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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第三章

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魔法の店

 明るい場所から陽が差さない場所に入ったので、登美子(とみこ)は目が慣れずすぐに店内を確認することはできなかった。そうした中で最初に感じたのは、室内の香り。決して不快ではなく、花のような匂いがした。


「ああ、これは薬草よ」


 店に案内をした女性が話し掛けてくる。


「薬の調合などに使われる……といっても、来訪者様には馴染みがないかしら?」

「薬草……似たような物は私の世界にもありますが」

「そう。どの世界も植物を利用して薬を作るのは変わらないのね」


 会話をする間に店内の様相を確認することができた。薄暗くはあるが店内は小綺麗で、壁際には棚がいくつも並び、そこには大小様々な瓶が陳列されていた。

 それらの中には液体や保存しておくためか花や葉っぱなどが入っており、その手前には数字らしき物が書かれた札――値札らしい。


(高いのかな?)


 値段を見てピンと来ない登美子ではあったが、なんとなく魔法のアイテムとくれば高価な物では――と思ったのだが、


「値段が気になるかしら?」


 女性が問う。それに登美子は小さく頷き、


「えっと、文字を見ても高いのか安いのかわからないんですけど」

「そうねえ、例えばこの薬品だと」


 彼女は適当な小瓶を一つ手に取る。


「大体普通の人の食費十日分といったところかしら」


 小瓶一つにそれだけ、というのは確かに高い気もする。


「この中ではそこそこの値段かしら。それこそこういう物は高価なものはそれこそ信じられない値段になるから」


 そう語った女性はニコリと笑みを浮かべ、


「とはいえ、あなた方来訪者様には縁のない物だろうけど」

「えっと……?」


 首を傾げる。魔法に使う物であれば、もし戦うことになったら必要になる可能性もあるのでは――


「あなた方には霊具という強い武具があるからね。効果は様々だけど、中には一定範囲の怪我人を全員治療するとか、病を治すとかそういう物も存在する……ここにある物は研究以外には治療とかに使われる物が多いからね。霊具の力があれば正直、不必要といっても差し支えないくらいだから」


 霊具――登美子は店内を見回す。並んでいる品々は高価な物が多いようだが、その効能を遙かに上回る物がこの世には存在する。


「あなたは霊具を所持していないようだけど、まだ適合する物が見つからないといったことかしら?」


 女性の問い掛け。それに登美子は返答を止めた。


(どうしよう、正直に話した方がいいのかな?)


 まだ霊具を手に取ることすらしていない――この世界にやって来て大半は城の中で過ごしているのだが、それでも人々は期待を寄せていることが彼女も理解できている。だからそれを口にすることでトラブルを生む可能性は否定できない。

 登美子は気付けばフラッとどこかへ行ってしまうような難儀な性格ではあるが、決して考えなしに喋るわけではない。よって、


「……そうですね。時間が掛かるかもしれないです」


 登美子はそう返答した。すると女性はにこやかに、


「そう。あなた達が大変なのも理解できているし……頑張ってね」

「はい」


 頑張る――やはりこうして親切心で接するのは期待を持っているからだろう。

 それに自分は応えることができていない――登美子自身思うところはあったが、口には出さず、


「あの、ありがとうございました」

「気にしないで。町を見て回ってこの町を好きになってくれれば幸いだわ――」

「おい、何をしている?」


 と、店の奥から声が聞こえてきた。登美子が視線を移すと、中年の男性が一人現われた。


「さっき買ったばかりだというのにまだ入り用なのか?」

「違うわ。偶然お店に入りたがっている子がいて」


 そこで店主は登美子へ視線を向ける。


「ほう、そうか……まあゆっくりしていってくれ。冷やかしも歓迎だ」

「あなたにはわからないかもしれないけど、ここは結構品揃えがいいのよ。評判になったら私も嬉しいから、お城の人に宣伝をよろしくね」

「あ、はい」


 女性の言葉にそんな返答をした矢先、彼女は登美子へ一歩近づいた。



「もし良ければ、他の場所も案内しましょうか?」

「え、あの……」

「これ以上路地に入るようなことはないから安心して。どうする? 大通りを案内する? 美味しい料理を出してくれるお店とか知っているけど」


 その言葉で登美子は思い返す。そういえば、お昼を食べていない。で、確か城側が場所を手配しているはず。


(戻らないといけないか……)


 とはいえ迷っている現状では、一人で動いてもどうしようもない――そこで登美子は頭を下げ、


「なら、案内してもらえないですか?」

「ええ、いいわよ」


 承諾する女性。それと共に彼女は右手を差し出した。


「自己紹介はまだだったわね。私の名はルファーノ」

「あ、はい。私は――」


 登美子は彼女の行動に応じ握手を交わし、名乗ろうとした。その瞬間、ピシ、という手のひらに小さな衝撃が生じた。


「あれ?」

「どうしたのかしら?」


 女性、ルファーノが問い掛けた矢先、登美子は体から力が抜けた。


(あ、れ……?)


 何が起こったのか。理解できないまま体に衝撃が。どうやら倒れてしまったらしい。ただ視界はぼやけ、先ほどの女性の姿も視界に映らなくなる。


「――強引だな、ずいぶんと」


 そこで聞こえたのは店主の言葉。それに対しルファーノは、


「こういう好機はおそらく今後ないだろうからね……この子からすれば何が起こったのかわからないでしょう。でも、それは知らなくてもいい話よ」


 一体何を――登美子は徐々に思考が滞っていくのを自覚する。何も考えたくない。このままたゆたうような眠気に身を任せたい。

 ただ同時に、登美子は心の奥底で危険を感じ取っていた。次に目覚めた時、どうなっているのかわからない。あの女性――ルファーノは一体、


「で、頼みがあるのだけど――」

「当然だな。まあいい。こうなったら俺も――」


 そうして意識が薄れゆく中で会話を耳にして、それを登美子が頭の中で処理しようとしても結局できないまま、ゆっくりとまぶたが閉じていく。


「お店はどうするの? 場合によっては――」

「構わないさ。しかし、忙しくなりそうだな――」


 視界が暗闇に染まっていく。最後に登美子が考えたのは、クラスメイトの顔や、城の騎士達などではなく、追いかけた猫のような生き物。


(あの子、野良っぽいけど大丈夫かな……)


 そんな思考が頭の中を支配した矢先、登美子の意識は完全に途切れた。


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