒られるから泣き止んで。それに私のせいで貴方を死なせたくない。早くして。あいつらがくる。貴方は国を救った英雄。それでいいでしょ?」


よくない。が俺の体は思考に反して勝手に動く。辞めてくれ。俺は…こんな国いらない。お前が俺のそばにいてくれたらそれでよかったのに。


「それでいいのよ瑞希。貴方は間違っていない。」


「必ず迎えにいく。」


「…辞めてよ瑞希。そんなこと言われちゃうと決意が揺らいじゃう…そうだね、必ず迎えに来て、待ってるから」


そう言って彼女は今まで見たことないくらいの笑顔を見せた。


「…!!!」


━━━━━━━俺は、彼女を殺した。初めて近しい人間を殺した。






「おはようございます。お目覚めですか?まだお早いですよ」


陽菜が声をかけてくる。

それにしても嫌な夢だったな。まさかあんな夢を見るとは。


「あぁ、いや、大丈夫だ」


自分で言っていて何が大丈夫なのだろうと思う


時計を見るといつも起床する時間よりかなり早かった。

陽菜は洗濯物が入った籠を抱えていた。

そういえば今日は洗濯の日だったか。

ソファに座りサイドテーブルの上の紙に手を伸ばす。

今日は進級の日だ。段取りだけでも確認しておこう


「早めの朝食だな」


テーブルを見ると既に陽菜が朝食の準備を始めていた。


「はい。迷惑でしたか?」


「いや、そうでもないさ」


いつも通り陽菜と会話しながら朝食を摂る

机の上のパンへ手を伸ばす


「これは?」


「アンパンですね」


1口、口に放り込む。


「美味いな。お前が作ったのか?」


何処でこんなもん作れるようになったのやら。あいつにも見習ってほしいな。


「はい。ありがとうございます」


相変わらず謙遜するように謝礼を述べる陽菜。


「美味かったよ。」


手を合わせて食事を終了とする。


「着替えますか?」


「あぁ」


「少しお待ちください」


陽菜はクローゼットから制服を取り出しに行く。俺はその間に着ていた服を脱ぐ。丁度脱ぎ終わった頃に陽菜が制服を持ってきた。

それを受け取り身につける。


「どうだ?」


「お似合いです」


「嬉しいね。お前も着替えろよ」


「はい」


陽菜はクローゼットに自分の分を取りに行った

俺はその間に机に置いてある朝食で使った食器を流しへと運んだ。




「似合うじゃないか」


陽菜の制服姿は一言で言うと可愛かった


「メイド服以外も似合うんだなお前は」


「ありがとうございます」


恭しく礼をする陽菜。

時計を見ると既に七時半となっていた。


「行こうか」


「はい」


部屋を出ると同じようにチラホラと廊下を歩く人間がいた。

その中のひとりが俺に気付いたのか近づいてきた


「おいっす。瑞希いい天気だねぇ。天気見えねぇけどな、いい天気なのは俺の頭かぁ?ははははは」


笑いながら自分のセリフに自分で突っ込む。頭が愉快な男だな


「竜馬か。朝から元気だな」


「そりゃあ朝から陰気臭い言動なんて出来っかよ。ねぇ、ひーなちゃん」


ぴょんと飛び跳ねて陽菜に抱きつこうとするもサッと避けられて失敗に終わる


「おはようございます。竜馬さん」


「届かないねぇ。この距離。いつになれば縮まるのかなぁ?」


「私はあくまで瑞希様にお使えしている身ですので」


「かぁぁ辛いねぇ。辛辣だねぇ?」


同意を求めるようにこちらを見る竜馬。


「馬鹿に構っていたら遅れるし馬鹿が移る。早く行くぞ陽菜」


「はい。」


早めに着いていた方がいいだろう。今日ばかりは

いつまでもこの馬鹿の相手をしそうな陽菜を先導するように歩き始める


「おいおい、待てよっ。瑞希♡」


当然のように竜馬も後ろから付いてくると今度は俺の腕に自分の腕を絡ませてくる。

こいつと同じ学校に通わなくてはいけないと考えると今から憂鬱になるな。悪いやつではないがこうずっと絡まれると思うと面倒になる


「と、ふざけるのもここまでだな。時間が押している」


が、切り替えの早いというのも助かる。騒がしいやつだが


「おい、いくぞ瑞希。陽菜ちゃん」


どうしてこいつが仕切っているのやら。


「というよりもお前があそこでぺちゃくちゃ話してたのが悪いんだろ」


「まぁ、許せよ。ケツの穴の小せぇ男だな。ほら急ぐぞ」


素直に謝ったし仕方なく竜馬に付いていく


「No.44、No.235、No.56だな。よし、通れ」


施設の玄関、とは言ってもまだ地下なのだが、そこで受付をしてエレベーターに乗り込む。


「にしても、まるで実験動物かなんかみたいだよなぁ俺たち」


竜馬が胸の中身を吐き出すように呟く。気持ちは分からないではない。徹底したナンバー管理。勿論俺達が無断で外へ出ないように至る所に監視カメラが付いている。自室の中には流石に仕込まれていなく、唯一の心休まる場所だ。


「つぅか、いい加減これ外して欲しいわ。誰も逃げねぇよ」


耳についているピアスを示す竜馬

そう。俺達の身体情報や位置情報などを上に送る装置だ。それが俺の耳にも、ピアスのように付けられている。一応見えないように加工はされているものの、短髪の者など、仮に見える人間が見てしまえばモロに見えてしまう者については体に埋め込まれている。

同時に俺達の幻の使用をある程度制限出来るようになっている優れものだ。

これにより普段は身体能力の強化など、そういったものにしか使えないほど制限されている。十分ではあるが。


「仕方ないだろう。向こうも俺たちの動向は掴んでおきたいんだろうよ」


当然だな。俺でもそうする


「そうは言ってもなぁ、俺もマトモな人生が送りたかったわ。ったく」


そんな話をしている間に着いたようだ。

エレベーターから降り歩き始める。少ししたところにあるボタンを押すと倉庫に出る。そう。コンテナのように見えるエレベーターらしい。


「土ん中で生活すんの、人間の暮らしじゃないよな」


「言葉数の減らないやつだ」


「ったりめぇよ。俺はまだお前みたいに諦めていないからな」


そう。まるで巣穴だ。土竜か何かの。巣穴のような帰るべき場所。


迷路のような入り組んだ倉庫を歩き出口へと向かう。出口と言っても入口と兼用のものだが。

というより迷路というのも生ぬるい。迷宮だ。幻術を使って入るものを錯覚させ迷わせる。道を知らぬ者が踏み込めば入口に戻るようになっている。

道を知っている者は俺のようなあの地下で暮らしている人間くらいだ。

倉庫の入口であり、出口でもある、重い扉を開き外へ出る


「ひゅーっ。今日もお日様サンサンいい天気だねぇ。ひゃっほーっ」


馬鹿が1人で飛び出して先に進んでいく。

なんとなく癪だが奴の後を俺達も付いていく。道が同じだから仕方ない


この倉庫、というよりあの地下もだが、はとある企業が持っているものだ。

その企業が遺伝子操作の結果生まれてきたのが俺たち異能者。尤も、普通の生まれにも関わらず先天的に異能者である人間もいるようだが。

前者はまがい物後者は純正と呼ぶ者もいる。

そしてその異能者、先天的、後天的に関わらず区別なく一般的にブレイカーと呼ばれている。先天性 後天性と前に付くがそれくらいだ


「まぁ、俺達がどうこう考えるものでもない…か」


「何がですか?」


心の中で呟いていたつもりが、口に出ていたようだ。陽菜に反応されてしまった


「いや、何でもないさ」



通路を抜けると竜馬がニコニコの笑顔で俺たちを待っていた


「おっせぇぞ。遅刻するぞ」


「あぁ、そうだな」


適当に返事を返してから敷地の外へ出る。


「遅いな」


「何だ、待っていたのか」


門のあたりで唯が待っていた。


「当たり前だ。その、何だ。慣れない場所だからな」


唯が目を逸らしつつそう言う。なるほど、1人で行けないのが恥ずかしいらしいな。


「じゃあ行こうか」


唯は頷くと俺の横に来た。


「ねぇ、唯ちゃん、俺には挨拶の一つもないわけぇ?」


「あぁ、いたのか竜馬。すまない」


全く、悪びれる様子も見せずそう口にする唯。


「いましたよーっと」


「唯様、おはようございます。」


陽菜も挨拶する


「あぁ、おはよう陽菜。2週間ぶりくらい?久しぶり。いつも瑞希のお世話ありがとうね」


「いえ、日々のお礼ですのでお礼を言われるほどの事はしておりません」


「悪いが時間は止まらない。歩きながらにしてくれ」


「そうだな」


唯が答え皆で歩き出す

左右には木々が生い茂り道は斜面となっている。それなりの急勾配だ。

行きは下りなのでそこまでだが帰りはキツい。とは言え今は慣れたが


「にしても楽しみだなぁ?学校?俺こういうの行ったことないし」


竜馬がこれから始まる学校生活への期待を口に出す。


「別に楽しくはないだろう。あまり期待するなよ」


学校など行っても妬ましくなるだけだ。普通の生活をしている奴らが。普通に生まれ普通に育ち普通に生活をする連中が。羨ましい

俺達ブレイカーは最低限の教育を組織の機関で受けている。外部の義務教育と合わせるように15歳までを最低教育期間としている。それ以降は進学するもよし、組織の駒として動くもよし。それは個人が決めることとなっている。何故それからは自由に選ばすのか疑問に思ったこともあるが最低限、人間としてやっていく上で大切なことは教え込んだから、と聞かされている。あとは慈悲だな。今まで組織のために動いてくれて助かったぞ、みたいな。それも表向きの理由で本音は知る由もないが。まぁ大方専門的な分野を教えるとなると効率的に施設外の学校の方が都合が良いとかそんなところだろうと予想している。

楽観的な見方をすれば俺達もブレイカーである前に人間という訳だ。監禁生活を申し訳なくも思ったりするのかもしれない。ないか。


「暗ぇこと言うなよ。どうせやるんなら楽しまなきゃ損って事よ。何事も。な?」


「それもそうだな」


始まる前から暗くなっていても仕方ないな

悪い癖だ


最寄りの駅についた。

時計を見る充分間に合うだろう。

どんどん乗り込んでいく。俺たちも続く。この辺りは住んでいる人間が多い。ものの数秒で人で埋め尽くされる。

俺達も奥まで進めず、ドアの近くに立つこととなった。幸い。目的の駅はこちら側が開くらしい。ならこのままでいいか。


俺も電車に乗るのは多分初めてなのだがこんなにも混雑するものなのだな

あ、人に押され3人と離れてしまった。

まぁ、いいか。竜馬は兎も角、降りる駅は唯や陽菜が把握しているだろう。


5分ほど揺れ次の駅に着いたらしい。

人が減ったと思えばまた人が入ってきた。意味が無いな。


(ん?)


乗車したはいいが俺達と同じく奥まで進めずドア際に立つ赤髪の少女。どうやら俺達と同じ学校に通うらしい。陽菜や唯と同じ制服を身にまとっている


(なら、いずれ知り合うこともあるかもな)


更に5分後。

つい先程から目の前の少女の様子がおかしい

何か声を抑えているという感じだろうか。

乗車してきた時から少し俯き気味だったが更にそれが加速している気がする。

少女の後ろの男を見ると下に視線を落としている。


(痴漢…か)


とは言え確信もないし、荒事を起こして目立ちたくもない。それよりも俺はそんなに正義感の強い人間でもない。


(だが、辞めさせるくらいならそう事も荒立たないか。試してみたいものもある)


イビルアイ。心中で呟く。

自分の幻を任意の場所に飛ばし周囲の状況を探る幻技、というより小技だ

これの精度を上げておきたいし、よく使う技であるため頻繁に使ってカンを鈍らせないようにしておく。


(思った通り…か)


少女の尻を撫で回す男。

次は少女の脳内に少しずつ幻を染み込ませる。

少女の見ている世界、心情、彼女の捉える音。全てのものが情報として俺の脳に流れてくる。

嫌がっているため痴漢で間違いはないだろうか。男とも年齢が離れている。恋人という訳でもないだろう。

脳内の情報をデバイスに転送する。


少女の手を左手で取りこちらに引き寄せると男の手が当然だが離れる。男は俺の方を見るがそれを予想していたので右手でデバイスを見せつける。画面は付けているし当然、痴漢をしている画像だ。下の方から二人に気付かれないように撮ったものだ。

男の顔は青ざめてくるが用意しておいた画像に切り替えると安堵し、反対側を向く、これで穏便に済ませられたか。


「すみませんね」


そう言い少女の手を離す


「いえ、その、ありがとうございます…」


彼女は消えそうな声でそう呟いた。

俺も窓の外に目をやる。景色が高速で流れていく。まるで止まることを知らない川のように。

そうやって窓の外を見ていたらいつの間にか駅に着いていた。


降りて、少し離れた場所で三人を待つ。少女は降りた後こちらをもう一度見て頭を下げた後に階段を登っていった。


人混みで溢れる。殆どが学生だ。それもそのはず。この辺りは学校が多かった気がする


「おっまたーまたまたー」


くねくねしながら竜馬がやってきた。その後には陽菜と唯だ


「酷い混雑具合だったな。毎日あれに乗るのかと思えば今から疲れてしまう」


唯が溜息を吐くように不平を漏らす


「同感だな」


俺もあれには勘弁だ


「そうか?俺は嫌いじゃないけどな。ほら?これぞ学生って感じで」


竜馬だけはノリノリだ。頭の中はお花畑にでもなっているのだろうか


「っとこんな事している暇はないぞ。ほら行くぞ」


三人を促し階段を登り改札を抜ける。


「どれ通ればいいんだ?」


「右だ」


竜馬は下見というものをしないのだろうか。たしかに改札を抜ければいきなり道が三つに分かれていたのだが、だからこそ下見くらいするべきだろう。


「流石、真面目な瑞希は違うねぇ」


「俺は普通だお前が不真面目過ぎるだけ」


先に進もう。こいつに合わせていると遅刻してしまう


「多いな」


結局学校の中庭に付いた。まぁ、予定通りか

それにしても人が多い。予想していた事だが

中庭にクラス分けが掲示してあるのがその理由だ。

5分ほど待ってようやく見られるようになった


「みんな何組よ?俺?俺は8組」


ヘラヘラしながら竜馬が言う。


「俺は5だな。」


「私は2。陽菜は?」


唯が促す。こいつの場合聞かない限り言わなさそうなので、いい判断だな


「1組です」


みんなのクラスも分かった。教室に向かおう


「じゃ、そろそろ教室に行こうか。帰宅時刻になると唯のデバイスに連絡を入れる。落合場所はそれから考えよう」


「分かった。じゃあ行こ」


唯が陽菜の手を引いて歩いていく。


「じゃあ俺達も行こうか竜馬」


竜馬と共に唯たちの歩いていった方向とは真逆に歩を進める


「逆じゃないか。あいつらと一緒に行かないのか?」


案の定口を開いたと思えばこれだ。


「俺たちの向かうのは2棟だ。1棟に残り4クラス入らなかったという事らしいが。2棟が残り5~8のクラスが入っている」


「なるほどね。流石瑞希ちゃん学校オタクだな」


「この学校に通うやつなら知っていることばかりだ。お前は自分の知識のなさを憂いだ方がいいぞ」


「俺はそうやってネチネチ考えるより力で押していくタイプだからな。頭脳戦は任せたぜ瑞希ちゃん」


俺もどちらかと言うとその力で押し切るタイプなのだがな

こいつは脳みそまで筋肉で出来ているのではないだろうか


階段を登ると道が左右に分かれている。左は5.6右は7.8組だそうだ。


「お前は右だぞ。間違えるな?」


「そんなに心配するなよ。俺がそんな事も分からない男に見えるか?」


「見えるから言った」


「こりゃ厳しいな」


「後はクラスメイトに聞くなり何なりしてくれ」


「おう。任せろ」


竜馬と別れ自分の組である5組の教室へ入る

クラスメイトは皆自分の席に座ってじっとしていた。中には同じ中学の人間なのか親しそうに話している者も少数見かけるが

竜馬に説明していたのもあるが時間ギリギリだった。まぁいいか。間に合ったのだし

俺も黒板に貼り付けられた座席表を確認する。

真ん中の1番後ろだった。目立ちたくないため前には座りたくなかったので嬉しいな。組織の手が入ったのかもしれんが、考え過ぎか。偶然と切り捨て席と席の間を通り自席へ向かい着席する


デバイスを起動しメールボックスの確認をする。

重要なメールはないらしい

デバイスをスリープモードにし前を見ると前の席の少女がこちらを見ていた。

今朝の少女だ


「今朝はありがとうございました。同じ学校の、しかも同じ組だったんですね」


同じ学校だったの知らなかったのか?それか異性の制服を知らなかった…辺りか?


「いえいえ、礼には及びませんよ。こちらこそ事を荒立てたくなかったのであのまま逃がしまして、すみません。」


笑みを浮かべ言葉を返し同時に謝罪もする。


「いえ、私も荒立てたくなかったので嬉しかったです。それと私、東川 未奈といいます。これから1年仲良くしてください」


大人しいように見えるが話し方は意外とハキハキしている。


「私は東條瑞希と言います。よろしくお願いしますね」


こちらも返す


「おはようございます」


その時前の扉が開き教師が入ってきた

まだ若く見えるが大丈夫か?こいつ

教壇の前まで移動し咳払いしてから話し始める


「ま、先ずは、当学校への入学おめでとうございます」


お決まりの台詞だな


「と、あまり時間が無いので後にしましょう。廊下に出て出席番号順に並んでください。今から第1体育館の方へ向かいますので。出席番号1番浅間君から順番に」


そう言うと浅間だろうという男子生徒から廊下へ誘導していく。

一番左の列が終わった辺りから他の人間も廊下に出始めた。

俺も出ようか。


もう一度先ほどの中庭にきた。

皆緊張が解けてきたのか。近くの人間と話をしていたりする

俺も東川と話していた。他愛もない話だが


「中学は何処だったんですか?」


さて、どうしたものか。本当の事など言えるわけもない。たしか、ここを受験する時は森垣中学と書いたはずだ。これは実在する学校名だ。ちなみに同じ中学から受験してきた人間はいないと所長からは聞いている。


「森垣ですね」


「あそこですか。私その横の山川中学なんですよ。近いですね」


「えぇ。そうですね」


話してみるとよく話す女だ。にしても辺鄙な学校の隣か。よくそんな辺鄙なところからきたものだ。


「そうだ。部活は何をやるんですか?」


「特に決めていませんね」


今のところ入る予定はないが


「じゃあ茶道とかどうですか?私は茶道にしようかと」


そんな部活があるのかこの学校は、知らなかった。


「考えておきますね」


茶道どころか何にも入るつもりなどない。俺はどうして進学したのだろうと同時に思えても来る。


「ところで気になっていたんですが、女子もズボンでもいいんですね。私もズボンにすれば良かったなぁ」


「そうなんですか?」


「え?」


東川はもう一度俺のつま先から顔までを見ると顔を赤くする


「東條さんってもしかして、男子?」


「そうですけど」


知らなかったのか?この女。

そういえば竜馬と初めて会ったときも女だと思われたような記憶がある。


「あ、その、ごめんなさい」


「いえ、構いませんが」


それきり会話はなくなった。


前の方が動き出した体育館に入るらしい

まるで蟻の行列だな



体育館に入るなり一応形としては祝言を送られながら着席するまぁ普通の入学式というやつだろう

二つの椅子が隣り合うように配置されそれが1クラス分ズラーッと並んでいる。

俺の横に座ったのは東川。やはりというかなんと言うか

俯いたまま何も話さない

やはり今朝のが不味かったか。

慣れないことはするものではないな。


周りを見回す。感じてはいたが俺達5組~8組のような落ちこぼれ組にかける金はないのか装飾もチンケで来賓もなし。前の方に座るのは1組から4組。ま、優等生組だな。扱いが全く違う。来賓が座っているのも前の辺り。

ちなみに後部に座っているのは落ちこぼれ組の保護者くらい。か

遠目にだが竜馬を見かけた。隣の人間と楽しそうに話している。

奴のあぁいう他人とスグに親しくなれるところは凄いな


再び目を舞台に戻すと校長らしき人間が立っていた。

マイクの調整をしているらしい

まだ中年くらいの男性。だが年季は入っているのか貫禄はある。


「えぇ。では。新入生の皆さん、ご来賓の皆様」


話始める


「私は当高等学校の校長である、藤波 関也と申します。先ずは新入生の皆さんご入学おめでとうございます」


これが校長の話というやつか長くなるのは聞いている


「~では、これで挨拶の言葉とさせていただきます。失礼します」


あれから5分ほど話していた校長は一歩下がってから頭を下げ舞台脇の垂れ幕に入っていった


で、あれから体育館を出て再び教室に帰ってきたわけだが


「じゃあ自己紹介しましょうか。自己紹介。ね?みんな名前分からないとお話しにくいしね。じゃあ浅間君から。名前順で」


困ったな。何を話せばいいんだか


浅間と呼ばれた男は立ち上がる


「浅間 和也と言います。部活はサッカー部に入ろうと思っています。1年間よろしくお願いします」


浅間がすっと着席する

そんなものでいいのか。浅間に続いて次々と挨拶していく。


「俺っちは小林 拓磨!一発ギャグいきます!」


と騒がしいやつもいた。ちなみに盛大に滑っていた。それが逆に笑いを呼んだが


「と、東川 未奈です。ぶ、部活は茶道部に入ろうと思っています。よろしくお願いします」


ガチガチの声とカクカクの礼で東川は自己紹介する。

さて、俺の番だが


「東條 瑞希です…そのよろしくお願いします」


頭を下げてから着席する。無難な自己紹介ではないだろうか。


放課後となった。入学式ということもあり、自己紹介のみで今日は終わりだ


デバイスを立ち上げながら廊下へと出る。


「お、丁度いいじゃん」


反対側から竜馬がやってきた。


「そうだな」


適当に返事を返しながらデバイスでメッセージを飛ばし、待ち合わせ場所の校門に向かう


「お楽しみだった学校はどうだ?」


「あ、そりゃおもしれぇな。初めて見るもの初めて経験すること。初めてだらけだ」


階段を降りながら竜馬は嬉しそうに今日あった出来事を話し始めた

その笑顔を見ているとこちらまで何故か楽しくなってくる

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