表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢想の瑞希  作者: 木崎 しの
瑞希編
2/66

頭痛

「おいおい、勘弁してくれよ」


横を銃弾の雨が通り過ぎる。今出れば蜂の巣にされるだろうな。おまけにご丁寧に対ブレイカー用の特殊加工された弾丸だ。当たれば死にはしないもののそれなりの痛みはあるだろう。

今は柱の陰に隠れているのだが、それもゴリゴリ削られている破壊されるのも時間の問題だ


「ヘラヘラするな。貴様とあの世までご一緒するつもりはないぞ。バカ、カス、死ね」


隣から偉く活きのいい罵声が飛んでくる。しかもやたら通るから聞きすぎると頭痛がするのだ。こいつの声は

にしても、はぁ、参ったね。


「俺も残念ながらお前みたいな人間とあの世まで行くつもりはないが、もう1度お前とあの綺麗なお日様を見てみたい。って気持ちはないでもない。どうだ?」


相棒はニッと不敵に笑う。


「悪くない」


「何をべらべら喋っているんだァァ?俺も楽しい会話に混ぜろよぉぉぉ」


その声を引き金に雨の勢いが更に増す。

そろそろ壁の体力も限界だろう

相棒へ手を伸ばす


「悪魔の手となるか救いの手となるか。確かめる気はあるか?」


直ぐに握り返される。


「確かめるまでもない」


俺は防弾障壁を自分と相棒の周りに展開して手を引き前に走り出す。こんなところでお陀仏になるために生きてきたわけじゃない。


「出てきたなぁぁぁ!ドブネズミィィ!とち狂ったかぁぁぁぁ?!楽しいパーティを続けようぜぇぇぇぇ!踊れ踊れぇぇぇぇ!ははははははは」


背後で爆発音が鳴り響く。時折混ざる笑い声は不快だな。雨の勢いも増す。だが、もう少しだもう少しだ。もう少しで届く。

あと3m。たかが3mだ。だが果てしなく長い距離。

それも終わりだ。

銃弾で割れたガラスから外へ飛び出る

俺達の体が落下する。下へ下へと。地上からの距離は20mだったか

だが半分ほど落ちたくらいだろうか。落下の勢いがかなり削がれる


「いつ見てもお前の魔法はすごいな」


素直に賞賛する


「お前みたいに怠けてきたわけじゃないからな瑞希」


「お前は人の心を抉るのが得意だなぁ唯?」


本当に気にしている訳では無い。ジョークだ。ジョーク。長い付き合い、腐れ縁。


俺達は風に乗り、この場をあとにする







「ちっ。それでそれ以上の戦果は挙げず逃げ帰ってきたわけか」


お前達の提示した目標はこなしただろ。それ以上は求めないで欲しいのだが


「そうなります。すみませんでした」


頭を地面に擦り付ける。土下座だ。これで満足するならいくらでもする


「ったく。クズが。こんな事しか能がないんだから、仕事くらいこなせよ。まぁいい頭を上げろ」


頭を踏まれた。慣れている事だ。

言われた通り足が離れるのを待ち頭を上げ立ち上がる


「お前達の活躍は俺の耳にも届いている。今回の件は不問とする。つくづく俺も甘いな。良い下がれ」


それきりもう俺がこの部屋にいないかのように、他の書類に視線を移す所長

そもそもそちらの情報が現実と全くの別だったからこうなったんだがな。目的のものを盗ってきただけでも評価して欲しいもんだが


「失礼します」


足早に部屋を出ていく。

部屋を出ると待たせていた唯がいた


「髪、乱れてる」


「いや、新しいヘアースタイルだ」


「ないない。踏まれたか掴まれたかされたんでしょ。そんな乱れ方してる」


こいつも鋭いものだ


「バレた?」


「私を誰だと思ってるの?」


「どこにでもいるような女」


「私が何処にでもいるような女ならお前100回は死んでいるぞ?」


「それもそうか。じゃあ頼れる相棒。だな」


「それでよし」


「…つぅ」


目の前がぼやける。

何故か彼女の声が遠くから聞こえる。分からない。何故だろう。それに視界がクラクラする。

そうだ。これは、頭痛が始まる。真っ直ぐ立てないほどの痛みだ


「…はぁっ…はぁっ…」


脳が揺れたような感覚に陥る。呼吸までもままならない


「お、おい!」


唯の声が遠くで聞こえた気がする。がそれどころではない。頭が割れそうだ。いっそ魔弾で頭でもぶち抜いてしまおうか。楽になれるだろう。


「がぁっ!はぁ…はぁ…」


10秒程だろうか。


「ど、どうしたのだ?」


慌てたような唯の声が鮮明に聞こえる。

痛みの波は引いたようだ


「いや、大丈夫だ。何でもない」


今はそう答えるしかない。俺にも原因が分からないのだから


「何でもないわけないだろ?お前顔が見たことないくらい青くなっているぞ?!」


「いや、大丈夫だ」


「いや、だから大丈夫なわけないだろう?」


食い下がる唯。こいつのこういう所は玉に瑕だな


「とりあえず今日は安め。連日の任務で疲れが出たのだろう?かく言う私も少し疲れていてな」


見え見えの演技で項垂れる唯。疲れていないことなどバレバレだ


「いや、だがまだ任務が…」


「阿呆。任務よりお前の体だ。所長には私から話を通しておく。任務など代わりのものに行かせればよい」


「あぁ分かったよ。1日だけ甘えよう」


「うむ。それでよい。休息も立派な任務だ」


自室まで歩いて戻ってきた

当然。唯とは部屋の前で別れた


「おかえりなさいませ。瑞希様」


メイドの陽菜がいつも通り挨拶をする


「あぁ」


答えながらソファに座る


「お顔色が優れないようですが、如何しましたか?」


心配そうな顔で俺の顔をのぞき込む陽菜。


「いや、ちょっとな。ところでそろそろ学校だな。どうだ?」


話題を逸らす


「そうですね。楽しみといえば楽しみです」


「そうか。お前も学校に仕事にと大変だな」


「いえ、瑞希様達に比べたら何でもないですよ」


謙遜するように言うが本当のところこいつもかなり大変だろう


「ところで、いい加減その口調はどうにかならんのか」


「私はどこまで行ってもメイドですので。仕えるべき主である瑞希様にはこの口調が正解だと考えております」


陽菜は優秀なメイドだがこう堅苦しいところはマイナスだな

掛け時計を見ると時刻は丁度深夜3時を示していた。


「寝る」


ソファに身を投げ出すように寝転ぶ。ベッドはあるが移動するのも面倒だ


「いつお起こししましょうか。それとベッドで寝た方が宜しいかと」


「いつもと同じ時間でいい。ベッドまで移動するのが面倒だ」


「畏まりました。では良い夢を」


目を瞑ると俺の意識は闇に溶けるように飛んだ

ご覧くださりありがとうございます。

これからもお読み頂けると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ