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夢想の瑞希  作者: 木崎 しの
連続失踪事件編
16/66

連続失踪事件捜査 初日

ここから物語は大きく動き始めます。

楽しんで読んでいただければと。

週末は言いつけ通り律儀に巣穴に戻ってきている。


「長閑な朝だな」


「そうですね」


俺のどうでもいい呟きに答えてくれるのは陽菜。律儀なものだな。陽の光もなく、あるのは照明灯の明かりだけ。朝かも分からない。そんな中時計だけを見て朝か昼か夜かをを判断する。おかしなものだ。はた目から見ればかなり面白い風景だろう。


「とりあえずコーヒーでも入れてくれ」


「畏まりました。」


てきぱきと動きコーヒーを入れる陽菜を横目に端末を覗く。


「なぁ、俺達って何させられてるんだろうな」


ただ言われたことを忠実にこなすための機械。のようなものだがそんな疑問を抱くこともあるにはある。


「さぁ、分かりませんね」


「ま、ロクでもないことなんだなと言うのは何となく分かるが」


苦笑しながら答える。


「正義なんてもの人によって変わりますからね。自分ではロクでもないことだと思っていてもきっとどこかの誰かにとっての善になれていると思いますよ」


「違いねぇな」


「無理に正しくあろうとしても疲れるだけですよ」


これは驚いた。


「お前からそんな言葉が聞けるとはな」


「私のイメージどんな感じだったんですか?」


「正義を体現したような感じ」


「私はそんな風にあなたの目には映ってたんですね」


「悪かったか?」


「いえ、嬉しいですよ。こちらコーヒーです」


「悪いな。いつも」


陽菜からコーヒーを受け取る。


「いえ使ってください。私にはこれくらいしか出来ることがありませんから。」


それを飲もうとしたその瞬間、俺の太腿に振動が伝わる


「…はぁ」


一つため息をついてからポケットに手を入れると端末を取り出す。陽菜は事態を察したようで黙ってコーヒーを飲んでいる。


「はい。ナンバー44東條です。」


それを耳に当て声を発する。


「10秒。」


その忌々しい箱からは厳かな声が聞こててくる。


「何がですか」


「お前が俺の呼び出しに応じるまでにかかった時間だ。怠けるなよ。平時は端末を常に身につけておけと言い聞かせているが」


身につけているのだが


「用事で手が離せませんでした。申し訳ない」


「ふん。まぁいい。小言を言うために呼び出した訳でも無い」


男は一つ息を鳴らしてから口を開く。俺も本題を待つ。どうせロクでもないことをさせられるのは分かる


「ここ一月とある区画で子供が消えるという事件が相次いでいてな。男女問わず、多くは10代。」


「奴隷用か。臓器を抜き取られているかですかね」


おおよその見当はつく。


「先入観で物を語るな。足を掬われるぞ」


「…気をつけます」


「だが犯罪なのは間違いないだろうな。恐らく組織的な犯行でな。足がなかなか掴めぬ。」


「現時点での被害者の人数は?」


「分かっているだけで50人。」


多すぎるな。外の機関は何をしているのか。


「一応世間では家出扱いとなっているがいい加減限界だ。ここいらで何とかせねばならない。」


「それを俺に調査しろって訳ですか?まさか貴方達が尻尾も掴めない相手を?一人じゃ無理ですよ。」


「早とちりするな。専門家を付ける。そいつと調査にあたれ。」


「誰ですかそれは」


「警察の人間だ。頼りになるだろう」


「…分かりました。お相手のお名前は?」


折角の休日がまた丸潰れだ。皮肉っぽい口調で訊ねたのが最後の抵抗。


「山城 友恵。歳は18だと聞いている」


「女ですか、しかもまだまだ若い。大丈夫なんですか。」


「その台詞丸っきりお前に跳ね返るぞ」


「…俺は身体が若いだけですよ。中身は普通の16歳の倍は生きてる30は言い過ぎでも今20くらいのやつと同じくらい生きていると思いますよ」


「それでもお前はまだ若造だ。付け上がるなよ。追って指示を出す。準備しておけ」


ぶつ切りだ。物言わぬ箱となったそれをポケットにねじ込む


「って訳だ。後片付けとか全部任せていいか陽菜。」


黙って頷いたのを尻目で確認すると壁に掛けてある上着を取り羽織る。

それからその辺に乱雑に投げられている銃とナイフを取る。最低限弾丸の残りとかそういうのを確認してから上着の内に装着しているホルスターにねじ込む

そのあと適当に寝癖を直し玄関に向かう


「じゃ出てくる。帰りは分からん適当に食って先に寝てくれ」


「行ってらっしゃいませ」


仰々しい返しを背に外へ出る




「山城さんですか」


指示された場所へバイクを飛ばしてきた。気が利く、人目に付きにくい場所だ。伝えられていた風貌に近い女に声をかけた。


「あ、はい。貴方が東條さんですか?」


「はい。そうですよ。」


少し驚いたような表情をする彼女。それも直ぐに柔和な顔に戻る。黒髪をショートカットにした少し大人びた少女。いや女性と呼んだ方がいいか。なるほど。その端整な顔立ちの奥に何か隠しきれない情熱のようなものを感じる。評価を訂正しよう。使えそうな人間だ。


「東條 瑞希です。好きに呼んでください」


気さくな笑顔を浮かべて握手を求めるべく手を伸ばす


「山城 友恵です。東條さん。私のことも好きに呼んでください。」


その手を取られる。伝わる手の感触からも温室育ちというイメージを感じなかった。


「ここでは何ですので場所を移しませんか?」


「えぇ、いいですよ。」


「こちらです」


彼女に連れられ歩くこと数分。珈琲店に来た。

その店の奥の方にある二人用のテーブル席に座る。

ここなら話も漏れにくいか。

とりあえずコーヒーを注文しそれを口にする。味は普通だ


「驚きましたよ。」


「何がですか?」


山城の呟きに答える


「もっと強面の方が来るものと考えていましたので。それにお若いですよね?」


「そうでもないですよ。貴方とさして変わりませんよ。」


彼女は苦笑いすると続ける


「情報はどこまで耳に入っていますか?」


「いえ、全く。」


「ではこれを」


極秘ファイルのようなものを手渡してきた。

開いて目を通す。今までの事件の被害者と思わしき者の顔写真と名前住所当時の様子最後に見つかった場所などが書き込まれていた。

一通り目を通して閉じる


「さて行きましょうか」


「何処にですか?」


「調査ですよ。じっとしていても何も始まりませんから」


「初めに傾向とか調べるんじゃないんですか?」


「目を通した限り傾向と呼べる傾向は10代に集中している以外は存在しませんでした。何処に連れ去られたのかも不明。手の打ちようがありません。多分自分の足で調べる他ないと思います。

そして恐らく捕まった子達は他の区画へと拉致されているのではと読み取りましたが。」


一口コーヒーを含み飲み干してからまた続ける


「後はやはり人通りの少なさそうな場所での消滅が多いようですね。そういった場所を重点的に見張るのが1番近道かなと感じますね。」


代案があるなら聞くという意味を含めた視線を送る


「とりあえず無駄かも知れませんけど発生位置、発生時間、最後に目撃された場所について地図に書きませんか?」


「いいですよ」


その言葉を聞くと彼女は地図を広げる。この区画の地図だ。

それに二人で情報を書き加える。


「何か発見はありますか?」


俺が目を通した限りやはり何も無い気がするが


「そうですね…すみません手を煩わせて。足動かしましょうか。」


頷いて代金を支払って外に出る。





「なぁんもなさそうですね」


実際に人が連れ去られたと思われる場所を数箇所歩いてみた。結果は空振り。もう少し何かがあると思ったが。これで何箇所目だったか。10は超えている気がする。だがここは確か…

いや、ただの推測だ。さっきの場所は違った。関係ないかもしれない。


「次、行きませんか?」


「ちょっと待ってください。ここお店ありますね。店の人に少し当時の様子とか聞いてみませんか?」


今たっているのは薄汚れた細い路地。見ると確かに店の裏手のようだが


「分かりました。」




結果はやはり空振りだ。

何も聞こえなかったらしい。


「手がかりになると思ったんですが」


店を出てもう1度路地を調査を再開するも、隣の山城が愚痴る。仕方ない。ここまで一切手がかりなしなのだ。


「でも、変だな…」


ここは人目につきにくい狭い路地だが監視カメラがある。何故こんなところで堂々と誘拐したのか…まさか、店側も…


「何がですか?」


俺の呟きに反応する彼女


「いえ、何も。次この近くの学校の通学路に向かいませんか」


思い過ごしだと思うことにした


「えぇ。」




校門から少し離れたベンチに腰掛け行き交う生徒を眺める。

確か何とか高校といったか。

その彼らの視線が俺たち、いや隣の山城に集中している。無理もない。俺はラフな格好をしているのに隣の女は馬鹿正直に制服を着用しているのだから。その女の横にいる俺はどのように映るのだろうか。いや無駄なことを考えるのはよそう。生徒達の会話に耳を傾ける


「あの面クリアできたか?」


「全然だなぁ。」


ゲームの話だろうか


「今日の練習だるかったなぁ」


「分かるわあの先公まじうぜぇ。1回ボコろうぜ」


なんて不穏な会話も聞こえる。

たしか。この学校にも行方不明の男子生徒がいたはずだが。行方が分からなくなったのがおよそ1月前

先程からこうしているが目的の会話は聞けていない。仕方ないな。動くしかないか。

なるべく話してくれそうなのを選ぼう。


「すみません。少しお話宜しいでしょうか?」


丁寧に声をかける。胡散臭いだろうか。


「は、はい。何ですか?」


一人で下校しようとしていた女生徒に声をかける。幸い返事をくれた。少し怪訝な表情をしているが


「2-Aの一ノ瀬という生徒について、少し伺いたいんですが、お時間宜しいでしょうか?」


「一ノ瀬君がどうかしたのですか?」


知っているのだろうか。当たりだ


「同じ中学でとても仲が良かったのですが最近彼と連絡が取れなくなったので直接会いに来たのですが、学校には来ていますか?」


嘘だ。一ノ瀬という名前以外何も知らない。

女生徒は首を横に振る


「学校にも来てませんよ。一月前に大きな交通事故にあったとかで入院してるって聞いています。」


「なるほど。そうでしたか。ならば仕方ないですね。ありがとうございました。」


「では失礼しますね」


女生徒は駅の方へ歩いていった。

なるほど


「山城さん一ノ瀬の住所は分かりますか?そちらへ行きましょう」


隣に来た彼女に声をかける


「分かりますがもういいのですか?」


「ここにいてもこれ以上情報は出ませんよ」


同じことを考えていたのか特に表情は変わらない山城


「了解しました。では向かいましょうか」


ここへ来る時も乗せたが、彼女をバイクの後部座席に乗せる。ヘルメットを2つ持っていて良かった。




「そうですか。」


一ノ瀬宅は少し走ったところにあった。

応接間に通され話を聞かせてもらっている。


「いじめなどはなかった。というわけですね」


「えぇ。いつもニコニコしていましたし友達もしょっちゅう家に呼んでいました。それが根拠になるかは不明ですが」


そう語るのは母親だ。

本題に入ろう


「彼が最後に向かった場所について心当たりはありませんか?」


母親は首を横に振る。ダメか。収穫無し。

俺から言いたいことも聞きたいことももう何も無い。


「あのお母さん。私必ず息子さんを見つけ出してみせますから!」


そう言うのは山城。無理だ、もう既に売られているだろう。


「お願いします…」


だがそれに対しての母親の反応だ。心からの涙を流しての懇願、それに何故かイラついた。


「お話ありがとうございました。お邪魔しました」


先に家を一人で出る事にする。

余り長居はしたくなかった。バイクに寄りかかり煙草に火をつける。煙草といっても本物ではなくただ気持ちを落ち着ける作用のある薬草だ。美味くはないが不味くもない。普通だ。


「…ふぅ」


吸うと頭の中を何かが駆け巡る。先程の苛立ちも収まり始めたようだ。煙を吐き出す、それは上空へと昇りやがて空気に溶けるように消え去る。


「喫煙ですか。余り良くないですよ。」


見ると山城が出てきていたらしい


「ただの精神安定剤ですよ。煙草のような臭いもないでしょう?こう成果が出ないとイライラするものですから」


嘘は言っていない。煙を吐き出す。


「本当ですね。よい香りがします。少し気持ちが落ち着くような気がします」


「さて、行きましょうか。」


煙草を捨てて靴の裏で火をもみ消す


「ポイ捨ては…いけないと思います」


「…」


そうだったな。拾い上げその辺にあった燃えるゴミにでも放り込んでおく。

既に夕暮れ。


「一旦食事にでもしましょうか。」


「そうですね。何にしましょうか」


「俺に任せるとロクなものになりませんよ」


「構いませんよ。東條さんのお気に入りのお店でも教えてください」


「…分かりました。」




チェーン店のハンバーガーを食べまた調査に戻る

成果が無さすぎて飯が喉を通らん。

ここまで仕事が上手くいかないのも珍しい

じっとしていても仕方がない。二人で歩き回ることにした。勿論二手に分かれた方が明らかに効率はいいのだが、俺はともかく横のこの女が仮にの話だが事件に巻き込まれた場合上手く切り抜けられるとも思えない


「にしても組織はこの監視カメラだらけの街でどうやって人一人拉致しているのか…」


呟く。ずっと引っかかっていたのだ。朝訪れた薄汚い路地にしてもそうだ店の監視カメラがあった。どうやって人一人拉致ったのか。映像は山城達が予め確認しているらしいが何も映っていなかったとのこと。

もしかして映像を改竄しているのか?


「ならばアテには出来んな…」


「何がですか?」


俺の独り言に律儀に答える山城


「この区画の住民がですよ。組織ぐるみでの犯行だと今のところ結論が出されているのですが。だとしたらこの区画の人間は信頼出来ないかもしれませんね。あまり治安のいい場所ではないので、むしろあなた方のような人間に見られたくない人々が集まったような場所ですから。全員が全員とまでは言いませんが」


「なるほど。暴力団員のような人間が多いように思えたのは気のせいでもなかったのですね」


「まぁ、そういう事です。」


そんな会話をしながらそのあとも歩き回ったが結局何の成果もなしだった。




「それ何だ?」


「見てわかりませんか?」


「見てわかりません」


部屋に戻ると陽菜が何やらしていた。何をしているのか近付く


「水槽?」


中にはおがくずが入っている


「魚っておがくずの中でも生きていけるのか?」


「そうなんですか?」


問い返された


「俺が聞いているのだが」


「私はそんな魚聞いたことありませんよ」


言いながら陽菜は水槽の中に小道具を次々と配置する


「出来ました。」


次に隣においてあった虫かごを掴み水槽の中に入れると横にゆっくりと倒す陽菜。虫かごの中にいたのは


「ネズミ」


「違います。ハムスターですよ。」


「美味いのか?」


「食べ物じゃありません」


「でも美味そうな名前だよな」


「食べないでくださいね?」


「冗談だ。マジにとるな」


水槽を覗き込むとちょこまかとその動物は動いている


「へぇ、可愛いな、どうしたんだこれ。」


訊ねると答えにくいのか陽菜は少し視線を落とした


「悪い。答えたくないなら答えなくていい。」


無遠慮だったかもしれない。


「拾いました」


「物をほいほい拾ってくるな。」


と言いたいが何か理由があるんだろう


「…この子捨てられてたみたいで」


「助ければ恩返しでもしてくれるのか?」


「いえ…」


「聖人だなお前。別に咎めもせんが世話はちゃんとしてやれよ。」


だが見ているとたしかにこれがなかなかかわいいものだ


「餌やっていい?」


陽菜は目を丸めて俺を見る


「どうしたよ」


「いえ、意外だったので」


「俺とてかわいいものは愛でる」


「じゃ、これ適当にあげてください」


陽菜が餌を手渡してくる。それを受け取り適当にエサ皿に盛り付ける。


「なかなか可愛いな」


ひょこひょこと歩いて近寄ってくる


「もっと否定されると思ってました」


「気分悪かったら変わったかもな」


「なるほど、ありがとうございます。」


「礼なんていらんさ。じゃ先に寝るぞ」


そういって横になった




















一日目が終了。果たして瑞希は事件の真相にたどり着けるのか。

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