表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

94/397

出現

 雪斗達が転移した直後、シェリスはそれをすぐに察し、レーネと話し合いどうするかを協議する。だがその間に異変が一つ。店の奥から気配が生まれたのだ。


「シェリス様、いかがしますか?」

「敵意があるような魔力ではないけれど……警戒する必要はあるわね」


 冷静に言葉を紡ぎながらシェリスは思考し続ける。


「……ユキト達は魔力が突然消失したから、おそらくどこかへ転移させられた。無事なのは確かだけど、戻ってくるまでに時間が掛かる」

「その時間を稼ぐことが、敵の目的か」

「ええ、そう。それによって敵は――」


 店奥の気配の姿が見える。それをシェリスが一瞥した瞬間、彼女は内心やはりかと呟いた。


「……アレイス」

「久しぶりだな」


 まるで、旧友と再会し挨拶するように――迷宮で倒れた時間などなかったかのように、朗らかな声でアレイスは声を交わす。

 直後、周囲の騎士達が動揺を見せ始め、また同時に臨戦態勢に入る。


「ふむ、こちらの顔を見てもすぐに構えるか。きちんと情報は行き渡り、心構えをしておいたってことだな」

「ユキト達を転移させ、それと入れ替わりにあなたが町へと入る……それが、策略?」

「そうだ。ただこの作戦はいつ発動できるかわからないものであり、色々とリスクもあった。けれど、成し遂げた」


 アレイスは一歩進む。刹那、レーネとシェリスが霊具を発動させ、対抗する所作を見せる。だが、


「ここで戦えば多大な被害が出る。やめないか?」

「……そっちに有利な状況だけれど、戦うつもりはないと?」

「魔神の影響下にある以上、攻撃してくれば応じるつもりではいる。ただ、そっちが仕掛けてこなければ対処するつもりはない。今回の目的は町中で暴れるようなことではないからな」

「では何が目的なの?」


 アレイスは笑みを浮かべ、シェリス達へ告げる。


「王と会わせて欲しい」

「ジークと……?」

「そうだ。少しばかり話し合いがしたい」


 ――簡単に言ってくれるが、そんなものを他の者達が認めるとは思えない。


 シェリスは無理だと頭の中で断じながら、一つ考える。それは、目の前にいるアレイスが本物なのか、それとも単なる分身なのか。

 町中に突如現われるという事態、シェリス達の予想外の展開であることもそうだが、アレイスにとってもリスクの高い行動。さすがに本物がここに来るとは到底考えられないが、だからといって目の前の分身が弱いとも思えない。


「……そちらの考えていることはわかる」


 ふいに、アレイスは語り始める。


「本物か偽物か、だろう? しかしその議論についてはまったく意味がない。なぜなら証明する手段もないし、加えてそちらはどちらであろうとも私に対処する他ない」


 もしこの場にリュシールがいてくれたのならば、多少なりとも判断はできたかもしれない。アレイスにとっては完全に追い風となっている状況。


「……レーネ、どうする?」


 シェリスはアレイスに目を離すことなく問い掛ける。あくまで彼女は雪斗と共に戦う人物。指示する権限はレーネにある。


「まずは、陛下に確認をとらなければならない」

「それは承知している。だが時間稼ぎをしているとわかればこちらも相応の態度をとる。ユキト達が転移した場所を考えて、そうだな……数時間ならば、待とう」


 おそらくレーネとしては選択肢がない。そう思いながらシェリスは問う。


「もし断ればどうなるのかしら?」

「実力で押し通る。本物か偽物かわからないにしても、この体の内に眠る魔力の多寡は判断できるだろう?」


 彼の言う通りだった。シェリスは目で内に秘める多大な魔力を捉えることに成功している。


 もしこの場で戦闘になれば、甚大な被害が出ることは間違いない。しかもシェリス達は住民を守らなければならないのに対し、アレイスはいくら暴れても問題ない。守りながらの戦いは総大将とも呼べる目前の相手には非常に危険。


「ひとまず、陛下に伝える」


 そうレーネはアレイスへ告げる。


「どう判断するかは完全に城側に委ねる……その間、お前はどこで待つ?」

「ここで」


 店の床を指差す。さすがに移動――自分の優位を崩したりはしないか。


「いいだろう。ならば伝令役を」


 レーネ達は動き始める。その間にシェリスはなおもアレイスに視線を送り、警戒を崩さない。

 ディーン卿やダインなどもアレイスを注視し臨戦態勢を維持したまま。ただ彼らはわかっているはずだ。もしアレイスが本気になったのならば、自分では止められないと。


「……そうやって、ずっと立っているつもりか?」


 アレイスがシェリス達へ問う。それに応じたのは――ダイン。


「当たり前だろ。つーか、こんなやり方で姿を現して、久しぶりだなと挨拶してハイタッチでもすると思ったのか?」

「さすがにそんなことは思っていないさ……ただ、そうだな。心のどこかで何かあるんじゃないかと思ってしまったのは確かだな」


 反省するかのように苦笑するアレイス。そうした表情は、シェリスも邪竜との戦いで見たことがある姿。


「そして、一番の疑問は……果たして私が今考えていることは本当に自分自身が考えていることなのか? 単に魔神の力によって支配されているだけではないか? そんな考えが頭をよぎる」


 そう語った後、アレイスはシェリス達を一瞥した。


「魔神に支配されていた時の心境と、戻った時の心境……何か違いはあったか?」

「それを聞いて、どうするつもりだ?」


 ダインがどこか呆れたように返答する。


「もし俺達が魔神の影響で自分の思考じゃないと言ったら、そっちは納得するのか?」

「そういうわけじゃない。ただ、魔神に取り憑かれて戻るなんて所業を私はできないから、聞いておきたかっただけさ」


 肩をすくめるアレイス。その表情や仕草は紛れもなく彼自身のもの。しかし、だからといって本当の彼かどうかはわからない――


(いえ、ここは考えるだけ無駄か)


 邪竜との戦いで嫌でも身にしみた。この力は絶対に野放しにしてはならない。例えそれが、かつての戦友に取り憑いたものであったとしても。


「ともかく、こちらは絶対に目を離すつもりはないから、そのつもりで」

「ああわかった……さて、城側はどのくらいの時間で結論を出すかな」


 ――シェリスは再び考える。アレイスの言動から、聖剣を所持する翠芭のことは口にしなかった。

 実力不足として相手にする気がないのか、それとも――アレイスをにらみながらも、シェリスはひたすら相手の思惑を読むために、推測をし続けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ