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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第三章

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敵との交渉

『私自身、目的を申し上げることはさすがに難しいですが、一つだけ……邪竜の影響を強く受けている以上、その目的は一つ』

『……迷宮内への侵入か』


 ジークの推測にアレイスは『そうです』と肯定する。


『こちらの要求は迷宮内への侵入。迷宮周辺は厳重に管理され、なおかつ迷宮の門は操作がなければ入れない』

『邪竜の影響を受けたアレイス、お前ならば門を破壊することは可能じゃないか?』

『さすがにそれは、買いかぶっているというもの』


 どこか芝居がかったアレイスの口調。それに翠芭の横にいるレーネは言及した。


「ああなる前とは口調が違うな」

「違う……?」

「邪竜の影響を受け性格がねじ曲がっているか、あるいはわざとそういう風に装っているのか……理由は不明だが、アレイスは基本合理主義者であり、意味のないことはしなかった。たぶん何かしら目論見があると思うのだが……」

「狙いを誤魔化すために、わざとそうしている可能性は?」


 貴臣の問い。レーネは小さく頷き、


「その線が濃厚だろう……無論陛下もアレイスの態度は気付いているだろう。相手の策を打ち破れるか……」

『門を開閉することは単独では不可能なのは間違いない……よって、こうした形で要求している』

『だがそれを実行することができないのは、そちらもよくわかっているはずだ』

『はい』


 アレイスはあっさりと返事。どうするのかと翠芭が耳を澄ませていると、やがて、


『ならば、交渉といきましょう』

『交渉?』

『さすがに自分の目的を阻害する提案は承諾できませんが、何かしらの要求は飲みましょう』

『それを本当に実行する保証がどこにある?』

『即時的に実行可能なものならば、話をする余地があるのでは?』


 翠芭は二人のやり取りを聞く間に一つ確信する。映像は見えていないが、ジークは玉座にいてアレイスは王と対面する形で話をしている。そしてアレイスの口調から、間違いなく笑みを浮かべながら話している。


『――無論、この交渉自体、私自身が有利であることを認識していただきたい』


 その言葉の直後、翠芭も一つ理解する。確実に玉座の間はアレイスの言葉により空気が軋んだ。


『状況的に、私を倒せる人間はいない……ユキトやリュシールさえいなければ、シェリスでさえ、私を止めることはできないだろう』


 そう語った直後、カツンという音がした。おそらくアレイスが一歩玉座へ詰め寄った。


『交渉、という穏便な手法に出たのは、あくまで門を開けるために有効な手立てだと思ったからです。私とてここで派手に立ち回り傷を負うのは避けたい』

『――なるほど、おおよそ目論見が読めてきた』


 と、そこでシェリスが突如語り始めた。


『あなたの目的は迷宮の中にある……魔紅玉が最有力候補だけれど、ここで断定はしない……ただ入るにはまず町に入らなければならない。外からの侵入は難しいため、今回のような形で入り込み、ユキト達を遠ざけることに成功』


 そこまで言うとシェリスは小さく息をついた。


『これは私達がしてやられた形……こんな風に交渉するのは、戦闘をできるだけ避けるため……迷宮内で実行する事柄に対し、力を温存しておくため、といったところかしら?』

『ああ、おおよそそういう解釈で構わない』


 と、アレイスはあっさりと認めた。


『ただし、場合によっては実力行使も辞さない……その気になれば無理矢理門を開けることが可能であることは認識しておいた方がいい』

『……迷宮で何をするつもりなの?』

『それに答えるほど愚かじゃない』


 両者は沈黙する。ここで翠芭はレーネに視線を移すと、彼女は口を開いた。


「ここで陛下がとれる選択は二つだ。戦うか、交渉に応じるか。しかし戦うというのは、正直分が悪い」

「私がきちんと戦えれば……」

「いや、そうであってもここでの撃破は困難を極める」


 レーネは苦々しい表情で応じる。


「聖剣も万能ではない。邪竜の力そのものを宿すアレイス相手ならば、ユキトやリュシール様の力だって必要だ……例えば来訪者達全員が霊具を自在に扱えるのならば別だが、逆に言うとそういうケースでもない限りは打開することが難しいな」

「もし戦力が整っていれば……」

「そこはアレイスも観察しているだろう。この都内に支援する者を潜ませていたということは、情報を得ていたはず。つまりもし来訪者達が霊具を手にしたというのなら、相応の策が用いられたに違いない」


 そこまで述べるとレーネは眼光を鋭くした。


「戦うのは非常に厳しいが、交渉に応じる場合は……取引内容はどうあれ、この場にいる者達の無事を確実にするにはそれしかない」

『――シェリスが述べた通り、力を温存しておきたいという考えがあります』


 ここでアレイスが喋り出す。


『この場で戦闘になれば、私は勝利できるとしても迷宮で目的を成せる可能性が低くなる……いや、場合によっては新たな迷宮の支配者に食われる懸念だって存在する』

『しかし力を温存しておけば、自分が迷宮の支配者になれると?』


 ジークの指摘。それにアレイスは沈黙。翠芭はきっと曖昧な笑みを浮かべて誤魔化しているのだろうとわかった。


「――もし迷宮へ入れたとして」


 と、レーネが続きを語る。


「そこからアレイスの目論見を潰す方法がなくもない。幸いユキトはそう時間も経たずして戻ってくるはずだ。よってユキト達にアレイスの追跡を任せ……倒すという方法だ」


 かなり強引ではあるが、アレイスが迷宮に入るのならば、そういうやり方をとるしかない。


『……さすがにユキト達の帰還を待つつもりはありません。よって、回答はこの場で欲しいですね』


 もし返事ができないのならば、戦闘になる――そう暗に語っているのは間違いない。

 ジークはアレイスの言葉に沈黙する。これは答えに窮しているわけではなく、おそらく考え込んでいるのだろう。


 翠芭もまた沈黙する。どうすればいいのか――いや、自分にできることは何もないのか。


『ジーク、耳を貸さない方がいい』


 と、助言するのはシェリス。とはいえジークとしてはこの場で戦闘は避けたいところなはず。

「……どう答えるだろうか」


 ふいに貴臣が発言。ただ彼としてはおそらくこうだろうという推測をしている様子。

 それは何なのか――翠芭が尋ねようとした瞬間、ジークが口を開いた。


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